核軍縮・不拡散

令和5年8月22日

 7月31日から8月11日まで、国連ウィーン本部において2026年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第1回準備委員会が開催された。議長は、フィンランドのヤルモ・ヴィーナネン軍備管理・不拡散担当大使が務めた。我が国からは、武井外務副大臣(冒頭)、小笠原軍縮代表部大使、引原ウィーン代表部大使他が出席した。

1 今次準備委員会の概要

  • (1)今次準備委員会は2026年の第11回NPT運用検討会議に向けた3年間のプロセスのスタートとなる重要な会議との認識の下、日本代表団として会議に臨んだ。
  • (2)会議初日のセッションでは一般討論が実施され、武井外務副大臣が我が国のステートメントを行った。またNGOセッションでは被爆者の方による被爆証言が行われた。その後、NPTの三本柱である核軍縮、核不拡散(北朝鮮、イラン、中東非大量破壊兵器地帯等の地域問題を含む)、原子力の平和的利用について、10日間にわたり順次各分野(クラスター)の討論が活発に行われた。
  • (3)核軍縮については、透明性や説明責任(アカウンタビリティ)の重要性、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の早期交渉開始、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効及び発効要件国による早期の署名・批准を求める意見が相次いだほか、ロシアによるウクライナ侵略に関し、核の威嚇やザポリッジャ原発占拠を非難する発言が見られた。また、アジア太平洋地域における不透明な核戦力の増強に対する懸念が示された。
  • (4)核不拡散については、北朝鮮の核・ミサイル活動は、関連する国連安保理決議の明白な違反であり、国際的な不拡散体制に対する深刻な脅威であるとして強く非難し、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化、NPT及びIAEA保障措置の遵守への早期復帰を求める発言が相次いだ。中東非大量破壊兵器地帯構想に関し、多くの国から同構想の実現に向けて全てのNPT締約国がコミットすべきであるとの意見が示された。イランの核関連活動の拡大への深刻な懸念が表明され、IAEAとの完全な協力をイランに求める旨発言が相次いだ。ウクライナにおける保障措置の実施に関し、多くの国から、ロシアによる侵略がもたらす深刻な脅威への懸念、IAEAの取組への支持が表明された。
  • (5)原子力の平和的利用については、発電分野だけでなく、非発電分野(医療、食糧、環境、工業等)で締約国の経済社会発展に資するものであり、SDGsの達成に貢献することについて一致した。核不拡散、原子力安全及び核セキュリティを確保しつつ、原子力の平和的利用を促進していくことの重要性について多くの国が指摘した。なお、途上国のいくつかの国は、原子力の平和的利用は「差異無く(without discrimination)」、「制限無く(no restriction)」享受されるべきものである旨強調した。また、東京電力福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放出に関し、欧米、アジア大洋州、南米の幅広い地域から10か国以上がIAEAの取組等に対する理解・支持を表明した。また、中国から科学的根拠に基づかない発言があったところ、我が国からしかるべく反論を行い、科学的根拠に基づいた議論を行うよう改めて強く求めた。多くの国から、ウクライナの原子力安全・核セキュリティの状況への懸念が示され、ロシアによる侵略への非難や、IAEAの取組への支持が表明された。また、ロシアに対して、ウクライナからの撤退や、ウクライナの主権・領土一体性・国際的に認められた領土を尊重するよう求める声が多く聞かれた。
  • (6)議長の自らの責任の下、一般討論、各柱の討論及び各国が提出した作業文書の内容を踏まえ議長サマリー(通常、各準備委員会の決定事項(公式文書)に添付される)が作成されたが、自国の核活動についての記述に対するイランの強い反発を契機にいくつかの国から反対が表明されたことを受け、最終的に議長の判断として議長サマリーを公式文書として残さない形で閉会となった。
  • (7)第2回準備委員会は明年7月22日から8月2日までの日程でジュネーブにて開催し、カザフスタンの国連代表部常駐代表が議長を務めることが決定された。
  • (8)なお、今次準備委員会に先立つ一週間、運用検討プロセス強化に関する作業部会が初めて実施された。一部の締約国が反対したために作業部会としての決定を採択することはできなかったが、透明性や説明責任(アカウンタビリティ)の要素も取り入れた作業部会決定案が提示されるなど、NPT体制の維持・強化に資する実質的な議論が行われた。

2 日本の対応

  • (1)武井外務副大臣が一般討論で最初にステートメントを行い、「核兵器のない世界」への道のりが一層厳しくなる中だからこそ、NPT体制の維持・強化は国際社会全体の利益であり、引き続き「ヒロシマ・アクション・プラン」にある現実的かつ実践的な取組を進めていく旨述べた。また、核軍縮措置の基盤である透明性強化の重要性や核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の議論の再活性化の必要性を訴え、FMCTについては、政治的関心を再び集めるため、本年の国連総会ハイレベル・ウィークにおいて、フィリピンと共催でハイレベル行事を開催する予定である旨表明した。核不拡散についても、日本は国際社会と協力し、北朝鮮及びイランに関する問題を含む核不拡散の取組を進めていく旨述べた。また、民生用プルトニウム管理の透明性の維持のため、プルトニウム管理指針(INFCIRC549)の実施の重要性についても強調した。さらに、ALPS処理水の海洋放出について、7月に公表された国際原子力機関(IAEA)による包括報告書の内容に言及しつつ、日本は科学的根拠に基づき、高い透明性をもって、国際社会に対して丁寧に説明してきており、こうした努力をこれからも続けていく旨表明した。
  • (2)小笠原軍縮代表部大使及び引原ウィーン代表部大使が、各分野において個別事項(核軍縮、安全保証、核不拡散、北朝鮮や中東を含む地域問題、原子力の平和的利用、脱退、運用検討プロセス強化等)についてのステートメントを行った。また、G7を始めとする各国とALPS処理水の海洋放出についての意見交換を行った。
  • (3)日本も参加する地域横断的な非核兵器国のグループである、軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)及びストックホルム・イニシアティブとして、それぞれ共同ステートメントを実施した。また、仏主導の下、北朝鮮に関する共同ステートメントも実施した。
  • (4)作業文書を通じた発信・取組としては、日本単独として3本(原子力の平和的利用(ALPS処理水の海洋放出についても記載)、軍縮・不拡散教育、「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議によるメッセージ)、NPDI共同として2本(透明性(報告)及び説明責任(アカウンタビリティ)、運用検討プロセス強化)を提出した。また、「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議に関するサイドイベントを実施し、今回の第1回準備委員会へのインプットを念頭に取りまとめられた国際賢人会議によるメッセージをヴィーナネン議長に手交するとともに、パネルディスカッションを行った。

3 今次準備委員会への評価

  • (1)昨年のNPT運用検討会議では、最終的にウクライナをめぐる記述を理由にロシアが反対し、成果文書のコンセンサス採択がブロックされた。引き続き核軍縮をめぐる国際社会の分断やロシアによる核の威嚇等により、「核兵器のない世界」に向けた道のりは一層厳しさを増している中、今次準備委員会を迎えることになったが、各国が次回運用検討会議(2026年)に向けNPT体制の維持・強化の重要性への共通認識を示し、対面で率直な意見交換を行った意義は大きいと言える。
  • (2)日本は武井外務副大臣がステートメントを行ったことに加え、3本柱全ての分野別の議論に積極的に関与し、昨年の運用検討会議の際に岸田総理が提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン」の5項目の要素の重要性を発信していくとともに、現実的で実践的な取組を継続・強化していくことの重要性を強調し、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の機運を高めていくよう努めた。
  • (3)また、ALPS処理水の海洋放出について、欧米、アジア大洋州、南米の幅広い地域の国々からIAEAの取組等に対する理解・支持の表明が行われた意義は大きい。
  • (4)最終的に一部の国の反対意見により、議長が議長サマリーの作業文書としての提出を控えざるを得なかったことは残念であり、こうした国際社会の分断の状況は、今後乗り越えなければならない課題である。他方で、今回の会議を通じて、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石であるNPT体制の維持・強化が国際社会全体の利益であることへの強い認識が広く共有されていることが改めて確認された。
  • (5)また、今次準備委員会の直前に開催されたNPT運用検討プロセス強化に関する作業部会では、一部の国の反対により決定案はコンセンサス採択されなかったが、日本がNPDI等を通じて長年主張してきた透明性向上や国別報告書による説明責任(アカウンタビリティ)の必要性について具体的な議論が行われた意義は大きい。

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