2 外交実施体制の強化
日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増し、外交課題も多様化しつつある中、日本の外交実施体制は主要国と比べて依然十分とはいえず、オリンピック・パラリンピック東京大会が行われる2020年を念頭に、欧米主要国並みの外交実施体制を整える必要がある。こうした認識の下、外務省は、大使館や総領事館などの在外公館や外務本省の組織改編、人的体制の整備を進めている。
大使館や総領事館などの在外公館は、海外において国を代表するとともに、外交の最前線での情報収集・対外発信・外交関係促進・国際貢献などの分野で重要な役割を果たしている。同時に、邦人保護、日本企業支援や投資・観光の促進、資源・エネルギーの確保など、国民の利益増進に直結する活動も行っている。
2016年1月には、モルディブ、ソロモン、バルバドス、タジキスタン、トルクメニスタン及びモルドバの6か国に日本国大使館を開設した。これら6か国への大使館開設は、次の観点から日本にとり重要である。
モルディブについては、年間約4万人の日本人が渡航しており、インド洋シーレーンの要衝として地政学的重要性が高く、国際場裏においても一貫して日本の立場への支持を表明している友好国である。
ソロモンは、マグロなどの漁業資源や鉱物資源を有するほか、遺骨収集帰還事業等の実施体制の更なる強化が必要となっている。
バルバドスは、東カリブ地域交通の要衝にあるとともに、国際場裏での一定の影響力を有し、日本と近い立場を有するカリブ共同体(CARICOM)の主要国との更なる関係強化のためにも重要である。
タジキスタンは、アフガニスタンと長い国境を接し、テロ対策、麻薬対策の観点からも中央アジア地域全体の安定にとって重要であり、国際場裏においても信頼できる友好国である。
トルクメニスタンは、天然ガスの確認埋蔵量が世界4位の資源大国で、日本企業も参加する総額180億米ドル規模の開発プロジェクトが進行中であり、また、アフガニスタンやイランと国境を接し、地域の安定のためにも重要である。
モルドバは、EU・ロシア間の戦略上の要衝に位置し、民主化や市場経済化を進めており、地域情勢フォローの観点からも重要である。
さらに、海外に展開する日本企業支援のニーズが急増するとともに、各国首都以外でも情報収集や戦略的対外発信が必要であることから、2016年1月、メキシコのレオン及びドイツのハンブルクに総領事館を開設した。レオン総領事館が管轄する中央高原(バヒオ)地帯では、近年、自動車産業を中心に日本企業の進出が進み、在留邦人数が急増している。ハンブルクは、近年海洋に関する紛争の平和的解決などについて重要性が高まっている国際海洋法裁判所を擁しているほか、ドイツの有力メディアが拠点を置いている。
2015年度の日本の在外公館(実館(1))数は、215公館(大使館145、総領事館62、政府代表部8)であり、この数は、米国(280公館)、中国(270公館)などの他の主要国に比べると、依然として少ない。
2016年度は、外交実施体制を一層強化するため、サモア、アルバニア、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国及びモーリシャスの4か国に大使館を設置する予定である。
サモアはポリネシア地域最大の人口を擁する同地域の中心国の一つであり、国際機関として太平洋地域環境計画(SPREP)、国連食糧農業機関(FAO)及び国連教育科学文化機関(UNESCO)の事務局又は地域事務所も擁していることから、地域における情報収集・対外発信の拠点であるとともに、海上輸送路としても重要である。
アルバニアは、西バルカン地域南部に国境を越えて幅広く居住するアルバニア人(人口約600万人)の中心国であり、同地域の安定と発展の鍵となる存在である。また、欧米におけるアルバニア系移民(約350万人)の強い影響力や鉱物資源が豊富であるなどの重要性もある。
マケドニア旧ユーゴスラビア共和国は、独立後、欧州連合(EU)及び北大西洋条約機構(NATO)加盟を見据えた改革努力を継続しており、同国との関係強化は、日・EU、日・NATO関係の強化や欧州・バルカン地域に関する情報収集等の文脈でも重要である。なお、同国においては、日本は最大のドナー国の1つである。
モーリシャスは安定した民主主義国であり、優れたビジネス環境を有している。今後、対アフリカ投資の中継拠点として諸外国からの情報や人の往来が集中すると想定され、日本の経済活動の潜在性が見込まれる。
また、総領事館については、急成長するインドの情報技術(IT)産業の中心地であり、在留邦人数及び進出企業数が急増しているベンガルールに新設する予定である。
外務本省の組織に関しては、近年、シリアやチュニジア等において、邦人がテロの犠牲となる事案等が発生し、イラクとレバントのイスラム国(ISIL)が日本をテロの標的として名指しする中、2015年11月、フランス・パリにおける連続テロ事案が発生するなど、現下のテロ情勢は非常に厳しい状況にある。日本に対するテロの脅威が現実のものとなっていることを踏まえ、官邸を司令塔として、政府が一丸となって情報収集を含む国際テロ対策の強化に関する取組を推進するために、2015年12月に外務本省に国際テロ情報収集ユニットが新設された。
定員については、政府全体で厳しい財政状況に伴う国家公務員総人件費削減の方針がある中で、外務省は、地球儀を俯瞰する外交の展開、経済外交の推進を始めとする外交実施体制強化の重要性などに対応すべく、また、外務本省に国際テロ情報収集ユニットが設置されたことに伴い、定員数は5,876人となった。しかしながら、依然として、他の主要国と比較しても人員は十分とはいえず、引き続き我が国の国力・外交方針に合致した体制の構築を目指すための取組を実施していく。なお、2016年度も、外交実施体制の強化が引き続き不可欠との考えの下、在外邦人の安全対策強化・テロ関連情報収集機能強化、「積極的平和主義」の更なる展開、経済外交の推進と邦人の海外活動支援、戦略的対外発信の強化などの重要課題に取り組むため、90人増員予定である。
以上のような外交実施体制を支え、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、「地球儀を俯瞰する外交」を更に力強く推進していくため、外務省は2015年度予算において6,854億円(対前年度比2.9%増)を計上した。外務省所管の2015年度補正予算の総額は2,095億円であり、追加財政需要として難民問題対策を含む人道・テロ対策・社会安定化支援や、自然災害や広域感染症等の地球規模課題への対応支援など総額1,866億円を計上している。また、TPP対策として、国際経済紛争処理に係る体制整備事業やODAを活用した日本企業や地方自治体の海外展開支援など、総額229億円を計上している。2016年度当初予算政府案では、①在外邦人の安全対策強化/情報収集機能強化、②戦略的対外発信、③「積極的平和主義」に基づくグローバルな課題への貢献及び④経済外交/地方創生を重点項目とし、上記諸課題を実現するため外交実施体制の抜本的強化/ODAの飛躍的な拡充を図るべく7,140億円(対前年比4.2%増)を計上している。
日本の国益増進のためには、外交実施体制の強化が不可欠である。今後も、引き続き、更なる合理化への努力を行いつつ体制の整備を戦略的に進め、先進主要国並みの外交実施体制の水準を確保できるよう努めていく。
1 庁舎が存在し、そこに専任の職員が配属されている公館