国連

シンポジウム「国連安保理の機能と日本の役割-大量破壊兵器の脅威にどう立ち向かうか-」
<概要>

平成22年2月


(福山哲郎外務副大臣の写真)

福山哲郎外務副大臣
写真:国連広報センター

 1月25日(月曜日)、国連大学エリザベス・ローズ・ホールにて、シンポジウム「国連安保理の機能と日本の役割-大量破壊兵器の脅威にどう立ち向かうか-」が開催されました。このシンポジウムは、国際の平和と安全の維持に主要な責任を負う国連安保理が、大量破壊兵器等の拡散等をはじめとする困難且つ様々な課題に現実的に適応していく中で、我が国は、特に軍縮・不拡散といった分野でユニークな立場にある国として、国際社会において、特に安保理において、他の国には果たし得ない役割をいかに果たして行くことができるのかを議論することを目的として開催しました。冒頭、福山哲郎外務副大臣より開会の挨拶(本文)が、続いて共催者である国連広報センターを代表して赤阪清隆国連広報担当事務次長より挨拶があった後、国内外の有識者・専門家等のパネリストを迎え、約100名の聴衆が参加して活発な議論が行われました。


1.第1セッションでは、まず、阿部信泰日本国際問題研究所軍縮不拡散促進センター所長より、冷戦後、安保理が不拡散の分野における活動を拡大し、北朝鮮、イラク、インド、パキスタンやイラン、また不拡散問題一般に関する決議を採択してきた旨説明がありました。また、これら決議の実行の確保の問題や、その解決のためこれまで行われてきた工夫が紹介されました。フレデリック・クロード国際原子力機関(IAEA)保障措置技術専門官からは、IAEAがある国に未申告の核物質・活動などが存在すると結論づけ、これを当該国による保障措置協定違反と認めた結果、IAEAより安保理に報告が行われることとなる場合、また制裁など拡散に対抗するために安保理が講じる手段につき説明があり、イラン、北朝鮮などの具体例が紹介されました。更に、取引や技術のグローバル化、非国家主体の存在など拡散における最近の問題を挙げ、これらに対抗する手段として、IAEAと安保理との協調の緊密化、IAEAの査察能力の強化などの提案が行われました。また、赤阪事務次長からは、これまでに安保理が行ってきた制裁措置を中心とした取組に加えて、国連憲章第26条に規定される、国際の平和と安全の確立と維持の促進のための軍備規制の方式の策定を活性化させることも一案である旨指摘がありました。

(オリ・ハイノネンIAEA保障措置担当事務次長の写真)

オリ・ハイノネンIAEA保障措置担当事務次長
写真:国連広報センター


2.午後の第2セッションでは、まずオリ・ハイノネンIAEA保障措置担当事務次長より、核兵器不拡散条約(NPT)が核物質の不拡散及び平和的利用への限定を規定しており、IAEAがこれを確保すべく、未申告の核物質・活動が発見された場合にいかなる目的で当該核物質が利用され又は当該活動が行われているのかを評価し、その結果軍事目的への転用等が存在するのか否かの判断を行うこと等につき説明がありました。また、右制度の強化のための提案として、包括的保障措置協定や追加議定書の普遍化などが挙げられました。続いて個別の国・地域における安保理の大量破壊兵器不拡散への取組として、浅田正彦・対北朝鮮制裁委員会専門家パネル委員(京都大学教授)より北朝鮮について、田中浩一郎・日本エネルギー経済研究所理事兼中東研究センター長よりイランについてプレゼンテーションが行われました。

 浅田教授は、北朝鮮に関する主要な安保理決議である決議第1718号及び第1874号の概略を説明した上で、今後の課題として、これらの決議の履行状況に関する報告の提出の増加や、航空機による禁止物品の密輸への対応強化、違反事案への対応の迅速化などを挙げました。田中理事よりは、これまでのイランに関するEU3+3及び安保理の取組につき説明した上で、対話と制裁の双方を活用するデュアル・トラック・アプローチは、すべての常任理事国(核保有国)が参加しているという意味で重みのある対話が行われているとの利点がある一方で、「ムチ」を隠しながらの交渉には常に不信感がつきまとうとの欠点があるとの意見が示されました。また、安保理が取りうる更なる手段として、事務総長に対する調停者任命の要請が挙げられました。

(パネリストの写真)

パネリスト
写真:国連広報センター

 続いて吉田文彦・朝日新聞論説委員より、NPTの信頼性を高める上での安保理の役割についてプレゼンテーションが行われ、NPT脱退の事案や消極的安全保証における安保理の役割についてこれまでに行われている提案などにつき紹介がありました。更に、NPT違反と安保理による武力行使にかかる決定の関係で、どのような場合にそのような決定を行うべきか、概念的議論を安保理が行ってはどうかとの提案がなされました。
 これらのプレゼンテーションを受けて、核の兵器化を阻止するためにIAEAをどのように強化していくのか、既存の枠組みである特別査察の活用やその限界などにつき議論が行われました。


3.結びの第3セッションにおいては、まず高須幸雄国連常駐代表より、IAEAの鑑識能力は非常に高く、安保理としてもIAEAの能力を最大限尊重・強化していくべきである旨述べた上で、特筆すべき安保理の特徴として、すべての国連加盟国を拘束する決定を行う権限や、条約交渉などと比して極めて迅速に決定を行うことができる点を挙げました。また、特に北朝鮮との関係で日本がユニークな役割を果たしうる背景として、被爆国としての道義的責任、IAEAによる査察により日本における原子力の利用は平和利用に限られているとの結論を得た上での平和裡の経済・技術発展、北朝鮮の核・ミサイルから受けている直接的脅威、IAEA理事会の常任理事国や国連加盟国の中で最も多くの回数安保理非常任理事国を務めていることなどにより知識の蓄積があることなどを挙げました。さらに、北朝鮮やイランに関するこれまでの安保理における議論が紹介され、制裁は手段として有効であるが、問題の究極的解決には交渉が必要であり、そこに安保理の限界があるのではないかとの見解が示されました。

(秋元千明NHK解説委員の写真)

秋元千明NHK解説委員
写真:国連広報センター

 秋元千明NHK解説委員からは、日本においては、国のあり方についてこれまで教育、政治、メディアといった場で十分に議論されておらず、国民のコンセンサスがなく、そのことは特に安全保障において最も顕著に出てくるとの問題提起がなされました。その上で、核兵器廃絶について、プラハで行われたオバマ米大統領の演説においても、核兵器廃絶と共に核兵器の抑止力等についても言及されていること、米の核兵器削減も新しい時代の新しい脅威に対応するために、古い核兵器を減らす必要性があることを反映しているとの現実があることなどを踏まえ、核兵器廃絶が本当に平和につながるのかといった視点も重要であるとの見解が示されました。

 これに対して、日本が核兵器廃絶を追求する実利的な理由として、核兵器を持たない国は核兵器保有国に比して不利な立場にあると言え、そのような立場から核兵器の廃絶を追求することには意味があること、核兵器はその非文明的・非人道的性格から民主主義国家では使いにくい兵器であり、廃絶を目指すことが有利であること、原子力産業大国としての平和利用推進の立場との関連などが挙げられました。また、シンポジウム参加者からの、日本が安保理常任理事国となることを含め、安保理常任理事国の拡大は拒否権の増加を意味し、結局安保理を非効率化させるのではないかとの質問に対し、常任理事国の増加には国連憲章の改訂が必要であるが、その発効にはすべての現行常任理事国の批准が必要であることを考えれば拒否権を廃止するのは不可能であるが、現在行われている安保理改革に関する議論において、安保理の効率性や実効性を損なわないよう拒否権については非常に慎重な検討がなされている旨説明がありました。


4.最後に、赤阪事務次長が、国連が行っている「WMD(we must disarm)キャンペーン」などに言及しつつ閉会の挨拶を行い、シンポジウムを締めくくりました。

(なお、各セッションのパネリスト等による見解の表明は、必ずしも所属団体・組織の意見を代表しないものとして行われました。)

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