グローカル外交ネット
スポーツがつなぐ交流、そしてその先へ
(徳島県とジョージア)
在ジョージア日本国大使館 特命全権大使
今村 朗
標高5000メートル級の山々が連なるコーカサス山脈。その南麓にジョージアはあります。ソ連崩壊後の内戦と2008年のロシアが介入した武力衝突で苦しみましたが、近年は年率5%の成長で経済が伸びてきました。豊かな食文化とおもてなし精神に支えられた観光業が牽引車です。コロナ禍でも昨年は前年比10%を超える驚異的な回復力をみせました。
1 徳島県・鳴門市がジョージアのホストタウン登録に至るまで

ジョージアは格闘技が盛んな国です。観衆は選手たちのぶつかり合いに熱くなります。ジョージアはアジアとヨーロッパの連結点に位置するため周辺大国による侵略が繰り返されてきましたが、これに徹底抗戦してきた歴史が背景にあるのかもしれません。柔道とレスリングはソ連時代から名選手を輩出しており、東京2020大会では両種目で合計8つのメダルを獲得しました。また、ぶつかり合いと言えば大相撲の栃ノ心関の活躍も日本におけるジョージアの知名度を一挙に上げました。
ラグビーも盛んで、古来からレロというラグビーに似た球技が知られており、ラグビーの起源はジョージアだという説もあるくらいです。このため後発国ながら世界ランキングは13位で、日本(10位)の好敵手です(ランキングはいずれも2022年2月現在のもの)。2019年のワールドカップでは徳島県がキャンプ地となりました。翌年、ジョージア赴任が決まった私はキャンプ場となった鳴門市内の球技場を訪れました。徳島市からのどかな田園風景の中を車で30分ほどいった鳴門・大塚スポーツパークの広大な敷地内にあり、体育館や野球場もある近代的な施設です。ここで伺ったお話で印象的だったのは、キャンプ中、ジョージアの選手たちが日本の子供たちにラグビーを教えたことが地元の人に大変好評で、それがきっかけでパラリンピックのホストタウンに立候補したということでした。ジョージア人の人懐っこさが徳島の人々の琴線に触れたのでしょう。体育館も見学しましたが、パラリンピック選手向けに整備が終了したということでした。赴任後、私はジョージアの方々にこの鳴門訪問のエピソードを紹介すると、誰もが一様に嬉しそうでした。
2 共生社会ホストタウンとしてパラリンピック選手との交流

東京2020大会に向けて徳島のホストタウン交流が動き始めました。パラリンピック選手たちとの交流では、特に女子車いすフェンシングのイルマ・ヘツリアニ選手と徳島商業高校とのオンライン交流が若者同士のパイプとなりました。彼女はロシア軍に占領されているアブハジア出身で、一家は2008年の衝突でアブハジアを追われた国内避難民です。私は、東京2020大会が目前に迫った昨年6月、彼女たちに会いにジョージア・パラリンピック委員会を訪れました。出迎えてくれたのはラティ・イオナタミシヴィリ委員長でした。彼自身も車いす使用者であり、与党の議会議員でもあります。議会では法務委員会に所属し、障害者の権利や障害者スポーツの普及を呼び掛けています。懇談では徳島との交流についてもひとしきり話が盛り上がりました。その後、地下のトレーニング・ルームに案内され、そこでイルマさんら3人の女子車いすフェンシングの選手たちが模擬試合を見せてくれました。文字どおり電光石火の目にもとまらぬ早業で勝負が決まります。車いすフェンシング女子サーブル団体で世界ランキング1位の面目躍如でした。彼女たちは最後に私にフルーレを持たせてくれ、快活に徳島でのキャンプを楽しみにしていると言っていました。1か月後、ズラビシヴィリ大統領の臨席の下、全選手が出席した壮行会がテレビ生中継されましたが、私は挨拶の中でホストタウン交流についても話をしました。そして迎えた東京2020パラリンピック競技大会では私がお目にかかった3人のうちの一人、ニノ・チビラシビリ選手が女子サーブル個人Aで見事に銀メダルを獲得したのです。
3 今後のホストタウン交流について

東京2020大会が成功裏に終了し、今はこれからのホストタウン交流の方向性を考えているところです。一つの方向性は、若者の交流です。ホストタウンが決まった頃、当館の紹介で首都トビリシにある名門、自由大学で日本語を学ぶ学生たちと徳島商業高校、四国大学との交流が始まりました。双方の指導教官の熱意に支えられ、軌道に乗り始めています。日本とジョージアの学校間交流はまだ線が細いので、交換留学の拡大を始め太い幹に育ってほしいと思っています。
もう一つの方向性は、徳島県からご提案をいただいている「共生社会」をテーマにしたジョージアとの交流です。EU加盟を目指すジョージアでも包摂的な社会ということがいわれるようになっており、同じテーマに取り組んでいる自治体を探すことにしました。イオナタミシヴィリ委員長に相談したところ、黒海に面する第二の都市バトゥーミは障害者行政に力を入れているとのお話があり、これから打診してみるところです。長期的な取り組みが大事であり、将来的な姉妹都市交流につながるように双方の自治体のマッチングを進めたいと思います。第三の方向性は、ラグビーです。昨年末、ジョージアのラグビー連盟からワールドカップをホストした日本との交流に関心表明があり、徳島でのキャンプのことも話題となりました。ちょうど運のいいことに、その後、徳島県もラグビー・チームのジョージア派遣を希望しているという話を聞きましたので、進展するかもしれません。
4 おわりに
本年は日ジョージア外交関係樹立30周年の記念すべき年です。当館でもさまざまなイベントを企画していますが、これらをホストタウン交流の更なる活性化に生かしていきたいと思っています。また、ホストタウン交流は2018年の河野外務大臣(当時)のジョージア訪問で発表した「コーカサス・イニシアティブ」の実現にも資するものです。今回は紙幅の関係で徳島県のみのご紹介となってしまいましたが、福岡県大牟田市と石川県志賀町を含めホストタウンの取り組みを、在京ジョージア大使館とも協力しつつ一層支援していきたいと思います。