1 米軍人及び軍属の起訴前の拘禁の移転
- (1)日本側が裁判権を行使すべき米軍人及び軍属(以下「米軍人等」という。)については(例えば、公務外で罪を犯した米軍人等)、被疑者である米軍人等の身柄を米側が確保した場合には、日米地位協定上、日本側が被疑者を起訴する時まで、米側が被疑者を引き続き拘禁することとされています(第17条5(c))。(注)
(注)派遣国(米側)が被疑者の身柄を確保している場合には接受国による起訴の時点まで引き続き派遣国(米側)が被疑者を拘禁するという考え方は、NATO地位協定も採っています。ドイツもNATO地位協定の締結国ですが、ドイツにおけるNATO諸国軍の地位についての詳細規定を定めているボン補足協定では、派遣国は判決の確定まで被疑者を拘禁できることになっています(同協定には、ドイツによる移転要請に派遣国は好意的考慮を払うとの規定もありますが、そもそもドイツは、同協定に従い、ほとんど全ての米軍人による事件につき第一次裁判権を放棄しています。)。また、米国が韓国と締結している米韓地位協定では、派遣国(米側)は、12種類の凶悪な犯罪の場合は韓国側による起訴時、それ以外の犯罪については判決確定後まで、被疑者を拘禁できることになっています。このように、日米地位協定の規定は、NATO地位協定と並んで受け入れ国にとって最も有利なものとなっています。
- (2)1995年に沖縄県で発生した少女暴行事件を受けて、米軍人等の身柄の引渡しに関して日米間で協議した結果、同年、殺人及び強姦について、起訴よりも前の段階で米側から身柄の引渡しがなされる途が開かれました(刑事裁判手続に関する日米合同委員会合意)。その後、6件の事件について、1995年の日米合同委員会合意に基づく起訴前の身柄引渡しの要請が行われ、そのうち、5件について起訴前の身柄引渡が実現しています(2002年11月に沖縄県で発生した婦女暴行未遂・器物損壊事件の被疑者の起訴前の身柄引渡しの要請については、米側は、日本側の説明を真摯に検討したものの、要請には応じられないとの回答でした。この被疑者の身柄は、起訴後に日本側に引き渡されました。)(日米地位協定Q&A問9)。
- (3)また、2004年4月、日米合同委員会において、日米間の捜査協力の強化等に関する日米合同委員会合意(仮訳(PDF)・英語版(PDF))が作成されました。この日米合同委員会合意により、1995年の日米合同委員会合意に基づく起訴前の身柄引渡しの対象となる事件について、米軍当局が速やかに捜査を行うことができるようにするため、その事件について捜査権限を有する米軍司令部の代表者が日本側当局による被疑者の取調べに同席することが認められることとなりました。
2 軍属に対する裁判権の行使
- (1)米軍人及び軍属による公務中の犯罪については、日米地位協定上、米側が第一次裁判権を有しています(第17条3(a))。このうち、軍属の公務中の犯罪について、日米地位協定の適切な実施という観点から、日米間で協議を行った結果、2011年11月、日米合同委員会において、軍属に対する裁判権の行使に関する運用についての新たな枠組みに合意しました(日米地位協定における軍属に対する裁判権の行使に関する運用についての新たな枠組みの合意)。
- (2)この枠組みは、軍属の公務中の犯罪について、事案により、日米いずれかの裁判によって適切に対応することを主眼とするものです。具体的には、米側が、事案に応じ、米国において刑事裁判にかけることができる手続を整備するとともに、米側が刑事裁判にかけない場合には、被害者が亡くなった事案などについて、日本側が裁判権を行使することについて米側に同意を要請することができ、これに対して米側が好意的考慮を払うとする手続を整備しました。
- (3)この枠組みが最初に適用された2011年1月の沖縄市における交通死亡事故については、日本側が裁判権を行使することについて米側に要請したところ、米側の同意が得られました。
3 「公務」の範囲に関する日米合同委員会合意の改正
- (1)1956年の「公務」の範囲に関する日米合同委員会合意は、米軍人等による通勤は公務としつつも、飲酒した上での自動車運転による通勤は公務ではないとする一方で、公の催事での飲酒後の自動車運転による通勤は、公務として取り扱われ得る余地を残していました。
- (2)公の催事での飲酒後の自動車運転による通勤が公務として取り扱われ得る余地があるという部分は、現在の社会通念には適合しないため、米側との間でこの日米合同委員会合意の見直しのための協議を行いました。その結果、2011年12月、日米合同委員会において、1956年の日米合同委員会合意を改正し、公の催事での飲酒の場合も含め、飲酒後の自動車運転による通勤は、いかなる場合であっても公務として取り扱わないこととすることで合意しました(日米地位協定の刑事裁判権に関する規定における「公務」の範囲に関する日米合同委員会合意の改正)。
- (3)実際には、米軍人等が飲酒運転をして通勤した場合、公の催事での飲酒であったときを含め、公務として取り扱われた事例はこれまで一例もないことを米側から確認していましたが、この日米合同委員会合意の改正によって、公の催事での飲酒の場合も含め、飲酒後の自動車運転による通勤は、いかなる場合であっても公務として取り扱わない、すなわち日本側が第一次裁判権を有することが正式な形で確保されました。
4 刑事裁判等の処分結果の相互通報制度に関する新たな枠組み
- (1)日米地位協定の下では、これまで、米軍人・軍属等によって日本国又は日本国民に対して行われた疑いのある犯罪に係る事件について、米側が第一次裁判権を行使した場合の処分結果については、裁判の最終結果のみが日本側に通報される仕組みとなっており、各審級の裁判結果や裁判によらずに科せられた懲戒処分については、通報の対象となっていませんでした。また、日本政府が通報を受けた処分結果について、日本政府が被害者や御家族に開示するための枠組みがありませんでした。
- (2)このため、これらを可能とするよう日米間で協議を行った結果、日米合同委員会において、新たな枠組みが合意されました。これにより、米側から日本側に対し、第一次裁判権を行使した全ての事件(我が国又は日本国民に対して行われた疑いのある犯罪に係る事件に限る。)について、あらゆる裁判の結果のほか、裁判によらない懲戒処分の結果や処分を行わないとの決定も通報されることになります。また、日本側がこれらの通報を受けたときは、裁判の結果のほか、米側による懲戒処分の事実について公表することができます。さらに、被害者又はその家族に対して、処分が行われなかった場合はその事実を開示することができるほか、米側の懲戒処分の内容について、被処分者の同意が得られた範囲内で、開示することが可能となります。