グローカル外交ネット
クヌッセン機関長の勇気が世代を越えて繋ぐ日本とデンマークとの深い絆
駐デンマーク日本国特命全権大使
宇山 秀樹
1 日本とデンマークとの繋がり
私が赴任している北欧の国デンマーク王国は、ヨーロッパ大陸に繋がるユトランド半島と、首都コペンハーゲンがあるシェラン島を始めとする400以上の島々からなる海洋国家で、自治領として、世界最大の島グリーンランド及びフェロー諸島を有しています。日本でデンマークといえば、高福祉・高負担の国、世界幸福度ランキング上位の国として、また、作家アンデルセンや玩具メーカー「レゴ」などがよく知られています。
日本とデンマークの外交関係は、1867年最後の将軍・徳川慶喜によるデンマークとの修好通商航海条約の締結に始まります。以降、両国は、世界でも歴史の長い皇室・王室を有する国、海洋貿易立国としての共通点もあり、長く幅広い友好協力関係を育んできました。中でも、東日本大震災発生からわずか3か月後の2011年6月に、フレデリック10世国王陛下(当時は皇太子殿下)が大きな被害を受けた宮城県東松島市を訪問され、子供達との交流を含め被災者の人々を励まし勇気と希望を与えてくださったことは特筆に値します。直近では、昨年(2023年)にフレデリクセン首相が訪日し、岸田総理(当時)との首脳会談の結果、「日本とデンマークの戦略的パートナーシップの深化に関する首脳共同声明」が発表され、安全保障、エネルギー・気候変動、デジタル、科学・イノベーション、社会・ジェンダー・文化など幅広い分野で、価値を共有するパートナーとして、協力関係を前進させています。
今回は、日本とデンマークの海にまつわる特別なご縁、和歌山県とユトランド半島北部のフレデリクスハウン市との交流についてご紹介したいと思います。
2 クヌッセン機関長の勇気が繋ぐ和歌山県とフレデリクスハウンとの絆
話は約70年前に遡ります。1957年2月10日、紀伊水道の美浜町沖で火災を起こした徳島県の機帆船の乗組員を救助するため、折から通りかかったデンマーク船「エレン・マースク」号の機関長ヨハネス・クヌッセン氏が極寒の嵐の海に飛び込みましたが、もう少しという所で力尽き、翌朝御遺体と救命艇が日高町に流れ着きました。美浜町と日高町の方々は、この崇高な行為を悼んで、美浜町には「クヌッセンの丘」と名付けられた一角に顕彰碑と胸像を建立し、また、日高町には供養塔と救命艇の保管庫を作られ、その遺徳を年月が過ぎても忘れずに讃えてこられました。クヌッセン機関長が見知らぬ人の命を助けるために、荒れ狂う海に迷うことなく飛び込んだ勇気、そして、その偉業をずっと語り継いでこられた和歌山県の皆さんのお心に、私はとても感銘を受けました。
クヌッセン機関長の偉業は、その後、両国の国民のさらなる交流をもたらすことになります。2002年の日韓共催ワールドカップサッカーの際には、デンマーク・ナショナルチームが和歌山をキャンプ地に選択し、和歌山の人々と交流しました。クヌッセン機関長の逝去から50周年に当たる2007年8月には、和歌山県や日高町、美浜町から代表団が来訪し、日本文化紹介を含む記念行事が行われました。2010年及び2011年には日高高校とフレデリクスハウン高校の相互訪問も実現しました。そして、本年1月にはフレデリクスハウン市内で第1回日本映画祭が開催され、本年3月には、コロナ禍で一時途絶えた高校生交流も再開し、日高高校の生徒がフレデリクスハウンを訪問し、フレデリクスハウン高生と交流やホームステイを行いました。10月下旬にはフレデリクスハウン高生が和歌山県を訪問する予定です。
3 私のフレデリクスハウン訪問
私はデンマーク着任以来、是非フレデリクスハウン市を訪問したいと思い続けていましたが、ちょうど、本年8月、ハンセン(Ms. Birgit Hansen)市長から同市内の港町セビュの500周年記念行事への御招待を受けて訪問する機会を得ました。
この行事に招かれた大使は私1人だけで、ハンセン市長の日本への熱い思いを感じつつ、多数の市民と共に500周年をお祝いしました。私からハンセン市長には、クヌッセン機関長の勇気ある行動への深い敬意とともに、ハンセン市長及びフレデリクスハウン市が長年にわたって、和歌山県と心温まる交流を継続されていることに心からの謝意を表明しました。
そして、一連の記念行事出席後、私はフレデリクスハウン市内の墓地を訪れ、クヌッセン機関長の墓前に献花をしてまいりました。
4 今後の若い世代の交流への期待と大使館の取り組み


今回ハンセン市長と意見交換した際に、同市長は「フレデリクスハウンの若者に、日本のことや、クヌッセン機関長と日本との繋がりについて是非とも知ってほしい」とおっしゃっていました。私も、今後の日本とデンマークの友好関係の礎となっていく両国の若い世代が、交流の歴史も含めてお互いの国・文化について学ぶことが非常に重要と考えており、ハンセン市長のお言葉に深く同意するものです。在デンマーク日本国大使館としましても、自治体交流を含む両国の関係強化に向けての取り組みを支えていきたいと考えておりますので、デンマークとすでに協力関係にある、また、協力に関心をお持ちの地方自治体等の関係者の皆様、是非、遠慮なく当館にご連絡いただきたいと思います。

(写真提供:日高高校)