外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

5 南アジア

(1)インド

人口が世界第1位、経済規模が世界第5位のインドは、国際社会における存在感を高めている。国内では、「メイク・イン・インディア、メイク・フォー・ワールド」を始めとした様々な経済イニシアティブを通じ、着実な成長を遂げている。外交面では「アクト・イースト」政策の下、インド太平洋地域を中心に積極的な外交を展開しているほか、いわゆる「グローバル・サウス」の声を代弁する役回りを自認するなど、グローバル・パワーとして国際場裡(り)での影響力が増している。

日本とインドは、基本的価値や戦略的利益を共有するアジアの二大民主主義国であり、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の下、経済、安全保障、人的交流など、幅広い分野における協力を深化させてきた。また、インドは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現する上で重要なパートナーであり、日米豪印といった多国間での連携も着実に進展している。太平洋を臨む日本と、インド洋の中心に位置するインドが二国間及び多国間の連携を深めていくことは、インド太平洋の平和と繁栄に大いに貢献する。日印関係は世界で最も可能性を秘めた二国間関係の一つであり、既存の国際秩序の不確実性が高まる中、その重要性は増している。

2025年は、首脳会談を始めとするハイレベルの意見交換が頻繁に行われた。首脳レベルでは、8月に首脳間年次相互訪問の枠組みとしては約7年ぶりとなるモディ首相の訪日が実現した。その際、日印が互いの強みをいかし相互補完的な関係を構築し、安全保障、経済・投資・イノベーション、人的交流の三つの分野で協力を一層強化することで一致した。さらに10月には、高市総理大臣就任の機会に日印電話首脳会談を実施したほか、11月に南アフリカで開催されたG20サミットの機会に対面での日印首脳会談を実施した。外相レベルでは、1月(トランプ米国大統領就任式)及び7月(日米豪印外相会合)に米国で日印外相会談を実施したほか、10月にマレーシアで実施されたASEAN関連首脳会合の機会を捉え、茂木外務大臣の就任直後に日印外相会談を実施した。さらに、2026年1月、茂木外務大臣はインドを訪問し、ジャイシャンカル外相との間で外相間戦略対話を行い、FOIPの実現に向け、現下の厳しい地域・国際情勢について認識を共有し、日米豪印の枠組みも含めて協力することで一致した。実務レベルでは、7月にインドで日印外務次官対話を実施した。

第18回日印外相間戦略対話(2026年1月16日 インド・デリー)
第18回日印外相間戦略対話(2026年1月16日 インド・デリー)
コラムモディ・インド首相訪日
―地方訪問を通じた関係構築―

8月29日から30日までナレンドラ・モディ・インド首相が訪日しました。

日印間では、2006年に両国の首脳が相互に交代で相手国を訪問し合う「首脳間年次相互訪問」枠組みに合意するなど、首脳レベルを始め活発な要人往来が行われています。

今回のモディ首相の訪日は、「首脳間年次相互訪問」としては約7年ぶりとなった訪問です。モディ首相は、過去、この枠組みによる訪日で京都、兵庫、山梨を訪問しています。東京とは異なる魅力を持つ地方への訪問を含め両首脳が長い時間を共に過ごすことは、首脳間の個人的な関係をより一層強め、今日の強固な日印関係の礎となっています。

今回も日印両国の距離が一層縮まる訪問とするため、地方への訪問の準備を進めました。訪問先の検討を進めるに当たっては、今後の日印協力の方向性はどうあるべきかという点を特に重視しました。2014年9月にモディ首相が首相として初めて訪日し、日印関係を「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」に引き上げることに合意して以来10年が経過し、その間、日印協力は様々な分野で飛躍的な発展を遂げました。そうした中で、今日のインドは多くの高度人材を擁し、著しい経済成長の過程にあります。日本には世界の成長を牽(けん)引する高度な技術力があります。こうした両国の強みをいかし合い、両国が直面する課題への解決策を共創できる相互補完的な関係を構築していくことを今後10年の日印共同ビジョンとして今回の訪日で発表することにしました。そして、このビジョンにふさわしい地方訪問先として選定されたのが宮城県でした。決め手となったのは、日本の最先端技術です。

まずは、日印両国の旗艦事業である高速鉄道事業への理解を深めるため、両首脳がそろって新幹線に乗車し、仙台を訪問しました。1時間半の道中では石破総理大臣とモディ首相が車内で隣同士に座って意見交換を行ったほか、JR東日本で研修中のインド人運転士との交流や、新幹線の運転台見学、試験電車「ALFA-X」についての説明など、随所に工夫を凝らしました。宮城県に到着後は、半導体製造装置の製造を手がける東京エレクトロン社の工場見学を行いました。半導体分野もまた、「日印経済安全保障イニシアティブ」の下、官民での協力を進めている重要分野です。

新幹線の前で握手する石破総理大臣とモディ首相(8月30日 東京駅 写真提供:首相官邸ホームページ)
新幹線の前で握手する石破総理大臣とモディ首相
(8月30日 東京駅 写真提供:首相官邸ホームページ)

そして地元住民の方々によるモディ首相一行への温かい歓迎も、地方訪問を成功させる上で不可欠なものでした。

このように地方訪問を通じて一層強固となった日印関係は、高市総理大臣とモディ首相との間でも確実に受け継がれています。両首脳は、高市総理大臣の就任後、速やかに電話会談を行い、11月のG20ヨハネスブルグ・サミット(南アフリカ)では対面で会談を実施し、モディ首相訪日時に打ち出したビジョンに基づき着実に成果を出していくことを確認しました。今後も日本の豊かな地方の魅力をいかしながら日印関係を一層発展させていく考えです。

(2)パキスタン

パキスタンは、アジアと中東を結ぶ要衝に位置しており、その政治的安定と経済発展は地域の安定と成長に不可欠である。2億人を超える人口のうち30歳以下の若年人口が約65%を占めており、政府の財政状況改善及び低成長からの脱却が課題であるものの経済的な潜在性は高い。

日本との関係では、5月に日・パキスタン外相電話会談を実施した。また、9月に第13回日・パキスタン外務次官級政務協議及び第9回日・パキスタン・ハイレベル経済協議を実施し、経済関係・貿易投資協力、安全保障・防衛協力、人的・文化交流、軍縮・不拡散、気候変動を含む地球規模課題、国際機関における協力、地域情勢について意見交換を行った。日本は近年パキスタンに対し、日本が強みとする、防災・気候変動、保健、教育、上下水道といった国民の生活に密接する社会セクターに重点を置き支援を行っている。5月の「経済社会開発計画(ファイサラバードにおける水道関連機材)」(5.10億円)などの無償資金協力案件に関する書簡を署名・交換した。さらに、5月にジャム・カマル・カーン商業相、8月にハルーン・アクタル・カーン首相特別補佐官(産業・生産担当)が訪日した。

(3)バングラデシュ

イスラム教徒が国民の約9割を占めるバングラデシュは、インドとASEANの交点であるベンガル湾に位置し、近年、持続的な安定成長を遂げている(2024年の経済成長率は5.2%)。人口は約1億7,000万人に上り、質の高い労働力が豊富な生産拠点及び高いインフラ整備需要を備えた潜在的な市場として注目されている。内政面では、2024年8月の政変により、15年以上にわたり政権を担ってきたハシナ首相が退陣し、モハマド・ユヌス氏を首席顧問とする暫定政権が樹立された。ユヌス首席顧問は、国家制度に必要な改革をもたらした後、自由で公正かつ参加型の総選挙を可能な限り早急に実施すると表明し、2026年2月前半の総選挙実施を発表した。また、バングラデシュには、2017年8月、ミャンマー・ラカイン州の治安悪化を受けて、同州から新たに75万人以上の避難民が流入した。避難民の帰還はいまだ実現しておらず、避難の長期化によりホストコミュニティ(受入れ地域)の負担増大や現地の治安悪化が懸念されている。

日本との関係では、「戦略的パートナーシップ」の下、2023年4月に交渉を開始した日・バングラデシュ防衛装備品・技術移転協定が2026年2月に署名に至ったほか、2024年3月に交渉開始を決定した日バングラデシュ経済連携協定(EPA)も2026年2月に署名に至った。日系企業数は2005年の61社から2025年には330社に増加している。安定した電力の供給やインフラの整備が外国企業からの投資促進に向けた課題となっており、日本も円借款の供与などを通じてその発展を支援してきている。また、2月に生稲晃子外務大臣政務官がバングラデシュを訪問したことに加え、5月にはユヌス首席顧問が訪日し、石破総理大臣との間で会談を実施したほか、同首席顧問に同行したホセイン外務担当顧問と岩屋外務大臣との間でも会談が行われた。さらに、実務レベルでは5月に第6回日バングラデシュ外務次官級協議が実施された。

(4)スリランカ

スリランカはインド洋のシーレーン上の要衝に位置し、その地政学的重要性が注目されている。内政面では、5月に全土での地方議会選挙が実施され、過半数を超える地方議会で与党「国民の力(NPP)」が過半数を超える議席を確保した。経済面では、3月に日本政府とスリランカ政府との間で、債務繰延べの書簡の署名・交換が行われ、両国間の債務再編が正式に完了した。また、7月、国際通貨基金(IMF)は拡大信用供与措置(EFF)に基づく第4回レビューを完了し、スリランカ当局による約3.5億ドルの借入れを承認し、10月には同措置の第5回レビューの事務レベル合意に達した。引き続きスリランカ政府は、EFFプログラムで求められる様々な改革に取り組んでいる。外交面では基本的に非同盟中立でバランス外交を重視している。

日本との関係では、2月に生稲外務大臣政務官がスリランカを訪問し、独立記念式典に出席した。7月には日・スリランカ経済協力政策協議及び日・スリランカ外務省高級事務レベル政策対話を実施した。9月にはディサナヤケ大統領が大阪・関西万博に際して訪日し、石破総理大臣との間で首脳会談を実施し、「包括的パートナーシップ」の下での更なる関係強化を確認した。あわせて、初の対スリランカOSA(政府安全保障能力強化支援)案件として警戒監視・災害対処用無人航空機(UAV)の供与(5億円)に関する書簡の署名・交換を行ったほか、同国北部・東部州の低所得・小規模酪農家の生計向上のための無償資金協力「酪農セクター生産性向上計画」(4.63億円)に関する書簡の署名・交換を行った。

(5)ネパール

ネパールは、中国・インド両大国に挟まれた内陸国であり、2015年の新憲法公布以後、民主主義国としての歩みを進めている。内政面では、2024年7月に就任したオリ首相が、9月に発生した首都カトマンズ及び主要都市でSNS規制解除及び汚職撲滅を掲げた若者の大規模抗議行動により辞任し、スシラ・カルキ元最高裁判所長官が暫定政府の首相に任命され、その後下院議会を解散した。2026年3月5日に総選挙を行うことを発表している。経済面では、2023年から2024年の経済成長率は3.7%と伸び悩んでおり、不安定な内政の影響もあり、依然として低成長からの脱却が課題とされている。外交面では伝統的に非同盟中立であり、インドと経済的・文化的に結び付きが強い。中国とも良好な関係を維持している。

日本との関係では、両国は長年登山などの民間交流を通じた伝統的な友好関係を築いており、近年日本語学習者も増加している。2025年現在、27万人を超えるネパール人が日本に在住し、様々な分野で活躍している。5月には生稲外務大臣政務官がネパール政府主催の気候変動に関する国際会議(サガルマータ対話)に参加し、日本の気候変動対策へのコミットメントを発信した。また、日本はネパールにとって長年の主要援助国であり、貧困削減、防災及び気候変動対策、民主化の強化の三つの重点分野を始めとする様々な分野において経済協力を実施してきている。2024年に本坑が貫通した、ネパールにとって初の山岳交通道路トンネルとなるナグドゥンガトンネル(全長2,688メートル、日本の有償資金協力案件)は、2026年の開通後は、当該区間の運輸交通網が円滑化し、急増する交通需要への対応、移動時間の短縮、通行の安全性向上による、同地域の社会・経済発展の促進に寄与することが見込まれる。

(6)ブータン

ブータンは中国とインドの間に位置する内陸国である。国民総幸福量(GNH)(29)を国家運営の指針とし、第13次5か年計画(2024年から2029年)では、2034年までに高所得GNH経済となるという目標に向けて10年間の戦略的枠組みを採用し、2029年までに国民総生産(GDP)50億ドルの高所得国となる目標を掲げ、公平で質の高い保健、教育、主権・領土保全などの強化、信頼されるガバナンスのエコシステムの実現、経済成長の加速などに取り組んでいる。近隣諸国、日本など58か国及びEUとのみ外交関係を保有しており、国防などの分野においてインドと密接な関係を有している。日本との関係では、皇室・王室間の交流や、経済協力分野での各種支援が長年にわたり実施されている。

(7)モルディブ

シーレーンの戦略的要衝に位置するモルディブは、日本にとってFOIPを実現する上で重要なパートナーである。内政面では、2024年4月に実施された議会選挙において与党の連合人民国民会議(PNC)が議席の3分の2を獲得し、ムイズ大統領は政権基盤を固めた。経済面では、GDPの約3割を占める漁業と観光業を主産業とし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響はあったものの、一人当たりのGDPは南アジア地域で最も高い水準に達している。外交面では、ムイズ大統領は、就任以来、バランス外交の方針を模索している。

日本との関係では、7月に生稲外務大臣政務官がモルディブの独立60周年式典に総理特使として出席した。さらに、経済協力では、生稲外務大臣政務官とカリール外相との間で、首都マレの水災害への脆(ぜい)弱性の克服及び生活・経済社会基盤の安定を目的として、海岸防災施設(護岸)の整備などに係る無償資金協力に関する書簡の署名・交換を行った。

(29) GNH(Gross National Happiness):国民総生産(GNP)に対置される概念としてブータン政府が提唱した独自の概念。経済成長の観点を過度に重視する考え方を見直し、(1)経済成長と開発、(2)文化遺産の保護と伝統文化の継承・振興、(3)豊かな自然環境の保全と持続可能な利用、(4)良き統治の四つを柱として、国民の幸福に資する開発の重要性を唱えている。

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