核軍縮・不拡散
2026年NPT運用検討会議第2回準備委員会
令和6年8月8日
7月22日から8月2日まで、国連欧州本部において2026年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第2回準備委員会が開催された。議長は、カザフスタンのラフメトゥリン外務第一次官が務めた。我が国からは、高村正大外務大臣政務官(冒頭)、市川とみ子軍縮代表部大使、海部篤ウィーン代表部大使他が出席した。
1 今次準備委員会の概要
- (1)今次準備委員会は、2026年の第11回NPT運用検討会議に向けた3年間の準備プロセスの中間会合として、昨年の第1回準備委員会を踏まえ議論を深め、来年の第3回準備委員会に繋げるための重要な会議との認識の下、日本代表団として会議に臨んだ。
- (2)会議初日のセッションでは、一般討論が実施され、高村外務大臣政務官が我が国のステートメントを行った。また、NGOセッションでは、被爆者の方による被爆証言が行われた。その後、NPTの三本柱である核軍縮、核不拡散(北朝鮮、イラン、中東非大量破壊兵器地帯等の地域問題を含む)、原子力の平和的利用について、9日間にわたり順次各分野(クラスター)の討論が活発に行われた。
- (3)核軍縮については、透明性や説明責任の重要性、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効及び発効要件国による早期の署名・批准を求める意見が相次いだほか、ロシアによる、ウクライナ侵略に伴う核の威嚇や、新START履行停止、昨年のCTBT撤回批准等を非難する発言が見られた。また、アジア太平洋地域における不透明な核戦力の増強に対する懸念が示された。
- (4)核不拡散については、北朝鮮の核・ミサイル活動は、関連する国連安保理決議の明白な違反であり、国際的な不拡散体制に対する深刻な脅威であるとして強く非難し、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化、NPT及びIAEA保障措置の遵守への早期復帰を求める発言が相次いだ。アラブ諸国はイスラエルによる「核の威嚇」等非難し、イスラエルの非核兵器国としてのNPTへの早期加入を求め、また、中東非大量破壊兵器地帯構想に関し、多くの国が同構想の早期実現の重要性を強調した。さらに、イランの核関連活動の拡大への深刻な懸念が表明され、IAEAとの完全な協力をイランに求める旨発言が相次いだ。ウクライナにおける保障措置の実施に関し、多くの国から、ロシアによる侵略がもたらす深刻な脅威への懸念やIAEAの取組への支持が表明された。
- (5)原子力の平和的利用については、気候変動を含む地球規模課題に向けた原子力科学技術の重要性や、その促進におけるIAEAの中心的な役割について、多くの国が言及した。また、原子力の利用にあたっては、保障措置の遵守に加え、原子力安全及び核セキュリティを確保することが重要である点について多くの国が指摘した。また、多くの国がロシアによるウクライナ侵略及びザポリッジャ原発の占拠を批判し、同原発を含むウクライナの原子力施設の原子力安全・核セキュリティへの脅威に関する懸念を表明した。
- (6)議長自らの責任の下、一般討論、各柱の討論及び各国が提出した作業文書の内容を踏まえ、議長サマリーが作業文書として作成・提出され、閉会となった。
- (7)第3回準備委員会は、明年4月28日から5月9日までの日程でニューヨークにて開催し、ガーナの国連代表部常駐代表が議長を務めることが決定された。
2 日本の対応
- (1)高村外務大臣政務官が一般討論で最初にステートメントを行い、国際社会は現在、歴史の転換期にあり、安全保障環境が急速に厳しさを増している中だからこそ、日本は、唯一の戦争被爆国として、NPTを国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石とし、「ヒロシマ・アクション・プラン」の下で「核兵器のない世界」に向けた国際社会の取組を主導する旨述べた。また、核軍縮措置の基盤である透明性強化の重要性やFMCTの即時交渉開始の必要性を訴えるとともに、CTBTの普遍化・早期発効にも強くコミットしている旨表明した。
また、核不拡散について、日本は、国際社会と協力し、北朝鮮及びイランに関する問題を含む核不拡散の取組を進めていく旨述べたほか、原子力の平和的利用の促進に向けて積極的に取り組んでいる旨表明した。 - (2)市川軍縮代表部大使及び海部ウィーン代表部大使が、各分野において個別事項(核軍縮、安全保証、核不拡散、北朝鮮や中東を含む地域問題、原子力の平和的利用、運用検討プロセス強化等)についてのステートメントを行った。
- (3)日本も参加する地域横断的な非核兵器国のグループである、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)及びストックホルム・イニシアティブとして、それぞれ共同ステートメントを実施した。また、透明性・説明責任に関する共同ステートメント(アイルランド・ニュージーランド・スイス主導)、リスク低減に関するステートメント(スウェーデン主導)、北朝鮮の核問題に関する共同ステートメント(フランス主導)、ウクライナ情勢に関する共同ステートメント(ウクライナ主導)、平和的利用に関する共同ステートメント(米国主導)にも参加した。
- (4)作業文書を通じた発信・取組としては、我が国単独として軍縮・不拡散教育、NPDI共同で透明性・説明責任(日本と豪州が主導)及び平和的利用、ストックホルム・イニシアティブ共同で核軍縮措置についての作業文書をそれぞれ提出した。
また、我が国として、FMCTに関する共同作業文書(EU主導)、核軍縮検証のための国際パートナーシップ(IPNDV)に関する共同作業文書(米国・スイス主導)、原子力の平和的利用のための持続的な対話(SDPU)に関する共同作業文書(米国・英国主導)、ネットゼロに向けた原子力エネルギーに関する作業文書(仏主導)、原子力の非発電分野への応用に関する共同作業文書(フィリピン主導)、核物質・機器の輸出管理に関する共同作業文書(ザンガー委員会主導)にも参画した。 - (5)加えて、日本は、米国及びフィリピンと共催でFMCTに関するサイドイベントを実施し、高村外務大臣政務官が冒頭挨拶をするとともに、パネルディスカッションを行った(パネルには、日本、ブラジル、フィリピン、米国、国連軍縮研究所(UNIDIR)が参加)。また、UNIDIRと共催でドキュメンタリー映画「灯籠流し」上映会に係るサイドイベント、ウクライナ及びフランスと共催で原子力安全及び核セキュリティに関するサイドイベント、NPDI共同で透明性・説明責任に関するサイドイベントを開催し、それぞれ市川軍縮代表部大使がパネリスト参加又は挨拶を行った。
- (6)ALPS処理水の海洋放出に関し、複数国が日本やIAEAの取組を支持する旨言及した一方で、中国から独自の主張に基づく批判的な発言があったところ、我が国からしかるべく反論を行った。
3 今次準備委員会への評価
- (1)引き続き核軍縮をめぐる国際社会の分断やロシアによる核の威嚇、北朝鮮による核・ミサイル開発の進展等により、「核兵器のない世界」に向けた道のりは一層厳しさを増している中、今次準備委員会を迎えることになったが、各国が2026年運用検討会議に向けNPT体制の維持・強化の重要性への共通認識を示し、対面で率直な意見交換を行った意義は大きいと言える。
- (2)日本は高村外務大臣政務官がステートメントを行ったことに加え、3本柱全ての分野別の議論に積極的に関与し、2022年の運用検討会議の際に岸田総理が提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」の5項目(ア 核兵器の不使用の継続、イ 核戦力の透明性の向上、ウ 核兵器数の減少傾向の維持、エ 核兵器の不拡散及び原子力の平和的利用の促進、及びオ 各国の指導者等による被爆地訪問の促進)の要素の重要性を発信していくとともに、現実的で実践的な取組を継続・強化していくことの重要性を強調し、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の機運を高めていくよう努めた。
- (3)昨年の第1回準備委員会では、最終的に一部の国の反対意見により、議長が議長サマリーの作業文書としての提出を控えざるを得なかったが、今次第2回準備委員会では、議長サマリーが作業文書として提出され、2026年運用検討会議に向けて、我が国が重視する核戦力の透明性の向上、FMCTの早期交渉開始等、「ヒロシマ・アクション・プラン」で掲げられている要素が幅広く反映された。我が国としては、現下の厳しい安全保障環境の下で議長サマリーが発出されたことを評価するとともに、今回の会合を通じて、2026年運用検討会議に向けて議論を深めることができたと考える。