2011年の東日本大震災は、日本の将来に向けた課題をより鮮明につきつける一方、日本と日本人に対する世界の高い評価と期待を改めて日本人に認識させた。日本が復興し、平和に繁栄していくためには、自信と誇りを持ち、構想力を発揮して、積極的な外交を展開することが必要である。
輸送技術やインターネットに代表される情報通信技術といった、交流を支える技術の進歩と、その利用にかかる費用の低下は、グローバル化を促し、経済成長を加速するなどの恩恵をもたらす一方で、国境を越えた問題を生む要因となり得、その管理が大きな課題になっている。情報通信技術の発達によって、大量の情報を処理・交換できるようになった結果、個人や小規模な団体でも、技術をテロ等の犯罪の計画に利用したり、技術そのものを破壊するサイバー攻撃を行い、大きな被害を生むことも可能になった。
グローバル化には、経済面では、欧州の経済危機に見られるように、一国の危機が他国へ与える影響も、より広範囲かつ直接的になるというマイナス面もある。流通や投資の活発化には、開発途上国・先進国双方における国内の所得格差の拡大、資源不足、環境破壊といった問題も生んでいる。
主権国家が国際社会の主要な主体であり、国家間の対立や協調が国際社会の安定を左右する最大の要因であることには今も変わりない。しかし、力は国家から国家以外の主体へと拡散し、それらは国際社会での意思決定に重要な役割を果たしつつある。国家のみならず、多様な主体の動きもきめ細かく把握し、それらが果たす多様な役割を調整し活用することが外交に求められている。
現在の国際社会は、米国が相対的な優位を保っているが、非国家主体の能力の向上や、新興国の台頭を始めとする国際的な力関係の変動によって、従来の国際社会の意思決定方式は有効性を失いつつある。このような現実を踏まえ、目的に応じた選択的な協力関係を形成する、新たな多国間協調が活発化する傾向にある。
経済成長の軌道に乗った新興国は、経済力を背景に、国際政治でも存在感を増しており、国際秩序の維持・形成に大きな影響を与えるようになっている。一方で、新興国それぞれの政治体制や経済構造は多様で、国際問題の個々の争点に対する立場や重視する利益も異なり、ひとくくりにすることはできない。新興国がそれぞれ異なる利益を追求する中で、新興国からも参加と貢献を得た新たな世界秩序をどのように構築するかを戦略的に考える必要がある。
このような世界的な変動の中で、アジア太平洋地域が目覚ましい経済成長を遂げ、今や世界の成長センターとなっている一方で、アジア地域には、依然として国際社会の平和と繁栄に直結する問題も存在している。そのため、同地域は、国際安全保障における新たな世界の重心として認識されるようになってきている。
厳しさを増している安全保障環境の中で、日本の安全と繁栄を確保するためには、様々な外交努力によって良好な安全保障環境を作ることが必要である。そのために、日本自身の努力に加えて、日本の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず世界の安定と繁栄のための公共財でもある日米同盟を、更に深化・発展させていくことで、日本の防衛のみならず、地域の安全保障の更なる向上に貢献していく。同時に、強固な日米同盟を基盤として、近隣諸国と協力関係を強化し、様々な懸案の解決にも取り組む。
日本がアジア太平洋地域において、民主主義的な価値に支えられた豊かで安定した秩序を構築するための外交を推進していくには、地域に「開放的で多層的なネットワーク」を構築することが重要である。ネットワークの構築は、地域の様々な問題を多国間の協力・協調を通じて解決し、予見可能性を高め、安定的な活動を可能にする環境を作ることで流通を活発化させることを目指すものである。そして、ネットワークの構築には、中国の参画が不可欠である。そのためにも、地域の主要国である日米中の対話の実現が重要になっている。
国際社会が伝統的な国家間の関係から生じる問題に加え、国際環境の変動が生む様々な問題に直面する中、日本が一層の国際貢献を果たすためには、アジア太平洋地域にとどまることなく、様々な政策手段を用いて、地域及び世界の問題の解決に積極的に挑んでいく必要がある。
平和維持・平和構築は、国家間の紛争の再発防止や、脆(ぜい)弱な統治機構を抱える国家の能力向上につながる取組である。日本は、国連平和維持活動(PKO)に自衛隊の部隊を派遣するなど、積極的な役割を果たしてきている。「防衛装備品等の海外移転に関する基準」の策定により、国際平和協力や国際テロ・海賊問題などへの対処に、より積極的かつ効果的に取り組む途(みち)を開いた。世界共通の利益である海洋における航行の自由、とりわけ海上航行の安全確保のため、日本は、ソマリア沖海賊対策などに貢献している。日本は、軍縮・不拡散分野、また、核テロ対策等の観点から重要性を増している核セキュリティについても、積極的な役割を果たしている。宇宙、サイバーといった新たな空間においても、日本の外交・安全保障上、ますます重要な課題が生じてきており、日本独自の取組とともに国際協力を推進していく。
国際協力政府開発援助(ODA)は、現在の国際社会が直面する様々な問題を解決するための有効な手段であり、効果的に活用していくことが重要である。日本が実績を積んできた様々な分野における協力は、開発途上国の国づくりを支援し、その国の長期的な安定を可能にする取組である。また、日本は、環境問題や気候変動など、国境を超える課題にも積極的に取り組んでいる。さらに、2012年度外務省ODA当初予算案は、過去14年間で半減したODA予算の反転の端緒を開くことができた。こうした取組の根底にある考え方が、「人間の安全保障」である。人間の安全保障は、国づくりや開発にあらゆる主体が参加し、その成果を享受するという発想に立っている。
経済面での相互依存が深まる中、日本は、アジア太平洋を始めとする海外の成長を日本の成長につなげるためにも、中小企業を含む日本企業の海外事業展開支援を強化し、世界の主要貿易パートナーとの高いレベルの経済連携、インフラの海外展開などを推進していく。
世界で展開する新たな事態に対応するためには、経済的・軍事的影響力(いわゆるハード・パワー)のみならず、文化の魅力や技術の水準の高さによる影響力(いわゆるソフト・パワー)もうまくいかす必要がある。日本が外交政策を推進するに当たっては、日本に対する信頼や、「日本的な価値」をいかすこと、また、幅広い交流を増やすことで、日本と海外の相互理解を更に深めることが重要である。
震災での経験とそこから得られた教訓を世界と共有することは、日本が果たすべき責務である。日本は、特に、原子力安全や防災分野において、構想力を示していくべきである。未曽有の大災害から1年以上がたったが、危機の時代にこそ発揮される日本の潜在力と日本人の強靱(じん)さをもって、日本の再生とグローバルな諸課題の解決に向けて、これまでにも増して国際社会で主導的な役割を果たしていくことが重要である。
今日、多くの新興国が位置し、世界の成長のけん引役となっているアジア・太平洋地域は、世界における存在感を更に増大させている。この地域の力強い成長を促し、膨大なインフラ需要や巨大な中間層の購買力を取り込んでいくことは、日本に豊かさと活力をもたらすことにもなる。一方で、この地域では、地域諸国による軍事力の近代化、海洋活動の活発化と南シナ海を始めとする海洋をめぐる問題など、安定を脅かす様々な「リスク」も増大している。加えて、発展途上の金融市場、環境汚染、食糧・エネルギーの逼(ひっ)迫、高齢化等、この地域が抱える課題は、地域の安定した成長を阻む要因である。
このような状況を踏まえ、日本にとってアジア太平洋地域の成長の機会を最大化し、リスクを最小化するために、日米同盟を外交の基軸としながら、国際法にのっとったルールを基盤とする、「開放的で多層的なネットワーク」をアジア太平洋地域の国々と共に創っていく。
このようなネットワークには、中国の全面的な参加が不可欠である。中国との間では、二国間関係のみならず、地域・グローバルな課題等の幅広い分野における協力と交流を大いに進め、大局的観点から「戦略的互恵関係」を着実に深化させていく。
モンゴルとの間では、両国の伝統的な友好関係を背景に、互恵的・相互補完的な関係の深化に向けて、双方で緊密に協力していく。
韓国は、民主主義などの基本的価値を共有する日本にとって最も重要な隣国である。日韓間では往来が頻繁に行われており、未来志向で重層的な日韓関係の構築のために今後とも努力していく。
ウラン濃縮計画も明らかとなった北朝鮮の核開発に対し、重大な懸念が生じている。これに対し、日本は、非核化などに向けた具体的な行動をとるよう強く求めており、今後もこれを継続していく方針である。また、日本は引き続き拉致問題を含む諸懸案の包括的解決に向け、関係国と緊密に連携していく。
安全保障環境が厳しさを増す中、この地域における米国のプレゼンスはますます重要となっている。日本は、日米同盟を堅持し、更なる深化・発展に努めつつ、米国と連携して、引き続き、アジア・太平洋地域の安定と繁栄の確保に貢献していく。
日本は、地域協力の中心となる東南アジア諸国連合(ASEAN)全体との関係に加え、ASEAN各国との関係強化に努めている。その中でも、インドネシアとの間で地域・国際社会の諸問題に共に取り組む戦略的パートナーとしての関係を深化してきている。ミャンマーについては、日本としては、ミャンマー政府が民主化及び国民和解の更なる進展に向けて、今後一層前向きな措置をとることを働きかけるとともに、人的交流・経済協力・経済・文化交流における協力を強化していく方針である。
南アジア地域は、多くの国が高い経済成長を続け、国際場裏においてもますます重要な存在となっている。日本としては域内国との経済関係を更に強化し、国民和解や民主化の定着などの各国自身の取組への協力等を継続していく。
オーストラリアとニュージーランドは、アジア・大洋州地域において日本と基本的価値を共有する重要なパートナーである。
以上のようなアジア大洋州地域の国々との二国間の協力強化に加え、「開放的で多層的なネットワーク」を創るためには、様々な多国間協力や地域協力の枠組みを活用することも重要である。日本は、中国、韓国との間で日中韓協力を推進しており、東日本大震災を受けて、特に原子力安全・防災・再生可能エネルギー等の推進に関する協力強化など、幅広い分野で三国間の協力関係を強化していくことで一致した。日本は、統合の進むASEAN が地域協力の中心となることが、東アジア全体の安定と繁栄のために極めて重要であるとの考えの下、地域協力における日・ASEAN関係を重視している。
東日本大震災に際しては、地理的に近く、文化的・歴史的にも関係が深いアジア・大洋州地域から、連帯と励ましの言葉が寄せられ、救援物資や義援金が届けられた。これらの国々に恩返しをする意味でも、日本は地域の秩序とルールづくりに主体的な役割を果たし、地域の平和と安定・繁栄に貢献していくこととしている。
日米両国は、基本的価値及び戦略的利益を共有する同盟国である。日米同盟は、日本の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための公共財となっている。日米両国は緊密に連携しており、二国間のみならず、グローバルな課題について、責任と役割を分担しながら共に取り組んできている。
厳しさを増すアジア太平洋地域の安全保障環境や、欧州金融危機などを始めとする世界経済の現状など、変化の激しい国際情勢にあって、両国の同盟はその重要性をますます高めている。東日本大震災に際しても、「トモダチ作戦」を始め、日米同盟の意義が改めて確認された。これまで日米首脳・外相間で繰り返し一致してきているとおり、安全保障、経済、文化・人的交流を中心に同盟深化の方策について議論を深めてきた。また、米国がアジア太平洋地域におけるコミットメントを強化する姿勢を明確にする中、日米両国はアジア太平洋地域での豊かで安定した秩序作りに一貫して取り組んでいる。
日本とカナダは、基本的価値を共有するアジア太平洋地域におけるパートナー及びG8のメンバーとして、政治・経済・安全保障・文化など幅広い分野で密接に協力している。
中南米地域は、市場経済に基づく着実な経済成長を実現しており、世界経済における存在感を一層高めている。経済面での存在感に加えて、この地域で民主主義が浸透した結果、地域全体としての国際社会における発言力が増している。日本は、中南米諸国との関係を更に進展させるために、①経済関係の強化、②地域の安定的発展の支援、③国際場裏における協力推進を三つの柱として、同地域に対する外交を展開している。
経済関係の強化については、中南米諸国では経済成長による様々なインフラ需要が見込まれていることから、インフラの海外展開を積極的に進めているほか、同地域の資源や食料に富んだ国々との協力関係深化を通じ、日本への資源・食料の安定供給の確保に努めている。
中南米は33か国を擁しており、国際連合など、多数決による意思決定が行われる国際機関で大きな影響力を持つことから、日本は、環境・気候変動問題、核軍縮・不拡散、国連安保理改革等の国際社会が直面する課題に取り組むに当たって、中南米諸国との連携・協調を図っている。
日本にとって、欧州は、基本的価値を共有し、国際社会の平和と繁栄に向けて主導的な役割を共に果たすパートナーである。欧州との関係強化は、安全保障一般、世界経済・金融、環境、テロとの闘い、大量破壊兵器の不拡散等の地球規模の諸課題に、日本が効果的に対応していく上で極めて重要である。
欧州債務危機は経済・金融面のみならず、今後の欧州統合の行方や、政治・外交面にも影響を及ぼす可能性もある。日本としては、この問題が世界経済や欧州が果たし得る政治的役割に影響し得ることを踏まえ、可能な限りの協力をすることが必要である。
アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化しつつある中で、日露関係の発展は、日露両国の戦略的利益に合致するのみならず、地域の安定と繁栄にも貢献し得るものである。日露関係は北方領土問題をめぐるロシアの姿勢の硬化により決して良好とはいえない状況にあったが、2011年は、このような認識の下、東日本大震災に際して、ロシアから、物資の提供や救助隊の派遣等の支援があったことを含め、両国関係を前向きに発展させていこうという動きが見られた1年となった。
日露両国間の最大の懸案である北方領土問題をめぐっては、日露両国の立場の隔たりは依然として大きい。真の友好関係の構築のためには、領土問題を解決し平和条約を締結することがこれまで以上に必要となってきている。
中央アジア・コーカサス諸国は、エネルギー・鉱物資源を豊富に有することから、日本の資源・エネルギー供給の多様化の観点からも重要であり、同地域諸国との更なる関係強化を図る考えである。
中東・北アフリカ地域(以下、中東地域)は、地政学上の要地であるとともに、国際通商上の主要な海上ルートに位置し、かつ大量の石油及び天然ガスを世界に供給している。この地域では、2011年にいわゆる「アラブの春」と呼ばれる数十年に一度の大変革が発現した。加えて、中東地域は、イランの核問題、イラク及びアフガニスタンの安定と復興、中東和平、テロなど、様々な課題を抱えている。これらの課題の解決は、この地域の平和と安定にとってはもちろんのこと、国際社会全体にとって極めて重要である。
こうした情勢の下、日本は、国際社会と連携しつつ、中東地域の平和と安定のために、積極的な取組を行っている。また中東和平の実現や、イランの核問題等の平和的・外交的解決に向け、主要関係国と緊密に連携しつつ、政治レベルの対話や特使派遣も活用し、独自の関係に基づき働きかけを行っている。さらに、アフガニスタンやイラクの復興支援、パレスチナ国家建設支援など、地域の平和と安定に資する支援を行っている。
また、日本は、中東地域の経済発展を、経済・ビジネス関係の一層の発展に向けた好機と捉え、経済外交の推進に力を入れている。近年、伝統的な石油・ガス分野や経済分野での協力強化に加え、再生可能エネルギー・政治・科学技術・教育・文化・環境など幅広い分野における重層的な関係を構築し、相互理解を深めることに努めている。
近年アフリカは、先進国に比べ高い経済成長率を実現しており、また、多くの紛争が終結しつつある。アフリカで54番目の国として南スーダンが独立したことは、アフリカにおける平和と民主化の更なる進展を印象付けた。その一方で、依然としてソマリアなどにおいて紛争が継続しており、干ばつ貧困や感染症に苦しむ人も今なお多い。
こうした中、①アフリカが直面する諸課題の解決に真摯に取り組むことは国際社会の責任ある国としての当然の責務であるとともに、国際社会からの信頼獲得につながること、②豊富な天然資源や増加する人口を有しており、高い経済成長を続ける潜在的な大市場であるアフリカとの経済関係の強化が求められていること、③安保理改革や気候変動など地球規模の課題の取組を進めるに当たり、アフリカ各国の協力が不可欠であること等の理由から、日本外交にとってのアフリカの重要性は一層増している。2011年も、日本は、東日本大震災を契機に再確認されたアフリカとの連帯を大切にしつつ引き続き積極的な対アフリカ政策を推進した。
日本周辺地域における安全保障環境は、年々厳しさを増している。また、安全保障上の新たな脅威として、大量破壊兵器やミサイルの拡散、国際テロ、海賊問題、大規模災害、サイバー攻撃など、一国では対応することが極めて困難な地球規模の課題への対応も求められている。
このような安全保障上の諸課題に対処しつつ、日本がその領土を保全し、国民の生命・財産を保護するとともに、国際社会の安定と持続的な繁栄・発展を確保するためには、多面的な安全保障政策が求められている。第一に、日本自身の主体的な努力が重要である。また、2011年12月に「防衛装備品等の海外移転に関する基準」を策定した。今後は、この基準に基づき防衛装備品等の海外移転を行っていく。第二に、日本の外交・安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界の安定と繁栄のための公共財でもある日米同盟関係を、現在の国際情勢を踏まえた形で、更に深化・発展させることが重要である。第三に、多層的な安全保障協力関係を築いていく必要がある。米国の同盟国であり、基本的価値観や戦略的な利益を共有する韓国やオーストラリアとの二国間協力を促進するとともに、三か国協力の枠組みにおける連携を進めていくことが重要である。同時に、地域の大国である中国とロシアの協力関係を強化することが有意義である。これらに加えて、様々な多国間地域協力の枠組みを活用していく。
国際社会における諸課題の解決に積極的に取り組むことを通じて日本の安全と繁栄を達成するとの考え方に立ち、日本は世界の様々な問題の解決に積極的に対処してきている。まず、PKOなどへの貢献、ODAを活用した現場における取組、国連における取組及び人材育成など国際社会が協力して行う平和と安定の維持のための取組に積極的に参加してきている。
海洋国家であり貿易立国でもある日本にとって、海上の安全を確保することは、国家の存立・繁栄に直結する問題だけでなく、地域の経済発展を図る上でも極めて重要な課題である。日本は、海賊問題解決のための多層的な取組を行っている。
テロや国際組織犯罪は、市民社会の安全、「法の支配」、市場経済に大きな脅威を与えるものであり、日本にとっての脅威であると同時に、国際社会が協力して取り組む必要性が高まっている。
また、日本を取り巻く安全保障環境の改善を図るため、「核兵器のない世界」の実現に向け、国際社会の議論を主導すべく積極的に活動している。
国際社会は依然として国境を越えた多様な課題に直面しており、国連が果たす役割は以前にも増して重要になってきている。日本は安保理改革を始めとする国連改革の早期実現を目指すとともに、国連を始めとする国際機関における指導力を発揮し、財政的貢献に加え、一層の人的貢献を行っていく。
国際社会における「法の支配」の確立は、国家間の関係を安定させ、紛争の平和的解決を図り、各国内の「良い統治」を促進する上で重要である。日本は国際社会における「法の支配」の確立を外交政策の柱の一つとして位置付け、様々な取組を積極的に行っている。
また、日本は、世界の人権状況を改善するため、それぞれの国・地域の特殊性や様々な歴史的・文化的背景を踏まえた取組として対話と協力を重視している。
東日本大震災に際して世界が示した連帯に応えるためにも、日本に必要な平和で安定した世界をつくるためにも、日本はこれまでにも増して国際社会の平和と安定に積極的に貢献していく必要がある。日本は、2015年に期限が迫るミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた取組、MDGsの取組が遅れるアフリカ地域、国際社会の平和と安定にとって極めて重要なアフガニスタン及びパキスタンに対する支援を含め、これまでに表明した国際公約を着実に実施している。
ODAは、東日本大震災からの「開かれた復興」を進める際の重要な手段でもある。例えば、被災地産品をそれを必要としている開発途上国にODAを通じて供与し、被災地産業の振興や風評被害対策につなげている。国際協力を積極的かつ着実に実施していくためには、国民の幅広い理解と支持が不可欠である。また、近年では開発分野において新興国が急速に存在感を増しており、民間部門が開発途上国の経済成長に果たす役割が再認識されている。こうした国際社会の変化を踏まえ、多様な援助関係者と協調して効果的に援助を行っていく必要がある。
日本は、MDGs達成を人間の安全保障の実現に不可欠なものとして重視し、国際社会の取組を主導している。2015年以降も国際社会が一丸となって取り組むべき共通の目標を設定すべきとの考えから、MDGsが達成期限を迎える2015年以降の国際開発目標に関する議論についても、主導的役割を果たしている。
気候変動問題については、東日本大震災という厳しい国難にあっても日本の取り組む姿勢に変わりはないことを国際社会に表明し、世界の低炭素成長の実現に向け、積極的な取組を続けている。
近年、環境問題、航路開通、資源開発などに関わる国際的議論の高まりが見られる北極については、日本としても議論に適切に参画していく必要があるとの考えから、北極評議会へのオブザーバー資格申請を行うなど、北極をめぐる議論への関与を強めている。
南極については、日本は、南極における自由な研究や観測活動を推進するとともに、南極条約の下で1991年に採択された「環境保護に関する南極条約議定書」に従い、南極の環境保護に努め、南極条約体制の維持に貢献している。
世界最高水準の日本の科学技術・宇宙技術に対する国際社会の関心と期待は高く、日本は、多国間協力に積極的に取り組んでいる。また、宇宙分野では、宇宙ごみの急増を受けた宇宙環境の保全のための国際的な規範作りに積極的に参画している。
日本の内外の経済環境が厳しさを増す中で、経済外交を積極的に推進していくことがますます重要となっている。また、東日本大震災後は、震災からの復旧・復興が政府の最優先の課題となり、経済外交の推進に際しても、復興に関連する課題に優先的に取り組んでいくことが求められている。
復興に向けた経済外交の基本的な考え方は、2011年7月の「東日本大震災からの復興の基本方針」に盛り込まれた「世界に開かれた復興」である。震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により、諸外国・地域において日本産品の輸入禁止や証明書の添付要求など日本からの輸入に対する規制措置がとられた。外務省としては、各国の政府や国際機関、さらには各国産業界や報道関係者等に対し、規制の更なる緩和・撤廃に向けて粘り強く働きかけていくこととしている。
日本は、エネルギー・鉱物資源・食料などの資源の多くを輸入に頼っているが、近年新興国において需要が増加し、特に2011年は中東・北アフリカ情勢が流動化したり、震災の影響が続く中で、資源の安定供給確保が一層重要な外交課題となっている。日本は、資源産出国との多層的な協力関係の強化、供給源の多角化の推進に取り組んでいる。
こうした国際経済情勢の中で、日本にとって、力強く成長するアジア太平洋地域を始め、世界の活力を取り込みながら成長を実現していくことが重要となっている。各国との経済連携協定(EPA)については、より幅広い国々と高いレベルの経済連携を戦略的かつ多角的に進めている。また、広域経済連携については、2011年11月、野田佳彦総理大臣は記者会見で、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉参加に向けて関係国との協議に入ると述べ、同月ホノルルで開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議の際その旨を関係国に伝えた。
海外の成長を日本の成長につなげるためには、海外市場の開拓を引き続き進めていくことも不可欠である。このような観点から、民間企業のインフラ海外展開を積極的に後押しするため、外務省は、日本企業支援体制の整備・強化を進めている。
近年の情報技術の飛躍的な発達や民主主義の発展に伴い、世論が外交政策に与える影響力はますます高まっている。そのため、外交政策を効果的に実施するためには、各国政府のみならず、各国の国民への直接の情報発信や交流の促進を通じて、日本への関心や親近感を高め、良好な対日イメージの形成に努めることが不可欠である。このような観点から、外務省は、有識者層を対象とした外交政策等の発信、多様な日本文化の紹介、海外での日本語普及などを行い、日本の強みや地方の魅力を積極的に諸外国へ発信している。
国際世論への影響が強い人々に対日理解を深めてもらうために、日本に招へいすることに加え、日本の有識者による発信を強化するため、日本人有識者の各種国際会議への参加も支援している。さらに各国との間における外交上の節目となる年に、「周年事業」を展開している。開発途上国に対しては文化遺産の保存修繕や専門家の人材育成等、文化面での国際貢献に努めている。
日本と海外の間で人の往来を増やすことは、経済の活性化、異文化間の相互理解の促進などの効果を生み得る。このような考えから、外務省は、外国人の日本への入国・滞在を円滑化し、各種交流を活発化させること、また、様々な日本人や日本の団体が海外との交流に携わることを重視している。
一方、政府以外の主体の力もいかす、オールジャパンでの外交を展開する一環として、開発途上国などに対する支援活動の担い手としての重要性が近年ますます高まっている非政府組織(NGO)を国際協力における重要なパートナーと位置付け、連携強化に努めている。
また、国際協力機構(JICA)ボランティア事業である青年海外協力隊(JOCV)やシニア海外ボランティア(SV)の参加者もその国が抱える問題の解決へ一緒に汗を流して取り組んでおり、国際協力の重要な担い手である。さらに、より良いJICAボランティア事業の実現に向け、制度的見直しを含め、その実現に取り組んでいる。
また、幅広い分野で良好な国際関係を育てていく上で、地方・地域の役割は大きい。外務省は地方・地域を、外交を推進していく上での重要なパートナーであると位置付け、オールジャパンでの総合的外交力の強化を目指しており、地方自治体などとの様々な連携策を実施している。
国際社会の様々な分野や地域で多くの日本人が活躍している一方で、海外で日本人が遭遇する危険も増加・多様化している。海外における日本人の生命・身体を保護し、利益を増進することは、外務省の重要な任務の一つであり、外務省は、日本人が海外で安全にかつ安心して生活や活動ができるよう、様々な取組を行っている。
また、世界各国の日本国の在外公館において、旅券(パスポート)や各種証明などの発給、在外選挙の実施など、基本的な行政サービスを提供することに加え、日本人学校や補習授業校への支援、医療・保健関係情報の提供などを通じ、海外で活躍する日本人の生活基盤を支えている。
さらに、長年にわたり各国の発展に寄与し、日本との「架け橋」となって二国間関係の緊密化に大きく貢献してきた日本人移住者及び日系人の存在は、日本が開かれた国を目指す外交を進める上で重要な資産であり、両者への支援も併せて行ってきている。
また、国際経済環境が変化する中、アジアを始め、海外の成長を日本の成長につなげることが極めて重要になっている。外務省は、諸外国との間で規制改革やビジネス環境の改善に関する対話や協議を行い、相手国・地域に対して改善を求めている。
日本人や企業の海外での活動を支えるためには、諸外国との経済面での協力関係を規律する法的基盤の整備も重要である。外務省は、EPAの活用・運用改善に取り組むとともに、定期的に協定の運用状況について見直している。さらに、「知的財産立国」を目指す日本としては、日本企業の知的財産権保護の強化に取り組んでいる。
外交政策を円滑に遂行するに当たっては、国民の理解と支持が必要不可欠であり、政策の具体的内容や政府の役割等について、タイミング良く、分かりやすい説明を行うことが重要である。外務省は、広報・報道対策、文化・人物交流を含めた、機動的かつ効果的な広報文化外交戦略と発信態勢の体制に努めている。そのほか、「国民と対話する広報」も推進しており、国民との双方向コミュニケーションの向上にも努めている。また、外務省は、外交に対する国民の理解と信頼を一層促進するため外交記録文書の外交史料館への移管及び公開に積極的に取り組んでいる。
国民の理解と支持を得るとともに、国際社会において日本が国益を確保し、また、東日本大震災からの復旧・復興に取り組む中で様々な課題に的確に対応する上で重要なのは、その外交実施体制を更に強化し、外交に関わる様々な主体と十分連携し、オールジャパンで機動的な外交を進めることが重要である。外交活動に必要な予算・人員を十分に確保するとともに、限られた人的・物的・資金的資源を効果的かつ効率的に活用する必要がある。こうした観点から外務省は、戦略的に在外公館の体制整備を進めていくこととしている。