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第3節 経済外交

総論

国際金融市場の不安定化や、人口減少、少子・高齢化、財政赤字など、日本の内外の経済環境が厳しさを増す中で、経済外交を積極的に推進していくことがますます重要となっている。また、東日本大震災後は、震災からの復旧・復興が政府の最優先の課題となり、経済外交の推進に際しても、復興に関連する課題に優先的に取り組んでいくことが求められている。

復興に向けた経済外交の基本的な考え方は、2011年7月の「東日本大震災からの復興の基本方針」に盛り込まれた「世界に開かれた復興」である。東日本大震災に際して寄せられた世界中からの連帯と支援は、日本と世界との密接なつながりを改めて示した。こうしたことを踏まえ、復興に当たっては、国際社会との絆を強化し、諸外国の様々な活力を取り込みながら、被災地域の復興を進め、それを先駆例として日本経済全体の再生も図ることを目指している。

震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、諸外国・地域において日本産品の輸入禁止や証明書の添付要求など日本からの輸入に対する規制措置がとられた。これに対しては、積極的な情報発信や働きかけの結果、規制対象地域や品目の縮小などの一定の成果も出ているが、依然として多くの国・地域で日本産品についての規制措置が続いている。外務省としては、関係省庁・機関と密接に協力・連携しつつ、各国の政府や国際機関、さらには各国産業界や報道関係者等に対し、日本における最新の状況や日本産品の安全性等について正確・迅速な情報提供を引き続き行うとともに、規制の更なる緩和・撤廃に向けて粘り強く働きかけていくこととしている。

震災は、日本にとってのエネルギー・資源確保の重要性も改めて認識させることとなった。日本は、エネルギー、鉱物資源、食料などの資源の多くを輸入に頼っているが、近年新興国において需要が増加し、特に2011年は中東・北アフリカ情勢が流動化したり、震災の影響が続く中で、資源の安定供給確保が一層重要な外交課題となっている。こうした観点から、日本は、資源産出国との多層的な協力関係の強化、供給源の多角化の推進に取り組むとともに、国際エネルギー機関(IEA)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国連食糧農業機関(FAO)等を通じて国際的な連携・協力を推進している。また、食料については、独自のイニシアティブとして、「責任ある農業投資」(RAI)の行動原則の策定に取り組んでいる。

日本だけでなく、世界全体にとっても貴重な食料である水産資源については、環境保護の観点を踏まえつつ、これまでの漁業分野における経験と技術をいかし、責任ある漁業国として、各地域漁業管理機関1などにおいて水産資源の持続可能な利用の確保のために積極的な役割を果たしている。具体的には、科学的根拠に基づく国際的な漁業資源の保存及び管理のため、適切な漁獲管理や違法漁業の廃絶等の有効な保存管理措置を策定するとともに、それらの措置の遵守が徹底されるよう、関係国と協調しつつ精力的に貢献している。

マクロ経済面では、2011年5月のギリシャ債務危機の再燃を契機とする欧州債務危機の拡大等を背景として、世界経済の回復は鈍化してきている。5月のG8ドーヴィル・サミット(於:フランス)では、欧州の債務問題等のリスクについて、G20等の場を活用していくことが議論された。夏以降、欧州債務危機が更に深刻化する中、11月に開催されたG20カンヌ・サミット(於:フランス)では、危機の克服に向けた欧州首脳の政治的意志を歓迎するとともに、世界経済が「強固で持続可能かつ均衡ある成長」を遂げるため、「カンヌ・アクションプラン」を策定した。また、保護主義の抑止については、G20カンヌ・サミットにおいて、新たな輸出規制を含む保護主義的措置の是正等のコミットメントが再確認されたほか、APEC閣僚・首脳会議において、保護主義的措置を新たに導入しない「現状維持」の約束を2015年末まで再延長することが合意された。

こうした国際経済情勢の中で、日本にとって、力強く成長するアジア太平洋地域を始め、世界の活力をとり込みながら成長を実現していくことが重要となっている。そうした取組の一つとして、経済連携の推進については、2010年11月に閣議決定された「包括的経済連携に関する基本方針」の中で、これまでの姿勢から大きく踏み込み、世界の主要貿易国との間で、世界の潮流から見て遜色のない高いレベルでの経済連携を進め、同時に、そのために必要となる競争力の強化などの抜本的な国内改革を先行的に推進することが定められた。

各国とのEPAについては、2011年5月に日・ペルーEPAの署名が行われ、同年8月には日・インドEPAが発効した。また、東日本大震災後も、日豪EPA交渉を推進し、日韓EPA、日EU・EPA、日中韓FTAなどの交渉の早期再開・立ち上げに向けて取り組むなど、より幅広い国々と高いレベルの経済連携を戦略的かつ多角的に進めている。

広域経済連携については、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に向けた道筋の中で唯一交渉が開始されている環太平洋パートナーシップ(TPP)協定について、上記「基本方針」に基づき、情報収集及び国内での検討・議論が進められてきたところであるが、2011年11月、野田総理大臣は記者会見で、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ると述べ、同月ホノルルで開催されたAPEC首脳会議の際その旨を関係国に伝えた。また、東アジア自由貿易圏(EAFTA)構想、東アジア包括的経済連携(CEPEA)構想については、同月にインドネシア・バリ島で開催されたASEAN関連首脳会議において、野田総理大臣から、TPPだけではなく、ASEAN+3(日中韓)、ASEAN+6(日中韓、オーストラリア、ニュージーランド、インド)を基礎とした経済連携の枠組み作りにも、日本が先頭に立って貢献することを主張し、多くの国から賛同を得た。

貿易・投資の自由化推進に際しては、国際貿易に法的安定性と予見可能性をもたらす世界貿易機関(WTO)体制の整備・強化が引き続き重要な課題である。2011年12月の第8回WTO閣僚会議においては、当面、ドーハ・ラウンド交渉が一括妥結に至る見込みは小さく、部分合意等の「新たなアプローチ」を探求することで一致した。その具体化に向け、日本としても積極的に取り組んでいく考えである。

海外の成長を日本の成長につなげるためには、海外市場の開拓を引き続き進めていくことも不可欠である。特に、アジアを中心とした世界のインフラ需要は膨大であり、高速鉄道、水、環境技術など日本の優れたインフラ技術を提供し、各国の発展を支えるとともに、共に成長するという「ウィン・ウィン」の関係を構築することが重要である。このような観点から、民間企業のインフラ海外展開を積極的に後押しするため、外務省では、重点国の大使館、総領事館に「インフラプロジェクト専門官」を指名するなど、日本企業支援体制の整備・強化を進めている。

また、日本企業の海外での活動を支援し、またその経済活動の環境整備のための法的枠組みである投資協定、租税条約、社会保障協定についても、その締結を積極的に推進していく。日本の提唱に端を発する模倣品・海賊版対策のための新しい国際的な法的枠組みである偽造品の取引の防止に関する協定(ACTA)については、2011年10月に日本を含む8か国が東京にて署名を行ったところであり、今後は協定の早期発効やアジア諸国等の参加促進のための働きかけを行っていく。

1 広範囲に回遊するかつお・まぐろ類等について、ある一定の広がりを持つ水域の中で、漁業管理をするための条約に基づいて設置される国際機関。日本が加盟する地域漁業管理機関としては、例えば大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)等がある。

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