寄稿・インタビュー

令和6年3月17日

 「核兵器のない世界」への展望は一層厳しくなっている。2022年にロシアがウクライナに本格的に侵攻して以来、ロシアの核兵器使用の脅しなどにより、国際安全保障環境が不安定になる中、核軍縮をどのように進めるべきかについて、核兵器国と非核兵器国の間だけでなく、核兵器国間、そして非核兵器国間でも意見が分かれている。

 また、世界は今、冷戦の最盛期以来、数十年にわたり継続している核兵器数の減少傾向が逆転しかねない状況に立たされている。私達は、「核兵器のない世界」を実現するために、現実的かつ実践的な取組を進めていくための歩みを止めてはいけない。日本は、78年間続いた核兵器不使用の記録を終わらせかねないロシアによる脅しを受け入れることはできない。

 北朝鮮について、我々は力強いメッセージを継続して発信しなければならない。イランの核問題については、イランの建設的な対応を求める。そして新興技術の影響も注視していかなければならない。

 日本は、唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の取組を主導する使命を負っている。核兵器の惨禍を人類が二度と起こさないとの誓いを世界に示すにあたり、広島ほど平和へのコミットメントを示すのに相応しい場所はない、そのような考えの下、日本は、被爆地広島でG7広島サミットを開催した。G7広島サミットでは、G7のみならず、ウクライナやASEAN、AU、PIF、G20の議長国の首脳が広島を訪れ、被爆の実相について理解を深め、世界が「核兵器のない世界」を望んでいるという強いメッセージを示すことができた。

 このような核軍縮の進展に向けた機運を活かすべく、国際の平和と安全の維持に主要な責任を有する国連安保理において、核兵器国の参加を得て、「核兵器のない世界」に向けた議論を行うことは、極めて意義深いことであると日本として考えている。

 今般、私は外務大臣として、核軍縮・不拡散に関する閣僚級会合の議長を務める。核兵器不拡散条約(NPT)運用検討サイクルの中間年にあたる本年に、安保理において、2026年NPT運用検討会議で意義ある成果を得るための機運を高め、「核兵器のない世界」の実現に向けた議論につなげていきたい。

 これまで、岸田政権の下、日本はNPT体制を維持・強化するための取組を進めてきた。

 G7広島サミットのみならず、岸田総理のイニシアティブで発足した「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議(IGEP)は、世界的な核軍縮への具体的な道筋を作るための議論を促進する重要な役割を担っている。

 私たちは、岸田総理が2022年に発表した「ヒロシマ・アクション・プラン」の取組を更に実行していくつもりである。このプランは、核兵器の不使用の継続の重要性の共有、透明性の向上、核兵器数の減少傾向の維持、核兵器の不拡散及び原子力の平和的利用、各国指導者等による被爆地訪問の促進の5つの行動を基礎とする。

 昨年の国連ハイレベル・ウィークにおいて、私は第13回包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議に参加するとともに、岸田総理は、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)ハイレベル記念行事を主催した。この2つの条約は、核兵器の製造と開発を制限するために不可欠なものである。

 政府だけでなく、様々な関係者と連携していくことも重要である。「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」を通じ、国際的な議論を深めることを目指す。日本が1,000万ドルを拠出した「ユース非核リーダー基金」プログラムも始動した。我々は、未来のリーダー達を広島と長崎に招き、被爆の実相を直接学ぶ機会を提供することで、核兵器廃絶に向けた若い世代のグローバルなネットワークを構築していく。また、こうした取組において「女性、平和、安全保障(WPS)」の視点を忘れてはならない。

 日本は、来る安保理会合が、「核兵器のない世界」の実現に向けた議論を加速させるための具体的なアイデアや提案を国連加盟国が共有する機会となることを望んでいる。

(参考)

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