グローカル外交ネット

令和5年8月28日

岩手県釜石市産業振興部
水産農林課農業振興係

はじめに

訪問団による市内での献花の様子

 釜石市とフランスのディーニュ・レ・バン市は、1992年に開催された三陸・海の博覧会開催を機に交流をスタートさせました。その後も児童・生徒の絵画を交換・展示する等交流を深めた後、1994年に姉妹都市提携を行いました。2011年に発生した東日本大震災後は、同市から慰霊のための訪問団が当市を訪れる等、物心両面にわたる支援をいただき、来年姉妹都市提携30周年を迎えます。

釜石におけるラベンダープロジェクトの発足

 姉妹都市であるディーニュ・レ・バン市からの支援を一つのきっかけに、当市ではとあるプロジェクトが始動しました。
 東日本大震災発生後、市民の居住形態は大きく変化しました。庭や家庭菜園のある一戸建てからマンションタイプの復興住宅に居住することとなった市民が多く、それまで多くあった公園やグラウンドは、仮設住宅の建設用地として活用されることとなり、市民が土に触れる機会は、震災前に比べ大きく減少することとなりました。
 当市は、市民が花や自然に触れる機会を創出しながら、教育や福祉に寄与し、地域活性化や市民一人ひとりの心身の健康維持・増進に役立てるため、観光農園の整備を進めることとしました。その中で、姉妹都市関係にあるディーニュ・レ・バン市では、ラベンダーの栽培が盛んであることから、震災後の市民にとってラベンダーの花の美しさや豊かな香りが癒しになるのでは、と当市は考え、両市の友好の証として、観光農園にラベンダーを植えて栽培するプロジェクトを開始しました。このプロジェクトこそが「未来そして世界へつなごう 釜石ラベンダープロジェクト」です。
 プロジェクト開始にあたり、南フランス発の化粧品ブランド「ロクシタン」の創設者、オリビエ・ボーサン氏の出身地がディーニュ・レ・バン市だったことから、日本法人ロクシタンジャポン株式会社がこのプロジェクトに賛同くださいました。同社には復興に向けいち早く、そして継続的にご支援いただき、市民にとってはラベンダーの美しさや香りを通して希望と喜びを感じられる、素晴らしい機会となったことと思います。同社と当市は2022年5月に連携協定を結び、プロジェクトに関連する様々な取組を通じて成功に向け尽力しています。

プロジェクトがもたらしたもの

苗の定植を行う市民
地元小学校児童の定植会の様子

 ロクシタン同様にプロジェクトに賛同くださったディーニュ・レ・バン市からも、2022年冬にラベンダーの種子が寄贈されました。このラベンダーの種は当市内の農家等によって育てられ、立派な苗となり、2023年6月には、ロクシタンジャポン株式会社のご協力の下、苗の定植イベントを3日間にわたり開催しました。
 開催初日、市内の特別支援学校である釜石祥雲支援学校高等部の生徒と教員、市職員による学校のグランドへの定植と、ラベンダーに関する講義が行われました。生徒たちは、初めての定植作業を一生懸命行い、講義では、ラベンダーがどのような植物であるか、ラベンダーを原材料に使用したロクシタン商品の使用体験も行うなど、ラベンダーを通じた様々な学びと体験を実施しました。また、地元の甲子小学校の3年生児童と保護者によるラベンダー苗の定植も行われ、当市とディーニュ・レ・バン市との姉妹都市交流についても紹介されました。児童にとっては、植物の多様性や自然保護を学ぶとともに、ディーニュ・レ・バン市との交流内容を通じてグローバルな視点を持つきっかけとなったことと思います。
 イベント最終日には多くの市民が農園に集い、苗の定植を行いました。参加した当市市長、ロクシタンジャポン木島社長の双方から、皆で植え育てるラベンダーが多くの市民に癒しや喜びを与えることを願うとの挨拶がなされ、ディーニュ・レ・バン市からは当市民に対し、「このプロジェクトは住民と住民を結びつけるすばらしいプロジェクトである。フランスやディーニュ・レ・バン市を訪れた際は、是非私たちのラベンダー畑を訪れてほしい。」とのメッセージをいただきました。

地元小学校児童の定植会の様子

イベント最終日に定植をする市民と、地元小学校児童の定植会の様子

プロジェクトのこれから

 農園へのラベンダー苗の定植を3年にわたり行った当市内の甲子小学校は今年、ラベンダーに関する年間を通じた学びの機会を設けることとしました。定植後の農園で草むしりや剪定を学んでいる他、この取組で興味を持った児童が、ラベンダーやディーニュ・レ・バン市について各々で調べる等、学びを広めています。当市では、この小学校の取組をさらに深いものにするため、市の事業で本年9月に渡仏しディーニュ・レ・バン市との交流を行う市内中学校生徒による、小学校での渡仏体験発表会を企画しています。また、ラベンダーの定植・栽培は、農園から市全体へと広がりを見せており、市民に沢山の癒しを与えています。

 ディーニュ・レ・バン市との姉妹都市提携をきっかけに立ち上がったこのプロジェクトは、被災した市民の心の復興の一助となり、子供たちの未来や市民が生き生きと暮らすための取組の一つとして継続しています。このプロジェクトがもたらしたものはそれだけではありません。ロクシタンジャポンの製品による当市チャリティキットの販売を行った株式会社髙島屋、株式会社阪急阪神百貨店等、多くの方々とのご縁の形成にもつながりました。二社からは、本プロジェクトの取組への寄附もいただきました。

 このように、国境を越えた姉妹都市、ディーニュ・レ・バン市との友好関係がもたらした本プロジェクトには、様々な方からのご支援を頂戴しています。ディーニュ・レ・バン市から温かいご協力とご支援をいただいていることに感謝しながら、今後もこれまで以上に国際交流を深めていきたいと考えています。また、復興という観点のみならず、私たちの小さな取組が未来そして世界へつながるよう、これからも本プロジェクトをはじめとする様々な活動を続けていく所存です。

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