日本の安全保障と国際社会の平和と安定

平成26年5月9日

 2014年4月28日より5月9日まで、ニューヨークの国連本部において2015年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第3回準備委員会が開催された。議長は、ペルーのロマン・モレイ駐ポルトガル大使が務め、我が国代表団としては、岸外務副大臣、佐野軍縮代表部大使、北野軍縮不拡散・科学部長他が出席した。

1.今次準備委員会の位置づけ

(1)第3回準備委員会は、2015年の次回運用検討会議に向けた最後の準備委員会であり、運用検討会議の手続事項の決定や同会議への勧告をまとめることになっている。

(2)また、2010年の運用検討会議で合意した行動計画に基づき、核兵器国は標準報告フォームに合意した上で核軍縮措置について報告することとなっており、その内容について注目が集まっていた(透明性の問題)。

(3)軍縮不拡散イニシアティブ(NPDI:地域横断的な非核兵器国12カ国のグループ)については、直前に行った広島外相会合の結果をふまえ、共同ステートメントや新たな作業文書や他グループ及びNGOとの会合を通じて更に認知度を高め、その活動への幅広い理解と支持を得る好機と期待された。

2.結果

(1)各国が全般的な方針を述べ合う一般討論、NGO代表が発言するセッションに続き、各国が実質事項(核軍縮、核兵器国による非核兵器国に対する安全の保証(NSA)、核不拡散、中東非大量破壊兵器地帯、北朝鮮・イランの核問題を含む地域問題、原子力の平和的利用、運用検討プロセス改善)について議論を行った。

(2)その後、運用検討会議への勧告案についての議論を行ったが合意に至らなかったため、議長の責任において作成された議長勧告案として作業文書の形式で準備委員会に提出された。

(3)核兵器国が統一的な構成に基づき報告書を提出したほか、準備委員会期間中、核兵器国が中央アジア非核地帯条約議定書に署名。

(4)ウクライナ情勢については、ウクライナ等がロシアによるウクライナの領土の一体性への侵害が(ソ連崩壊後ウクライナによる非核兵器国としてのNPT加入の前提となった)ブダペスト覚書に違反していると非難し、ロシアはそれに対して反論を行った。

(5)来年の運用検討会議の議題や手続規則等は合意されたが、同会議議長については引き続き関係国の間で調整が続いており、決定には至らなかった。なお、日程については、4月27日から5月22日までニューヨークにおいて開催することについては昨年の準備委員会で決定済み。

(6)第1回及び第2回準備委員会において行われた核兵器の非人道性に関する共同ステートメントは、今次準備委員会においては実施されなかった。オーストリアが、自国のステートメントの中で核兵器の非人道性に関する第3回国際会議を12月8・9日にウィーンにて開催する旨表明した。

(7)今次準備委員会直前に行われたマーシャル諸島による国際司法裁判所(ICJ)提訴については、初日の一般討論演説においてデ・ブラム同国外相が本件提訴を行った旨改めて発表し、またその直後にサイドイベントを開催し、注目を集めた。

3.我が国の対応

(1)NPDI議長国として、様々な対応を行った。

  • (ア)本会合の一般討論において岸副大臣がNPDIを代表して、4月11・12日に広島で開催されたNPDI外相会合「広島宣言」の内容を紹介する共同ステートメントを行った。
  • (イ)また、NPDIとして7本の新たな作業文書(新戦略兵器削減条約(新START条約)後の核軍縮,核軍縮における透明性の向上,警戒態勢解除,核セキュリティ,中東非大量破壊兵器地帯、NPT脱退、広島宣言)を今次準備委員会に提出した。
  • (ウ)更に、5核兵器国等他のグループや市民社会との対話を主導した。NPDIに関するサイドイベントやNGOブリーフにおいては、佐野大使がNPDIの活動を説明し、有意義な意見交換を行った。

(2)我が国独自でも以下の対応を行った。

  • (ア)佐野大使が個別事項毎(核不拡散、地域問題、原子力の平和的利用等)の演説を行った。また、36カ国の賛同国を代表し軍縮・不拡散教育に関する共同ステートメントを実施した。
  • (イ)北朝鮮・イランの核問題を含む不拡散上の課題に対する我が国としての取組に関する作業文書を提出した他、ブロック積み上げ方式の核軍縮に関する作業文書を20カ国を代表して提出した。また、2010年運用検討会議で合意した行動計画(アクション20)に基づき、我が国の同行動計画実施状況に関する国別報告書も提出した。
  • (ウ)今次準備委員会の期間中、核軍備の透明性に関するサイドイベントをオランダやNGO(核分裂性物質に関する国際パネル:IPFM)と共催した。

4.評価

(1)今次準備委員会は、当初、中東非大量破壊兵器地帯構想、ウクライナ問題、核兵器の非人道性に関する問題等を巡って紛糾することが懸念されていたが、結果的には、全体として特段紛糾することもなく、核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用の3本柱について淡々と議事が進行した。運用検討会議への勧告案に合意することはできなかったものの、建設的な雰囲気の中終了し、来年の運用検討会議につなげることができた。

(2)注目が集まっていた核兵器国による核軍縮措置に関する報告については、核兵器国が統一的な構成に基づき報告書を提出したこと自体は一つの進展として歓迎できる。一方、各国による報告状況にはかなりの差異もあり、これによって透明性の確保との課題が十分に達成されたとは必ずしも言い難いところ、我が国としても引き続き改善を求めることとしている。

(3)今次準備委員会においては、政府関係者のみならず、広島県知事、広島市長、長崎市長をはじめとする地方自治体関係者、NGO関係者、ユース非核特使等も積極的に参加し、オールジャパンとして核軍縮に取り組む姿勢を国際社会に対しアピールすることができた。

(4)北朝鮮及びイランの核問題等
 多くの国が、NPT体制における核不拡散上の課題として北朝鮮の核問題及びイランの核問題に言及し、これらが、引き続き核不拡散上の二大イシューとして認識されていることが明らかになった。

  • (ア)北朝鮮の核問題
     北朝鮮の核問題については、我が国や米国、韓国のみにとどまらない多くの国が、国際社会の平和と安定を脅かすNPT体制への挑戦であるとしつつ北朝鮮の核・ミサイル開発についての懸念を表明し、また、北朝鮮に対して2005年六者会合共同声明や関連安保理決議の遵守及び核実験等更なる挑発の自制を要求し、更に、寧辺の施設における動きに対する懸念等に言及した。これらの点は議長の責任で発出された議長勧告案にもおおむね反映された。
  • (イ) イランの核問題
     イランの核問題については、我が国や交渉当事国たるEU3+3にとどまらない多くの国が、現在進行中のイランとEU3+3との間の交渉や今日までの関連措置の実施等への歓迎、長期的・包括的な問題解決に向けた今後の交渉への期待、国際原子力機関(IAEA)との関係における軍事的側面の可能性(PMD)の解決などのすべての未解決の問題の解決の重要性等に言及した。

(5)NPDIは、多様で地域横断的な非核兵器国によるグループとして,2015年NPT運用検討会議の成功を促進するため,様々な実践的な提案を行うとともに,多様な立場を橋渡しするために建設的かつ能動的な役割を果たすことを目指している。NPDIが提出した作業文書は、メンバー以外の国のステートメントの中でも言及される等、その活動への注目が高まっている。また他グループとの対話会合、NGOブリーフィング等を積極的に実施し、NPT運用検討プロセスの中での存在感を着実に増している。

(6)マーシャル諸島による国際司法裁判所(ICJ)提訴については、関係国の対応、訴訟手続きの動向を含め、状況を注視して行く必要がある。


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