日本の安全保障と国際社会の平和と安定
女性・平和・安全保障に関する行動計画:仙台での意見交換会
平成26年7月23日
7月6日,仙台市(東北大学片平さくらホール)で開催された女性・平和・安全保障に関する行動計画についての意見交換会の概要は以下のとおりです(外務省・みやぎジョネット共催,東北大学法学研究科附属法政実務教育研究センター・国連安保理決議1325号国別行動計画市民連絡会協賛,司会進行:田中雅子上智大学総合グローバル学部准教授)。
1.出席者
関心を有するNGO,有識者の方々など約35名に参加いただきました。
2.議論の概要
- (1)女性・平和・安全保障(WPS)に関する安保理決議と「行動計画」の概要(PDF),現在検討作業を進めている行動計画案(第1稿)(PDF)及び市民社会から提出された行動計画案(第1稿)序文への修正案・コメント(PDF),「I.エンパワーメント・参画」に対するコメント(4月7日付け)(PDF),「II.予防」に関するコメント(PDF),「III.保護」に関するコメント(PDF),「IV.人道・復興支援」に関するコメント(PDF),「V.モニタリング・評価・見直し」に関するコメント(PDF)を配布し,冒頭,外務省総合外交政策局総務課 和田幸浩主任外交政策調整官から,安保理決議第1325号の概要,行動計画策定に関するこれまでの経緯,計画案(第1稿)及び市民社会からのコメントのポイントを説明しました。
- (2)続いて,パネリストのNPO法人参画プランニング・いわての田端八重子副理事長から「政策提言『生活復興』への提言」(PDF)について,みやぎジョネット南三陸町事務局の山内亜耶さんから「東日本大震災 南三陸町~気仙沼で被災した私たちからの7提案」(PDF)について,また,NPO法人ウィメンズスペースふくしまの小倉久美子副代表理事から「福島からの提言」(PDF)について,それぞれ概要説明がありました。特に強調されたポイントは以下のとおりです。
なお,当日参加できなかった人権NGO言論・表現の自由を守る会の垣内つね子事務局長からも個人通報についての提言(PDF)が提出されました。 - (ア)(田端副理事長)復興が以前よりも一見落ち着いてきたと思われるようになってきたところで様々な問題が生じてきている。暮らしの面では,目に見えるハード面だけでなく,目に見えないソフト面の支援が重要。住環境,仕事,地域再生,学びと場の提供においても,被災者一人一人の被害状況,環境,性別,年齢,障害等の違いに起因する多様性に着目することが重要。地域再生では,仮設住宅の統廃合,更に復興住宅への移転等,何度も地域づくりに取り組まねばならない状況。また,学びの場を提供し,経験をつないでいくことが重要。
- (イ)(山内さん)人道・復興支援分野の緊急支援期では,誰でも避難所に来て食料等の支給を受けることができるという「権利広報」が必要。特に初動段階では正確な情報伝達が重要。避難所運営には冷静な視点が不可欠であり,地元よりも外部の人材が避難所代表となった方がよい。被災者が精神的に最も前向きになる復興段階への移行期の取組がその後の活動にも影響を与える。被災者の自立心を失わせないよう,自衛隊などによる公的支援の撤退時期の見極めが重要。以前からジェンダーの視点で物事を見ていれば,当時もっとできたことがあったのではないか。
- (ウ)(小倉副代表理事)原発事故当時,直ちに健康に影響はないという政府の情報と直ちに避難すべきというインターネット情報が錯綜した。迅速かつ正確な情報伝達が被害の拡大防止に不可欠。親,特に母親の判断が子どもの将来に影響を与えかねないが,放射能という個人では判断できない問題を個々の女性に押しつけている現状がある。「絆」という言葉が女性の役割を固定化し,女性へのストレスにつながっている面もあり,女性のための電話相談は重要。意思決定に参画する女性の数,諸活動での女性リーダーの数を半分に引き上げるべき。震災の中に原発を含めるのではなく,人的災害として独立させるべき。
- (3)その後,出席者の方々から御意見・御質問が出され,外務省,パネリストの方々との間で,活発な意見交換が行われました。出席者の方々から出された意見・質問は,取りまとめ以下のとおりです。これらの御意見等に対して,外務省から,政府の基本的な立場や計画案の具体的な検討状況,今後の予定等について説明し,パネリストの方々から,震災・原発事故の経験を行動計画にどのように活かしていくか等について見解が示されました。
- (ア)安保理決議1325が2000年に採択されて以降,これまで日本が行動計画を策定してこなかったことにつき,外務省はまず反省すべき。
- (イ)震災復興の時期になって行動計画の策定が開始されたことは相関関係があるのか。
- (ウ)実施・モニタリング・評価では,市民社会・専門家から成る委員会を立ち上げ,評価と共に,政府の実施状況をしっかり監視すべき。行政は,うまくいっていないことを明らかにしない傾向にある。同委員会の特に専門家の人選について,推薦に基づく場合には男性が多くなる可能性があるので,公募枠を設けるなど工夫が必要。
- (エ)行動計画では,戦争放棄や基本的人権,知る権利といった基本原則に触れるべき。
- (オ)命の尊重,命とは何かをどう伝えるかが重要。
- (カ)避難所での指示のあり方を含め,災害対策においては行政が権力者の責任を自覚すべき。
- (キ)放射能の問題については,正しい情報が重要。
- (ク)女性の意思の尊重の度合いが,復興状況にも現れている。
- (ケ)行動計画の具体的な施策については,財政措置との関係を考えるべき。
- (コ)震災復興政策と外務省が実施する安全保障政策とはきちんと切り分けるべき。
- (サ)紛争下の性暴力防止に向けた取組は評価するが,慰安婦問題について,事実を検証して明らかにすべきであり,また,この問題に関する教育をしっかりすべき。
- (シ)最近の集団的自衛権をめぐる動き等は行動計画が実現しようとしていることとかけ離れているのではないか。
- (ス)女性だけでなく,障害者,子ども,高齢者,レズビアンやゲイといった性的マイノリティ等など,多様なニーズを持った人への配慮も必要。
- (セ)災害後,女性は自分の食事を後回しにしてまで家族のために働く傾向があり,疲弊している。女性たちが支援を受けやすいような配慮が必要。たとえば被災後に同一サイズの紙おむつだけが配布されるなど,きめ細かさに欠けていた。防災計画はジェンダー視点が入ったものにすべき。女性の参画が進んでいる地域では,意思決定にも女性が関与している。
- (ソ)女性のリーダーシップの実現がなぜ進んでいないのか,それを妨げる問題についてよく考え,問題を除去すべき。
- (タ)行動計画の策定に当たっては,現場の実情に詳しい女性リーダーの方々の意見も聞くべき。
- (チ)2015年3月に仙台市で開催が予定されている国連防災世界会議の関連行事があれば,情報提供してほしい。
- (ツ)行動計画には地方自治体も関与させるべき。自治体の防災会議に女性の声が反映されていないことは問題。行政のやり方に問題があるが,その問題を総括して防災計画を作り直すべきであり,ジェンダーの視点を取り入れるべき。