各論

1 政府開発援助(ODA)

(1)ODAの現状

日本を取り巻く情勢が変化する中、日本の最も重要な外交手段であるODAの有効性は更に増大している。ODAを戦略的・効果的に活用することで、①自由や民主主義といった普遍的価値を基礎とした自由で豊かで安定した国際社会の実現、②「人間の安全保障」の推進を通じた日本への信頼強化、③中小企業等の国際展開と日本経済の再生への貢献を目指す。

ア 自由で豊かで安定した国際社会を実現するためのODA

グローバリゼーションの急速な進展、情報技術の広範な普及などを背景に、世界各地において自由と民主主義を求める動きが進んでいる。こうした国際環境の大きな変化の中で、開発途上国における平和と安定の確保を目指し、自由や民主主義といった普遍的価値や戦略的利益を日本と共有する国に対し支援を拡充していくことは、自由で豊かで安定した国際社会の実現のために欠かせない。

例えば、ミャンマーでは、2011年3月のテイン・セイン政権成立以降、民主化・国民和解・経済改革が進んでいるが、こうした動きを受けて、日本政府は、これらの改革努力を後押しすることで、民主化が進展し、改革の成果をより広範な国民が実感できるようにするため、2012年4月にミャンマーに対する経済協力方針の見直しを始めとして、民主化の状況を踏まえつつ、幅広い支援を行っていくと表明している。

イ 日本への信頼を強化するODA:「人間の安全保障」の理念に沿った支援と多様なパートナーとの連携強化

日本は、人間一人一人に着目し、その保護と能力強化を図る「人間の安全保障」の理念に沿った支援を行っている。人間の安全保障の理念に基づいて多元的な支援を行うことで日本は開発途上国の貧困削減と包摂的成長に貢献しており、こうした取組は、諸外国の日本に対する信頼の強化につながっている。2012年には、保健分野、水分野に対する支援、農村の貧困削減に資する支援等を行ったほか、緊急援助として、シリア難民等に対する支援、パキスタンの洪水被害に対する支援、フィリピンの台風被害に対する支援等を行った。

地球規模の課題に対する日本の支援をより効果的に進めていくためには、政府のみで取り組むのではなく、日本の総力を結集することが重要であり、地方自治体、NGO、民間企業、大学といった援助の多様な担い手との連携強化が進んでいる。また、このように多様な人材が実際にODA事業に参画すれば、開発途上国や援助の実情をより深く知ることとなり、国民のODAに対する理解を広めることにもつながる。

地方自治体との関係では、インドネシアにおけるエネルギー分野の協力、カンボジア、ベトナムにおける水道分野の協力に取り組む北九州市や、セブ市(フィリピン)で環境に配慮した都市づくり分野の協力を進める横浜市など、海外展開を通じて地域活性化を目指す地方自治体に対し、ODAを活用した積極的な支援を行っている。

また、NGOとの関係では、NGOが海外で行う開発・人道支援事業に対し資金協力を行うNGO連携無償資金協力事業を50億円から55億円に拡大するなど、連携を更に強化した。

さらに、知の集合体であり、地域の知的ネットワークの中心である大学のODA事業への参画を拡大することを目的に、キックオフとして2012年7月、外務省・文部科学省主催で、シンポジウム「大学とODA」を開催し、先駆的な事例に取り組む大学などからの情報共有が行われた。

ウ 中小企業等の国際展開と日本経済の経済再生に貢献するODA

中小企業を含む日本企業や地方自治体等の技術や知見を活用し、その海外展開を促し、アジアを始めとする新興国・開発途上国の需要に対応していくことは、新興国・開発途上国の裾野産業育成を始めとする自律的発展のみならず、日本の経済成長に資するものである。外務省が策定した2012年度の「国際協力重点方針」においても、ODAを通じて日本の力強い経済成長を後押しするため、貿易・投資環境の整備や中小企業の海外展開支援を行うことを明記した。

投資環境の整備については、民間企業等が開発途上地域で実施する開発事業を出資・融資により支援する手段として、JICA海外投融資の本格再開1を2012年10月に決定した。また、借入国から要望がある場合に、通常の円建て債務を貸付完了後に米ドル債務に転換できる外貨返済型円借款の導入を2012年11月に決定するなど、開発途上国と企業の双方にとってODAがより利用しやすくなるようスキームの改善を図っているところである。

また、中小企業の海外展開支援については、優れた製品・技術を有しているにもかかわらず、人材や知識・経験の不足により海外展開に踏み切れない日本の中小企業を支援するため、外務省は2012年度からODAを活用して、開発途上国における中小企業の製品・技術等のニーズ調査、ODA案件化のための調査、ODAによる現地への製品・技術等の普及を支援する委託事業を開始しており、2013年度も2012年度事業から得られた経験等も踏まえつつ、同事業を継続する予定である。

さらに、中小企業が必要とするグローバルな人材の育成を支援するため、中小企業等の社員を、企業に籍を置いたまま青年海外協力隊やシニア海外ボランティアとして開発途上国に派遣する「民間連携ボランティア制度」を2012年から新たに創設し、中小企業の開発途上国における人脈形成を積極的に支援していく。

(2)日本のODA実績と主な地域への取組

ア 日本のODA実績

2011年の日本のODA実績は、支出純額ベースで対前年比1.7%減の約108.3億米ドルとなった。これは、経済協力開発機構/開発援助委員会(OECD/DAC)加盟国中では、米国、ドイツ、英国、フランスに次ぐ第5位の額である。また、支出総額ベースでは対前年比6.2%増の約199.9億米ドルとなり、米国に次いで第2位の額である。なお、支出純額ベースでの対国民総所得(GNI)比は0.18%となり、DAC加盟国23か国中第21位となっている。

イ 主な地域への取組

(ア)アジア

アジア地域は、政治、経済、文化など様々な面で日本と密接な関係にあり、日本の平和、安全及び繁栄にとって重要な地域である。2011年の日本の対アジア地域ODAは13.7億米ドルであり、ODA全体に占める割合は21%である。

日本は、ASEAN諸国に対し、公的資金と民間の活動を有機的に連携させた経済協力を進めてきた。2015年のASEAN統合に向けた域内における運輸網整備などの連結性強化や域内格差是正に向けた努力を行っている。また、2011年7月に日本が提唱した「ASEAN防災ネットワーク構築構想」の下での防災協力なども行っている。

ミャンマーでは、2011年3月の民政移管以降、民主化、国民和解や経済改革に向けた前向きな動きが見られる。このような改革努力を後押しするため、2012年4月に、東京で行われた日・ミャンマー首脳会談において、日本は、ミャンマー国民の生活向上支援(少数民族や貧困層支援、農業開発、地域開発を含む。)、経済や社会を支える人材の能力向上や制度の整備支援(民主化推進のための支援を含む。)、持続的経済成長のために必要なインフラや制度の整備支援といった3つの柱を中心に幅広い支援を行うことを表明した。同年10月には、日本の主催により、ミャンマーに関する東京会合が開催された。また、同年11月にプノンペン(カンボジア)で行われた日・ミャンマー首脳会談では、日本として概ね500億円規模の新規円借款による支援を検討していると表明した。

インドネシアでは、JICAの協力により策定が進められてきた首都圏開発マスタープランが両国の関係閣僚により承認され、同国の国家開発計画の一部として位置付けられることが確認された。今後、このマスタープランに基づき首都圏の開発が促進され、同地域の生活環境やビジネス投資環境の改善が進むことが期待される。

インドは、経済が発展する一方で、依然としてインフラの未整備や貧困問題などの課題を抱えている。2012年に国交樹立60周年を迎えたインドに進出する日本企業の増加を背景に、日・インド関係がますます結びつきを強める中、日本は、インフラ整備や貧困削減、産業人材育成など様々な分野でODAを通じた支援を行っている。

主要援助国のODA援助実績(支出純額ベース)
主要援助国のODA援助実績(支出純額ベース)

(イ)中東

中東・北アフリカ地域の平和と安定の確保は、世界の安定にとっても重要であり、日本は、エネルギー安全保障の観点も踏まえて同地域を積極的に支援している。

日本を始めとする国際社会は、アフガニスタンを再びテロの温床としないよう、同国の自立と安定に向けた国造りを支援することにコミットしており、2001年から2012年12月までの日本の支援実績は、治安維持能力の向上、元兵士の再統合、持続可能な開発のための支援を中心に約41.87億米ドルに達している。

2010年12月以降、チュニジアで始まったいわゆる「アラブの春」と呼ばれる変革の動きに対しては、2011年5月に開催されたG8ドーヴィル・サミットにおいて、日本は、①公正な政治・行政の運営、②人づくり、③雇用促進・産業育成を中心に、この地域の安定的な体制移行や国内諸改革に向けた各国の自助努力を支援していくことを表明した。それ以降、この地域の平和、雇用状況の改善を含む格差の是正や人材育成に貢献するため、これまでに総額1,000億円を超える円借款の実施を決定するとともに、専門家派遣や研修員受入れなどの技術協力を含む様々な支援を展開している。

日本は、中東和平支援にも引き続き積極的に取り組んでおり、日本独自の中・長期的取組である「平和と繁栄の回廊」構想への支援を含め、1993年から2012年末までの期間で総額約13億米ドル以上の対パレスチナ支援を実施してきている。

イラク復興支援に関しては、日本は、2012年5月までに、約16.7億米ドルの無償資金協力の実施を完了させるとともに、約41.1億米ドルの円借款の実施を決定し、2003年に表明した総額50億米ドルの支援公約を達成した。今後は、日・イラク関係を新たなビジネス・パートナーシップに引き上げるとの方針を踏まえつつ、日本からの支援を戦後復興の段階から自立発展への橋渡しと位置付けて取り組んでいく。

(ウ)アフリカ

アフリカの中で、特にサハラ砂漠より南の地域は、依然として深刻な貧困問題に直面している。一方、この地域は、豊富な天然資源や観光資源に恵まれており、貿易・投資や観光の促進を通じた経済成長の大きな可能性を有している上、将来的な市場としても注目されつつある。実際に、経済成長率も2001年から2010年までの平均で5.8%を記録している。

日本は、アフリカの自助努力(オーナーシップ)と国際社会による協力(パートナーシップ)を基本原則とするTICADの開催を通じて、アフリカ自身による開発課題への取組に積極的に協力してきている。2008年5月には、横浜においてTICAD Ⅳを開催し、2012年までのアフリカ向けODAの倍増、アフリカ向け民間投資の倍増支援などを表明した。2012年5月には、マラケシュ(モロッコ)においてTICAD Ⅳの支援策の履行状況を確認する第4回閣僚級会合が開催され、日本が東日本大震災からの復興に取り組みつつも、TICAD Ⅳの公約を誠実に実施していることが、参加国・機関から評価された。また、TICADプロセス20周年を記念する会合となるTICAD Ⅴが2013年の6月に横浜で開催されることが発表された。TICAD Ⅴではアフリカの貧困削減と脆弱性の低減に焦点を当てつつも、成長の質の向上に重点を置くこととなっている。2013年3月には、アフリカ諸国の閣僚がアディスアベバ(エチオピア)に集まり、6月のTICAD Vに向けた議論が行われる予定である。

TICAD Ⅴに向けては、官民連携も進め、オールジャパンとしての取組も強化していく。特に、民間投資がアフリカの経済発展を促進する考えから、安全対策も含め民間企業のアフリカ・ビジネスを支援し、さらには、そうした取組を通じてアフリカの成長を日本の成長につなげていくことを目指している。また、人間の安全保障の推進やテロとの闘いも含めアフリカ自身の平和と安定に向けた努力を後押ししていく。

南スーダンに関しては、20年にわたる南北スーダン間の内戦、和平合意に基づく住民投票の実施、2011年7月の独立を経て、国造りの重要な時期を迎えている。日本もUNMISSへ自衛隊施設部隊を派遣するとともに、ODAにより、除隊した兵士の社会復帰を支援するなど平和の定着に関する取組を進めている。また、道路、橋梁、河川港といった運輸インフラ整備や給水施設などのインフラ整備などに関する支援を実施し、推進していく。

また、ソマリア沖・アデン湾において発生している海賊問題に対しては、IMOを通じたODAを活用して、ジブチにソマリア及び周辺国の海上保安能力向上のための訓練センターの建設を進めているほか、ソマリア周辺国の海上保安機関職員を日本に招へいし、海上犯罪取締りに関する研修を実施している。さらに、ジブチに対して沿岸警備隊能力向上のための支援実施を決定しており、同地域における海上安全の強化に向けた貢献を行っている。

アーサー・ガーナ副大統領と会談する阿部外務大臣政務官(左)(2013年2月17日、ガーナ)
アーサー・ガーナ副大統領と会談する阿部外務大臣政務官(左)(2013年2月17日、ガーナ)

(3)ODA改革の取組

ODAの実施に当たっては、国民の幅広い理解と支持が不可欠である。そのためには、案件の計画、実施、案件終了後の評価、その後のフォローアップの各段階で透明性を高め、効率的で効果的な援助とすることが極めて重要である。こうした問題意識に基づき、ODAの一連の過程について、以下のような改革の取組を行っている。

ア 計画・実施段階における取組

計画段階の取組として、援助国ごとのニーズを踏まえて、重点分野を特定し、効果的で効率的な援助を行うため、国別援助方針を原則として全ての援助対象国について作成するとの方針の下で、2012年度は、49か国の国別援助方針策定作業を行っている。

また、従来無償資金協力のみを対象として開催してきた「無償資金協力実施適正会議」を発展的に改組した「開発協力適正会議」を2011年に新設し、同会議をこれまでに7回を行っている(2013年1月現在)。「開発協力適正会議」では、無償資金協力に加え、円借款も議論の対象とし、必要に応じて、技術協力についても制度的な観点から議論している。NGO、経済界、学界、言論界からの6名の外部有識者との意見交換を協力準備の調査前に行うことを通じ、透明性や効率性の向上を図っている。

さらに、開発途上国との政策協議に基づいて主要な開発目標をまず設定し、そこから具体的に実施すべきプロジェクトを導き出していく「プログラム・アプローチ」の強化を図るべく、一部のプログラムでこれに実験的に着手している。

イ 評価・フォローアップ段階における取組

ODAの質を高めるためには、ODAの評価から得られた知見を次の政策立案や事業実施にいかしていく必要がある。外務省は、外部有識者による評価報告の共有や活用の強化を図るとともに事業の透明性を高める観点から、2011年4月にJICAのホームページ上に、JICAが実施する有償資金協力、無償資金協力や技術協力について「ODA見える化サイト」を立ち上げ、ODA案件の現状や成果などを体系的に公表している。2012年12月末時点で、合計1,280件の案件が掲載されている。さらに、外務省ホームページ上においては、外務省が直接実施している案件を含め、改善すべき点などがある案件やかつて改善すべき点があったが現在は効果が現れている案件のリストを公表している。これにより、説明責任の向上を図るとともに、過去の案件によって得られた知見を新たな案件の形成にいかすべく努めている。れた。

1 JICAが行う有償資金協力で、日本の民間企業が開発途上国で実施する開発事業に対し、必要な資金を出資・融資するもの。民間企業の開発途上国での事業は、雇用の創出や経済の活性化につながるが、様々なリスクがあり高い収益が望めないことも多いため、民間の金融機関から十分な資金が得られないことがある。海外投融資は、そのような事業に出資・融資することにより開発途上国の開発を支援するもの。支援対象分野は①MDGs・貧困削減、②インフラ・成長加速化、③気候変動対策。円借款は開発途上国政府に対して行う経済協力であるのに対して、海外投融資は、日本の民間企業が開発途上国の政府以外の民間企業と行う活動に対し支援を行うことを通じて開発に貢献するもの。

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