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シルクロードの国・ウズベキスタンとのホストタウン交流

令和3年9月10日

京都府舞鶴市

1 京都府舞鶴市がウズベキスタンのホストタウンへ

(写真1)噴水とナボイ劇場 日本人抑留者が建設に携わったナボイ劇場

(1)海とともに発展したきたまち「舞鶴」

 舞鶴市は、京都府北部の日本海に面し、美しいリアス式海岸と波穏やかな天然の良港を持ち、古くから海とともに栄えてきたまちです。明治34年、海軍鎮守府が設置され、明治から昭和は軍港として、第二次世界大戦後は引揚港として、また、現在は海上自衛隊や海上保安庁の拠点として、日本の近現代史において大きな役割を担ってきました。

(2)海外引揚を縁にホストタウン交流へ進展

 舞鶴港は、戦後、旧満州や朝鮮半島をはじめ多くの国や地域に残された日本人が引き揚げています。ウズベキスタンも抑留地の一つであり、この海外引揚が縁となり、ホストタウン登録へつながりました。
 ソ連軍によってウズベキスタンなどに送られた日本人抑留者は、過酷な環境の中、謹厳実直に仕事に励み、水力発電所や学校などの建設に従事しました。中でも、第4ラーゲル(収容所)の457人の抑留者などをはじめウズベク人とともに1945年から46年にかけて建設に携わった国立「ナボイ劇場」は、1966年にウズベキスタンの首都タシケントのおよそ70%を倒壊させた大地震に耐え、家を失った人々の避難所として活用され、多くの人命を救いました。過酷な環境の中でも懸命に頑強な建物を作った日本人の仕事ぶりは、ウズベキスタンの人々に深い感銘を残し、日本人のイメージとなって今の日本に対する友好的な気持ちにつながっています。そのナボイ劇場の建設に携わった日本人抑留者が、舞鶴港に引き揚げられました。このように、ウズベキスタンと舞鶴市の間には、戦後の海外引揚がつないだ深い縁があることからホストタウン交流が始まりました。

2 スポーツ交流から広がる交流

(1)スポーツ交流

 2016年6月にホストタウンに登録後、駐日ウズベキスタン共和国大使が来訪しました。2017年にレスリング及び柔道の事前合宿が内定し、同年8月には、ウズベキスタンの体育スポーツ大臣、オリンピック委員会事務総長ら4名の視察団が訪れ、舞鶴市とウズベキスタン・レスリング協会及び柔道連盟との間で、事前合宿実施にかかる覚書を取り交わしました。また、同年11月には、舞鶴市長を団長とした公式訪問団がウズベキスタンを訪問し、ウズベキスタン国家オリンピック委員会との間で、両競技の事前合宿実施にかかる覚書を取り交わすなど、東京五輪の事前合宿に向けた準備を進めていきました。
 その後、2018年の夏に、両競技の国内トップジュニアチームが来訪し、市民との大規模な合同練習を実施。スポーツ交流が本格的に始まりました。2019年には、世界柔道選手権大会の開催時期に合わせ、柔道の代表選手団(レスリングはジュニアチーム)が来訪し、本番さながらの環境で練習調整を行いました。滞在期間中、市民と合同練習や歓迎会を通して交流を行い、選手団は餅つきなど日本文化にも触れました。
 そして、2021年7月、これまでの交流の集大成として、舞鶴市でウズベキスタン柔道代表選手団29名によるオリンピック事前合宿を実施しました(新型コロナウイルスの影響により、レスリング代表選手団の事前合宿は中止)。
 合宿中は、練習会場や宿泊ホテルフロアを貸し切りにしたほか、栄養面や相手国の習慣に配慮し、ウズベキスタン料理を毎日提供するなど、出場する選手全員が本大会で最高のパフォーマンスを発揮できるよう環境を整えました。
 市民との直接の交流ができない状況でしたが、関係者を招いた歓迎セレモニーの開催、保育園児からのエール、市内小学生が作成した千羽鶴のプレゼント、ウズベキスタン国旗のタペストリーやホストタウンののぼりの設置、さらには市民と制作したウズベキスタン応援動画を放映するなど、選手団に対するおもてなしの心が市民一人ひとりに繋がり、舞鶴市が一丸となって実現した事前合宿となりました。
 本大会では、各々の選手が練習の成果を発揮し大いに奮闘する中、男子90kg級のダブラト・ボボノフ選手が見事銅メダルを獲得され、本市に対する御礼のメッセージ動画が届きました。

(2)市民交流・文化交流

 スポーツ交流の進展とともに、市民交流や文化交流も活発に行われています。ホストタウン登録前から、タシケントにある日本人抑留者資料館の館長とその孫娘が来訪し、市内の小中校生ら市民約120名と交流したことに始まり、ホストタウン登録後は、市内全小学校の給食でのウズベキスタン料理の提供や、市内観光拠点でウズベキスタンの民族衣装や伝統工芸などを展示するウズベキスタン展を毎年開催するなどしています。
 2019年8月には、舞鶴市民ら29名が訪問団を結成し、舞鶴市長を団長とする舞鶴市代表団と共にウズベキスタンを訪問。ナボイ劇場や日本人抑留者資料館など訪れたほか、タシケントやフェルガナ州コーカンド市にある日本人墓地を参拝し、献花や焼香、献茶を行いました。また、フェルガナ州リシタン市にある無償の日本語学校「Noriko学級」を訪問し、生徒達による歌や踊り、楽器演奏などの披露、習字や折り紙などで交流しました。
 同年11月には、ウズベキスタン文化大臣を団長に、ナボイ劇場の歌手やダンサーなど33名の文化芸術訪問団が来訪し、1000人を超える観客のもと舞鶴公演を開催。ウズベキスタン民族音楽に合わせ華麗なダンスやオペラが披露され、観客を魅了しました。

  • (写真2)左:子供たちの様子、右:舞台の様子
    Noriko学級での交流及びナボイ劇場劇団員が参加した舞鶴公演

3 ホストタウン交流を超えて舞鶴とウズベキスタンの縁が深化

(写真3)茶の栽培技術協力の4枚の写真 (左上)輸送した苗木(右上)ウズベキスタンの試験栽培地(左下)苗木を植えるウズベキスタン人(右下)苗木の成長を確認

(1)産業技術・介護福祉・農業人材の育成

 ウズベキスタンとの交流は、市民交流や文化交流にとどまらず、産業技術人材・介護福祉人材の育成や茶栽培の普及に向けた農業人材育成に広がっています。2019年にリシタン地方にあるNoriko学級との間で交流が芽生えたことを契機に、舞鶴市とリシタン地方における市民レベルの交流が進展し、リシタン地方との間で人材育成交流に関する覚書を取り交わしました。2021年4月に、同覚書に基づき、産業技術の習得を目的に市内の職業能力開発大学校「ポリテクカレッジ京都」への留学や在留資格「特定技能(介護)1号」で市内介護施設に就労するウズベキスタン人に対して、渡航費や生活費の一部などを助成する制度を創設。現在、ポリテクカレッジ京都には3名の留学が予定されています。

(2)茶の栽培技術協力

 上記の覚書に基づき、現地では、日本から持ち込んだ茶の苗木により、試験栽培を進めています。ウズベキスタンでは、古くから緑茶が飲まれていますが、旧ソ連時代の計画経済の中で、綿花の栽培を割り当てられたことから、これまで商業的な茶の栽培は、ほとんど行われていませんでした。国内で消費される茶葉のほとんどは、中国などからの輸入に頼っています。舞鶴市は、こうしたウズベキスタンの状況を改善し、茶の国内生産に協力することで、新たな産業の創造・育成に貢献しようとしています。
 茶の栽培技術協力は、現地事業や農業に精通している東京農工大学准教授や埼玉県茶業研究所の技術指導を得ながら行っています。2021年3月に、日本から現地に茶の苗木約1,000本を輸送(冬場に気温が著しく下がるため、耐寒性に優れた埼玉県ゆかりの品種を輸送)し、同年4月、現地パートナーのタシケント国立農業大学の協力のもと、フェルガナ州を含む4つの州の試験栽培地に苗木を植え、現在、生育データの収集と日本側の専門家による分析を進めています。今後は、現地の環境にあった栽培方法を確立し、本格的な栽培に発展させる予定です。

4 おわりに

 「海外引揚」がつないだ舞鶴とウズベキスタンとの縁は、舞鶴市民とウズベキスタン人の友情を築き、現在、人材育成交流という形に発展しています。この縁を大切に、レガシーとして今後もウズベキスタンとの交流に取り組みます。

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