科学技術

平成29年2月10日

 今般,岸輝雄外務大臣科学技術顧問とトレキアン米国務長官科学技術顧問は,「Science and Diplomacy」誌(米国の科学技術外交専門誌)2017年3月号に共同で寄稿を行ったところ,概要以下のとおりです。(2月7日(日本時間),同誌ウェブサイト別ウィンドウで開くに掲載)

 現代において,二国間の,地域の,そして地球規模の課題に対し,科学技術がその解決を支える中,日米の科学技術顧問は,日本外務省及び米国務省に対する最良の知見の提供に尽力している。科学技術イノベーションを外交政策策定に織り込むことは,科学的な問題解決の手法を外交課題への対処のために用いることである。これにより,政策決定者は,世界の変化に受け身で対応するのではなく,観測結果やデータを活用して仮説を立て,どのような政策が効果を持つかを予測できるようになる。

 遺伝子編集技術,ロボットや人工知能の発達が,貿易,農業,保健等の国際問題に深く影響し,高齢化社会等の課題解決に役割を果たす中,時宜を得た科学技術イノベーションの知見は,こうした問題を議論するG7,G20,APEC等の多国間のフォーラムにおいて重要な要素となる。科学的根拠(エビデンス)に根ざした外交政策策定や有為な技術トレンドの特定にあたり,科学技術顧問は鍵となる役割を果たす。

 米国では,米国科学アカデミーが国務省への科学技術顧問設置を勧告し,2000年に国務長官によりポストが設置された。2015年12月には,国務省は,国務副長官を長としてシリコンバレーを始めとする産学官連携を強化するイノベーションフォーラムを発足させた。国務省科学技術顧問室は,国務省の指導層を,外交政策面で科学技術イノベーションコミュニティに結びつけるために,博士号を持つ科学者やエンジニアを省内に配置するフェローシップ事業等を通じ,尽力している。国務省では,感染症,気候変動,サイバーといった国際的問題に対処するための二国間及び多国間の議論で,日本をはじめ鍵となるパートナーの関与を得ている。

 日本では,科学技術を外交に生かす方策を検討するための有識者懇談会が外務大臣により2014年7月に設置された。同懇談会による2015年9月の提言を受けて,外務大臣科学技術顧問の役職が設置された。日本政府で初の科学技術顧問が任命されたことを受け,外務大臣は,グローバル課題への対処に貢献する上で科学技術の視点を取り入れること,そして国内外での連携・ネットワーク強化を,顧問の貢献を重視する分野として挙げた。
 これらを念頭に,科学技術コミュニティの多様な知見を結集するネットワーク構築の一環として,17名の委員からなる科学技術外交推進会議が新設された。テーマ別スタディグループも科学的専門家の視点を外交及び政府内の関連部局に取り入れるために設けられた。ここでの議論を通じ,科学的データに基づく,エビデンスに基づく政策策定の重要性が強調された。G7伊勢志摩サミットの成果文書はこの要素を保健及び環境の面で取り入れており,保健分野におけるデータの活用と海洋観測強化の重要性が強調されている。

 2016年8月のTICAD-VIに際し,同顧問による提言は,ブレイン・ドレイン(頭脳流出)の傾向をブレイン・サーキュレーション(頭脳循環)へ転換させること,研究開発の成果を社会全体に還元すること,の2点を強調した。こうした視点を反映する形で,日本政府はアフリカ開発に向けた取組をTICAD-VIにおいて発表した。

 科学技術は日米パートナーシップの核となる要素である。日米科学技術協力協定下での協力の上に立って,現在の科学技術合同委員会は,科学技術面の重要な取組について討議し,両国の多くの省庁等が集まって医学生理学研究,保健,データサイエンス,高性能コンピュータ,エネルギーを含む戦略的協力を議論する定期的フォーラムとなっている。この他にも,日米間には,日米医学協力計画や旧ソ連諸国への支援を行う国際科学技術センターといった長年に亘る科学協力の枠組みがある。

 しかし,これらの従来からの科学対話の枠組みに収まらない外交的課題も存在する。AIやバイオテクノロジーなどの新興技術が外交政策に及ぼす影響は何か。スマートで強靱性の高いインフラ構築のため協力できることは何か。こうしたことが課題となる中,日本外務省と米国国務省とが更に深く協力することが日米二国間関係への利益となる。日米の科学技術顧問は,日米の外交政策上の優先事項と科学技術とが重なり合う場を見いだそうと,新たに対話を行っている。この対話は,科学技術の知見を外交当局に織り込むことに関する良い先例を(日本外務省と米国務省の間で)共有する場を提供するものでもある。

 日米両国は,英国,ニュージーランドとともに,初の外務省科学技術顧問のネットワーク会合を2016年2月にワシントンで開催した。他の関心国の外交団の参加も得て,参加者は外務省における科学的助言の役割とメカニズムを他国に拡大するアイデアについて意見交換を行った。日米の科学技術外交における経験は,他国への先例となるものであり,科学者が各国国民と世界の利益のためにどのように政府と国民をつなぐことが可能であるかを示している。

 科学技術は平和,繁栄,安全の促進を通じ,世界中の人々の生活をより良いものとする,他に類をみない機会を提供する。複雑な現代において,外交当局の科学リテラシーを増すことはこれまでになく重要となっている。


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