MDGsは、2015年までに国際社会が貧困削減、保健、教育などの開発分野において達成すべき共通の目標である。達成期限と具体的な数値目標を定めたMDGsは、開発分野の羅針盤とも言えるものである。MDGsを達成するためには幅広い関係者の連携が必要であるとの考えの下、日本は、国際社会における議論や取組を主導している。
また、2015年より先も国際社会が一丸となって開発問題に長期的に取り組んでいくことが重要である。そのため、日本は、2015年より先の国際開発目標(ポストMDGs)に関して、関心国・機関などで非公式に議論する「ポストMDGsコンタクト・グループ」を立ち上げ、2012年末までに5回の会合を開催するなど、主導的役割を果たしている。さらに、日本は、6月に国連事務総長が立ち上げた「ポスト2015年開発目標に関するハイレベルパネル」にもコンタクト・グループでの議論を共有している。9月の国連総会の機会には、関係国・機関や市民社会らと共に、ハイレベルパネルメンバーとの対話を目的としたサイドイベントを開催した。これにより、ハイレベルパネルの議論の土台を提供するとともに、ポストMDGsに対する国際社会の関心を一層高めることに寄与しており、日本のリーダーシップは多様な関係者から高く評価された(詳細については特集参照)。
人間の安全保障とは、人間一人一人を保護するとともに、自ら課題を解決できるよう能力強化を図り、個人が持つ豊かな可能性を実現できる社会づくりを進める考え方である。日本は、MDGs達成に向けた取組やポストMDGs策定に関する議論において、人間の安全保障を指導理念として重視している。また、人間の安全保障を外交の柱と位置付けて以来10年以上にわたって、国連などにおける議論、日本の主導により国連に設置された人間の安全保障基金の活用、草の根・人間の安全保障無償資金協力などの支援を通じ、同概念の普及と実践に努めてきた。さらに、9月の国連総会において、日本の主導により「人間の安全保障の共通理解」を含む国連総会決議がコンセンサス採択され、国際社会における人間の安全保障の議論も大きく前進した。
日本は保健分野において2011年からの5年間で50億米ドルの支援を表明するなど、同分野における貢献を外交戦略の柱の1つと位置付けて取り組んでいる。
国際社会全体での取組の結果、MDGs達成に向けた進展が見られるものの、依然として年間360万人が三大感染症により死亡しているほか(1)、296万人の新生児(2)と29万人の妊産婦(3)が予防・治療可能な原因で死亡しており、更なる取組の強化が急務である。国際保健政策2011-2015の下で、日本はEMBRACE(4)モデルに基づく母子保健支援、世界基金などを通じた三大感染症対策やポリオなどの国際的な公衆衛生緊急事態への支援を取組の柱として推進している。また、保健人材の育成を含む保健システム強化を通じて、全ての人が必要な時に負担可能な費用で必要な医療サービスを受けられる状態(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の実現に向けた支援が各国で進められている。
教育分野では、「新教育協力政策2011-2015」に基づき、MDGs及び「万人のための教育(EFA)」目標の達成を目指している。具体的には、包括的な学習環境改善を行う基礎教育支援モデル「スクール・フォー・オール」に基づいた支援を行い、少なくとも700万人(延べ2,500万人)の子供に質の高い教育環境を提供する取組を実施している。2012年9月には、国連事務総長は「Education First」を発表し、国際社会に教育分野での取組強化を訴えた。EFA及びMDGs達成期限である2015年を間近に控え、教育支援に関する国際社会の議論が活発になっている。日本も、教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)理事会やユネスコ主催のグローバルEFA会合など教育分野関連会合に積極的に参加している。
農業分野では、2009年のG8ラクイラ・サミット(於:イタリア)で表明した支援を着実に実施し、達成するとともに、世界の食料安全保障の更なる改善に向けた国際社会の取組をより一層効果的なものとしていくため、2012年のG8キャンプデービッド・サミット(於:米国)で表明された「食料安全保障及び栄養のためのニュー・アライアンス」などを通じて、民間投資の増大支援などを行っている。
水・衛生分野では、日本の経験、知見や技術をいかし、ソフトとハードの両面での包括的な支援を実施している。国連ミレニアム開発目標報告書2012で指摘されたとおり、飲料水供給に関する目標は2010年に達成されたが、依然として安全な飲料水へのアクセスがない人々は存在しており、引き続き取組が必要である。衛生分野については、2011年6月に「持続可能な衛生のための5年」の開始式典が国連本部で開催され、MDGs達成に向けての取組が更に促進されているところである。
世界では毎年2億人が被災(犠牲者の9割が開発途上国の市民)し、自然災害による経済的損失は年平均1,000億米ドルを超えている。防災への取組は持続可能な社会の実現にとって不可欠である。日本は7月に「世界防災閣僚会議in東北」を開催し、国際協力において防災を主要課題として位置付けること、災害に対して強靱な社会の構築や人間の安全保障の重要性、ポストMDGsに防災を位置付けることの必要性、実効的なポスト兵庫行動枠組策定の必要性などを盛り込んだ議長総括をまとめ、東日本大震災からの復興が進む被災地から世界へ力強いメッセージを発信した。また、12月には、国連総会において、第3回国連防災世界会議(5)の日本における開催が決定された。
MDGsは、開発途上国支援に関する国際社会全体の共通目標です。2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」等を基にまとめられました。MDGsでは極度の貧困と飢餓の撲滅など2015年までに達成すべき8つの目標を掲げており、各目標の下には具体的に成果を測定することのできる21のターゲットと60の指標が設定されています。
8つの目標 |
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅 |
目標2:初等教育の完全普及の達成 |
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上 |
目標4:乳幼児死亡率の削減 |
目標5:妊産婦の健康の改善 |
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病のまん延の防止 |
目標7:環境の持続可能性確保 |
目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進 |
MDGsは、単純明快で期限付きの数値目標の導入により、開発分野における進展を図るための国際社会共通の羅針盤として重要な役割を果たしています。1日1.25米ドル未満で生活する人口の割合の半減や安全な飲料水へのアクセスに関する目標の達成など、MDGsは既に一定の成果を上げています。しかし、2015年までに達成が困難と思われる分野も少なくなく、例えば、初等教育の完全普及、妊産婦の健康の改善、ジェンダー平等の推進と女性の地位向上等についても、多くの地域で2015年までの達成は困難と考えられています。
国際社会においては、MDGsの達成に向けた取組の強化に加え、2015年より先の国際開発目標の策定に向けた議論も本格化しています。
日本は、新しい枠組みが様々な課題に有効に対処できるものとなるよう、議論を主導してきています。2011年には、関心国・機関などで非公式に意見交換を行うことを目的とした「ポスト2015年開発目標コンタクト・グループ」を立ち上げ、2012年末までに5回の会合を開催しました。また、2012年7月には、潘基文(パンギムン)国連事務総長の諮問委員会である「ポスト2015年開発目標に関するハイレベルパネル」が立ち上げられましたが、このハイレベルパネルに対しても9月の国連総会の機会に開催したハイレベルパネルメンバーとの対話を目的としたサイドイベントの場を活用して、コンタクト・グループでの議論を共有しています。
日本は、以下のような主要課題を念頭に、2015年より先の開発目標を新しい時代にふさわしいものとすべくその策定に向けて議論を主導しています。
様々な課題の相互連関性に対処するため、人間一人一人に着目し、個人の保護と能力強化を進める「人間の安全保障」のアプローチを取り入れることが有効です。日本は、人間の安全保障の理念に立脚した2015年より先の開発目標の策定に向け、引き続き積極的に取り組んでいきます。
お医者さんや看護士さんに一度も診てもらったことがない人はどれだけいるでしょうか。世界では、3億5,000万人(注)の子供たちが一生に一度も診療を受けることができないそうです。
タケダは、一昨年で創業230年を迎えました。私たちは、次の100年、200年に向けても、グローバル企業として人々の健康と医療の未来に貢献していきたいと考えています。そこで、社会的責任を果たす企業として「グローバル社会から一体何を求められているのか」という視点から、私たちが取り組むべきことを考えました。現在、三大感染症といわれるエイズ・結核・マラリアにより、世界で年間数百万人の命が奪われており、2000年に国連がまとめたMDGsにも、「HIV/エイズ、マラリアその他の疾病の蔓(まん)延の防止」が世界共通の目標として掲げられています。
しかし、タケダはエイズ・結核・マラリアの薬を持っていません。また、タケダとしての取組を考え始めた当時は、アフリカでビジネスを行っていなかったため、この分野で患者さんや保健医療に貢献することができずにいました。「薬がない、マーケットがないことが取り組まない理由になるのだろうか」などの議論が社内で巻き起こりました。その結果、2010年から、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」と協働し、世界基金を通じて三大感染症の問題に取り組む保健医療人材をサポートするプログラムを開始することになりました。
世界基金は、日本政府が感染症対策を世界が取り組むべき課題として位置付けたことが発端となって政府や国際機関だけでなく市民社会が一体となって、2002年に設立され、その支援によってこれまでに870万人の命が救われています。その実績と透明性の高さは、各国政府や国際機関からも高い評価を受けています。タケダは、保健医療人材の育成には時間がかかるという点を踏まえて、年間1億円の寄付を10年間継続することを決定しました。そして、三大感染症の問題に専門的に取り組む世界基金を応援する動きを主導し、他社にも広げていきたいという思いからこのプログラムを「タケダ・イニシアティブ」と名付けました。
その後も、タケダは、外務省「ミレニアム開発目標官民連携ネットワーク」が主催した「国際保健分野における官民連携強化のためのラウンドテーブル」でモデレータを務め、国内外の企業、国際機関、省庁と意見交換を行ったり、2015年より先の開発目標の在り方について、民間企業の立場から意見を述べるなど、官民連携の推進に努めています。
「アフリカにおける保健医療人材の育成・強化を目指す
『世界エイズ・結核・マラリア対策基金』に対する寄付プログラム」
武田薬品工業株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 シニアマネジャー 金田晃一
近年、世界の多様な生物資源が医学・科学等の分野の発展に大きな恩恵をもたらすことが明らかになっている。その観点からも、生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用により人類が医学、科学等の分野で得られる恩恵が注目されており、2010年には、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が名古屋市において開催された。2012年10月には、第11回締約国会議(COP11)がハイデラバード(インド)で開催され、2015年までに開発途上国への資金の流れを倍増するとともに、被援助国に対しても開発計画における生物多様性の優先順位を上げるなどの努力を求めるとの暫定目標が採択されたほか、愛知目標や名古屋議定書といったCOP10の成果を着実に実施し、推進していくことが確認された。
また、2012年4月には生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)が設立された。日本は、こうした枠組みも活用し今後国内で蓄積された科学的知見を世界の生態系保全に活用していく。
1992年の「地球サミット」(国連環境開発会議)から20年となる2012年6月、地球サミットと同じ開催地であるリオデジャネイロ(ブラジル)で国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催され、多数の首脳・閣僚のほか、国際機関、企業、市民社会などから約3万人が参加した。日本からは、玄葉外務大臣及び長浜博行内閣官房副長官を始め、関係省庁及び政府顧問(市民社会の代表)から成る政府代表団130名が参加した。リオ+20では、グリーン経済への移行に向けた取組の推進、持続可能な開発を推進するための制度的枠組み、防災やまちづくりなどについて話し合われ、「我々の求める未来」と題する成果文書が採択された。日本は、積極的に議論に貢献したほか、環境未来都市の世界への普及、世界のグリーン経済移行への貢献、災害に強い強靱な社会づくりの3分野を柱とする「緑の未来」イニシアティブを表明した。
バーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約の3条約は、有害な化学物質や廃棄物を規制し、人の健康や環境への影響を未然に防止するという共通の目的を持っている。3条約の協働体制の構築と協力の更なる促進に向けて、2013年に3条約の第2回拡大合同締約国会議(COP)を開催することとなっている。
2010年から、水銀に関する条約の制定に向けた政府間交渉が開始され、2013年1月に条約の条文案が合意されるとともに、名称を「水銀に関する水銀条約」とすることが決定された。2013年10月に同条約の採択・署名のための外交会議が、熊本県で開催される予定である。
日本は、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」を締結し、これを着実に実施することによって、オゾン層保護に貢献するとともに、モントリオール議定書の下に設けられた多数国間基金を通じて開発途上国を支援している。
2012年11月、モントリオール議定書第24回締約国会合(MOP24)がジュネーブ(スイス)で開催され、オゾン層を破壊しないが温室効果の高い代替フロンであるハイドロフルオロカーボン(HFC)の扱いなどについて、検討を続けていくことになった。
森林は、接続可能な開発、気候変動の緩和と適応、生物多様性の保全を始めとする地球環規模の課題と密接に関連している。
日本は、違法伐採対策を始めとした持続可能な森林経営に向けた世界規模の取組を従来から重視しており、二国間ODAの実施や国際熱帯木材機関(ITTO)等の国際機関に対する拠出を通じて、開発途上国の関連する取組を積極的に支援するとともに、国連森林フォーラム(UNFF)などを通じ、持続可能な森林経営の更なる促進のための議論に積極的に貢献している。2012年11月には、「2006年の国際熱帯木材協定」の発効以降初めてのITTO理事会が横浜で開催された。
2012年、日本は、全ての国が参加する公平で実効性のある新たな国際枠組みを構築するとの最終目標に向け、気候変動分野における国際交渉の前進に貢献するとともに、世界の低炭素成長実現に積極的に取り組んだ。
11月26日から12月8日にかけてドーハ(カタール)で開催されたCOP18では、厳しい交渉の末、既存の2つの作業部会の作業を終了させることにより、京都議定書に代わる新たな国際枠組みの構築に向けた交渉に専念できる環境が整備された。これは、現在の温室効果ガス排出国第1位から第3位が中国、米国、インドとなっており、京都議定書で削減義務を負う国の割合が大きく低下している(世界全体の約15%)という現状に照らし、大きな意義がある。
また、日本は、2009年末に表明した2012年末までの約3年間の開発途上国への短期支援(官民合わせ150億米ドル)について、約174億米ドル(2012年10月末時点)の達成を発表した。これにより、先進国全体の短期資金(過去3年間の公的資金による300億米ドルの支援約束。実績額は336億ドル)のうち、約40%に当たる133億米ドルを日本が実施したことになり、国際約束の達成に主要な役割を果たした。先進国全体での短期資金に関する国際約束達成は、COP18の成果文書の中でも認知された。
日本は、国連の枠組みにおける取組に加え、昨年のCOP17で提唱した「世界低炭素成長ビジョン」に基づき、「東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」の開催や「二国間オフセット・クレジット制度」の推進などの二国間・地域レベルの気候変動対策に積極的に取り組んだ。
日本は、長浜博行環境大臣を代表団長としてCOP18の交渉に臨んだ。今回の交渉において、日本は、2020年以降の新たな法的枠組みに関する2015年までの合意に向けて、「交渉の基礎的なアレンジメントを整えた」との明確なメッセージを世界に示すこと、そのために、①将来枠組みに関して議論する場である「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」における2013年以降の交渉段取りについて各国が認識を共有すること、②既存の2つの特別作業部会(「条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会」及び「京都議定書の下での附属書Ⅰ国(6)の更なる約束に関する特別作業部会」)の作業を完了して両作業部会を終了させることの2点を目指して交渉に当たった。
最終的に、以下の5つの主要な成果を含む「ドーハ気候ゲートウェイ」と呼ばれる一連の合意に達した。
①新たな国際枠組みの構築などに向けた特別作業部会の作業に関する決定
②京都議定書改正とそれに伴う特別作業部会の終了
③条約の下での長期的協力に関する決定とそれに伴う特別作業部会の終了
④資金に関する一連の決定
⑤気候変動による損失と被害に関する決定
このうち新たな国際枠組みの構築に関しては、2014年末の第20回締約国会議(COP20)に向けて交渉テキストの要素について検討を進めることなど、2013年以降の作業計画などが決定され、これにより今後の交渉の段取りが明らかになった。また、京都議定書の改正については、第二約束期間の長さを8年とすることなどが盛り込まれた決定が採択されたほか、第二約束期間に参加しない日本などの国も同期間中にクリーン開発メカニズムのクレジットの原始取得が可能であることが確認された。こうした一連の成果によって、日本は、所期の目標を達成することができたと言える。
さらに、資金分野に関しては、2013年から2015年までの援助額を少なくとも以前の3年間の平均値以上にする努力を先進国に対して奨励するなどの決定がなされた。そのほか、脆弱国における気候変動による被害の軽減のための制度を設立することが決定された。
日本は、国際的に協力して地球温暖化対策に効果的に取り組むため、COP17に際して発表した「世界低炭素成長ビジョン」に基づき、様々な具体的取組を提案し、積極的に実施してきた。
特に、国際交渉を補完する枠組みとして次のような地域協力を推進した。まず、最大の温室効果ガス排出地域である東アジア地域において低炭素成長モデルの構築を推進すべく、各国の政府・国際機関関係者を集めた「東アジア低炭素成長パートナーシップ対話」を2012年4月に東京で開催した。この対話では、各国の低炭素成長戦略策定や実施と多様な当事者の知的ネットワークとしての「東アジア低炭素成長ナレッジ・プラットフォーム」の立ち上げなどへの協力が合意され、低炭素成長実現に向けた地域協力を進める重要な機会となった。2013年春に第2回対話を開催する予定である。また、アフリカ地域については、TICADの枠組みで低炭素成長・気候変動に強靱(じん)な開発に関する戦略の策定に向け作業を加速させている。さらに2012年7月には島嶼(しょ)国との間で気候変動政策対話を東京で開催し、気候変動政策に関する相互の理解を深めた。
また、日本は、優れた技術を活用しつつ開発途上国の気候変動対策を強化すべく、「二国間オフセット・クレジット制度」を推進している。これは、京都メカニズムを補完するものであり、低炭素技術の提供などによって相手国の温室効果ガス削減に貢献し、これにより達成された排出削減や吸収量のクレジットを日本の削減目標達成に活用する制度である。既に31か国で191件の実証事業を実施した。特に、モンゴルやバングラデシュとの間では、COP18の際の二国間会談で同制度の2013年からの開始について実質的な合意に至った。また、モンゴルとは、2013年1月に同制度に関する二国間文書への署名を行い、制度実現に向けて大きく前進した。
北極では、海氷面積の長期的減少傾向が1970年代後半から観測されており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書では、地球温暖化との関連が指摘されている。その一方で、北極海航路の開通、資源開発などの様々な可能性も広がりつつあり、北極に関わる国際的議論が活発化している。北極をめぐる最近の状況は、地球環境、各国の安全保障や経済権益に影響を与える可能性があることから、北極圏外に位置する日本も、海洋国家として、また、地球環境問題を重視する国として、北極に関する議論に適切な形で参画していく必要がある。
ACは、全ての北極圏国が参加する常設の政府間ハイレベル・フォーラムであり、国際的にも大きな関心が注がれている。日本は、正式にオブザーバー資格申請を行った2009年7月以来、各種会合への参加実績を積んでいる。2012年11月には、AC議長国スウェーデンが主導して北極評議会のオブザーバー及びアド・ホック・オブザーバー会合(副大臣級会合)が開催されたが、この会合において、吉良州司外務副大臣は、日本が、北極に関わる調査研究分野において実績を蓄積しており、オブザーバーとしてACの具体的な活動に貢献していく知見と意思を十分に有していることを強調し、日本のオブザーバー資格申請に対する理解を各国に求めた。オブザーバー資格承認の決定が行われる閣僚会合は、2013年の予定であり、引き続き各種会合への参加の積み重ねと加盟国への働きかけを行っていく。
2010年9月、北極に関する日本の外交政策を分野横断的に検討していくため、外務省内に「北極タスクフォース」を立ち上げ、活動を開始した。以降、同タスクフォースの下で、外部有識者を招いて研究会を開催するなど、適切な北極政策を推進するべく協議・調整を行うとともに、知見の蓄積に努めている。
南極は、領土主権・請求権が凍結された地域となっている。一方、南極で科学研究活動を行っている国の中には、南極の一部に領土主権・請求権を主張する国(クレイマント)と領土主権・請求権を主張しないと同時に他国の主張も否認する国(ノン・クレイマント)がある。日本は、1951年のサンフランシスコ平和条約において南極に対する領土の請求権を放棄しており、ノン・クレイマントの立場をとっている。
このような基本的立場の違いはあるものの、南極条約の下で、各国は、クレイマント/ノン・クレイマント双方の対立を表面化させず、南極の環境問題などの共通の関心事項について協調して対応するように努めている。
南極条約締約国の中でも、基地を設けるなど、積極的に科学的調査活動を実施している国(28か国)は、南極条約協議国と称され、定期的に情報を交換するとともに、国際協力の促進などについて協議を行っている。日本は、南極条約の原署名国及び協議国として、南極をめぐる議論に積極的に参加し、南極条約体制の維持・発展を通じて、国益の確保に努めている。
毎年開催される協議国会議では、南極の環境保護、南極観測、南極条約事務局の運営、南極観光などに関する議論を行っている。特に近年は、年間観光活動が南極の環境に与える影響や南極地域における適切な観光の管理について活発な議論が行われている。2012年の協議国会議では、南極に年間2万人の観光客が訪れる中で大きな懸念材料となっている非在来生物への対策についてガイドラインが採択された。
1 出典:国連エイズ合同計画(UNAIDS)(2011)「UNAIDS Data Tables 2011」(2011)、世界保健機関(WHO)「WHO REPORT 2011 Global Tuberculosis Control」(2011)、同「World Malaria Report 2011」。2010年の死亡者数。
2 出典:UNICEF、WHO World Bank and the UN(2012)「Levels and Trends in Child Mortality:Report 2012」。2011年の死亡者数。
3 出典:WHO, UNICEF, UNFPA and the World Bank(2012)「Trends in Maternal Mortality:1990 to 2010」。2010年の死亡者数。
4 EMBRACE:Ensure Mothers and Babies Regular Access to Careの略。
5 グローバルな防災戦略について議論する国連主催の会議。第1回(1994年、於:横浜)、第2回(2005年、於:神戸)ともに日本が主催。第2回国連防災世界会議では2005年から2015年までの10年間の国際的な防災の取組指針である「兵庫行動枠組」が策定され、第3回国連防災世界会議では、その後継枠組み(ポスト兵庫行動枠組)の策定が見込まれている。
6 国連気候変動枠組条約の附属書Ⅰにリストアップされている先進国・市場経済移行国。京都議定書では附属書Ⅰ国全体に対して、京都議定書第一約束期間中に少なくとも1990年比5%の温室効果ガス排出削減目標が定められている。
(注) セーブ・ザ・チルドレン(2011)“No Child Out of Reach”報告書