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世界が認めた山梨県峡東地域と滋賀県琵琶湖地域の農業システム
峡東地域世界農業遺産推進協議会事務局(山梨県甲州市農林振興課)
滋賀県農政水産部農政課企画・世界農業遺産係
2022年7月、山梨県峡東地域と滋賀県琵琶湖地域が国際連合食糧農業機関(FAO)により、新たに世界農業遺産に認定されました。
それぞれの地域を担当する地方自治体関係者の皆様から、世界農業遺産に認定された経緯、農業システムや地域の特徴についてご紹介いただきます。
1 山梨県峡東地域「峡東地域の扇状地域に適応した果樹農業システム」
(1)世界農業遺産認定に至った経緯
桃・ぶどうの生産量日本一を誇る山梨県のなかでも、「峡東地域」を構成する山梨市、笛吹市、甲州市の3市は、甲府盆地東部に広がる日当たりと水はけの良い扇状地を利用した果樹園が集積し、県内屈指の果樹栽培エリアとなっています。少なくとも800年の歴史があるとされるぶどう栽培が発展する過程で開発された「甲州式ぶどう棚」と「疎植・大木仕立て」を組み合わせた栽培は、世界のぶどう産地と比較すると高温多湿である日本でのぶどう栽培に適した手法として今では日本中に広く普及しています。先人が取り組んできた果樹栽培は今では300を超える遺伝資源として残り、現在の多種多様な果樹栽培、観光農園の礎となっています。また、扇状地の貴重な水資源を農地や住宅エリアに供給するために古くから整備された水路は住民主体で管理し、神事には御神酒にワインが利用され、小学校では農業学習が盛んであるなど、果樹栽培と生活が密接した特色ある豊かな日常が今なお繰り返されています。
2015年10月に峡東3市と山梨県により峡東地域世界農業遺産推進協議会が発足し、地域に浸透する高品質果実の栽培技術や農業が日常生活にもたらす生活様式、文化などを一体的に「果樹農業システム」と捉え、これを維持し活性化しながら次世代に引き継ぐことを目的に世界農業遺産認定を目指し活動してきました。2017年3月には日本農業遺産に認定され、更なる特色の掘り起こしを経て世界農業遺産の申請書を作成、2019年2月に受理されました。通常は申請書受理から1年以内の現地調査となりますが、新型コロナウイルス感染症の流行により足踏みが続くなか、2022年6月に待望の現地調査を受け、同年7月に晴れて世界農業遺産に認定されたところです。
(2)今後の期待・展望
峡東地域・果樹農業システムの世界農業遺産認定は、当該地域の農業振興の新たなスタートになるものと考えています。これまで、数十年数百年にわたり受け継がれてきた果樹園の景観や伝統的品種「甲州ぶどう」の栽培など、果樹栽培を中心とした地域の生活様式が世界的に特徴的であり、活性化しつつ後世に引き継いでいくべき素晴らしいものであるとの認識は、これからの地域農業者、住民に大きな希望となるものと思います。構成3市とも姉妹都市としてぶどうやワイン産地をはじめとする各国の農業都市との交流もあるなか、世界農業遺産認定地域の住民として自信と誇りをもって国際社会に飛び込んでいくものと期待しています。そして、それらの行動は、地域農業の次世代の担い手育成や経済の活性化に繋がるものと信じております。


2 滋賀県琵琶湖地域「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム」
(1)世界が認めた!滋賀の農林水産業「琵琶湖システム」
今回認定された「琵琶湖システム」は、水田営農と深く関連しながら発展してきたエリ漁などの「琵琶湖の伝統漁業」を中心に、豊かな生物多様性を育んできた「魚のゆりかご水田」や「環境こだわり農業」などの農業、「ふなずし」などの伝統的な食文化、さらに、河川を遡上する湖魚の産卵環境の保全に寄与する多様な主体による森林保全の営みなどから形づくられています。1,000年以上に渡って受け継がれてきた、こうした森、川、水田、湖のつながりは、世界的にも非常に貴重なものです。
(2)琵琶湖における国際貢献の取組
滋賀県では、世界的な課題である「淡水資源の持続的な利用」に向け、積極的な情報発信や世界との連携にも取り組んでいます。
「世界湖沼会議」はその代表例です。湖沼の問題に関する国際会議(世界湖沼環境会議)を、滋賀県が世界で初めて提唱・開催(1984年)し、その後、五大湖を有する米国ミシガン州での開催(1986年)以降、概ね2年に一度、世界各地で開催されています。
また、「世界水フォーラム」への参画も挙げられます。2003年には、当地域(琵琶湖・淀川流域)が開催地になっているほか、第8回目の開催(2018年3月ブラジル)では、「湖沼環境保全の重要性」について滋賀県と姉妹提携しているミシガン州(米国)、リオ・グランデ・ド・スール州(ブラジル)とともに世界に発信しました。
そのほか、国際協力機構(JICA)の研修では、海外からの研修生を受け入れ、水質・生態系の保全や、エリ漁等の漁業に関する研修等を行うなど世界との連携に取り組んでいます。
(注)2017年~2019年に延べ21か国28名を受入れ(エジプト、ブラジル、インド、イラク、インドネシア、メキシコ、パナマ、北マケドニア等)。
(3)「琵琶湖システム」を未来へ!
「世界農業遺産」認定は、琵琶湖と共生する滋賀県ならではの農林水産業の取組が水や物質、命の循環として一つのストーリーとして認定されたものです。認定を契機に、生産者をはじめすべての県民の方々が滋賀の農林水産業の価値に気づき、自信と誇りを持つきっかけにしていただきたいと考えています。
世界に認められた滋賀ならではの農林水産業のブランド力の強化、夢のある産業としての担い手の育成につなげ、琵琶湖と共生する滋賀の農林水産業を県民の財産としてしっかりと未来へ引き継いでいきます。

