外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

各論

1 外国人の活力を日本の成長につなげる取組

(1)成長戦略とビザ(査証)緩和

安倍政権は、2014年6月に発表された「『日本再興戦略』改訂2014」において、オリンピック・パラリンピック東京大会が開催される2020年に向けて、年間訪日外国人数2,000万人の高みを目指すことを目標に掲げ、政府一丸となって観光立国実現のために取り組んでいる。外務省としては、2013年のタイ及びマレーシアに対するビザ免除を含むビザ緩和に続き、「日本再興戦略」及び観光立国実現に向けたアクション・プログラムに盛り込まれた、訪日客増加に大きな効果の見込まれる国に対し、ビザ発給要件の更なる緩和を2014年も実施した。具体的には、1月15日からミャンマーの数次ビザの導入、7月3日からインドの数次ビザの導入、9月30日からインドネシア、フィリピン及びベトナムの数次ビザ発給要件の大幅緩和、11月20日からこれら3か国の指定旅行会社のパッケージツアー参加者に対する一次観光ビザの申請手続きの簡素化、12月1日からインドネシア向け事前登録制によるビザ免除を実施した。また、8月の安倍総理大臣のブラジル訪問の際に、ブラジルの数次ビザ導入の決定を発表し、11月8日のAPEC閣僚会議(於:北京(中国))の機会に、岸田外務大臣が中国人に対する数次ビザの発給要件の緩和の決定を発表した。現在、これらの措置の早期実施に向け調整している。こうした措置を通じ、観光立国推進や地方創生の取組に貢献することや日本に対する理解者の増大、国際交流の深化などの効果が期待される。

日本政府観光局(JNTO)の統計によると、円安や格安航空会社の路線拡充、免税店の拡大などの様々な要因もあり、ビザ緩和を実施した国からの訪日者数の大幅な伸びが見られた。2014年の訪日外国人数は1,341万人を超え、前年に記録した年間の過去最高数(1,036万4,000人)を大きく上回った。

ビザ発給件数と訪日外国人数の推移
ビザ発給件数と訪日外国人数の推移

このように人的交流の促進や日本経済の成長に一定の効果が見込まれるビザ緩和は、その一層の拡大が期待されている。一方で、犯罪者や不法就労を目的とするなど好ましからざる外国人又は人身取引の被害者となり得る者の入国を未然に防止するため、水際対策の一環としてビザ審査の厳格化も行っている。外務省としては、観光立国推進と世界一安全な日本の両立を目指し、関係省庁とも協力し、ビザ緩和による治安への影響を最小限に抑えるとともに、二国間関係、外交上の意義などを総合的に勘案し、今後もビザの緩和に取り組んでいくこととしている。

(2)外国人受入れ・社会統合をめぐる取組

2008年のリーマン・ショックを契機に、日本に長期滞在する外国人の数は減少傾向にあったが、2012年を境に増加傾向に転じている。少子高齢化や人口減少が進行しつつある中、日本経済の更なる活性化を図り、競争力を高めていくためには、有能な人材を国内外問わず確保することが重要である。「『日本再興戦略』改訂2014」では外国人材の一層の活用が掲げられており、今後、日本に滞在する有能な外国人がますます増えていくことが期待される。

在留外国人数の推移と日本の総人口に占める割合の推移
在留外国人数の推移と日本の総人口に占める割合の推移

外務省は、こうした一連の施策が外国人の人権を尊重したものとなるよう、関係省庁と協力している。また、外国人の受入れや社会統合に関する国際ワークショップを開催し、具体的課題や取組について、国民参加型の議論の活性化に努めている。2月に開催したワークショップ(外務省、国際移住機関(IOM)共催)では、「若手外国人とともに歩む―次世代に向けた挑戦―」をテーマに、教育問題、多様性の受け止め方や次世代の外国人の課題を中心に議論を行い、若手外国人との共生に向けて様々な課題に関する認識を共有した。

ワークショップ
ワークショップ

9月の防災週間には、東日本大震災の教訓を踏まえ、「在留外国人の災害時安否に関する在京外交団への説明会」を実施した。警察庁や法務省のほか、東京都や東京消防庁などの自治体関係機関などの参加を得て、各機関の役割・取組についての相互理解や関係者間のネットワーク形成の促進が図られた。

COLUMN
ビザ緩和と観光立国・国際親善

10年前に年間600万人だった訪日外国人は2013年に初めて1,000万人を突破し、2014年は一気に1,341万人に達しました。特に、東南アジアや中国から多くの人が日本を訪れました。これは、ビザ緩和が観光客誘致のための様々な努力と相乗効果を発揮した成果と言えます。中国からの観光客は以前からよく見かけましたが、特に2013年にビザを免除したタイ及びマレーシアからの観光客が大幅に伸び、日本中の観光地への訪問が増えています。最近は、東京や京都など定番の観光地だけではなく、雪に憧れる人が多い南国育ちの観光客が、北海道など各地のスキー場でスキーばかりではなく雪合戦やソリ遊びを楽しむ姿を目にします。

こうした東南アジアや中国へのビザ緩和の動きと連動し、各地のホテル業界では、茶道や華道だけでなく浴衣の着付け、寿司作りや和太鼓・忍者体験、カニ食べ放題など様々な日本文化体験を企画して、観光客を呼び込んでいます。また、山梨県ではインドネシアの国民的スターであるサッカー選手を地元Jリーグチームに獲得し、観戦ツアーを企画したり、富士山を見ながらのサイクリングイベントを実施するなどスポーツでの取組に力を入れています。このように政府だけでなく、地方自治体やホテル・レストラン業界、旅行業界など、官民で観光立国に取り組んでいます。訪日外国人が増えれば、国内での消費による経済効果だけでなく、日本の食や歴史などの文化や自然、日本製品、更には日本人や日本という国そのものにも親しみや好感を持ってもらえ、対日理解や人的交流・国同士の友好交流にもつながっていきます。

サイクリングイベント(4月14日、山梨市 写真提供:山梨県)
サイクリングイベント(4月14日、山梨市 写真提供:山梨県)

ビザ免除は、1955年にフランスを初めての対象国として始まりました。現在、タイ、マレーシア、インドネシアを加え67か国・地域に広がっています。最近の観光立国推進の著しい成果は、日本と東南アジアや中国との距離をぐっと縮めました。政府は、2020年に2,000万人の外国人訪日を目指しており、今後ともオールジャパンで取り組んでいきます。

Q.ビザ緩和・免除とは。

A.通常、外国人が日本に入国する際にはビザが必要ですが、現在、治安面などで問題が少ないと考えられる67の国・地域に対して、ビザを免除する措置をとっています。

また東南アジアや中国など、訪日外国人が多く見込まれる国を中心に、ビザ緩和を進めています。ビザ緩和とは、ビザ申請の際に必要な経済力などの発給要件の一部の緩和、必要書類の簡素化、有効期間中は何度でも入国できる数次ビザ、さらにはビザ免除を導入することです。

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