ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)

平成26年8月8日

1 ハーグ条約実施法による子の返還申立事件の手続の概要

(画像)手続きの流れのイメージ図

子の返還決定手続とは

 子の返還決定手続とは,ハーグ条約(正式名「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」)締約国内に常居所を有していた16歳未満の子を,同国から日本に連れ出し,又は,日本に留め置くことによって,子が常居所を有していた国(以下「常居所地国」といいます。)法令に基づく,申立人の子に対する監護の権利を侵害する場合に,日本で子を監護している者(相手方)に対して,裁判所が,子を常居所地国に返還するよう命ずる手続です。

【返還事由】
(1)子が16歳に達していないこと
(2)子が日本国内に所在していること
(3)常居所地国の法令によれば,当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること
(4)当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に,常居所地国が条約締約国であったこと

 もっとも,裁判所は,上記の返還事由がいずれも認められる場合であっても,次の(1)から(6)までに掲げた返還拒否事由のいずれかがあると認めるときは,子の返還を命じてはならないこととされています(ただし,(1)から(3)まで又は(5)に掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは,裁判所は,子の返還を命ずることができます。)。

【返還拒否事由】
(1)連れ去り又は留置開始の時から1年以上経過した後に裁判所に申立てがされ,かつ,子が新たな環境に適応している場合
(2)申立人が連れ去り又は留置開始の時に現実に監護の権利を行使していなかった場合(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)
(3)申立人が連れ去り若しくは留置の開始の前にこれに同意し,又は事後に承諾した場合
(4)常居所地国に返還することによって,子の心身に害悪を及ぼすこと,その他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険がある場合
(5)子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において,子が常居所地国に返還されることを拒んでいる場合
(6)常居所地国に子を返還することが人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められない場合

 子の返還決定手続では,申立人,相手方双方が,早期に的確な主張,立証を行うことが重要である上,日本国や常居所地国の法律の知識も必要です。さらに,家庭裁判所に提出する全ての書類は日本語でなければなりません。そのため,裁判所への申立てを検討している方は,一度,法律の専門家である弁護士に相談をされることをおすすめします。弁護士に依頼をすると,依頼を受けた弁護士が代理人として,必要な書面の作成をはじめ,手続における主張・立証活動を行います。
 弁護士の紹介については,ハーグ条約事件対応弁護士の紹介別ウィンドウで開くを御覧いただくか,中央当局である外務省にお問い合わせください。

外務省領事局ハーグ条約室
〒100-8919 東京都千代田区霞が関2-2-1
電話:03-5501-8466
Email:hagueconventionjapan@mofa.go.jp

 なお,子の返還決定手続の間に相手方が子を日本国外に連れ出すことを避けるため,手続と併せて,相手方が子を日本国外に連れ出すことを禁止する出国禁止命令手続や,子名義の旅券(パスポート)を外務大臣に提出するよう命ずる旅券提出命令手続の申立てを行うこともできます。
 裁判所が返還決定を発令するかを判断するためには,申立人,相手方双方に互いの主張を記した書面(この書面を,申立書,答弁書,主張書面などといいます。)や裏付けとなる証拠資料を提出していただき,裁判所が,双方の言い分を直接お聴きする必要があります。また,必要に応じて,家庭裁判所調査官(注)が,申立人や相手方,あるいは,子にお会いして事情を伺うこともあります。

(注)“家庭裁判所調査官”は日本の裁判所職員であり,裁判官の命令によって事実の調査を行い,裁判官に報告書を提出します。家庭裁判所調査官は,心理学,社会学,教育学及びソーシャルワーク等の行動科学の専門家であり,家庭裁判所における科学的な役割を担っています。

早期の紛争解決を図るためには当事者双方の迅速かつ的確な主張立証が必要です

 子の返還決定手続は,先に述べたとおり,上の(1)から(6)に掲げた返還拒否事由がないときには,子を常居所地国に返還するよう命ずる手続であり,ハーグ条約上も,手続を迅速に進めなければならないとされております。法律上も,申立てがされてから6週間が経過したときは,申立人又は外務大臣は事件が係属している裁判所に対して,審理の進捗状況について説明を求めることができることとされており,早期の紛争解決を図るためには,申立人,相手方双方による,迅速かつ的確な主張立証が必要です。子の返還決定手続では,先に述べたとおり日本国や常居所地国の法律の知識も必要となってきますから,必要に応じて,法律の専門家である弁護士に相談をされ,手続を依頼されることが望ましいでしょう。

子の返還決定手続は監護権や親権を決める手続ではありません

 子の返還決定手続は,あくまでも,子を常居所地国に返還することを目的とする手続であり,子の監護権,親権を誰が持つのかということまでを裁判所が決定する手続ではありません。そのため,日本の裁判所が返還決定を発令した場合は,ひとまず,子を常居所地国に返還し,その後に同国における手続の中で子の監護権,親権を誰が持つのかに関する判断が行われることになります。また,仮に,既に日本の家庭裁判所に親権者の指定若しくは変更又は子の監護に関する処分についての審判(注)事件が係属していたり,日本の家庭裁判所における離婚訴訟の中でこれらの事項も審理されているという場合,返還決定の申立てを却下する裁判が確定しなければ,その家庭裁判所はこれらの事項について裁判をすることができません。

(注)“審判”とは,家事事件における裁判官の最終的な決定のことであり,“審判手続”とは,審判に関する手続一般を表す用語です。

子の返還決定手続の中では当事者双方の話合いによる解決を図ることも可能です

 子を常居所地国に帰国させるかどうかは,子の福祉のためにも,本来は当事者相互の話合いによって合意の上で決めることが望ましく,手続の中で和解を行ったり,当事者双方の同意が得られる場合には事件を調停手続に付して(付調停)話合いを行ったりすることが可能です。調停手続の詳細については,「子の返還申立事件における調停について」を御覧ください。

2 申立てをされる前に

(1)外務省(外務大臣)に対する子の返還のための援助申請について

 外務省(外務大臣)に対する外国返還援助申請を行い,外務省(外務大臣)において外国返還援助を行うことが決定された場合には,申請者と子を監護している方との間で,子の返還や面会交流のための協議のあっせん等が行われ,裁判所の手続によらずして当事者間での任意の解決が期待できることがあります。
 また,仮に,子の住所や子と同居されている方の氏名・住所が判明しない場合には,裁判所としてはそのまま手続を進めることができませんが,外務省(外務大臣)が外国返還援助決定を行った場合,外務省(外務大臣)が関係機関から情報を収集して,子の住所や子と同居している方の氏名や住所の特定を行います。したがって,手続を迅速に遂行するためにも,できるだけ早い段階で外国返還援助申請が行われていることが望ましいといえます。

(2)申立書及び添付資料の準備はできていますか?

 裁判所に提出する申立書の記載方法及び添付資料については,「提出書類について(子の返還申立てをされる方へ)」(注1)を御覧ください。申立書や添付資料に訂正や不備があると,手続が迅速に進まなくなる可能性があります。

(注1)この書式は,東京家庭裁判所のホームページ別ウィンドウで開くの“提出書類について(子の返還申立てをされる方へ)”でダウンロードできます。又は,大阪家庭裁判所のホームページ別ウィンドウで開くの“提出書類について(子の返還申立てをされる方へ)”でダウンロードできます。書式は各裁判所によって書式が異なることがあり,また,英語版はありませんので御注意ください。裁判所に提出する書面は日本語で記載する必要があります。

(3)申立てをされる日をあらかじめ御連絡されると手続がより迅速に進みます

 申立て後,裁判所は,できるだけ速やかに申立書類等を精査し,今後の進行に必要な事情を伺いながら,手続の期日の調整を行いますが,実際に申立てをされる日を事前に裁判所に御連絡されれば,申立当日に裁判所に行かれた際に進行に必要な事情等をお伺いでき,手続がより迅速に進みます。なお,弁護士に手続を依頼された場合には,併せてその旨を裁判所にお知らせください。この場合,申立人自身が裁判所に行く必要はありません。

(4)裁判所から送る書類の送付先を日本国内の場所にしてください

 申立ての際には,「連絡先等の届出書(□変更届出書)」(注2)の提出をいただくことになりますが(上記(注1)記載の「提出書類について(子の返還申立てをされる方へ)」も参照),この件に関して裁判所から送る決定書等の書類の送付先は,上記届出書に記載された送付場所となります。この書類の送付先が外国に指定されると,書類の送付に多くの時間を要することになって手続が円滑に進められなくなりますので,送付場所は日本国内にするようにしてください。なお,日本の弁護士を手続代理人として依頼される場合には,弁護士の事務所を送付場所とすることができます。

(注2)この書式は東京家庭裁判所のホームページ別ウィンドウで開くの“連絡先の届出書”でダウンロードできます。又は,大阪家庭裁判所のホームページ別ウィンドウで開くの“連絡先等の届出書”でダウンロードできます。書式は各裁判所によって書式が異なることがあり,また,英語版はありませんので御注意ください。裁判所に提出する書面は日本語で記載する必要があります。

(5)子の住所地により管轄する裁判所が決まります

 東京家庭裁判所に管轄があるのは,子の住所地が東京高等裁判所,名古屋高等裁判所,仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内にある場合です。
 大阪家庭裁判所に管轄があるのは,子の住所地が大阪高等裁判所,広島高等裁判所,福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内にある場合です。
 申立てをされた場合であっても,他の裁判所に管轄があることが判明したときは,その裁判所に移送されることがあります。

3 迅速な審理のための期日への出席のお願い

 子の返還決定手続では,法律上,迅速な審理を行うことが想定されております。指定された期日にはなるべく出席してください。期日を指定するに当たっては,裁判所は,当事者の御都合をお伺いしますが,御希望に添えないこともありますので御了承ください。
 なお,やむを得ない理由で当事者が欠席する場合であっても,次回の期日の調整等のために,依頼した弁護士とはあらかじめ連絡ができるようにしてください。

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