国際組織犯罪に対する国際社会と日本の取組
人身取引
1 日本の人身取引対策
近年、グローバル化の一層の発展や、経済格差の拡大、IT技術の進化等に伴って、人身取引は国境を越えて行われる深刻な犯罪となっています。我が国は、人身取引は重大な人権侵害であるとの認識の下、平成16年(2004年)4月に「人身取引対策に関する関係省庁連絡会議」を設置するとともに、「人身取引対策行動計画」を策定し、この計画に基づく各種対策によって大きな成果を上げました。一方で、行動計画は、人身取引の手口の巧妙化・潜在化など、人身取引をめぐる情勢の変化を踏まえて改訂され、平成21年(2009年)12月、平成26年(2014年)12月の改訂を経た令和4年(2022年)12月の改訂により、現在は「人身取引対策行動計画2022」が策定されています。
また、我が国は、平成27年(2015年)以降、関係閣僚を構成員とする人身取引対策推進会議を毎年開催するなど、政府関係機関が一体となってその対策を推進してきました。
我が国は、平成17年(2005年)6月、国際組織犯罪防止条約及び同条約の補足議定書である人身取引議定書の締結につき国会の承認を得た後、平成29年(2017年)7月に同条約の国内担保法が国会で成立・施行されたことに伴い、同条約(国際組織犯罪防止条約)と共に人身取引議定書を締結しました。外務省は、人身取引議定書及び人身取引対策行動計画に基づき、外国人被害者の帰国・社会復帰支援や東南アジア諸国を中心とした能力構築支援、海外渡航者に向けた広報啓発、厳格な査証審査や領事・警備対策職員への研修などを通じ、人身取引の撲滅に向けた取組を通じて重要な役割を果たしています。
国内の人身取引の被害状況及び政府の人身取引対策については、「人身取引対策推進会議」のウェブサイト でご確認いただけます。
2 人身取引根絶のための国際的な貢献
(1)外国人人身取引被害者の帰国支援等の充実:IOM(国際移住機関)を通じた人身取引被害者の帰国・社会復帰支援事業
日本は、IOMが実施する「人身取引被害者の帰国・社会復帰支援事業」を平成17年より継続して支援しています。平成17年5月1日以降、令和6年4月30日までに、計362名の外国人人身取引被害者が安全に帰国しています。
令和5年度には約15,014千円を拠出し、日本で人身取引被害者として認知され、母国への帰国を希望する外国人被害者7人に対する帰国支援及び帰国後の社会復帰支援(就労・起業支援等)を行いました。
(2)ODAを通じた人身取引対策支援
日本は、国際機関への拠出、JICAの技術協力等を通じ、人身取引対策に資する支援を積極的に実施しています。近年の人身取引対策を含む支援の一例は以下のとおりです。
ア UNODC(国連薬物・犯罪事務所)等の国際機関を通じた支援
- (ア)東南アジアにおける人身取引対策を含む法執行当局に対する刑事司法面の対処能力向上プロジェクトの実施のため、平成27年度から毎年度、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)が管理する犯罪防止刑事司法基金(Crime Prevention and Criminal Justice Fund (CPCJF))に拠出しています。令和4年度は38万米ドル、令和5年度は20万米ドルを拠出し、法務省からの出向者(検事)が同プロジェクトを主導しています。また、令和4年度にはミャンマー及びタイにおける麻薬・人身取引対策のためのプロジェクトに370万米ドルを、令和5年度にはカメルーン、コンゴ共和国、赤道ギニア、ガボン、サントメ・プリンシペにおける海賊行為・人身取引等の対策のためのプロジェクトに約84万米ドルを拠出しました。
- (イ)更に、令和4年度には、ロシアの侵略を受けて難民、国内避難民が多数発生しているウクライナ及びモルドバへの支援として、UNODCを通じた国境管理強化及び人身取引対策を含む法執行能力強化支援に約93万米ドル、IOMを通じたウクライナ及びポーランドにおける人身取引に関する啓発活動や人身取引対策のためのホットライン運営等を含むプロジェクトの実施に約590万米ドルを拠出したほか、令和5年度には、欧州安全保障協力機構(OSCE)を通じたウクライナ周辺国における人身取引防止事業に約26万ユーロを拠出しました。
イ 技術協力
- (ア)JICAは、独立行政法人国立女性教育会館等の関係機関と連携しつつ、ASEAN諸国の人身取引対策に従事する関係者を我が国に招へいし、研修を実施してきています。平成21年以降毎年、タイを始めとするASEAN諸国の行政及び民間の人身取引対策に携わる担当者に対する研修を実施し、各国間の連携強化や人身取引対策の強化に取り組んでいるほか、平成28年~令和5年度には、国立女性教育会館を実施機関として課題別研修「アセアン諸国における人身取引対策協力促進」を実施しています。直近の令和5年度研修では、5か国(カンボジア、ラオス、マレーシア、タイ、及びベトナム)8名の関係者を対象に、来日前のオンライン研修と併せて実施し、日本における省庁と民間の取組の理解促進と、関係者間でのネットワークの強化を図り、自国での人身取引対策強化のための行動計画の作成を行いました。
- (イ)海上保安庁とJICAは共同で、海外の海上法執行機関等職員を対象に、人身取引対策を含む海上犯罪取締りに必要な知識・技術に関する課題別研修(海上犯罪取締り)を2001年から実施しています。
- (ウ)JICAは、平成22年よりバンコク(タイ)において、メコン地域各国政府の人身取引対策の担当者等を招へいし、「メコン地域ワークショップ」の開催支援を継続的に行っており、令和5年度には第11回目となるワークショップを開催しました。タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアの人身取引対策関係者が参加し、各国の取組の共有や、人身取引におけるジェンダー課題への対応等について知見を深め、行動計画を作成しました。
- (エ)また、JICAは、ベトナムにおいて、平成30年11月から令和4年3月まで、「被害者支援及びカウンセリングのための人身取引対策ホットライン運営強化プロジェクト」を実施しました。同プロジェクトでは、平成24年7月から平成28年3月まで実施した「人身取引対策ホットラインにかかる体制整備プロジェクト」により同国のホットライン(電話相談窓口)の運営体制が整備されたことを踏まえ、人身取引の予防、関係機関との連携等の更なる強化を図りました。各関係機関への研修、ホットラインの設備拡充やスタッフへのカウンセリング研修、広報等を通じて同国における人身取引対策ホットライン機能の強化に貢献しました。
- (オ)更に、JICAは、令和4年度からカンボジアにおいて「人身取引被害当事者への支援能力向上プロジェクト」を開始しました。人身取引被害者の保護や社会復帰を支援するサービスの改善を図るため、サバイバー中心アプローチの視点に立った人身取引被害当事者支援のためのツールやシステムの強化を行っています。
(3)国際社会における協力・取組
日本は、人身取引に係る国際的な協力枠組みに積極的に参画しています。そのうち主な取組は以下のとおりです。
ア バリ・プロセス
日本は、インドネシアと豪州の共催による「人の密輸・人身取引及び関連する国境を越える犯罪に関する地域閣僚会議」のフォローアップ・プロセス(「バリ・プロセス」)に積極的に参画しています。特に、同プロセスのウェブサイト(英語)の維持・管理及び掲載情報の整備を行うIOM(国際移住機関)への約1万ドルの拠出を通じ、関係国間の情報共有の向上に努めています。
イ 国際会議への参加・国際機関との政策対話
日本は、人身取引に関するASEANの関連会合やG7・ローマ・リヨン・グループ関連会合、国際組織犯罪防止条約の人身取引作業部会等への参加、UNODCとの政策対話等を通じ、国際社会における人身取引事案の実情把握や諸外国政府・国際機関との情報交換に努めています。