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技能継承の新たな試みとして開催された香港での山形クラフトフェア
山形県産業労働部県産品流通戦略課
株式会社門間箪笥店
1 はじめに
昨年11月28日から本年1月28日までの約2か月間、山形県と株式会社門間箪笥店(以下、「門間屋」)は、香港の高級住宅街ハッピーバレーにある高級家具専門店のmonmayaにおいて、「山形クラフトフェア」を開催しました。門間屋は、宮城県仙台市に本社を置く、経済産業省が指定する伝統的工芸品「仙台箪笥」の製造元である創業150年超の老舗であり、香港の高級家具専門店monmayaを運営しています。山形クラフトフェアでは、山形県内の工芸品事業者20社の214アイテムを展示しました。
2 開催の背景
年々厳しくなる国内景気やそれに追い打ちをかけるように発生したコロナ禍によって、山形県内に多数存在する中小の工芸品事業者は百貨店等の多くの販路を失ってしまいました。このままの状況が続けば、事業の継続も難しくなり、その結果として、長年にわたって受け継がれてきた技能までも失われてしまいかねません。その状況に危機感を覚えた山形県が香港でのテストマーケティング(以下、「本プロジェクト」)を企画したことが始まりでした。
山形県の海外における工芸品のテストマーケティングに関しては、一昨年から、パリ及び台湾で事業を実施しており、既に実績はあったものの、どちらも雑貨店での開催のため、販路開拓で一番苦戦を強いられている高額商品の販路開拓はできていませんでした。
今回は、香港において自社の高級家具の販売実績のある門間屋が新たに加わった結果、山形県の海外でのテストマーケティング事業は雑貨等の小物から家具や畳等の大型製品まで幅広い工芸品事業者をサポートする体制を整えることができました。
3 開催までのプロセス

本プロジェクトは、2023年8月上旬に開催された参加事業者募集のためのオンラインセミナーから始動し、その後、同年8月末の2日間にわたる事業者面談を経て、20社が選定されました。取扱商品は当初、各社5~10アイテム前後を目安としておりましたが、どの事業者も積極的に出展し、かつ品質の高い製品が多かったため、結果的に当初の想定よりも多い214アイテムが選ばれました。製品の中には、経済産業省が指定する伝統的工芸品である山形鋳物の鉄瓶や置賜(おいたま)紬のファブリックアート、更には山形県河北町が全国一の生産量を誇るスリッパや漆器、籐製品等が含まれ、バラエティに富んだラインナップとなりました。
商品選定後、出荷までは約1か月強しかなかったにもかかわらず、各事業者の尽力により、全てのアイテムが予定どおり締切に間に合い、10月下旬に香港に向けて仙台から発送されました。
展示にあたっては、比較的安価な商品は百貨店内のmonmayaの店舗に、また高価な商品は路面店に展示することで、客層に合うよう心がけました。
そして、もう一つ、今回意識したのは、ただ単に商品を販売するのではなく、その商品の背景にある地域の文化や風習等にも興味を持ってもらうために、山形県内の景勝地のパネル展示、各事業者の紹介をするパンフレット等の作成、参加型イベントの企画などを行いました。
4 香港での来店者の反応
今回の展示商品の半数以上が香港初上陸ということもあり、来店者の反応も良く、開始当初から、着実に売上を伸ばしていきました。特に、好評だったのは、間伐材で作られた和紙を使用したスリッパでした。香港での定価が1足1万円以上、値引き後でも7000~8000円するにもかかわらず、相当数を販売することができました。少し派手な色やドット柄の物が想定以上に売れたことは、海外ビジネスにおいては、日本人的な先入観を持たずにマーケットに教えてもらう気持ちで取り組むことの大切さを再認識させられました。それ以外でも、畳の原料であるい草を使った1つ7万円以上する座布団や1つ1万円以上するコースター等、日本では販売しづらい高価格の商品も販売することができました。最終的な売上は2か月で約154万円と初めてのテストマーケティングとしては十分な手応えを得ることができました。
来店者からお話を聞くと、実用的で高品質な物というのは香港では探すのが困難なため、このような商品を求めていたと大変喜んでいただきました。
今回の展示には、美術品的な商品も多数展示しており、そのような商品にも関心を持つ方もいらっしゃいました。価格的に即決できるものではないため、現状の販売実績はまだありませんが、今後も継続展示することで、徐々に売れていくことが予想されます。特に、今回の本プロジェクトに参加しているほとんどの事業者は継続展示を希望しているため、門間屋の路面店では引き続きそれらの商品を購入することができます。
高額商品になればなるほど、検討時間が長くなり、更には、販売店やそのブランドへの信頼も必要となるため、短期単発的ではなく、長期継続的なテストマーケティングが求められると思います。
5 参加型イベント「Tea Ceremony」を開催

参加型ワークショップイベントとして開催した「Tea Ceremony」は、中国茶と日本茶に精通した日本人のお茶の先生をお招きし、門間屋の路面店にて12月上旬に2日間にわたって2回開催されました。当日は、香港の来客者だけでなく、在香港日本国総領事館の岡田総領事をはじめ、ジェトロ香港や日本人商工会議所、香港貿易発展局等の職員の方々にもご参加頂き大変な賑わいでした。イベントの中で、山形の鉄瓶や花器、菓子皿、山形銘菓等を使用することで、参加者の方々に自然な形で実際の商品に触れてもらう機会を作ることもできました。
6 日本の工芸品の可能性
本プロジェクトのように、一つの自治体から複数の事業者の製品をまとめて預かり、大規模にフェアとして実施するのは門間屋にとっては初の試みでした。以前から、工芸品事業者の製品を個別に預かり展示販売することはありましたが、同じ産地の製品を、その地域についても積極的に触れながらイベントとして開催したことはありませんでした。
日本の特定の地域に触れながら実施するフェアは来場者にとっても、商品を単品で見るのではなく、その地域の文化やその中から生まれた製品の背景についても想いを馳せることができるので、単なる工芸品販売会の枠を超えた意義深いイベントになったものと実感できました。
特に、日本の職人によって作られる工芸品はその地域の文化的背景と密接につながっており、更には、世界的に見ても高品質なものが多いため、適切な販路をしっかりと確保することさえできれば、日本だけではなく海外でのニーズも益々高まることが予想されます。
上記の観点からも、日本国内での販売は年々減少の一途を辿っているものの、世界的に見れば、まだまだ、日本の工芸品の可能性は高いということができます。だからこそ、生産者の高齢化により消滅してしまう産地が続出する前に、海外販路を開拓することが急務と言えます。
7 今後の取組

今回の取組を通して、上述のように日本の工芸品の海外市場での無限の可能性を感じることができました。それは、決して香港やアジアだけに限ったことだとは思いません。だからこそ、今後は、先入観を持たずにチャンスがあれば積極的にテストマーケティングを行い、海外販路の開拓を行うと共に、より各市場にフィットする製品や販売手法の開発を行っていきたいと思います。
一方で、待ちの姿勢の事業者も少なからず存在しているため、そのような事業者にも積極的に働きかけ海外の可能性や自社の技能を残すことの意味や意義を理解してもらう啓発活動も必要だと考えております。
和食がユネスコ無形文化遺産であるのと同様に、日本の職人技は日本が世界に誇る無形資産であり、無形文化遺産にもなり得る価値のあるコンテンツです。だからこそ、オールジャパンとして職人も国も一丸となって世界に発信していかなくてはいけないと強く思います。