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令和2年5月20日
 (写真1)ふるさと回帰フェア2019での移住相談会 ふるさと回帰フェア2019での移住相談会
(写真2)人生初のたけのこ掘り 人生初のたけのこ掘り
(写真3)親子で稲刈り挑戦 親子で稲刈り挑戦

奥会津振興センター 地域おこし協力隊
徐銓軼

1 地域おこし協力隊として

 ふと気づけば,日本での滞在は15年目になりました。
 大阪から福島へ,都市から町へ。
 どんどん北に。どんどん人が少ないところに。

 私は現在,「奥会津地域おこし協力隊」として活動しています。外国人の協力隊員としては,異例中の異例だと言われています。そもそも,なぜ福島に来たのかというと,前職を含めて社会人生活のすべては,福島に関わってきたからです。また,地域おこし協力隊への転身のきっかけは,「福島県内で働きたい」という単純な希望でした。

 私の仕事の内容は,情報発信や六次化商品の開発,移住定住・二地域居住の促進など,実に多岐にわたっています。その中でも自分が一番力を入れているのは,移住定住分野の業務です。私が現在活動している「奥会津」地域は,7つの町村で構成される広域で,神奈川県よりも広い面積を有しており,日本有数の豪雪地帯でもある一方で,人口は2万人未満です。

2 大好きな奥会津の生活

 中国の上海で生まれ育った自分は,なかなか奥会津の暮らしに馴染めず,苦労を余儀なくされました…とデフォルトされがちなシナリオのはずですが,実際のところ,方言の難解さはさておき,奥会津での苦労話はそれほどありません。理由はとても簡単です。奥会津が好きだからです。それ以上の詮索は不要です。惚れるのに理由なんていりますか?

 私は現在奥会津で送っている日々の日常は,よく故郷の友人から「非日常」の生活だと言われています。小鳥のさえずりで目が覚め,日の出とともに起床して,仕事行く前に町内で散策してきます。残業がほとんどなく,定時退勤,寄り道もせず,即帰宅します。夜となると,かなりの高確率で満天の星を眺めることができます。単調だと言われたらそこまでですが,私はこの生活がとても気に入っています。

 ファミコンに熱中した少年時代,RPGゲームの主人公になり,ファンタジーの世界で縦横無尽に飛び回れることを夢見ていました。それから四半世紀,ゲーム以上の広い,未知と感動に溢れる異国の田舎の生活を,私は大いに楽しんでいます。

3 経験者としての移住

 「アフター協力隊」を見据えて,今年の3月に町内の空き家を借りることにしたのですが,その出来事は私の生活を一変させました。今まで「テレビの人」,「新聞の人」と認知されていた私が,畑を耕したり,庭で草むしりをしたりする姿を見て,地域の住民の方々が頻繁に声をかけてくれるようになりました。奥会津に移住して3年にしてようやくご近所付き合いを普通に楽しめるようになった私ですが,一つの仮説を立てることにしました。「自分でも奥会津でうまくやっていければ,誰でも奥会津で楽しく暮らせる」。ハードルの先にあるものを信じて,私は前向きに生きていきます。

 これまで日本各地で開かれた相談会で,移住希望者に奥会津の魅力について紹介する時,自分自身のことをネタに交えながら語るのは受けが良かったです。業者に大金を注ぎ込んだ出来栄えのいいPR動画もいいのですが,やはり経験者として,移住先の良し悪しをありのまま伝えられることは,より確実に相手の心の琴線に触れると考えています。

 ただ,順風満帆とも思えた協力隊の生活ですが,新型コロナウィルスの影響で,思わぬ暗雲が立ち込めてきました。日本国内に緊急事態宣言が発令されて以来,奥会津地域では住民に向けて(県内を含めた)不要不急な外出の自粛が提唱されました。それに加えて,地域出身者の帰省もはばかられる状況です。会津全域で新型コロナの感染者が未だにゼロでいられるのは,住民の結束力の高さはもちろんのことですが,誰もが「第1号」になることを恐れている証拠とも言えます。

 このように,今年に限っては移住定住の促進はいわば八方ふさがりに近い状態ですが,それでも決して無駄な一年にならないよう,自分なりに工夫をしています。奥会津の人口流失は,積年の課題ではありますが,逆に言うと1年の空白で悪化することはありません。また,私自身,奥会津の良さを語るにはまだまだ経験が浅いので,この期間を利用して博識な地元住民の方の声に耳を傾け,奥会津への認識を深めることが当分の目標です。そして,コロナが収束したら,奥会津はきっと皆さんを今まで通りに受け入れてくれると固く信じています。

 協力隊の任期終了後,奥会津で活動できるラボラトリーを構えたいと思っています。一例として,現在お借りしている空き家を改築して,海外の学生たち向けに気楽に田舎体験するスペースを提供したい計画も立てています。奥会津,そして福島県とのつながりは一生の宝物で,ライフワークだと思います。どうかこれからも,末永くお付き合いできますよう,心からお祈りしています。

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