グローカル外交ネット
ペンギンが繋ぐ地球の裏側(新潟県上越市とアルゼンチン)
駐アルゼンチン日本国特命全権大使 山内 弘志
1 はじめに
ペンギンはアニメ、マンガ、歌謡曲など様々な形で取り上げられており、身近な動物ですが、その中でもマゼランペンギンは、アルゼンチンと日本をつなぐ一つの架け橋になってきました。このペンギンは南米大陸の太平洋及び大西洋岸に生息し、アルゼンチン及びチリで愛されています。
日本においては、1993年に上越市の水族館においてマゼランペンギンの多数飼育が始まり、1995年以降安定的な繁殖が継続してきました。その後、上越市立水族博物館「うみがたり」において、繁殖実績を積み重ね、現在は国内最多の130羽近くが生息しています。
2 ペンギンと日本との縁

(右)チュブト州におけるマゼランペンギンの保護活動に従事するパブロ・ボルボログルさんとともに
2023年3月に国際的な慈善活動を展開しているエンリケ・ピニェイロさんの招待により、アルゼンチンの200海里付近で操業する漁船の視察に行きました。ピニェイロさんは映画監督であると同時に元パイロットであり、私財をなげうって飛行機を入手し、難民等の人道支援活動に活用していますが、環境保護の観点から、アルゼンチン近辺の外国漁船の活動について注意喚起すべく、マスコミ関係者も含め招待し、この視察を企画したそうです。その視察の際に隣席に座ったのがパブロ・ボルボログルさんでした。
パブロ・ボルボログルさんは、グローバル・ペンギン・ソサエティという非営利の環境保護団体を主催し、チュブト州におけるマゼランペンギンの保護活動に10年以上従事してきました。パブロさんについては、日本においても「ペンギン大全」という著作に共同編集者として名を連ねています。
ボルボログルさんから、ペンギンの保護活動について、色々興味深いお話をお伺いしたのですが、その際にマゼランペンギンを多数飼育している日本の水族館の設計において、マゼランペンギンの保護区が所在するチュブト州プンタ・トンボの環境を再現するための助言・協力を行ったことがあるとお伺いしました。設計時には色々と協力したが、その後あまりやりとりがないらしいとのことでしたので、環境保護にもつながるペンギンを通した協力関係の現状についてお伺いするために、一時帰国の機会に新潟県上越市を訪問させていただいた次第です。
3 上越市訪問
2024年3月12日~13日、上越市を訪問しました。その際に、中川市長を表敬すると共に、水族博物館「うみがたり」を訪問し、交流の経緯と詳細についてお伺いすることができました。
上越市は、2016年からアルゼンチン政府当局や、繁殖地のチュブト州当局との間に関係を構築し、2018年にはマゼランペンギンの保全活動、飼育繁殖に関する情報と技術の交換に取り組むための協力協定書を結びました。同年に新しい水族博物館「うみがたり」が開館し、チュブト州との交流を踏まえて、マゼランペンギンの生息環境を再現した展示が実現しました。2019年、チュブト州は「うみがたり」を「マゼランペンギンの生息域外重要繁殖地」として指定し、協力関係が進展しました。その後はアルゼンチン側の経済危機や、コロナ禍で連絡が必ずしもうまくいっていない状況とのことでした。
今回はお会いできませんでしたが、日本側で重要な役割を果たしたのが、国際自然保護連合のペンギン・スペシャリスト・グループに参加する上田一生先生とお伺いしました。上田先生が中心となり、アルゼンチンの学者等とのコンタクトを通して、関係をつないできたとのことでした。
4 チュブト州知事との面会

(右)チュブト州のイグナシオ・アグスティン・トーレス州知事とともに
チュブト州は、アルゼンチン南部のパタゴニアに所属し、自然が豊かで、天然資源が豊富な州です。特にアルゼンチンの漁業の拠点として有名であり、海老を多く輸出しています。また石油、天然ガスの生産も行われているほか、金、銀、鉛、ウラン等の資源を有します。
2023年に行われた選挙で、チュブト州においては、新しい知事が誕生しました。新たに当選したトーレス知事は36歳という史上最年少の州知事で、当地でも若手のオピニオン・リーダーとして有名な存在であると同時に、将来性のある有力政治家です。
その知事夫妻と会食した際に、上越市訪問の話をしたところ、強い関心を示し、引き続き交流を行っていきたいとの意向が示されました。また、パブロ・ボルボログルさんとも話をしたところ、前向きな姿勢が示されました。
関係が軌道に乗るまでにはまだまだ作業が必要かと思いますが、両者が関係継続に前向きな姿勢であることが確認されたことは喜ばしいことだと思います。マゼランペンギンが日本とアルゼンチンの友好の象徴の一つになることを期待しつつ、微力ながら引き続き関係の再構築に協力をしていきたいと思います。
5 その他の交流の可能性

(右)アルゼンチンの200海里付近で操業する漁船の視察
また、上越市訪問の機会に、中川市長ともお会いした際に、上越市の様々な魅力についてお伺いすることができました。
例えば、上越市は日本の風土に合ったブドウの育成に努めたことから、日本のワイン造りの父と言われる川上善兵衛がワイナリーを構えた場所であり、また、発酵に適した気候風土が存在することもあり、発酵の世界的権威である坂口謹一郎が生まれ育った土地でもあります。また、言うまでもなく、新潟は日本酒の銘醸地でもあります。
アルゼンチンはチリに比べると日本では存在感が小さいですが、南米ではチリと並ぶワイン生産の大国で、2023年は史上希に見る不作でしたが、それでも世界第8位の生産国です。
このようにアルゼンチンと上越市の間には共通点もありますので、より多くのアルゼンチン人が上越市の魅力を知り、交流がさらに活発になるように、側面支援していきたいと考えております。