世界貿易機関(WTO)

平成29年3月14日

概要

 3月8日及び10日の2日間,WTOにおいて,我が国の貿易政策を審査する対日貿易政策検討(TPR)会合が開催されたところ,概要以下のとおり(我が国からは,伊原純一在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使,宇山智哉外務省経済局審議官(我が国代表団長)等が出席)。

 (参考)TPR会合について
WTOでは,加盟国の貿易政策・慣行につき透明性を確保し,理解を深める観点から,WTO協定に基づき,加盟国の貿易政策等についての質疑応答を中心とする貿易審査会合を定期的に行っている。対日審査は,2年に1度実施されており,今回が13回目(前回は2015年3月)。

1 審査の流れ

  • (1)書面質問
     35の加盟国より約670問の書面質問が出された。書面質問に対しては,ルールに従い会合の1週間前までに回答した。
  • (2)会合1日目(8日)
     議長による冒頭発言の後に,伊原大使及び宇山審議官からステートメントを行い,続いてディスカッサントのジュリアン・ブライスワイト(Julian BRAITHWAITE)英国WTO代表部常駐代表から日本経済の現状及び今後の課題について論点の提示が行われた。その後,57の加盟国から発言があった。
  • (3)会合2日目(10日)
     冒頭,宇山審議官から,1日目の各国からの質問やコメントに応える形でステートメントを行い,その後,ディスカッサントがステートメントを行った後,7の加盟国から発言があった。議長から締めくくりの発言があり,議論を終えた。

2 我が国ステートメントのポイント

  • (1)1日目のステートメントでは,我が国からは,以下の点につき強調した。
    • ア 金融・財政政策と構造改革からなるアベノミクスの三本の矢が着実な成果を上げている。他方,第三の矢の構造改革全体で見ると,民間企業の動きは,いまだ本格的なものとなっておらず,構造改革を引き続き強力に推進することが必要。一億総活躍プランを通じて,包摂的な成長をもたらす政策を展開している。
    • イ WTOを中心とする多角的貿易体制は世界貿易の礎であり,日本の通商政策の柱。日本はWTOでの取組(貿易自由化交渉,協定履行監視,紛争解決)に対して積極的に貢献。世界経済や技術の進展に応じた,電子商取引等の新たな課題に関するルールの整備は重要。環境物品協定(EGA)交渉及び新たなサービス貿易協定(TiSA)交渉の交渉再開,早期妥結が重要。
    • ウ 地域貿易協定に関し,公正な自由貿易の基盤である多角的貿易体制を維持・強化する取組の一環として,日本はTPP等のメガFTAを始めとする経済連携交渉を推進。日EU・EPAのできる限り早期の大枠合意を目指すとともに,RCEP,日中韓FTAなどの交渉において,質の高い協定を目指す。投資関連協定については,2020年までに100の国・地域を対象に署名・発効することを政府目標として掲げている。
    • エ 開発に関し,日本は,開発途上国の貿易・投資を通じた経済成長を支援する観点から,貿易のための援助(AfT),TICAD等を通じて途上国の貿易投資環境の改善を支援。首脳を本部長,全閣僚を構成員としたSDGs推進本部を設置し,国内実施と国際協力の両面で,SDGsの実施に率先して取り組んでいる。
    • オ 反グローバリズムや保護主義が台頭する目下の国際政治・経済情勢においてこそ,自由で公正なルールに基づいた自由貿易の推進に中心的な役割を担うWTOが,多角的貿易体制の維持・強化に向けた真価を発揮し,世界経済の成長におけるWTOの役割の重要性を改めて発信すべき。その実現のため,我が国はWTOにおいて日本の役割を果たしていく所存。
  • (2)2日目ステートメントでは,1日目に各国の関心が特に寄せられた事項(貿易政策,投資,農業,SPS・TBT,サービス,政府調達など。以下「3 各国からの反応(会合一日目)」を参照)について,我が方の立場を説明するステートメントを行った。この内容のうち,特記すべき点は以下のとおり。
    • ア 経済政策については,投資について,我が国では,原則,対日直接投資に関する規制はない。また,我が国を「世界で一番企業が活動しやすい国」とすることを目指し,様々な分野の規制改革に取り組んでいる。
    • イ 貿易関連では,日本の自動車市場における非関税障壁等の指摘について,我が国は,外国からの自動車輸入に対して関税を課しておらず,関税以外についても非関税障壁を設けるような差別的な取扱いも行っていないことから,日本の自動車市場は十分に開放的である。農業に関しては,我が国の関税水準や国家貿易などの農産物貿易政策及び国内支持政策について,WTO協定と整合的に取り組んでおり,今後とも,日本農業の構造改革や輸出促進に取り組むとともに,農業競争力の強化のため,生産資材価格の引下げや流通産業の構造改革などの更なる改革を進めていく。SPSに関しては,我が国はSPS協定に整合した措置を講じている。政府調達について,国と地方双方における入札においても,GPAのルールに基づき競争力と透明性を備えた入札を実施している。

3 各国からの反応(会合一日目)

  • (1)反グローバリズムや保護主義が台頭する目下の状況においても,日本が多角的貿易体制の維持・強化に貢献してきたことを賞賛する意見が多く出されるなど,友好的な雰囲気で会合が進められた。
  • (2)アベノミクスを含む日本の経済政策について,これまでの成果を評価する発言が多くみられた。特に第三の矢である構造改革については,期待が示される一方で,更なる構造改革の推進を求める発言が多数みられた。
  • (3)日本の貿易政策について,自由で開かれたものであること,譲許税率と実行税率との差が極めて小さいため予見可能性が高いこと,貿易救済措置の実施が少ないことを評価する一方,農業,政府調達,SPS・TBT,一部のサービス,対日直接投資促進などの分野で改善の必要性について指摘がなされた。
  • (4)農業については,現在進めている改革に期待が寄せられる一方,非農産品に比べて高い農産品の平均関税率やタリフピーク,市場歪曲的国内支持,従量税等の複雑な関税制度,TRQの不透明な運用,国家貿易企業等について指摘がなされた。SPS・TBTについては,日本の基準が国際基準に比べて厳しく,日本市場への参入障壁となっているとの指摘もなされた。
  • (5)サービスについては,航空・海運サービスや放送サービスへの関心が示されたほか,LDCサービスウェーバーの拡大を求める旨の発言があった。
  • (6)MC10において日本が議長を務めたITA拡大交渉妥結含むWTOの活動における日本の貢献を高く評価する発言が多く見られた。MC11の成功や保護主義抑止と自由貿易推進に向けた日本の貢献への期待が示されるとともに,日本と協力していきたいとの発言が多くあった。また,EGAやTiSAといった有志国の取組への貢献を評価する発言もあった。
  • (7)多くの国から,EPAを通じた関係強化,首脳・閣僚レベルでの往来などについて言及した上で,日本との緊密な二国間経済関係を評価するとともに,今後もこれを更に強化していきたいとの発言がなされた。
  • (8)途上国を中心に,日本の開発援助に関する取組(貿易のための援助,LDC特恵,JICAによる支援等)を評価する発言が多くなされた。また,アフリカ諸国からTICADプロセスへの高い評価も示された。


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