日本の安全保障と国際社会の平和と安定

令和2年7月20日

(1)トラテロルコ条約(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約、署名1967年、発効1968年)

 世界最初の非核兵器地帯条約。1962年のキューバ危機を契機に中南米地域の非核化構想が進展し、1963年、中南米地域の非核化を求める国連決議が採択された。その後、メキシコのイニシアチブにより条約作成作業が開始され、1967年2月に署名開放、1968年4月に発効した。

 中南米33か国が対象で、全ての国が締約国となっている(最後に加盟したキューバは2002年10月批准)。条約は、締約国領域内における核兵器の実験・使用・製造・生産・取得・貯蔵・配備等を禁止する(平和目的の核爆発は容認)。

 議定書は、核兵器国が域内において非核化の義務に違反する行為を助長しないこと、締約国に対し核兵器の使用または威嚇を行わないことを規定している(全ての核兵器国が批准済み)。

(2)ラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約、署名1985年、発効1986年)

 1966年から始まったフランスによる南太平洋地域における核実験を背景に、この地域において核実験反対の気運が高まり、1975年、国連総会において、南太平洋における非核地帯設置を支持する決議が採択された。その後、1983年に豪に労働党政権が成立すると、非核地帯設置の動きは急速に進展し、1985年の南太平洋フォーラム(SPF)総会において条約が採択、署名開放され、1986年12月に発効した。
 太平洋諸島フォーラム(PIF(旧SPF))加盟の16の国と地域(自治領)が対象で、現在の締約国・地域の数は13(ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオは未署名)。条約成立当時は、これら3か国はSPFに加盟していなかったため、条約の地図で示されている南太平洋非核地帯の境界線にはこれら3か国は含まれていないが、条約第12条によれば、本条約はSPF加盟国に開放されており、仮に当初の境界線に含まれない新たなSPF加盟国が条約を締結した場合には、それに併せて同非核地帯の境界線も拡大することになる。
 条約は、締約国による核爆発(平和目的の核爆発を含む)装置の製造・取得・所有・管理、自国領域内における核爆発装置の配備・実験等を禁止し、また、域内海洋(公海を含む)への放射性物質の投棄を禁止する。
 議定書は、核兵器国による締約国に対する核兵器の使用及び使用の威嚇を禁止し、また、域内(公海を含む)における核実験を禁止する(露、中、英、仏は批准済みであるが、米は署名のみ)。

(3)バンコク条約(東南アジア非核兵器地帯条約、署名1995年、発効1997年)

 ASEANは創設以来、東南アジアに対する域外国のいかなる干渉からも自由、平和かつ中立的な地帯を設立することを目的とした「東南アジア平和・自由・中立地帯構想(ZOPFAN)」を掲げており、非核地帯化は右構想の一環として位置づけられてきた。
 冷戦終結により非核地帯構想が進展し、1995年12月、本件条約はASEAN首脳会議において東南アジア10か国の首脳により署名され、1997年3月に発効した。
 ASEAN諸国10か国が対象で、フィリピンの批准が遅れていたが、2001年3月同国が批准し、全ての当事国の批准が完了した。
 条約は、締約国による核兵器の開発・製造・取得・所有・管理・配置・運搬・実験、領域内(公海を含む)における放射性物質の投棄、大気中への放出を禁止するとともに、自国領域内において他国がこれらの行動(核兵器の運搬を除く)をとることを許してはならないとしている。
 議定書は、核兵器国による域内(締約国の領域、大陸棚及び排他的経済水域)における核兵器の使用及び使用の威嚇を禁止し、また、核兵器国が条約を尊重し、条約・議定書の違反行為に寄与しないことを規定する(核兵器国はすべて未署名)。

(4)ペリンダバ条約(アフリカ非核兵器地帯条約、署名1996年、発効2009年)

 1961年に国連でアフリカ非核地帯化宣言が採択され、1964年にアフリカ統一機構(OAU)首脳会合でアフリカを非核地帯とするカイロ宣言が採択されたが、南アフリカの核開発疑惑により条約化が遅れていた。1991年に南アフリカが核兵器を放棄し、NPTに加盟したことから条約化実現に弾みがつき、1995年6月にOAU首脳会議において、アフリカ非核兵器地帯条約の最終案文が採択され、1996年4月にアフリカ諸国42か国により条約への署名が行われた。
 アフリカ諸国54か国(日本未承認の西サハラを含む)を対象とし、28か国の批准及びOAUの後継組織であるアフリカ連合(AU)への寄託が発効要件となっていたが、ブルンジが28か国目として2009年6月22日に同条約を批准し、同年7月15日にAUへの寄託が行われたことにより、同日に発効した。
 条約は、締約国による核爆発装置の研究・開発・製造・貯蔵・取得・所有・管理・実験、及び自国領域内における核爆発装置の配置、運搬、実験等を禁止する。
 議定書は、核兵器国による締約国に対する核爆発装置の使用および使用の威嚇を禁止し、また、域内(公海は含まない)における核爆発装置の実験を禁止する。(仏、中、英、露は批准済み。米は署名のみ。)

(5)セメイ条約(中央アジア非核兵器地帯条約、署名2006年、発効2009年)

 1997年2月、中央アジア5か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)は、カザフスタンのアルマティにおける5か国首脳会議声明(アルマティ宣言)にて非核兵器地帯構想を打ち上げた。この後、1997、1998年の国連総会決議で国連に条約案起草支援を要請、これを受け、国連アジア太平洋平和軍縮センターが支援することが決定され、1998年から国連の支援のもとで条約案起草のための専門家会合が開催された。1999年10月及び2000年4月には、我が国の支援により札幌において専門家会合が開催されたものの、最終合意には至らなかった。
 2002年9月、中央アジア5か国が集まったサマルカンド専門家会合において、5か国間の条約案文の交渉が終了、2005年2月にタシケントで開催された域内会議において、条約及び議定書案について合意がなされ、5か国により早期署名を目指すこと等を確認するタシケント宣言が発出された。2006年9月8日、カザフスタン・セミパラチンスクにおいて条約署名式が開催され、5か国外相レベル(タジキスタンは外務第一次官、トルクメニスタンは駐カザフ大使、その他は外務大臣)が集まり条約に署名し、2009年3月に発効した。
 条約は、締約国による核兵器若しくは核爆発装置の研究、開発、製造、貯蔵、取得、所有、管理及び自国領域内における他国の放射性廃棄物の廃棄許可等を禁止している。
 議定書は、核兵器国が条約本体の締約国に対して核兵器の使用又は使用の威嚇を行わないことを規定するとともに、条約又は議定書の違反行為に寄与しないことを規定している。2014年に開催された2015年NPT運用検討会議第3回準備委員会の期間中に5核兵器国が中央アジア非核地帯条約の議定書に署名し、2015年のNPT運用検討会議までに米国以外の4核兵器国が批准した(米国は署名のみ)。
 我が国は、札幌会議の開催に際して支援を行った他、国連事務局に対し中央アジア非核兵器地帯条約の起草支援のための資金を拠出するなど、条約の成立を支援してきた。また、国連総会に提出される中央アジア非核兵器地帯の設置に関する決議について、我が国は賛成してきた。

(6)モンゴル一国非核の地位

 1992年の国連総会において、モンゴルのオチルバト大統領は、自国領域を非核兵器地帯とすることを宣言し、核兵器国に対して、こうした地位を尊重し安全の保証を供与するよう求めた。1998年以降、国連総会において、モンゴルによる一国非核の地位に関する決議が隔年でコンセンサス採択され、2010年には初めて全ての核兵器国が共同提案国となった。2012年9月に、5核兵器国は、モンゴル一国非核の地位を尊重し、これを侵害するいかなる行為にも寄与しない旨の共同宣言に署名した。同時に、モンゴルは、核兵器を含む他国の軍隊や兵器を自国領域内に配備させないこと、自国領域内において核兵器の開発・製造・実験等を行わないこと等を宣言した。
 なお、2001年9月には、札幌において、国連軍縮局(国連アジア太平洋平和軍縮センター)の主催によって、モンゴルの一国非核の地位を国際法的観点から考察することを目的とした専門家会合が開催されている。

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