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能を通して発展する熊本市と南仏エクス=アン=プロヴァンス市との交流
在マルセイユ総領事館
総領事 北川 洋
1 はじめに
日本の伝統芸能である能楽は、近年欧州でも公演されることが多くなってきていますが、特に芸術の国と言われるフランスでは、能ファンが多数おられます。
南仏のエクス=アン=プロヴァンス市(以下エクス市)には世界で唯一と言われる総檜造りの能舞台があり、日仏交流の架け橋となっています。これは熊本市在住の能楽師の方から寄贈されたものですが、能をとっかかりとして、熊本市とエクス市との交流はさらに発展しつつあります。
2 熊本市とエクス=アン=プロヴァンス市との交流拡大

熊本市とエクス市との交流は、1980年代から始まりましたが、1992年に熊本市在住の喜多流シテ方能楽師の故狩野丹秀(かの・たんしゅう)氏が日本にあった能舞台をエクス市に寄贈したことを契機に両市の間で官民の交流が活発化しました。2013年には両市の間で「交流都市」協定が締結され、同協定の10周年にあたる2023年には両市長が相互に相手都市を訪問しています。
能舞台では、狩野氏他による公演が何度も行われ、観客を魅了してきました。その一方で能舞台があるサン・ミトル公園においては、エクス市からの要請を受け熊本市から技術者等が派遣され、日本庭園が整備されました。その際には、エクス市側技術者が持続的に維持管理していけるように様々な工夫も行われました。2023年の大西市長来訪の際には、この日本庭園で熊本の秋の風物詩である「竹あかり」を演出した点灯式も行われています。なお、同年、エクス市は、これまでに日仏交流の功績が評価され、外務大臣表彰も受けています。
3 熊本市の訪問


2024年(令和6年)1月24日、マルセイユ総領事に発令された機会に熊本市を訪問し、中垣内隆久副市長他、狩野丹秀氏のご長男である能楽師の狩野了一氏と意見交換をしてきました。今後の官民レベルでのエクス市とのさらなる交流の拡大について関係者の思いをお聞きするとともに、総領事館としてもこれを支援していく意向をお伝えしました。また、エクス市にある能舞台の一層の活用可能性について期待を述べて、お互いに知恵をだして、よく連携していくことを確認しました。
4 今後の都市交流への期待
両都市間の交流が発展していく歴史の中で、能舞台の寄贈が端緒となり、日本庭園整備等へと交流・協力の幅が拡大してきた経緯を踏まえて、さらにどのような交流や協力が可能か検討されていくことを期待いたします。総領事館としてもその際にお力になれるよう願っています。特に貴重な文化資産とも言える能舞台については、現地での日本文化の振興だけでなく、日仏の交流の場、伝統芸術の研究のネットワークの場へと付加価値を高めていけないか、日仏の関係者の間で議論を重ねていった上で、より多くの活用機会が得られるようにすることが大事だとの印象を強くしました。