外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

5 西部アフリカ地域

(1)ガーナ

2017年に発足し、再選して2021年から二期目を務めるアクフォ=アド政権(新愛国党(NPP))は、「援助を超えるガーナ」構想を掲げ、投資の促進や産業の多角化を進めてきた。新型コロナが拡大して以降は、新型コロナ対策や国内経済の立て直しに力を入れている。

日本は、ODAを通じて、長年にわたり、野口記念医学研究所を支援してきた。両国の友好の象徴とも言える同研究所は、同国のPCR検査の最大約8割を担い、新型コロナ対策の拠点として中心的な役割を果たした。また野口英世博士ゆかりの地である福島県猪苗代町は、東京2020大会において、ガーナのホストタウンとなった。

(2)カーボベルデ

カーボベルデは民主主義が定着しており、アフリカ諸国の中でも高い政治的安定を誇っている。フォセンカ前大統領の任期満了に伴い、10月には大統領選挙が平和裡に行われ、ネーヴェス大統領が就任した。

日本は、ODAを通じ、カーボベルデの発展に長年貢献している。2021年は、食糧援助や医療及び水産関連機材の供与などを通じて、同国の格差是正や経済の持続的発展を支援している。

(3)ギニア

ギニアでは、9月、国軍の一部兵士が武装蜂起し、コンデ大統領を拘束する事案が発生した。その後、軍人であるドゥンブヤ大佐が暫定大統領に就任し、移行憲章の下、暫定政権閣僚の任命など移行体制整備が進められつつある。

ギニアは豊富な水資源と肥沃な土地を有し、農業や水産業の開発潜在力は高く、ボーキサイト、鉄などを産出する西アフリカ随一の鉱物資源大国である。日本はギニアと長年にわたり友好的な協力関係を築いている。

(4)コートジボワール

2020年末に再選を果たしたウワタラ大統領の10年以上にわたる安定した政権運営の下、コートジボワールは着実な経済発展を遂げており、アビジャン港を中心として、西アフリカ地域の物流拠点としての存在感が高まっている。6月にはバグボ前大統領が国際刑事裁判所での無罪判決を経て帰国し、更なる国内融和と対話が期待されている。

日本はインフラ整備や健康な社会の推進などを通じて、コートジボワールの持続的な社会の安定と、経済社会開発の促進を支援している。良好な二国間関係に加えて、2021年3月には日・コートジボワール投資協定が発効し、民間レベルでも経済関係の一層の緊密化期待される。

(5)セネガル

サル大統領は、国内の政治的安定を背景に、新型コロナの流行下にあっても活発な外交を展開し、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を通じて域内の平和と安定の課題に積極的に関与したほか、11月には中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)、12月にはアフリカの平和と安全に関するダカール国際フォーラムをホストし、国際社会における存在感を示した。

1月には、茂木外務大臣がセネガルを訪問し、サル大統領への表敬やタル外相との2日にわたる2度の外相会談などを行った。茂木外務大臣は、この訪問を通じて、2020年に外交関係樹立60周年を迎えたセネガルとの友好関係を礎として、国際的な諸課題への取組における連携を含め、セネガルとの重層的な協力関係を更に強化していくことを確認した。12月のダカール国際フォーラムには、鈴木貴子外務副大臣がビデオ・メッセージの形で参加し、アフリカの平和と安定を後押しする日本の取組に触れつつ、アフリカが新型コロナの流行からより良い回復を果たすための国際連携の強化を訴えた。

日・セネガル外相会談(1月11日、セネガル・ダカール)
日・セネガル外相会談(1月11日、セネガル・ダカール)
茂木大臣によるサル・セネガル大統領表敬(1月11日、セネガル・ダカール)
茂木大臣によるサル・セネガル大統領表敬(1月11日、セネガル・ダカール)

(6)ナイジェリア

2019年に2期目を迎えたブハリ大統領は、ナイジェリアを「次なる段階」へと導くため、これまで取り組んできた経済、治安、汚職対策を引き続き優先課題として位置付けている。治安面では、北東部でテロ活動を展開してきた「ボコ・ハラム」及び「イスラム国(IS)西アフリカ州」(ISWAP)の指導者がそれぞれ5月と10月に死亡したと報じられたことをきっかけに、家族を含む武装勢力の投降が相次ぎ、11月にはその数が17,000人に達したといわれている。

ナイジェリアには47社の日系企業が進出しており、日本とナイジェリアは、経済関係を含めて様々な分野で交流を深めている。また、12月には、日本とナイジェリアの間で供与額3億円の道路整備関連機材のための無償資金協力(「経済社会開発計画」)に関する書簡の交換が行われた。

(7)ニジェール

平和裡に実施された大統領選挙を経て、4月にバズム大統領が就任した。民主主義の定着を後ろ盾として、開発課題やテロ・暴力的過激主義対策に取り組み、また、12月には国連安保理議長国を務め、気候変動と国際の平和と安全に関する公開討論を主催するなど、サヘル地域を始めとした国際社会の平和と安全にも積極的に貢献している。

日本は、教育改善や農業・農村開発などを通じて、ニジェールの持続的な開発促進を支援してきている。10月には食糧援助のための供与額4億円の無償資金協力を決定するなど、食料安全保障の改善に向けた協力に取り組んでいる。

(8)ブルキナファソ

2020年末に再選されたカボレ大統領の下で次期5か年戦略「第二次国家経済社会開発計画(PNDES II)」を策定するなど、継続的に開発課題に取り組んでいたが、各地でテロが頻発し政府のテロ対策に対する不満が高まり、2022年1月には国軍の一部兵士が同大統領などを拘束し権力を掌握した。ECOWASやAUから参加資格停止処分を受ける中、憲法に基づく秩序が早期に回復されることが求められている。

(9)ベナン

ベナンでは、4月に、大統領選挙が実施され、大統領就任以降インフラ整備や汚職対策を含めた様々な改革を推し進めてきたタロン大統領が再選を果たした。

日本は、インフラ整備、産業振興及び国民生活の環境改善を柱とする経済協力を行っており、日本の支援で建設されたアラダ病院は、新型コロナ対策拠点としても重要な役割を果たしている。

(10)マリ

2020年8月のマリ国軍一部兵士による武装蜂起とケイタ大統領の辞任以降、ンダオ暫定大統領の下で暫定政府は、2022年2月までに大統領選挙及び国民議会議員選挙を実施すべく準備を進めていたが、2021年5月にマリ国軍の一部兵士が暫定政府要人を拘束し、政情が再度不安定化している。新たにゴイタ暫定大統領の下、憲法秩序回復と民政移管に向けて取り組んでいるものの、治安の回復が最優先であることを理由に、暫定政府は選挙の大幅な延期を希望し、民政移管は停滞している。

マリの平和と安定は、サヘル地域の繁栄にとっても不可欠であり、日本は国際社会とも連携しつつ、早期の憲法秩序回復と民政移管に向けたマリの取組を支援していく考え。12月には、透明性及び信頼性の高い選挙の早期実施に向けて、UNDPを通じた、選挙実施に必要な機材の供与を決定した。

(11)モーリタニア

モーリタニアは、2019年8月に就任したガズワニ大統領の任期が折り返し地点を迎える中、引き続き安定した政権運営を行っている。同国は、経済面では、豊富な水産資源及び鉱物・エネルギー資源の輸出を基盤としており、特にタコ輸出の約3割は日本向けとなっている。

日本とモーリタニアは良好な関係にあり、2021年には、モーリタニア議会において、モーリタニア・日本友好議員連盟が設立された。日本は同国に対し、水産分野での能力強化支援に加え、食糧援助を通じ同国の食料安全保障に向けた取組を支援している。

コラムTICAD8の開催に向けて
─TICADプロセスを通じた日本のアフリカ外交のこれまで─

日本が、1993年にアフリカ開発会議(TICAD)(注1)を立ち上げてから、2023年に30周年を迎えます。2022年に予定される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)の開催を控え、TICADのこれまでの変遷を振り返ります。

TICADは、冷戦終結後、国際社会のアフリカ支援に対する関心が低下する中、アフリカへの関心を呼び戻し、アフリカ支援の重要性を論じるため、1993年に日本が立ち上げた国際会議です。この会議は、アフリカ開発に関する会議として、国際社会においても先駆的な存在でした。第1回の会議では、アジアの経済発展の成功体験をアフリカ開発の教訓として活用する重要性を強調しました。

TICAD Ⅱ(第2回)は、「アフリカの貧困削減と世界経済への統合」をテーマに1998年に開催されました。また、アフリカ自身の「オーナーシップ」と国際社会による「パートナーシップ」というTICADの基本理念を打ち出す会議となりました。この理念は、日本自身が戦後、国際社会の支援を得つつ、自主性をもって発展してきた経験を、アフリカ開発においてもいかしていくことを示したものであり、現在では国際社会に共有され、アフリカ諸国にも浸透しています。

TICAD Ⅲ(第3回)は、2001年の「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」の成立、2002年のアフリカ連合(AU)の発足など、開発の推進に向けたアフリカ側のオーナーシップが高まる中、2003年に開催されました。日本は、「アフリカ問題の解決なくして21世紀の世界の安定と繁栄はなし」との認識の下、国際社会の知恵と経験をアフリカ支援に結集させるべく議論を行いました。

TICAD Ⅳ(第4回)は、「元気なアフリカを目指して─希望と機会の大陸」というテーマの下、2008年に開催され、経済成長の加速化、人間の安全保障の確立及び環境・気候変動問題への対処が重点事項として議論されました。日本は、対アフリカODA及び民間投資の倍増を表明し、会合では、現在のTICADの特徴の一つでもある、フォローアップの重要性が確認されました

TICAD Ⅴ(第5回)は、「躍動するアフリカと手を携えて」というテーマの下、2013年に開催され、アフリカの経済成長の更なる後押しについて議論されました。また、アフリカにおける産業人材育成の重要性に鑑み、ABEイニシアティブ(注2)が立ち上げられました。

TICAD Ⅵ(第6回)は、初のアフリカ開催として、2016年にケニアで開催されました。日本は、官民総額300億ドル規模の質の高いインフラ整備や強靱(じん)な保健システム促進、平和と安定の基盤作りなどのアフリカへの未来への投資を行うことを発表しました。

TICAD7は、「アフリカに躍進を!ひと、技術、イノベーション」というテーマの下、2019年に開催され、経済・社会・平和と安定の三つの柱に基づき議論されました。中でもビジネス促進が議論の中心に位置付けられ、これまで以上にアフリカにおける民間投資の重要性が確認される機会となりました。アフリカに進出する日本企業の数は、過去10年間で520社から910社にほぼ倍増しています。

TICAD立ち上げ以来、日本は国際社会のアフリカ開発への関心を高めることに取り組んできました。現在では、アフリカは「21世紀最後のフロンティア」として、その潜在力に国際社会の注目がかつてないほど集まっています。日本としても、TICADを通じ、アフリカとの協力関係を更に深化させていくことが重要です。

新型コロナウイルス感染症がアフリカの様々な開発課題を浮き彫りにする中、日本は、TICAD8を通じ、アフリカ自身が主導する発展を力強く後押しし、ポスト・コロナを見据え、アフリカ開発の針路を示していく考えです。

TICAD Ⅳの様子(2008年5月28日、横浜)
TICAD Ⅳの様子(2008年5月28日、横浜)
TICAD7集合写真(2019年8月28日、東京 写真提供:内閣広報室)
TICAD7集合写真
(2019年8月28日、東京 写真提供:内閣広報室)

(注1) TICAD:Tokyo International Conference on African Development

(注2) ABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ:African Business Education Initiative for Youth):アフリカの若者を日本に招き、日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンシップの機会を提供するプログラム。日本とアフリカの懸け橋として重要な役割を担っている。

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