外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

各論

1 サブサハラ・アフリカ地域情勢

(1)東部アフリカ地域

ア スーダン・南スーダン

南北スーダン関係は、南スーダンの2011年7月の分離独立後も国境未画定地域の扱い、国境地域の治安維持や石油パイプライン使用料などをめぐって対立が続いていたが、国際社会の強い働きかけにより、2012年9月、両国はこれら争点のうち9分野に関する諸合意を締結した。2013年3月、両国は、これら合意を履行するために両国が実施すべき事項に合意した。その後、治安合意の実施に関する意見の対立から、6月、スーダン政府は、南スーダン産原油の石油パイプライン輸送を60日以内に停止するとの声明を発表したが、これまで実際の停止措置には踏み切っていない。両国は、依然としてアビエ地域の帰属問題などの懸案を抱えているものの、合意事項の実施に向けた建設的な動きを見せている。

自衛隊が参加する国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)が活動している南スーダンでは、独立後2年を経過し、国造りへの動きが進行する中、与党議長及び2015年大統領選挙における与党候補の座をめぐり党内対立が生まれた。2013年7月、キール大統領は政治的ライバルと目されるマシャール副大統領を含む全閣僚を解任する内閣改造を実施した。その後、マシャール前副大統領らはキール大統領の政権運営、与党運営に対する批判を強め、12月14日、同大統領の「独裁的傾向」を非難し、党規約を審議する会議を途中退席した。翌15日夜から16日早朝にかけて首都ジュバにおいて銃撃戦が発生、キール大統領はこれをマシャール前副大統領ほかによるクーデター未遂事案として非難した。これを契機として、政府側と前副大統領支持派との衝突が同国各地に広がり、両者の出身民族に基づく民族間抗争の色合いも強まった。そのため、南スーダンの複数の州で避難民が発生し、その数は2014年1月現在で約58万人に上るとされている。こうした中で、地域諸国の仲介により、1月末に両者間の敵対行為の停止等に関する合意が成立した。なお、日本は、2013年7月に南スーダンに日本国大使館を設置した。

イ ジブチ

ジブチは、ヨーロッパから地中海、スエズ運河、紅海を経由し、インド洋、アジアを結ぶ重要な海上交通路の要衝に位置している。また、ソマリア情勢を始めとする不安定な要素が多い「アフリカの角」地域にあって、安定したジブチは安全保障の拠点として重要である。日本は、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処として、2009年から自衛隊を派遣しており、2011年6月からは独自の活動拠点の運用を開始している。2013年8月に、現職の総理大臣として初めてジブチを訪問した安倍総理大臣は、同拠点を視察し隊員らを激励するとともに、ゲレ大統領との会談を通じてジブチとの二国間関係の強化を図った。

自衛隊の拠点を視察する安倍総理大臣(左から2番目)(8月27日、ジブチ)
自衛隊の拠点を視察する安倍総理大臣(左から2番目)(8月27日、ジブチ)
ウ ケニア

ケニアでは、2013年9月にナイロビのショッピング・モールでアル・シャバーブによるテロ事件が発生し、地域の平和と安定の課題が再認識された。一方で、同年3月には、前回暴動が発生した大統領選挙が平和裏に実施され、ケニヤッタ大統領が選出されたほか、12月12日には同国独立50周年記念式典が盛大に開催された。2007年の大統領選挙後に発生した暴動に関連して国際刑事裁判所(ICC)に訴追されているケニヤッタ大統領とルト副大統領の今後の対応が注目されている。

エ ソマリア

2012年に、21年ぶりに新政府が樹立されたソマリアに対しては、英国によるロンドン会合やEUによるブリュッセル会合などを契機に、国際社会の支援が活発化した。依然としてイスラム過激派組織のアル・シャバーブの抵抗は継続しているが、アフリカ連合ソマリア・ミッション(AMISOM)の活動などによる安定化に向けた取組が進められている。日本は、TICAD Vに際し、ソマリアに関する特別会合を開催し、同国の社会経済開発の重要性を表明した。このほか、8月にはUNICEFを通じたポリオ対策のための緊急無償資金協力を実施した。

オ エチオピア

エチオピアについては、2014年1月の安倍総理大臣の同国訪問に際し、日・エチオピア航空協定の附属書の改正に関する文書の署名が行われ、首都アディスアベバと成田との間の直行便運航が可能となった。また、安倍総理大臣はアフリカ連合(AU)本部においてアフリカ政策スピーチを行い、パートナーとしての日本の魅力を訴えるとともに、日本の対アフリカ外交の焦点を女性と若者のエンパワーメントに当てることを表明し、アフリカ側からも高い評価を得た。

アフリカ連合(AU)本部でアフリカ政策スピーチを行う安倍総理大臣(2014年1月14日、エチオピア・アディスアベバ 写真提供:内閣広報室)
アフリカ連合(AU)本部でアフリカ政策スピーチを行う安倍総理大臣(2014年1月14日、エチオピア・アディスアベバ 写真提供:内閣広報室)
カ マダガスカル

マダガスカルでは、2009年3月以降憲法手続にのっとらない形で発足した暫定政府による統治が続いていた。AU、南部開発アフリカ共同体(SADC)などによる調停活動の結果、2013年10月と12月に大統領選挙の計2回の投票が平和裏に行われ、ラジャオナリマンピアニナ新大統領が選出された。2014年1月の大統領就任式には、特派大使として石原外務大臣政務官が出席し、就任式後には新大統領の初めての外国要人の会談相手として、二国間会談を行った。なお、日本はこれまで同国の民主化促進のため、大統領選挙実施のための資金支援や選挙監視を行ってきた。

(2)南部アフリカ情勢

ア 南アフリカ

南アフリカでは、2013年3月に日本から松山外務副大臣が出席し、第12回日・南アフリカ・パートナーシップ・フォーラムがプレトリアで開催され、TICAD Vの成果を高めるための協力を確認した。また、6月には、ズマ大統領が訪日し、安倍総理大臣との間で貿易投資、インフラ整備などの経済分野で関係を強化することで意見の一致を見た。このほか、国連安保理改革、2015年開発目標などの多国間の課題において協力して取り組み、戦略的協力関係を深化させることの必要性を共有した。

イ モザンビーク

モザンビークは、近年、豊富な天然資源を背景に高い経済成長を遂げていることから、多くの日本企業が関心を示し、投資を行っている。両国は投資の促進と保護のための法的枠組みを定めるため、TICAD Vの機会に日・モザンビーク投資協定に署名を行った。また、2014年1月、経済ミッションと共に同国を訪問した安倍総理大臣は、ゲブーザ大統領と首脳会談を行った。その際、「対話の強化」、「経済交流の活性化」、「開発協力の加速化」を柱とした互恵的な幅広い関係を強化していくための日・モザンビーク「友情」(AMIZADE:アミザーデ)パートナーシップを構築することを内容とする共同声明を発表した。また、安倍総理大臣は、ナカラ回廊地域を中心とした総合的開発のための約700億円の支援などを柱とする「日モザンビーク相互成長支援パッケージ」を表明した。

ウ ボツワナ

ボツワナでは、2013年2月に地デジ日本方式の導入が閣議決定され、7月から運用を開始した。

(3)中部アフリカ情勢

ア コンゴ民主共和国

コンゴ民主共和国(以下「コンゴ(民)」という。)東部では、2012年4月以降、国軍を離反した「3月23日運動」(M23)と国軍との間で軍事衝突が続き、また、M23を支援しているとされたルワンダとの関係も緊張した。2013年2月、コンゴ(民)と近隣11か国は、国連、AU、大湖地域諸国会議、SADCの立会いの下、「コンゴ(民)及び地域のための平和・安全・協力枠組み」に署名し、同地域の安定に向けたコンゴ(民)政府、周辺国、国際社会のコミットメントを確認した。また、3月、国連安保理は、武装集団の無害化を目的として標的を特定した攻撃作戦を実行する国際介入旅団を国連コンゴ(民)安定化ミッション(MONUSCO)に含める決議を全会一致で採択し、軍事的劣勢となったM23は、11月に停戦を宣言した。コンゴ(民)政府は、12月に、これを受け入れ、恩赦・武装解除などを内容とする宣言を発出した。

イ 中央アフリカ

中央アフリカでは、主としてイスラム教徒で構成される反政府勢力連合セレカが、二度にわたる首都バンギへの侵攻の末、ボジゼ大統領を武力で放逐し、指導者ジョトディア氏が大統領就任、憲法無効化などを宣言した。その後、セレカによるキリスト教徒に対する人権侵害行為に対抗するため結成されたキリスト教自警団アンチバラカとの間で衝突が続き、宗教対立の様相も呈している。2014年1月時点で90万人以上の国内避難民が発生するなど、人道状況は悪化している。2014年1月、ジョトディア暫定大統領は辞任を発表し、首都バンギのサンバ・パンザ市長が暫定国民評議会にて暫定大統領に選任された。国連安保理は、2013年12月に同国の治安回復などに向けたアフリカ主導中央アフリカ国際支援ミッション(MISCA)を配備し、フランス軍にMISCA支援のためのあらゆる手段のマンデートを付与する決議を採択した。日本は、2014年2月、同国の治安・人道状況に対応するため、合計1,000万米ドルの人道支援やMISCA支援を準備していると発表した。

アフリカにおける紛争・政情不安定地域(2014年1月現在)
アフリカにおける紛争・政情不安定地域(2014年1月現在)

(4)西部アフリカ情勢

ア コートジボワール

2014年1月、安倍総理大臣が現職総理大臣として初めてコートジボワールを訪問した。その際、約3億人を擁する15か国が経済統合を進める西アフリカ地域に対し、平和と安定、経済成長、ビジネスに関する日本の関与を示すため、インフラ、産業・人材育成、投資促進などでのコートジボワールへの協力を本格化することを表明した。また、安倍総理大臣の訪問に合わせ、周辺10か国の首脳が同国に集まり、西アフリカに民間投資を呼び込み成長を促進するためのビジョンにつき議論が行われ、西アフリカ諸国と日本との関係が一層強化された。

ウワタラ・コートジボワール大統領と会談する安倍総理大臣(2014年1月10日、コートジボワール・アビジャン 写真提供:内閣広報室)
ウワタラ・コートジボワール大統領と会談する安倍総理大臣(2014年1月10日、コートジボワール・アビジャン 写真提供:内閣広報室)
イ マリ

暫定政府統治下にあったマリでは、2013年1月、周辺国から流入したイスラム過激派らが首都バマコに向けて南進を始めたことから、マリ暫定政府はフランスに軍の派遣を要請した。これを受けて展開したフランス軍は、マリ北部を掌握していたイスラム過激派の南進を阻止するとともに、北部の諸都市で同勢力の拠点を空爆するなど軍事支援を行った。アザワド地方解放戦線(MNLA)などのマリ北部勢力とマリ暫定政府との間での大統領選挙実施についての交渉も進展し、7月及び8月には大統領選挙が平和裏に実施され、ケイタ新大統領が選出された。9月末以降、再び、北部地方でテロ事案などが散見されたものの、11月及び12月には、国民議会選挙が実施され、同国では憲法秩序の回復や平和と安定の定着に向けたプロセスを着実に進めている。また、2012年12月の国連安保理決議により展開していたアフリカ主導国際マリ支援ミッション(AFISMA)は2013年7月以降、国連PKO(国連マリ多角的統合安定化ミッション(MINUSMA))として活動を継続している。日本は、9月には、1月以降一時退避していた日本大使館の現地業務を再開するなど、ケイタ新政権との関係強化に努めている。

マリ難民のキャンプを訪問する阿部外務大臣政務官(右)(8月10日、ブルキナファソ・ワガドゥグ難民キャンプ)
マリ難民のキャンプを訪問する阿部外務大臣政務官(右)(8月10日、ブルキナファソ・ワガドゥグ難民キャンプ)
ウ サヘル地域

マリを含むサハラ砂漠の南に位置する広範な地域はサヘル地域と呼ばれ(一般にモーリタニア、マリ、ニジェール、ブルキナファソ、チャド、ナイジェリア、セネガル、カメルーンが位置する地域を指す。)、北アフリカとサブサハラ・アフリカの結節点となっている。この地域では、干ばつなどの自然災害に加え、貧困などの不安定要素と相まった政情不安の問題、テロや麻薬・武器などの違法取引の脅威が深刻化しており、地域全体の無法地帯化の防止や人道危機への対処が地域・国際社会の課題となっている。日本は、国際社会と協調し、サヘル地域に対する人道・開発支援やガバナンス能力強化及びアフリカ自身の取組に対する支援を行ってきている。2013年6月に開催したTICAD Vではサヘル地域の平和と安定の問題を重点的に扱い、平和・安定と開発・成長は車の両輪であるとの考え方を示した。また、サヘル地域への具体的支援策として、安倍総理大臣から、5年間で1,000億円の開発支援、テロ対策・治安維持の担い手2,000人の育成及びサヘル地域との対話の枠組みの重層的な構築を表明した。2014年1月には、コートジボワールを訪問した安倍総理大臣が、上記支援策の一環として、サヘル地域に対する8,340万米ドルの支援の用意を表明した。

エ ギニア

ギニアでは、2013年9月に2008年の軍事クーデター以降初の国民議会選挙が実現した。選挙期間中には、野党支持者のデモ隊と警察の衝突などにより、約50人ともいわれる死者が出たものの、投票自体は平和裏に実施され、与党連合が最大議席(過半数未満)を占めることとなった。日本は、同選挙に当たり、約8,700万円相当の選挙関連資材を支援した。

(5)地域機関・準地域機関との協力

アフリカ54か国・地域が加盟するAUは、2013年にマリや中央アフリカに対する軍事ミッションを派遣するなど平和と安定の分野で積極的な役割を果たしている。日本は、これら軍事ミッションの文民活動に対する資金貢献を決定し、又は準備するなど、AUの活動を支援している。また、2013年9月にはアフリカの地域経済機関(RECs)議長国との間で、ニューヨークにおいて首脳級会合を開催し、農業などに関する議論を行った。

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