軍縮・不拡散

第24回国連軍縮会議in静岡(概要)

平成25年2月1日

1.全体概要

 1月30日から2月1日まで,静岡県静岡市の日本平ホテルにおいて,第24回国連軍縮会議in静岡(主催:国連アジア太平洋平和軍縮センター,協力:外務省,静岡市)が開催され,アンゲラ・ケイン国連軍縮担当上級代表他,16か国・3国際機関から政府関係者,有識者,マスコミ関係者等75名が出席した(一般傍聴は約800名)。今回の会議は,「平和で安全な未来の創造:喫緊の課題と解決策」とのテーマのもと,各参加者が活発な議論を行った。各セッションでの主な議論は以下のとおり。なお,各参加者は各国政府等の立場を代表するものではなく,個人の意見として発言を行った。(プログラム(PDF)

2.1日目(1月30日(水曜日))

(1)開会式

 若林外務大臣政官が政府代表挨拶として,各国からの参加者を歓迎するとともに,我が国は唯一の戦争被爆国として核兵器使用の人道的結末をどの国よりも深く理解していること,政府や国際機関の取り組みが,研究・教育機関,NGO,メディア等との連携を通じて,より大きな相乗効果を発揮することを期待する旨述べた。これに続き,アンゲラ・ケイン国連軍縮担当上級代表及び田辺静岡市長から,歓迎の挨拶が行われた。(若林外務大臣政務官挨拶

(2)セッション1(人道上の問題と核兵器)

 天野軍縮会議日本政府代表部大使は,軍縮において人道的側面に焦点が当たった結果大きな成果を挙げた事例として,対人地雷禁止条約やクラスター弾禁止条約を挙げた上で,核軍縮に進展がみられない主な原因(核兵器の特殊性や各国が置かれた立場を背景とする安全保障政策等)を述べ,「核兵器のない世界」を達成するために我が国が果たすべき役割は,唯一の戦争被爆国としての歴史的体験に基づいた我が国の取組(国連総会での核軍縮決議案の提出,軍縮・不拡散教育等)と現実の安全保障環境を前提とした着実かつ段階的な軍縮を進めていくことである旨述べた。

 スノウフリド・エムテルド在京ノルウェー大参事官は,2010年NPT運用検討会議の最終合意文書では,核兵器の人道上の影響に対して深い懸念が示されているにも関わらず,核軍縮交渉が軍縮会議(CD)でもなかなか進展がないことにフラストレーションを溜めている国も多い,核兵器については,国家の安全保障の観点から高い政治レベルでの議論にとどめられており,人道的側面に関する議論を行う場がなかった,政治的・地理的側面を超えるのは人道的側面であるとの考えから,本年3月にオスロにおいて核兵器の人道的側面に関する国際会議を開催する旨述べた。その他のパネリストからもこの問題は,政治レベルだけの問題ではないとし,オタワ・オスロプロセスを前例に挙げ,市民社会との連携が重要である旨述べた。

 また,核兵器の人道的側面に焦点を当てるがために,これまでの「核兵器のない世界」に向けた現実的なアプローチを変えるべきではない,(核兵器の)非人道性と非合法化を結びつけるべきではないとの意見があった。なお,ノルウェー政府が昨年の国連総会において,34か国とともに核兵器の人道的側面に関する共同声明を発出したが,NATO加盟国である国としてNATOの安全保障政策との整合性を問われると,ノルウェーとしては,同盟から離れることはなく,核兵器の役割低減を考えるのは自国だけではないし,NATO加盟国であっても「核兵器のない世界」を求めることはできる旨述べた。

(3)セッション2(非核兵器地帯)

 ナビール・ファハミ・アメリカン大学地球規模課題及び公共政策学校長は,中東における非核兵器地帯設置について,これまでの経緯を述べつつ,中東地域が抱えている課題(各国の軍事力・安全保障バランス,イスラエルがNPT非加入国であること,イランの核開発疑惑問題等)を指摘し,同地帯設置の困難さを挙げ,同地域における非核兵器地帯設置にあたっては,範囲の定義付けや検証システム,信頼醸成(主にイスラエルをどのようにインボルブしていくか),設置時期について域内・域外との関係とともに考えていく必要があるが,まずは交渉を開始することが大事である旨述べた。また,中東非大量破壊兵器地帯設置に関しては,ラーヤバ・フィンランド外務次官補がファシリテーターとして尽力しているが,NPT寄託国である米・英・露の役割が重要である,同地域に信頼が醸成されていなくても他の地域の非核兵器地帯からの教訓を得ていくべきであり,まずは中東地域諸国が具体的な行動計画を示していくべきである旨述べ,数多くの困難な課題は抱えているため時間はかかるが中東非大量破壊兵器地帯設置は可能であるとした(これに対し,会場からは複雑な要因を考慮すればするほど,同地帯設置については悲観的にならざるを得ない,イスラエルの立場を変えることができるのは米国のみであり米国が鍵であるとの意見があった)。

 梅林長崎大学核兵器廃絶研究センター所長は,北東アジア非核兵器地帯構想について,自身が提唱する「3+3」(日・韓・北朝鮮が非核化の義務を負い,米・中・露がこの3か国に消極的安全保障を供与するもの)及びこれに基づくモデル条約について述べつつ,北朝鮮のミサイル発射や核実験問題等,6か国協議の行き詰まりや米朝合意の破棄宣言を指摘。この行き詰まりを打開するためとして発表されたモートン・ハルペリン博士の北東アジアにおける包括的平和安全保障協定を挙げ,北東アジア非核兵器地帯設置への包括的アプローチについて述べた。また,モンゴルの一国非核兵器地帯を例示し,北東アジア非核兵器地帯設置にはモンゴルが重要な役割を果たし得るとし,モンゴルが良しとするならば「4+3」も可能であると述べた。会場から「3+3」によって,中国を核兵器国として残した場合,果たして本当に同地域の非核兵器地帯と呼べるのか,また,日本にとって真の脅威は中国ではないのかといった意見があった。これに対して,梅林氏は,本構想はNPT体制の上で議論しており,この地域だけで中国に非核化を迫ることはない旨述べた。さらに,イランや北朝鮮は国連安保理の制裁決議を受けている国であり,このような国にどのように条約を遵守させるのかといった意見が述べられた。 

(4)セッション3(小型武器管理)

 ジェフ・ロビンソン豪州外務貿易省・軍備管理不拡散担当次官が武器貿易条約(ATT)について,昨年7月の国連会議では条約がまとまらなかったが,本年7月の最終会議に向けて議長を指名されているウールコット豪軍代大使は,すでに多くのキー・プレイヤーと話をしており,我々は,全ての国に対して最終会議の成果を重要視してほしいと考えている,昨年7月の会議の結果には失望はしているが意気消沈はしていない,ATTの定義,範囲,スコープ等はっきりしていないことはあるが,克服できない障害物ではない,本条約は非常に複雑であり大きなチャレンジはあるが,本年7月にコンセンサス採択できる展望については楽観視している旨述べた。

 ナタリー・ゴールドリング・ジョージタウン大学・平和・安全保障研究センター上席研究員は,ATT交渉について,普遍的な条約よりも,しっかりした強い条約を作成すべきとの考えを示し,妥協した条約を作成することは危険であると述べた。また,市民社会の役割も重要であるとし,軍縮・不拡散教育の重要性を訴えた。

 ケイス・クラウス小型武器研究所・プログラムディレクターは,国際的な小型武器規制の枠組みと現在の課題について,規制の枠組みが複雑なシステムであることを示しつつ,武器が合法的な取引経路から不正に流出しているとして,武器を合法的な保持者のみに停めておくことは困難であると指摘し,武装勢力が保持している武器は全体の約1%であるが,これが紛争の原因となっている,武器の年間取引は約85億円であるが,その半分は弾薬や武器に使用されるパーツである旨述べた。また,本セッションのパネリストは,規制対象に弾薬や武器に使用されるパーツを含めるべきであるとの見解を示した。

3.2日目(1月31日(木曜日))

(1)セッション4(原子力安全と核セキュリティ)

 グスタボ・カルーソIAEA原子力安全チーム長は,原子力安全の行動計画に関の履行に関する進捗状況について,原子力安全に関する行動計画,原子力発電所の安全性評価,IAEAピアレビューの強化,緊急事態への準備・対応の強化等についてプレゼンを行った。また,昨年12月に我が国と共催した原子力安全に関する国際会議について紹介する場面もあり,安全性や透明性の確保が大事であり,IAEAが学んだことは共有していく旨述べた。なお,会場からの原子力安全に関するガイドラインは日本も遵守していたはずであるが,福島の原発事故は起きたことを挙げ,ガイドラインが不十分であったのではないかとの問いについては,安全性確保は自主的に各国が行っていくものであり,IAEAとしては,非常に高いガイドラインを得ている旨述べた。

 ボニー・D・ジェンキンス米国務省・脅威削減計画・特別代表は,アジア地域は北朝鮮の挑発的行為や弾道・核ミサイルプログラムによって脅威にさらされている,米国は昨年12月に北朝鮮が行ったミサイル発射実験に対する国連安保理決議を歓迎している,他方,アジアの脅威はこの地域だけでなく,アジアを超えた地域にとっても脅威であるとした。米国は,核セキュリティ環境の強化や核または放射性物質・技術の拡散を防止するため,アジア地域の国々と協力しているとし,世界中の脅威の削減や協力的な取り組みの拡大等,米国務省・脅威削減・特別代表としての取り組みとして,1540委員会,核セキュリティ・サミット・プロセス,核テロに対抗するグローバル・イニシアティブ,IAEA,グローバル・パートナーシップを紹介。これら取り組みによって,アジア地域及びアジアを越えた地域への核テロの脅威は削減されてきているとしつつも,脅威が除去されたわけではなく,これらの取り組みを継続していく必要があると述べた。

 マイルス・ポンパー・モントレー研究所上席専門員は,福島原子力発電所事故の前後の需要のデータを用いながら,本当に原子力ルネッサンスが存在するのかについて疑問視するするとともに,原子力発電所の普及に伴う核拡散の懸念を示した。また,米国と各地域における原子力協定を紹介。イランの原子力の平和利用のためとするウラン濃縮技術の開発については,欧州等の周辺国では既にこうした技術を持っており,イランが独自に開発することは,経済的な観点からも無意味であるとした。また,日本国内の原子力発電所が2~3基しか稼働していない現状に鑑み,日本が使用済核燃料の再処理を行いプルトニウムの貯蔵を行うことについては,国内の原子力政策が明確になるまで控えるべきであり,また,そうした行動は近隣諸国の懸念を高めるだけでなく,貯蔵されたプルトニウムが核テロの対象となるリスクがある旨述べた。

 北澤福島原発事故独立検証委員会スタッフディレクターは,同委員会が行った福島原発事故の調査結果を報告。福島原発事故での全電源喪失が地震によるものか津波によるものか,調査機関によって結論が分かれており今後も検証が必要としながらも,今次事故は,複合型の災害(ヒューマンエラー,政府の安全規制の甘さ,オフサイトセンターの機能不全等)であることを指摘しつつ,これらは原子力の安全神話が原因の一つである旨述べた。

(2)セッション5(核軍縮・不拡散体制の現状と課題)

 ベンノ・ラグナー・スイス外務省安全保障課長は,2010年NPT運用検討会議は3つ重要な成果(64項目の行動計画,中東非WMD設置会議の2012年中の開催,核兵器の人道的側面に対する影響)を生み出した,また,我々は次回準備委員会に向けて,これらの主要なイシューと同様,より広範な軍縮と不拡散の観点から我々の現状を評価する必要があるとし,その上で,米露の新START条約発効を評価する一方,米国内では,オバマ大統領の軍縮に対するプライオリティが不透明であること,米国の大統領選挙以降EU3+3に進展がみられないこと,北朝鮮のミサイルや核実験問題等への懸念を述べた。さらに,中東非大量破壊兵器地帯設置に関するイシューが本年の準備委員会に最も影響を与えるであろう,本年4月中旬までに会議が開催されない場合には,準備委員会に深刻な影響を与えかねないとした。また,Reaching Critical Will(NGO)が取り組んでいる2010年NPT運用検討会議で合意された行動計画の履行状況の検証プロジェクトをスイス政府は支持しており,各国が準備委員会に向けた用意として活用されることを望んでいる旨述べた。核兵器の人道的側面に関するイシューはオスロ会議の2か月以内に準備委員会が開催されることもあり主要なトピックとなるだろう,非核兵器国は,核兵器国がアジェンダを支配することに対し,しばしば不満を抱いている,核兵器の人道的側面については,非核兵器国がアジェンダをコントロールすることを可能にし,核兵器国をディフェンシブな状況に置くことを可能にする点で重要であると述べた。最後に本年の準備委員会は,中東非WMD設置に関するイシューによって不透明な側面があるが,本年はオープンエンド作業部会や総会における核軍縮に関するハイレベル会合の開催といった核軍縮促進に向けた2つの大きなイベントが予定されていることを挙げ,NPTは真空状態に置かれている訳ではないとした。

 北野軍縮不拡散・科学部長は,2010年NPT運用検討会議で合意された行動計画の着実な実施を目標として,我が国と豪州が立ち上げた軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)と既存の核軍縮関連グループとの相違点(政治的モメンタム,行動志向的な活動,具体的かつ実践的な提案)を挙げつつ,なぜ,NPDIが「現実的かつ実践的なアプローチ」をとるかにつき説明。核兵器廃絶について,現実の世界においては,常にプラスの方向と(広島・長崎以降の核兵器の不使用,核兵器の数量の低減等)とマイナスの方向(核兵器が用いられる可能性の高まり,従来の非核兵器国が核兵器開発を進めること等)が複雑かつ多角的に入り組んでいること,核兵器廃絶に至るまでには,取り組むべき課題が多様(北朝鮮・イラン・シリアの核開発問題,相当量の核兵器の存在,核テロの危険性等)であることを指摘し,こうした幅広い分野において現実的で実践的な措置(米露戦略核削減,FMCT,CTBT,核兵器の役割低減等)が,核兵器廃絶に向けてマイナス方向の動きを止めつつプラス方向の動きを強めるために必要である旨述べた。

(3)セッション6(市民社会の役割)

 ティルマン・ラフICAN議長は,核兵器の人道的側面に焦点を当て,核兵器禁止条約の交渉を早期に開始すべき,現在の核軍縮交渉の停滞を打破するには新しいイニシアティブが必要である旨述べた。また,非核兵器国が取り得る手段として,ニュージーランドが原潜あるいは核兵器搭載艦の国内の寄港及び水域への進入を禁止し,その後非核兵器地帯を設置した事例を挙げ(これに対し,一時は米国がNZとの軍事協力を停止したが,その後,両国の軍事協定が拡大された),非核兵器地帯の設置等を提案。オスロ会議についても,多くの人が関心を有しており,この会議は支持されるべきで,フォローアップしていく必要がある旨述べた。会場からの核兵器の人道的側面に焦点を当てる人は,なぜ即核兵器禁止条約の交渉を唱えるのか,現実的に,FMCT交渉が優先されるべきではないのかとの問いに対し,FMCTはほぼコンセンサスがあるが,軍縮会議(CD)はコンセンサスアプローチであるため,大きな前進は困難であり,FMCTだけでは核軍縮は達成できない,部分的なアプローチは効果がない旨述べた。

(4)セッション7(軍縮・不拡散教育)

 水本広島市立大学広島平和研究所教授が,広島市教育委員会が平和教育プログラムとして作成している副教材,広島市内の女子高校での取り組みを紹介しつつ,教育を受ける対象のレベルに応じた教育や一方向的な教育ではなく考えさせる工夫をした教育の必要性を述べた。また,軍縮教育という看板よりも,各国の実情に応じた課題を既存の科目の中に取り入れることも重要であるとともに,教育とは中立で普遍的・客観的に行われるべきであるとの提言を行った。その後,一般傍聴者も参加して質疑応答がなされ,一般傍聴者から自身が取り組んでいる活動の報告や文科省とも連携した教育を行うことが望ましいといった発言があるなど会場全体で活発な議論が行われた。

4.3日目(2月1日):特別セッション(世界学生平和会議)

 鈴木七海さん(清水東高校)による高校生平和大使としての取組みについての発表に続き,静岡県立大学の学生達が,自分たちにとっての平和・軍縮とは何か,平和の「しくみ」をどう創造するか,平和の「こころ」をどう育むかについて議論が行われた。平和構築のためには,国家間の信頼醸成のみならず,個人間の交流や経済的結びつきが平和構築に繋がるのではないか,異なる文化や民族を受け入れ相互理解を深めることが大事であると議論が行われた。また,平和はゴールではなく道である,若い世代が平和や軍縮に対して無関心ではいけないと気付いた,今回の会議に参加したことで得た知識や経験を自分達よりも若い世代に伝えていきたいとの意見があった。


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