スペイン王国
第21回日本・スペイン・シンポジウム(結果概要)
11月25日から27日にかけて,スペインのバレンシア州カステジョン市において,「ソサエティ5.0:人間性を中心に据えたテクノロジー社会」をテーマに第21回日本・スペイン・シンポジウムが開催されました。概要及び意義・成果は以下のとおりです。
1 シンポジウムの概要
(1)開会式
開会式では,日本側から佐藤義雄住友生命保険相互会社会長(日本側座長),平松賢司駐スペイン大使,金杉憲治外務審議官が,スペイン側からジュゼップ・ピケ西日財団理事長(元外務大臣,スペイン側座長),フェルナンド・バレンスエラ外交長官,チモ・プッチ・バレンシア州知事,アンパロ・マルコ・カステジョン市長が,約250名の参加者の前で挨拶しました。
登壇者からは,20年以上の歴史ある本シンポジウムの開催に祝意を表すとともに,第4次産業革命を発展の契機とするために,日本・スペイン両国の官民双方でいかなる協力が出来るのかという点について,今回の議論に期待している旨の発言がありました。また,昨年のシンポジウム開催地の一つであった山口県宇部市とカステジョン市は,本年4月から姉妹都市となったこと等を踏まえ,我が国とスペイン両国の自治体間においても友好関係は一層深化している点にも言及がありました。
(2)セッション1「テクノロジーとグローバルなパワーバランス」
冒頭,モデレーターのアナ・フエンテ氏(ジャーナリスト,元アジア駐在員,エル・パイス紙コラムニスト)から,伝統的な地政学に変化が生じており,人工知能(AI)やデータ・エコノミーといった概念が,各国を取り巻く国際環境に影響を与える時代になっているとの発言がありました。
これを受けて,パネリストの伊藤元重東京大学名誉教授とジュゼップ・ピケ西日財団理事長(スペイン側座長)との間で,民主主義の根幹をなす自由な情報のやり取りを担保するとともに,個人のプライバシーを保護するため,日本とEUが協働してルール作りやインフラ構築に臨むべきであること,また,米中の貿易摩擦が新技術の発展・適用にもたらす影響を注視すべきであること等について議論がなされました。特に,国際関係をコントロールする上でデータが持つ重要性や,急速な技術発展に対してグローバルな視点でガバナンスを強化する必要性について言及がありました。この中で,本年のG20大阪サミットで日本が提起した「信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust)」の考え方も紹介されました。本セッションの最後に,両パネリストから,これまで世界を形作ってきた普遍的価値が21世紀においても意味を持ち続けること,市場経済と民主主義を両立させるべく,テクノロジーの発展から取り残されかねない人々を取り込むことのできる制度設計が求められているとの発言がありました。
(3)セッション2「倫理と人工知能:人間性を重視したテクノロジーに向けて」
AIやビッグ・データの公共財における活用の専門家であるヌリア・オリベル氏と,EVERIS社において欧州地域のデータ・インテリジェンス部門長を務め,NTTデータ社ではAI研究に従事するダビッド・ペレイラ氏との間で,AIのもたらす脅威をテーマに討論がなされました。技術の進歩が文明の発展に寄与するものであり続けるために,研究者として留意すべきことや政府間で必要とされる取組について,率直な意見が交わされ,両者ともに倫理面の議論を深めていく重要性を強調しました。
(4)セッション3「起業とイノベーションのエコシステムの促進」
このセッションでは,エステル・モリーナ氏(起業やテクノロジーを専門とするジャーナリスト)がモデレーターを務め,パネリストのマリア・ベンフメアSpain Start Up創設者兼CEO,倉原直美インフォステラ共同創設者兼CEO,ハビエル・メヒアスBANKINTERイノベーション財団ベンチャーダイレクター,加藤辰也JETROマドリード所長が,起業やイノベーションをもたらす公共政策に関して議論しました。
日本・スペイン両国ともにスタートアップ企業が増加傾向にあり,厳しい国際競争を生き抜く体力を持つ企業が徐々に増えている中,日本における「Jスタートアップ」や,スペインにおける「起業国家スペイン」といったプロジェクトの意義が紹介されました。その他,両国において注力すべき業種,女性の活躍,文化的障壁,国際化の進展度合いについて,各パネリストの経験を共有するとともに,両国における課題が議論されました。
(5)対話「都市外交:実用的なケース」
宇部興産がカステジョン市で事業を行っていることを契機に,山口県宇部市とカステジョン市との間での都市外交がスタートし,本年姉妹都市としての関係を結ぶに至りました。こうした背景を踏まえ,アンパロ・マルコ・カステジョン市長とブルーノ・デル・ビエブレ・スペイン宇部興産社長との間で,都市間の交流の重要性やその潜在性について意見交換がなされました。
(6)セッション4「イノベーションの中心地:スペインと日本に“シリコンバレー”を創設するには何が不足しているのか
本セッションでは,日本側から,山下晃正京都府副知事,鈴木順也福岡市総務企画局理事が,スペイン側からセシリオ・セルダン・マドリード市協力・グローバル市民局長,ロレンソ・ディ・ピエトロBarcelona Activa起業・企業・イノベーション担当エグゼクティブ・ダイレクターがパネリストとして登壇しました。
冒頭,モデレーターを務めたエステル・モリーナ氏から,イノベーションのメッカとしてのシリコンバレーを念頭に,スペインのマドリード,バルセロナ,マラガ,日本の福岡,京都,渋谷(東京都)といった都市・地域は,イノベーションの「中心地(ハブ)」となる素質を持っている旨の発言がありました。これを踏まえて,パネリスト間で,起業・イノベーションを促進する街づくりのあり方について,地方自治体・民間企業双方の視点から意見が交わされました。
登壇した各自治体関係者からは,それぞれで進めている取組みについて紹介があったほか,国内の他都市との競争の中で差別化要因として注力している点についても説明があり,AI,5Gを始めとする通信技術,ヘルスケア,ブロックチェーンといった第4次産業革命の産物と言える先進技術の発展・応用を図る企業を各都市に誘致するための施策が議論されました。特に,起業家同士ないし起業家と伝統的大企業のマッチングを後押しする場を作り,その上で,相互交流を促進する環境作りが必要とされている点について,パネリスト間で意見が一致しました。さらに,昨今両国における主要テーマの一つとなっている女性の社会進出と起業・イノベーションの関係,ベンチャー企業がその性質上有するリスクへの行政機関としての向き合い方等についても発言がありました。
(7)セッション5「ソサエティ5.0,長寿人口のためのデジタル社会」
本セッション5では,少子高齢化の進む日本・スペイン両国の現状を踏まえ,人口構造の変化,経済課題に対応するにあたってデジタル化が果たす役割について取り上げられました。
パネリストとして,佐藤義雄住友生命保険相互会社会長(本シンポジウム日本側座長),マヌエル・ゴンサレス・ベディア・サラゴサ大学教授(認識科学)が登壇し,日本は主要先進国の中でも最も早く少子高齢化問題への対処が求められることを踏まえ,幅広い世代で物理的な世界とサイバースペースを結びつける上で問題となる文化的,法的,社会的及び経済的障壁について,それぞれの立場から発言がありました。
また,日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックが,自動運転車,ロボット,AIを活用した自動翻訳等の先進技術を披露する機会になることを受けて,両パネリストからは,本シンポジウムで議論を深めてきた「ソサエティ5.0」の考え方が実践されることへの期待感が示されました。
(8)閉会式
佐藤義雄住友生命保険相互会社会長(日本側座長),ジュゼップ・ピケ西日財団理事長(元外務大臣,スペイン側座長)から,閉会の挨拶として,本シンポジウムにおける議論の高い質に賛辞が示されるとともに,時代の変化に応じた両国の協力関係を模索するべきである旨発言がありました。また,山下晃正京都府副知事から,次回の第22回日本・スペイン・シンポジウムは,京都にて開催されることが発表されました。
(9)その他
11月25日には,カステジョン市長主催の歓迎レセプションが催されました。また,27日には,建造物に使用するタイル等のセラミック製品を製造し,日本を含む世界各国に輸出・販売しているPORCELANOSA社の工場を視察したほか,スペイン最大手のスーパーマーケットMercadona社のCEOが出資し,企業人の養成,起業・イノベーションの振興・促進,スタートアップへの投資を担うMarina de Empresas(バレンシア市)を訪れました。後者においては,両国のベンチャー企業がそれぞれの事業についてピッチを披露し,日本からは榊原裕高氷感サプライ代表取締役が同社の紹介を行いました。スペインからは,スペイン国内にて日本製品の販売に特化している企業や,高品質の日本食レストランを目指す経営者等が登壇し,両国の相互に対する高い関心が実体のあるビジネスに結びついていることが確認されました。
2 意義と成果
- (1)登壇した両国政府・自治体,民間企業,学術・研究機関関係者のほか,バレンシア州及びカステジョン市の自治体関係者,現地企業,報道関係者等が数多く出席し,昨年の外交関係樹立150周年を経て,一層日本への理解や関心が高まっていることを示すものとなりました。
- (2)今回のシンポジウムは,先進技術の開発・導入によって加速しつつある第4次産業革命を経済・社会課題の解決にどうつなげるかという,両国の発展のために極めて重要かつタイムリーなテーマの下で行われました。議論を通じて,両国における成功事例が共有されるとともに,官民双方の視点に基づいた率直な意見交換を行うことができ,これを契機として今後の協力関係が様々なレベルで発展していくことが期待されます。