アジア

平成25年3月25日
第9回日本・シンガポール・シンポジウム 鈴木外務副大臣基調講演 1
グレース・フー首相府大臣兼第二外務大臣兼第二環境・水資源大臣、
トミー・コー共同議長及び
谷内正太郎共同議長
並びに御列席の皆様、
 
1.日・シンガポール・シンポジウムの意義
  • 外務副大臣の鈴木俊一です。
  • 本日は、日・シンガポール・シンポジウムにおいて、日本側を代表して基調講演をさせていただく機会を得ましたことを光栄に存じます。このシンポジウムは、1995年9月に第1回目が開催されて以来、今回で9回目の開催となります。このシンポジウムが継続して開催されていることは、両国の関係が順調であるとともに、両国が互いを必要とし、互いの役割を重視していることの表れであり、両国の貴重な資産と言っても過言ではありません。 
2.戦略環境の変化を踏まえた日本の役割
(戦略環境の変化)
  • さて、まず最初に、第1回シンポジウムが開催された1995年9月当時の状況を振り返ってみたいと思います。
  • 当時は冷戦の終焉が遠い過去ではなく、1992年の米軍のフィリピンからの撤退を受け、アジア太平洋地域における平和と安定を確保するために米国の同地域への関与の在り方が模索されていました。
  • また、中国の台頭については、当時もある程度想定されていましたが、当時の中国の一人当たりGDPは601ドルと、2012年の6,094ドルを比べるとほぼ10分の1の規模であり、実感として現状を予見することはなかなか困難であったであろうと思います。
  • ASEANについても、ベトナムが2か月前に加盟したばかりであり、ミャンマー、ラオス、カンボジアはまだASEANに加盟していませんでした。また、経済面でも、「ASEAN5」と総称されるインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ及びベトナムの経済規模は現在の約4分の1程度であり、その後アジア通貨危機と世界金融危機といった困難な時期を乗り越えてなお、ASEANが近年の急速な成長を果たすことなどはまだ誰も知るよしはありませんでした。
(日本の役割:地域の平和と繁栄のための積極的な役割)
  • しかし、現在、中国の台頭、北朝鮮の核実験・ミサイル発射、米国のアジア太平洋地域へのリバランシング、そしてASEANの存在感の高まりなどを我々は目の当たりにしています。北朝鮮の核・ミサイル開発や南シナ海をめぐる問題のように1995年当時から存在していた問題もありますが、現状は地域の戦略環境が大きく、かつ、急速に変化している時期にあると言えます。
  • このような状況において、日本はどのような役割を果たすべきでしょうか。
  • その答えは、安倍政権における戦略的外交、特に対ASEAN外交に明確に示されています。
  • 昨年末に安倍政権が発足した後、安倍総理、麻生副総理、岸田大臣が真っ先にシンガポールを始めとするASEAN各国を訪問しました。その際のメッセージの中心が、アジア太平洋地域の平和と繁栄を確保していくために、日本はより積極的な役割を果たしていくという強い決意表明でした。その際、シンガポールを始めとする各国から、地域・国際場裡における日本のより積極的な役割を歓迎するとのメッセージを頂いたことを非常に心強く思っております。
(日本外交の三つの柱)
  • この地域において、日本がより積極的な役割を果たしていくために、日本外交の三つの柱、すなわち日米同盟の強化、近隣諸国との協力関係の重視、日本経済再生に資する経済外交の強化を打ち出しています。この三つの柱を軸に、大局的な観点から外交を推進してまいります。
 
(第一の柱:我が国の外交・安全保障の基軸たる日米同盟の強化)
  • 第一の柱として、地域の厳しい安全保障環境や世界中の様々な脅威に対処するためには、日本の外交・安全保障の基軸である日米同盟の強化が不可欠です。日本はこれからも米国と幅広い分野での協力を進め、共に地域における役割と責任を果たしていきます。
(第二の柱:近隣諸国との関係の重視-ASEANとの連携-)
  • 次に、第二の柱として、近隣諸国との関係を重視し、大局的・戦略的視点を持って協力を推進します。この観点から、先に述べたとおり、ASEANとの関係は非常に重要です。日本は、伝統的にASEANとの関係を重視してきており、両者の友好協力関係は今年で40周年を迎えました。本年12月には日本で日・ASEAN特別首脳会議の開催を予定しており、日・ASEAN関係を新しい段階に更に高めていきたいと考えています。
  • 日・ASEAN関係の基本的方針となるのが、1月に安倍総理がジャカルタで発表した「対ASEAN外交5原則」であります。すなわち、第一に、ASEAN諸国と共に、自由、民主主義、基本的人権等の普遍的価値の定着及び拡大に共に努力をしていくこと。第二に、「力」でなく「法」が支配する自由で開かれた海洋は「公共財」であり、これをASEAN諸国と共に全力で守るとともに、米国のアジア重視を歓迎すること。第三に、様々な経済連携のネットワークを通じ、モノ、カネ、ヒト、サービスなど貿易及び投資の流れを一層進め、日本経済の再生につなげ、ASEAN各国と共に繁栄すること。第四に、アジアの多様な文化・伝統を共に守り、育てていくこと。第五に、未来を担う若い世代の交流を更に活発に行い、相互理解を促進すること。この5原則を踏まえ日本は、ASEANの対等なパートナーとして、ASEANと共に歩んでいきたい。そう考えています。
(第三の柱:経済外交の強化)
  • 第三の柱として、経済外交の強化が喫緊の課題です。この観点からも、日・ASEANの対等なパートナーシップが重要であり、その代表例が、多層的な経済連携のネットワークと言えるでしょう。資源に乏しく、自由で開放的な交易のネットワークを維持・強化していくことに国益を見いだす日本にとって、こうしたネットワークの存在は不可欠なものとなっています。昨年11月には、ASEAN10か国と日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インドの6か国が交渉に参加する東アジア地域包括的経済連携の立ち上げが宣言されました。また、先日、安倍総理は、TPP交渉に参加する旨表明いたしました。早期の交渉参加に向け、必要な準備を速やかに進めていく考えです。
(日・シンガポール関係の重要性)
  • ご存じのとおり、日本がこうしたネットワークをASEANと共に構築していく契機となったのが、地域経済のハブ機能を担うシンガポールとの経済連携協定の締結です。日本にとり、シンガポールは、ASEANとの経済関係におけるいわばゲートウェイであり、シンガポールとの二国間の経済関係の強化が、成長センターの一翼であるASEANとの経済関係の強化と日本経済の再生につながってきました。                    
  • このように、日本はシンガポールとの協力・連携を通じ、ASEANとの互恵関係をより深く、強くしていくことができます。友好協力40周年を迎えた日・ASEAN関係がますます重要性を増すことに伴い、日・シンガポール関係を強化する必要性もますます高まるものと確信します。
3.結語
  • 最後に、このシンポジウムも、そうした日・シンガポール協力の代表例の一つと言えるでしょう。日本にとり、シンガポールは、ASEANのオピニオン・リーダーとして、深い洞察に基づく建設的な意見を示唆してくれる有り難い存在です。シンガポールを通じ日本はASEANの考え方を知り、日本の考えをより効果的にASEANに届けることができます。
  • 今回も、こうした両国間の意義にふさわしい議題が設定され、それらを議論するにふさわしい各界の識者の皆様が参加されています。本日の議論が、日・シンガポール両国だけにとどまらず、日・ASEAN関係をより豊かにするヒントを与えてくれるような成果を心から期待し、私の基調講演の締めくくりとさせていただきます。
  • 御清聴ありがとうございました。

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