軍縮・不拡散

2010年NPT運用検討会議第1回準備委員会(概要と評価)

平成19年5月15日

 4月30日より5月11日まで、ウィーンのオーストリア・センターにおいて2010年NPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議第1回準備委員会が開催された。議長は、我が国の天野ウィーン代表部大使が務め、我が国代表団としては、関口外務大臣政務官(代表団長)、樽井軍縮代表部大使、中根軍縮不拡散・科学部長他が出席した。

1.今次準備委の位置づけ

 今次準備委員会は、NPT体制が北朝鮮やイランの核問題等の深刻な挑戦に直面する中で、2010年NPT運用検討会議に向けたプロセスの出発点となる重要な会議であった。第1回準備委員会が、2005年運用検討会議に続き手続き事項に多くの時間を費やし実質的な議論を行えない場合には、NPTに対する信頼が大きく揺らぎかねない。したがって、手続事項も含め会議を円滑にスタートさせ、その上でNPT体制の維持・強化に貢献する実質的な議論を行い、NPTに対する国際社会の信頼を維持することが今次準備委の重要な課題であった。

2.今次準備委の結果

(1)一般討論演説

 会議冒頭に天野議長の提案で故伊藤前長崎市長に対する黙祷が行われた。また、一般討論演説において、我が国を代表して関口外務大臣政務官が、今次準備委における我が国の基本的立場を表明したほか、47カ国の代表が演説を行った。

(2)議題案の採択

 当初の作業日程に見られるように、初日に議題案を採択し、2日間で各国の代表団長による一般討論演説を終え、3日目から実質的議論に入ることを目指したが、イラン1か国のみが天野議長の提案による議題案の採択をブロックし続けた(NPT準備委員会の意思決定は原則としてコンセンサス方式)。そのため、天野議長はイランをはじめとする関係国と集中的に協議を続け、議題案の採択に向け粘り強く努力した。
 議長が提案した議題案は、2005年運用検討会議の第1回目の準備委である2002年の議題をベースとしつつも、NPTの「遵守」の必要性を再確認するという新たな要素が盛り込まれていたため、イランは同案に対し、2002年の議題をそのまま使うか、あるいは「遵守」を「全ての条文の遵守」に修正することを求めた。
 しかしながら、天野議長は、一部修正に応じることは全体の合意を崩しかねないとの立場から、一貫して議長の提案した議題案の字句の修正を受け付けないとの姿勢を堅持した。最終的にイランは、南アが行った提案をベースに「遵守」についての準備委員会の理解(「『条約の完全な遵守の必要性の再確認』との言及は、準備委員会が条約のすべての条文についての遵守を議論することを意味する」)を脚注として付した上で議長が提案した議題を受け入れることとしたため、8日午前に議題案がコンセンサスで採択された。

(3)実質的議論

 8日午後より11日午前までNPTの個別事項(核軍縮全般、核軍縮・安全保証、核不拡散、地域問題、原子力の平和的利用、脱退等)についての実質的な議論が行われた。実質的な議論に当てられる時間が予定より半減したが、効率的な議事運営と建設的な雰囲気の下、すべての個別事項についてバランスよく実質的議論が行われた(議論の概要については、別紙の「議長作業文書の要旨」参照)。

(4)報告書の採択

 議長が議論の内容を総括した議長サマリーについては、関係国との非公式協議の結果、議長による作業文書として今次準備委の報告書の中で言及されることとなり、11日午後、同報告書が採択され、閉会した。なお、第2回準備委員会は、明年4月28日から5月9日まで、ジュネーブにおいて開催されることが決定した。また、同議長にウクライナのイェルチェンコ・ウィーン代大使が選出された。

3.わが国の対応

(1)わが国の天野ウィーン代大使が、議長として今次準備委の成功に主導的な役割を果たした。

(2)わが国は、一般討論演説にて関口外務大臣政務官が演説を行ったほか、樽井軍縮代大使他が個別事項毎の演説を行った。

(3)わが国は、NPTの3本柱(核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用)についてのわが国の立場を包括的に述べた作業文書(英文(PDF))PDF軍縮教育に関する作業文書(英文)並びに核軍縮に係る報告(英文)を今次準備委に提出した。

(4)軍縮・不拡散教育に関し、2004年に共同作業文書を提出した8カ国との共同ステートメントを行ったほか、我が国のナショナル・ステートメントも行い、軍縮・不拡散教育の新たなイニシアティブとして漫画の活用やディベート大会開催というアイデアを紹介した。また、今次準備委員会の会場において、被爆の悲惨さを訴える漫画(英語版)やアニメを配布・上映したほか、政府作成の軍縮白書等の資料を配布し、広報・啓蒙に努めた。

(5)わが国の樽井軍縮代大使他が、NGO代表との個別の意見交換を行うなど、NGOとの連携の強化に努めた。

(6)今次準備委員会に先立ち、わが国は本年2月にウィーンにおいてNPTに関するセミナーを軍縮・不拡散促進センターと共催し、関係国や専門家による忌憚の無い意見交換を通じて今次準備委の成功に向けた基盤作りに貢献した。

4.今次準備委に対する評価

(1)NPT体制が北朝鮮やイランの核問題等の深刻な挑戦に直面する中、2010年NPT運用検討会議に向けたプロセスを成功裡に開始することができたことは、NPTの信頼性を維持・強化し、核軍縮・不拡散を推進する上で大変有意義なものであった。今次準備委の議題が採択されず決裂するようなことが万が一にもあれば、NPT体制の信頼性ひいては国際的な安全保障の柱をなす多国間の体制への悪影響は測り知れないものがあったと考えられる。その意味で、今次準備委は、NPTに対する国際社会の信頼を維持する上で所期の成果を得ることができた。

(2)天野大使は、昨年12月に国連総会において今次準備委の開催が決定されて以来、ジュネーブ、ニューヨーク、ウィーン等で締約国との意見交換や説明を数度にわたって行い、会議の成功のために多大な努力を払った。イラン1カ国の議題案に対する反対により会議が重大な局面を迎えた際に核兵器国と非核兵器国、或いは西側諸国と非同盟諸国といったグループ間の対立的構図に陥らなかったのは、このような事前のきめ細かな調整努力によるところが大きかった。

(3)今回コンセンサスで採択された議題案は、今後2008年、2009年の準備委を通じて議題として使われるものであり、更には2010年の運用検討会議の議題案のベースとして今後の運用検討プロセスを円滑に進めることに貢献するものと考える。同議長がとりまとめた議長作業文書は、NPT体制が直面する北朝鮮やイランの核問題に対する締約国の断固としたメッセージを盛り込んでいるほか、核兵器国及び非核兵器国の双方の立場を実際の発言に則して今次準備委の議論を総括したものであり、多くの参加者からバランスがとれたサマリーとして高く評価された。

(4)わが国代表団は、一般演説を含む各個別事項毎の演説の中で、2005年運用検討会議以降、北朝鮮の核実験やイランの濃縮活動の継続などにより一層深刻化している北朝鮮やイランの核問題や、核兵器国による一層の核軍縮措置の実施、原子力の平和的利用に当たっての核不拡散、原子力安全及び核セキュリティーの確保の重要性等についてわが国の立場を積極的に主張、建設的に議論に参加した。その主張の主要部分については、他国の主張とともに議長作業文書に反映された。

(5)わが国は、今回の会議において上記3.(4)のとおり、軍縮・不拡散教育に重点的に取り組んだが、わが国の取組は会議に参加したNGOより高い評価を得た。


(別紙)

議長作業文書の要旨

(1)総論

(2)核軍縮

(3)消極的安全保証

 核兵器廃絶が実現するまでの間、消極的安全保証(NSA)が供与されるべきことに留意。先制不使用についても言及。NPT議定書の作成の追求やCDにおける実質的議論につき言及。さらに、NSAを法的拘束力ある条約とすべきとの議論に留意。

(4)核不拡散

(5)非核兵器地帯

(6)地域問題

(7)原子力の平和的利用

(8)脱退等

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