「中央アジア+日本」対話
中央アジア・シンポジウム(概要)
平成27年4月7日
3月27日,東京大学において,外務省,グローバル・フォーラム,東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム及び「The Japan Times」が共催する「中央アジア・シンポジウム」が開催されたところ,議論のポイントは以下のとおり。
基調講演
田中JICA理事長
- チャレンジは,資源依存,資金流入の低さ,連結性の低さ,輸送コスト,貧困。
- チャンスは,域外との協力の拡充傾向。
- 日本が触媒となって,「開かれた強靭な中央アジア」を実現することは意義深い。
- 域内・域外との協力構築,連結性強化の具体化,成長便益の公正配分が必要。
1-1 中央アジアの地政学的重要性
クーチンスCSISロシア・ユーラシア・プログラム長(米)
- 中央アジア諸国は独立と主権を強化するために多元性の確保に努力。
- 陸上交通の連結性強化によって「シルクロード」の復興を遂げる可能性に着目。
- 運輸については,ハードインフラだけでなく,ソフトインフラの整備が必要。特に官僚主義による遅延と汚職が問題。
トレーニン・カーネギー・モスクワセンター所長(露)
- 米のアフガン撤収,ロシア外交の東方シフト,中国外交の西方展開が同時進行。
- アフガン情勢と麻薬取引については更に注視していくことが必要。
- ウズベク,カザフの指導者交代時に「力の空白」が生じることを懸念。国内政治エリートの成熟と露中の協力が求められる。
結論
- 周辺国と連携しつつ,各国が自立的発展によって外の世界と連結することが重要。
- 日本の触媒としての役割は拡大。地域への関与を強めていく必要。
1-2 中央アジアの安定:アフガニスタン情勢との関連から
ホーリクナザル戦略研究センター所長(タジキスタン)
- アフガンからテロリストが中央アジアに浸透し,各国の体制転覆を図る可能性がある。
- タジク国内でもISIL支持者は増加。国境付近でタリバーンが活動。麻薬密輸及び不法移民は増加。
- タジクとアフガンの国境は長大。1か国で安全は確保できない。諸外国の支援が必要。
ナシロフ戦略・地域間研究所プロジェクト長(ウズベキスタン)
- ISAF撤収後の「空白」をテロリストや過激派が埋めて勢力を拡大していく怖れがある。
- 危機脱却のためには政治的解決しかない。当事者間のコンセンサス形成が必要。
- アフガンの社会・経済の安定を図るため周辺諸国の経済協力が必要。ウズベクは電力供給,光ファイバー網整備,鉄道敷設・管理などで独自に貢献。
質疑応答
- アフガン安定化のため,可能な限り米軍の残留が望ましい。(露,ウズベク)
- 山岳地帯での戦闘には米軍の関与が必要。(タジク)
- アフガンにおける中国の貢献は建設的であると評価。(米,露,タジク)
結論
- 国境管理については,「水際で防ぐ」「国境を開く」双方の視点が重要。
- アフガン安定のため,中央アジアを含めた周辺国との信頼醸成及び経済関係強化が重要。地域協力の重要性についてはロンドン会議でも確認。
- 日本も引き続きプレッジに基づき支援を行っていく。
2-1 中央アジアの運輸・物流
カシモフ外務省特任大使(トルクメニスタン)
- トルクメニスタンは国際的な輸送回廊の形成と国内幹線の整備に尽力。
- 2014年,カザフスタン・トルクメニスタン・イラン間の鉄道が開通。トルクメニスタンはウズベキスタン・トルクメニスタン・イラン・オマーン間の国際運輸回廊の構築も提案。
クンダクバエフ国際商工会議所会頭補佐(カザフスタン)
- 中央アジアの運輸システムでは鉄道が中心的役割を果たしている。
- ソ連の運輸システムはモスクワと各国を連結するためのもの。横のつながりは考慮の外だった。他方で,各国は独立後それぞれの考えで運輸政策を展開。
玉置ADB駐日代表
- ソフト面での支援が重要。能力構築(道路における安全性向上,鉄道運営システムの改革,ロジスティックス産業の育成,PPP導入などに関するトレーニング)の協力も一案。
- ADBは,クロスボーダーの合意形成,経済回廊の構築などについて協力できる。
- 鉄道部門の改革,鉄道の資産管理方法,気候変動に対応するレジリエントなインフラ整備などについて日本との協力に期待。
質疑応答
- 運輸網の整備によって域外との連結性も向上し,地域の競争力が高まる。(カザフ)
結論
- 中央アジア域内,及び域外との連結性強化が極めて重要。
- 中国の「シルクロード経済ベルト構想」とどのような連携が可能か要検討。
- 日本はハードインフラだけでなく物流などソフト面を含めて得意な分野で協力。
2-2 水とエネルギー
ノゴイバエヴァ「ポリス・アジア」分析センター代表(キルギス)
- 1920年代,ソ連の電化政策と各国の共同努力によって工業化が進展。
- 水は「節約を学ぶ必要がある」特殊な資源。「もったいない」は重要。
- 各国独自のルールや主張ではなく,国際的に通用するルールと話し合いによって,「水の和平」を達成すべき。
廣木国土交通省水管理・国土保全局水資源部水資源計画課長
- 交渉の土台となる水資源情報が提示されていない。観測強化と情報共有が必要。
- 農業用水利用の効率化,水文情報システムの近代化,貯水池運用管理能力の強化,域内発送電システムの整備等について,日本及び国際社会の協力が必要。
- 「自国」「他国」「環境」の3つのWinを考慮に入れた政策が中央アジアの繁栄に資する。
結論
- 水問題は機微であるが,日本としても,水処理や浄水の分野の先端技術提供によって独自の役割を果たせるのではないか。