世界貿易機関(WTO)
世界貿易機関(WTO)対日貿易政策検討会合(結果概要)
令和2年7月8日
1 概要
7月6日及び8日の2日間、WTOにおいて、我が国の貿易政策を審査する対日貿易政策検討(TPR:Trade Policy Review)会合が物理的会合(WTO本部)とオンライン出席の複合形式で開催されたところ、概要は以下のとおり。我が国からは、山﨑和之在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使、曽根健孝外務省経済局参事官(我が国代表団長)、関係省庁担当者が出席した。
当初本年3月に予定されていたが、新型コロナにより7月に延期、実施された。新型コロナ後に再開された各国に対するTPR会合の中で、日本に対する会合が最初の会合となった。
議事録は、会合終了後約6週間後にWTO事務局から公開される予定。
2 審査の流れ
- (1)書面質問
TPR会合に先立ち、我が国の貿易政策に関する日本政府及びWTO事務局作成の各報告書(概要はそれぞれ下記参考2、3を参照)が加盟国に共有され、各加盟国から報告書をもとに、合計約850問程度の書面質問が所定の期限までにWTO事務局経由で日本政府に提出された。これら書面質問のうち、事前の締切までに提出された647問に対しては、手続に従い、会合の1週間前までに回答した。 - (2)会合1日目(6日)
議長を務めるハラルド・アスペランド(Harald Aspelund)ジュネーブ国際機関アイスランド代表部大使による開会発言の後に、我が国代表団長の曽根参事官から冒頭、我が国の貿易政策の動向を説明した。続いて、代表討議者を務めるダグフィン・ソーリ(Dagfinn Sørli)ノルウェーWTO代表部常駐代表から、日本経済の現状及び今後の課題に関する説明があった。その後、約50の加盟国から質問やコメントがあった。 - (3)会合2日目(8日)
冒頭、曽根参事官から、1日目の加盟国からの質問やコメントに回答した。その後、代表討議者がこれまでの質疑応答を踏まえた論点を提示し、6加盟国が発言を行った後、議長が議論を総括した。
3 我が国冒頭説明のポイント
- (1)1日目の冒頭、我が国の貿易・経済政策に関し、以下の点を説明した。
- ア WTOが交渉の停滞や上級委員会の停止などの困難、更に新型コロナウイルスをめぐる危機に直面する中、我が国のWTO及び多角的貿易体制へのコミットメントは不変である。新型コロナウイルスを受けた輸出規制は一切採用していない。
- イ 我が国が議長を務めた昨年の大阪サミットでは、「自由で公正」、「透明で無差別」、「開かれた市場」といった、自由貿易の諸原則を再確認するとともに、デジタル経済のルール作りについて「大阪トラック」の立ち上げが宣言され、WTOにおける電子商取引交渉が加速する契機となるなど大きな成果をあげた。
- ウ 自由で公正な経済圏を広げていくため、TPP11、日EU・EPA及び、日米貿易協定の確実な実施に取り組むとともに、日英経済パートナーシップ、RCEPを始めとする経済連携協定の交渉にも積極的に取り組んでいる。
- エ 開発に関し、開発途上国の貿易・投資を通じた経済成長を支援する観点から、貿易のための援助(AfT)、TICAD等を通じて途上国の貿易投資環境の改善を支援していること。SDGsの実施に率先して取り組んでいる。
- オ アベノミクスの更なる推進に向け、少子高齢化を克服する一億総活躍社会や、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会である「Society 5.0」の実現にむけ、様々な政策を実施してきた。
- カ 東日本大震災から9年以上もの間輸入規制を維持してきた20の国・地域が、科学的根拠に基づき、早期に措置を撤廃することを強く要請する。
- キ WTO改革の重要性は高まっており、新型コロナからの経済回復やサプライチェーン強靭化をも念頭に、日本はその推進に向け引き続きリーダーシップを発揮していく。
- (2)2日目は、1日目に各国の関心が寄せられた事項(マクロ経済政策、農業、衛生植物検疫措置(SPS)・貿易の技術的障害(TBT)、政府調達)について、我が方の立場を説明した。この内容のうち、ポイントは以下のとおり。
- ア 公的債務残高(対GDP比)削減や、女性の活躍推進に取り組むなど良好なマクロ経済環境の維持に努める。
- イ 食品添加物や残留農薬、動植物の輸入時の衛生植物検疫措置(SPS)については、SPS協定やその他の国際基準に整合的に行っている。
- ウ 政府調達については、外国企業に対しても十分な情報提供を行っており、特定の分野で一部の企業を排除することはない。
- エ 非関税障壁による、自動車などの外国産工業製品の輸入の制限は行っていない。
- オ 豪州、シンガポールと共に共同議長を務めるWTO電子商取引交渉を始めとして、WTOにおける新しい時代に即したルール作りをけん引している。
- カ WTO紛争解決制度の恒久的な改革を目指している。
- キ 農業に関する措置(関税割当や国内支持)はWTO協定と整合的に行っており、農業の競争力を高めるため、農政改革を進めている。
4 加盟国からの反応等
- (1)我が国の貿易政策の開放性や予見可能性、G20議長国としての貢献、WTO改革におけるリーダーシップ等につき、多くの加盟国からこれを高く評価する発言が多くあった。
- (2)農業や政府調達等の分野における我が国の制度や政策に関する質疑応答を通じ、加盟国の我が国経済に対する正確な理解が深まった。
- (3)多くの加盟国から、EPAを通じた関係強化、首脳・閣僚レベルでの往来などについて言及した上で、日本との緊密な経済関係を評価するとともに、今後もこれを更に強化していきたいとの意思が表明された。
- (4)途上国を中心に、日本の開発援助に関する取組(貿易のための援助、一村一品運動、後発開発途上国(LDC)特恵、JICAによる支援等)を評価する発言が多くあった。また、アフリカ諸国からTICADへの評価が寄せられた。
- 【参考1】対日貿易政策検討(TPR:Trade Policy Review)会合
WTOでは、加盟国の貿易政策・慣行につき透明性を確保し、理解を深める観点から、WTO協定に基づき、加盟国の貿易政策等についての質疑応答を中心とする貿易政策検討会合を定期的に行っている。対日審査は3年に1度実施されており、今回が14回目(前回は2017年3月)。 - 【参考2】日本政府作成報告書の概要
- (1)日本は、WTOを中心とする多角的貿易体制の下での貿易自由化にコミットしてきており、この無差別で開かれたルールに基づく貿易自由化に積極的に取り組んでいく。
- (2)日本は、WTOの下での多角的貿易体制を補完するものとして、現在18のEPAを締結している。日本は、「成長戦略2019」に基づき、FTA比率が70%を超える16か国間のRCEP交渉の早期妥結を目指しているほか、地域・二国間の交渉を推進しており、これらの協定は、多角的な貿易自由化を更に進展させるための土台となる。
- (3)日本は、2019年にG20議長国として大阪サミットを主催し、貿易問題に関する議論を主導した。G20首脳は、自由、公正、無差別で透明があり予測可能な安定的した貿易・投資環境を実現し、開放的な市場を維持し続けるよう努力することを確認した。また、WTOの機能を改善するために必要な改革に対する支持を再確認した。
- (4)この7年間のアベノミクスの推進により、現在の日本経済は非デフレ状態にあり、名目GDP、実質GDPともに最高水準に達している。雇用・所得環境も大きく改善した。日本は、アベノミクスによる経済の好循環を更に持続・拡大する。
- 【参考3】WTO事務局作成報告書の概要
- (1)日本政府は、2017年の前回の貿易政策見直し以降も、金融緩和、財政赤字の削減、雇用と女性の労働参加の促進を通じて成長を支援し、戦後最長の経済成長を確保した。日本は世界第3位の経済規模、第5位の競争力を維持している。
- (2)レビュー期間中、貿易関連の構造改革(例えば、課税、競争政策、コーポレート・ガバナンス、労働市場政策の分野)が実施された。
- (3)日本の主要な貿易相手国は中国、米国、EUであり、主要な対内・対外直接投資(FDI)相手国はほぼ同じである。対内直接投資残高は着実に増加し続けている。電気通信、放送及び無線の分野では、外国直接投資規制は依然実施されている。
- (4)日本は、主要な貿易相手国と「自由・公正・高い水準の貿易ルール」を発展させるとともに、新興国との経済関係の強化及び協力を進展させることを目指している。
- (5)SPSについては、食生活の変化や食品を取り巻く環境の変化を反映し、食品衛生法が改正された。農薬取締法も改正され、農薬の安全性の向上と農業の効率化に資することとなった。
- (6)知的財産権からの収入は近年飛躍的に増加した。2018年には、社会や知的財産制度の進化を中長期的に展望した「知的財産戦略ビジョン」を策定した。
- (7)農業政策の目標には農業を成長産業にし、民間部門の参加を拡大し、輸出を増加させ、一定の自給目標を達成することが含まれる。
- (8)日本はエネルギー源の92%近くを輸入し続けており、それゆえ、世界的な商品価格の変動に対して脆弱なままである。日本は電力・ガスの自由化・改革を進め、両セクターとも、小売市場への参入は完全に自由化されている。
- 【参考4】加盟国から我が国に対する事前質問の概要
25加盟国が事前質問の締め切りまでに647問の質問を提出した。国・地域別ではインド(103問)、米国(85問)、中国(65問)、カナダ(61問)、EU(48問)の順。分野別では農業(120問)、関税制度(60問)、SPS(衛生植物検疫措置)/TBT(貿易の技術的障害)(60問)、政府調達(34問)、漁業(32問)の順。
(注)質問の例:日本の関税免除や削減の国内手続、RCEP交渉の見通し、外国直接投資誘致のための施策、電子商取引に関する国内規制状況。