目次 > 外交青書2011(HTML)目次 > 第3章 分野別に見た外交 第2節 国際協力の推進と地球規模課題への取組

第2節 国際協力の推進と地球規模課題への取組

総論

2010年は、貧困や飢餓(きが)、感染症、環境問題などの地球規模課題について、国際社会が更に取組を加速させた年であった。特にミレニアム開発目標(MDGs)については、達成期限である2015年まで残すところ5年となったことを受け、首脳レベルを含め国際的に様々な取組が行われた。6月に開催されたG8ムスコカ・サミット(於:カナダ)では、MDGsの中でも特に達成に向け進捗の遅れている母子保健に関する支援強化案である「ムスコカ・イニシアティブ」が発表された。また、9月のMDGs国連首脳会合では、約140か国の首脳級の参加の下、MDGsの達成状況及び今後の道筋に関する議論が行われた。さらに、11月のG20ソウル・サミットでは、G20として開発が主要議題として初めて取上げられ、G20が経済成長を通じた開発途上国の開発に取り組むに当たっての原則や行動計画が発表された。

日本は、国際社会の平和と繁栄に貢献することが自国の安全と繁栄をもたらすものであり、政府開発援助(ODA)を始めとする国際協力はそのための重要な手段であるとの考えの下、国際社会におけるこうした様々な取組に対し、積極的な貢献を行ってきた。MDGs達成に向けては、人間の安全保障の考え方に基づき、特に保健・教育分野などを中心とした取組を進めている。G8ムスコカ・サミットでは、ムスコカ・イニシアティブの下、母子保健分野で2011年から5年間で最大500億円規模(約5億米ドル相当)の支援を追加的に実施することを表明した。さらに、MDGs国連首脳会合では、菅総理大臣から、保健・教育の両分野で、2011年からの5年間でそれぞれ50億米ドル(世界エイズ・結核・マラリア対策基金への当面最大8億米ドルの拠出誓約を含む)、35億米ドルの支援を行うことを「菅コミットメント」として発表した。また、10月には愛知県名古屋市において生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催され、日本は、議長国として会議の成功に大きく貢献するとともに、生物多様性保全のための開発途上国支援として、「いのちの共生イニシアティブ」を発表した。さらに、持続可能な経済成長、気候変動、感染症、エネルギー、水・食料などの課題に取り組む上で科学技術は大きな役割を果たすため、日本が有する世界トップレベルの科学技術、宇宙開発利用技術と外交政策を相互に連携させる「科学技術外交」・「宇宙外交」を推進している。

また、アフガニスタンやパキスタンの平和と安定も、依然として国際社会全体の平和と安定に関わる重要な課題である。日本は両国の平和と安定のための取組を重視し、国際社会と協調しつつ、2009年11月に発表した「テロの脅威に対処するための新戦略」に基づく支援を着実に実施している。

日本が国際社会の平和と発展に対し積極的な役割を果たすためには、国民の理解と支持が不可欠である。ODAに対する国民の理解と支持の下、ODAをより戦略的・効果的に実施していくために、外務省はODAの在り方に関する検討を行い、6月に「最終とりまとめ」を発表した。国際協力の理念を「開かれた国益の増進」として明確にし、開発協力の重点分野として、①貧困削減(MDGs達成への貢献)、②平和への投資、③持続的な経済成長の後押しの三本柱を掲げた他、戦略的・効果的な援助、多様な関係者との連携、国民の理解と支持の促進などの取組を打ち出した。

開発途上国の持続的な経済成長のためには、貿易や投資などの民間活動の活性化が重要である。さらに、資源・エネルギー・食料の確保やインフラ海外展開といった経済外交の推進に当たり、日本企業が開発途上国において活動するための環境整備なども求められている。このような観点から、民間企業の活動とODAなどの公的資金との連携(官民連携)をより強化していくことで、公的資金だけでは得られない規模の開発効果を引き出し、開発途上国の持続的成長と同時に、日本の経済外交の推進を目指している。

気候変動や生物多様性の損失を含む地球環境問題は、地球上の生命を脅かすものであり、我々人類の生存への深刻な脅威である。日本は、地球環境の保全は地球の未来に対する責任であると認識し、地球環境問題への取組を外交上の重要課題として位置付け、地球規模の議論を主導している。

気候変動問題において、日本は、全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組みを構築する、新しい一つの包括的な法的文書の早急な採択を目指し、国際交渉でリーダーシップを発揮してきた。10月には、前原外務大臣がアバル・パプアニューギニア外務貿易移民相と共同議長を務め、名古屋で「森林保全と気候変動に関する閣僚級会合」を主催し、気候変動の重要な柱の一つである開発途上国における森林保全(開発途上国の森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの削減(REDD+))の取組を加速化するための方向性を打ち出した。また、12月にカンクン(メキシコ)で開催された国連気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)では、日本は議長国メキシコを始めとする各国と緊密に連携し、米中を含む包括的な国際枠組みの構築につながる「カンクン合意」の採択に大きく貢献した。

さらに、日本は、温室効果ガスの排出削減に取り組む開発途上国や、気候変動の悪影響に対して脆弱な開発途上国に対し、2012年末までに官民合せて150億米ドル規模の援助の実施を表明しており、そのうち2010年9月末時点で、既に72億米ドル以上の支援を実施するなど、気候変動分野における開発途上国支援も積極的に行ってきている。

また、生物多様性の保全と持続可能な利用についても日本は積極的な取組を行っている。2010年10月には、愛知県名古屋市においてCOP10及びカルタヘナ議定書第5回締約国会議(COP-MOP5)が開催された。

「いのちの共生を、未来へ(Life in Harmony, into the Future)」を標語としたCOP10では、生物多様性条約を効果的に実施するための世界目標である「愛知目標」(戦略計画2011~2020)や、遺伝資源のアクセスと利益配分に関する「名古屋議定書」の採択など重要な成果を得ることができた。また、COP-MOP5では、6年越しの議論を経て、遺伝子組換え生物の移動に関連して生じた損害に関わる責任と救済に関する「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が採択されるなど、日本は議長国として、重要な成果を上げるべく議論を主導した。

近年の気候変動の影響の中、環境問題、航路開通、資源開発などに関わる国際的議論の高まりが見られる北極については、日本としてもこれに適切に参画していく必要があるとの考えから、2009年7月には、北極評議会へのオブザーバー資格申請を行うなど、北極を巡る議論への関与を強めている。2010年9月、外務省内に、北極に関する日本の外交政策を分野横断的に検討し、適切な北極政策を推進するための「北極タスクフォース」を立ち上げた。

一方、南極については、1959年に採択された「南極条約」が、その対象を南緯60度以南の地域と定め、①南極の平和利用、②科学的調査の自由と国際協力、③領土主権・請求権の凍結などを基本原則としている。日本は、これらの基本原則にのっとり、南極における自由な研究や観測活動を推進するとともに、南極条約の下で1991年に採択された「環境保護に関する南極条約議定書」に従い、南極の環境保護に努め、南極条約体制の維持に貢献している。

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