G20(金融・世界経済に関する首脳会合)
議長国記者会見
11月23日(土曜日)15時00分~15時21分,茂木外務大臣は訪問中の名古屋においてG20愛知・名古屋外相会合の議長国会見を実施したところ,記録は以下のとおりです。
1 冒頭発言
愛知県と名古屋市,地元の経済団体,市民の皆様,さらには地元の高校生の皆様の御協力を得て,G20外相会合を無事に終えることができました。
今回の愛知・名古屋での外相会合を,日本のG20議長年の集大成として,大阪サミットの成果を再確認し,来年以降の具体的な取組につなげるための「跳躍台」とすることができたと考えております。
3つのセッションがありましたが,いずれのセッションも,G20メンバーや招待国の多様さを反映して,国際社会が直面する喫緊の課題について,さまざまな切り口から,示唆に富む議論が展開されましたが,ここでは,議長の立場から,その要点のみ紹介をさせていただきます。なお,各国間の申し合わせにより,会議の中で,誰が何を述べたかをご紹介することはできないということを,あらかじめ御理解いただきたいと思います。
最初のセッションは,「自由貿易の推進とグローバル・ガバナンス」をテーマに議論を行いました。多国間枠組への信頼の揺らぎや貿易上の緊張,地政学的リスクが高まる一方,最近のデジタル化の急速な進展を活用して経済成長につなげるにはどうすべきか,経済面でのグローバルな協力,政策協調,スタンダード作りにおける優先課題は何かといった問題意識を共有した上で,議論を深めることが出来ました。
第一に,現在の多角的貿易体制が直面する課題を指摘する声が大変多く聞かれ,一部の参加国からは,不公正な貿易慣行や一方的措置の是正への言及がありました。また,来月にもあり得るWTO上級委員会の機能不全を前に,WTO改革を直ちに進めるべきとの切迫感が共有されました。この関連で,来年6月の第12回WTO閣僚会議も念頭に,「大阪トラック」を活用しつつ,デジタル経済に関する国際的なルール作りを,一層スピード感をもって進めるよう,G20が指導的な役割を果たすべきとの点が確認されました。
第二に,国際経済面での協力に関する優先課題については,一つ目にデジタル化を踏まえた制度や課税に関する国際原則,二つ目にインフラ投資の質を高めるための国際スタンダード,三つ目に人間中心のAI原則など,具体的な政策や制度にしていくことの重要性について,多くの参加者から発言がありました。
第三に,私から,日米貿易協定及びデジタル貿易協定,TPP11協定,日EU・EPAといった,「自由貿易の旗手」としての我が国の取組を紹介いたしました。また,現在,交渉が山場を迎えておりますRCEPについて,16か国で妥結することの意義を説明いたしました。これに対し,複数の国から,このような二国間及び地域の自由貿易協定が,多角的貿易体制を補完し,国際的に質の高いルール作りを進める側面について評価が示されたところであります。
次の「SDGs」のセッションでは,地方におけるSDGsの推進,官民連携による資金動員,インフラ強化,連結性,教育・人的資本投資,ジェンダー・女性のエンパワーメント等の重要な分野について議論が行われました。
各国からは,海洋プラスチックごみに関する「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」や「質の高いインフラ投資に関するG20原則」など,大阪サミットで合意したイニシアティブを評価する旨の発言がありました。また,国内的取組,国際協調両面においてSDGsを推進する上での障壁や,それらを克服する上でのG20各国におけるグッド・プラクティス,SDGsを推進するための二国間協力について紹介があったところであります。
そして,9月のSDGサミットでの議論を踏まえ,2030年までを「行動の10年」とするため,モニタリングを着実に行いながら,進捗に遅れが見られる分野における取組を強化し,行動を加速すべきとの点について共通認識を得ることができました。
本日の議論を確実に実施に移すため,G20として国際社会の行動を主導するため,来年のサウジアラビア議長下でも引き続き積極的な取組が行われることを期待をしたいと思います。
そして最後,三番目,「アフリカの開発」については,ワーキング・ランチの形で議論を行いました。8月のTICAD7の経緯を踏まえ,(1)経済,(2)開発,(3)平和・安全保障の3つの分野において,アフリカ自身の取組を国際社会として支援していく必要性を念頭に議論を行いました。
参加国から,TICAD7に対する高い評価と期待が表明されたほか,G20を含む国際社会が緊密に連携していくことの重要性が指摘されました。G20メンバーからは,各国とアフリカとのフォーラムなどの取組の紹介があり,改めて,アフリカへの強い関心を実感したところであります。
また,「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の着実な普及・定着のため,G20が主導的役割を果たす必要性があるとの点を確認できたことも,大きな成果であると考えております。
今後は,大阪サミットの成果や今回の議論を行動に移していくための,実行力が問われることになります。次期議長国のサウジアラビアとともに,日本として引き続きG20でリーダーシップを発揮していきたいと考えております。
最後に,昨晩の夕食会では,地元産や東日本の被災地の食材を心ゆくまで堪能することができました。また,議論が活気づき,充実したのは,地元の皆様の温かいおもてなしのおかげであると考えております。改めて,参加各国の積極的貢献と,愛知・名古屋の皆様の御協力に心から感謝申し上げます。
2 質疑応答
(共同通信社 鈴木記者)
今回の会合は,日本がG20議長国を務める一連の会合の締めくくりとなりました。自由貿易,SDGs,アフリカ開発の3つのテーマで議論が行われましたが,どういった成果が得られたとお考えでしょうか。
また,喫緊のWTO改革や,デジタル経済の国際的なルール作り等で各国の共通理解が必要となりますが,今回の議論を通じ,議長として実感された残る課題についてもお聞かせください。
(茂木大臣)
今回のG20外相会合での3つのテーマの成果については,今申し上げたとおりであります。もし補足が必要であれば言って頂ければと思います。
WTO改革やデジタル経済の国際的なルール作りについては,参加国から異口同音に,日進月歩で進む技術革新の速度に遅れをとらぬよう,スピード感を持って対応すべき,ルール作りを進めていくべき,といった認識が示されました。また,G20がそれに向けて積極的な役割を果たす必要があるという点も確認されたところであります。
その上で,今日の議論を議長としてリードし実感した課題が2点程あります。第1に,デジタル化の進展。これは大きなメリットをもたらします。しかし同時に,その副作用に対応するための規制等も検討することは大きな課題であります。特にサイバーセキュリティやプライバシーといった問題に対応する際に,過度な規制で自由な経済活動を妨げることがあってはならない。いわば「角(つの)を矯(た)めて牛を殺す」ことがないような制度を作ることが重要な課題であると感じたところであります。「Data Free Flow with Trust」,つまり,「free flow」が基本にあって,その上で「trust」ということだと考えており,その順番を間違えてはいけないと思っております。
それから,この分野には,巨大プラットフォーマーもありますが,様々な企業,そして消費者等,沢山のステークホルダーが存在し,利害関係が複雑に絡み合っています。冒頭で述べたように,ルール作りや多角的貿易体制の維持に果たすWTOの役割には共通認識が見られる一方,国によっては優先分野が異なっています。また具体的にどう改革していくのかというアプローチについても依然として意見の違いがあり,その一致点や共通の方向性を見いだしていく努力がきわめて重要であると感じました。
(トルコ・ミリイェット紙 ディデム・オゼル・テュメル・アンカラ支局長)
貿易紛争や制裁を政治的手段として利用する国もある中で,WTO改革について議論をすることは現実的でしょうか。このような困難な環境において,G20としてどのようにWTO改革に取り組んでいくのですか。
(茂木大臣)
(ここのみ英語で)非常に良い質問です。
多角的貿易体制が様々な課題に直面する中で,G20大阪サミットで首脳たちは,自由,公正,無差別といった自由貿易体制を支える原則で一致しました。
まさに多国間枠組みへの信頼の揺らぎが見られる今だからこそ,多角的貿易体制の礎であるWTOを,現代の国際貿易における諸課題に十分に対応できるように改革すべきというのが,G20の共通の認識であります。
今回の外相会合でも,WTO改革に勢いを与えるために活発な議論を行いました。本日の議論を,スピード感をもって具体化するため,日本は今後もG20を始めとする場で積極的な議論に貢献していきたいと考えております。
(TBS 橋口記者)
茂木大臣は,このG20外相会合に合わせて様々な二国間会談を行われましたが,この後,日韓の会談が予定されています。GSOMIAは維持されましたが,日韓の意思疎通は今後も課題となっていると考えます。日韓外相会談ではどのような議論を行うお考えでしょうか。
(茂木大臣)
昨日は様々な外相会談を行いました。今日もこの後,韓国,ドイツ,そしてインドの外務大臣と会談する予定であります。康京和(カン・ギョンファ)韓国外交部長官とお会いしますが,昨日の韓国の決定についてお話を伺いたいと思っています。その上で,根本の問題である旧朝鮮半島出身労働者問題を中心に,日韓間の課題につき率直な意見交換を行いたいと思っています。
(イタリア国営放送 アニエッロ・プオルト第二放送局主任記者)
アフリカについて伺います。日本はアフリカに多額の対外投資を行っています。日本の観点からなぜアフリカはそれほど重要なのでしょうか。
(茂木大臣)
アフリカは,54か国,人口13億人,世界の22%の面積を擁し,その高い潜在性は,アフリカ自身の発展のみならず,日本経済・企業にとってもチャンスであると考えております。さらに,アフリカは,国連等の多国間外交の場において,国際世論を形成する大きな力も有しております。一方,アフリカには,貧困・開発問題を始め,平和と安定を巡る課題も依然として存在しているわけであります。
そのようなアフリカの状況を踏まえて,8月のTICAD7では,引き続きアフリカの開発のための支援を進めていくとともに,民間投資の促進を通じてアフリカの発展を後押ししていくことの重要性も確認されました。今回のG20外相会合でも,アフリカの持続的な経済成長のための民間投資促進の重要性について,広く認識が共有されました。たくさんの国からそういった意見も出されたところであります。
日本としては,ODAも活用しながら,アフリカにおけるビジネス環境改善に貢献し,アフリカへの民間投資が拡大するよう引き続き注力していきたいと考えております。
(名古屋テレビ 近藤記者)
先ほど地元高校生からの提言があったと思いますが,愛知の高校生がこのような場で提言を行うということに関する所感,また,提言内容についてどのように受け止められていらっしゃるかについてお聞かせください。
(茂木大臣)
率直に言って,最近の高校生は英語がうまいと非常に強く感じました。たぶん同じような思いをG20の外相も感じたのではないかと思います。
地元高校生の皆さんから,「教育格差の解消」に向けた提言を頂いたところであります。全世界的な教員不足に対する解決策として,ITを使った「遠隔授業」や「国を超えた知見の共有」を挙げる等,若者らしい斬新な提言だったと思っております。
出席していた各国の外相等も地元高校生の英語による提言に熱心に耳を傾けており,提言内容も含めて高い評価を得られたと受け止めているところであります。