日本企業支援

平成25年3月25日
(天皇誕生日祝賀レセプション)
(日本酒紹介「Matsuri」イベント)
在インド大使館
一等書記官 磯野聡
 私ども在インド日本大使館の経済班は現在11名で構成され、外務省だけでなく経済産業省、財務省、国土交通省、総務省、農林水産省といった各省からの出向者による混成部隊ですが、「世界一しきいの低い大使館経済班」を目指して日夜皆様のビジネス・サポートに走り回っています。私は、「日本企業支援窓口」ということで、当館ホームページにEメールアドレスを掲載し、ビジネス上の問題点やご質問を随時受け付けています。すぐに回答したりアドバイスして差し上げられるご質問等には私から回答しますが、専門的なご質問や、対インド政府の働きかけが必要な案件は、それぞれの分野に精通し、インド政府関係部局とのパイプを構築してきている各担当官が引き取って対応する体制となっています。それら各分野の専門家が日系企業から直接相談を受けることもあります。また貿易実務に関するものは,当地JETRO事務所と相談しながら回答することもあります。その意味では、「窓口」を務める私だけでなく、経済班全員が、そして日本政府機関が一丸となって日本企業支援業務を行っています。当然ながら、担当官レベルで解決が難しい問題は、公使、大使のレベルに上げ、場合によっては、大臣級・首脳級といったハイレベルの会談において取り上げて解決を図ることもあります。

 インドは1991年に大きな政策転換を行い、それまでの社会主義的な計画経済から、民間企業の活動を大幅に自由化しました。それから20数年が経ちましたが、日系企業にとってまだまだ活動しにくい規制が残っていたり、役所による許認可のカベが厚く、案件が進まない例もしばしばです。前述のとおり、経済班員全員が日本企業支援担当官として、日々の問題解決に取り組んでいるのには、そうしたインド独特のビジネス環境がその背景にあるといえます。

 日印関係は良好で、2006年には互いに戦略的グローバル・パートナーシップ関係にあることを宣言し、その年からはほぼ毎年、日インド両国の首脳が相手国を相互訪問してきました。耳にされたことがあるかもしれませんが、首都ニュー・デリーの地下鉄網は日本の協力によるものですし、都市開発という観点から重要な、インドの国家事業である「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)」や、その構想の背骨に当たる「貨物専用鉄道建設計画(DFC)」は日本の官民がインド政府と一体になって推進しています。更には、チェンナイ-バンガロール間の南部インド開発の計画案を国際協力機構(JICA)が作成中であったり、インドでの高速鉄道構想について協議を進めたりしています。また、2011年に「日印包括的経済連携協定(CEPA)」が発効し、2012年には「日インド社会保障協定」が署名されました。当館は、このようにインドの開発を推進し、あるいはインド・ビジネスを行い易くするための環境づくりを通じて、日本企業のインドでの活動を支援しています。このように、様々な事業を推進しながら、平行して、各企業が直面する個別の問題にもひとつひとつ対応しているという訳です。企業活動の現地化の進展に伴って様々な問題が発生することがありますが、例えば労務問題については、事態拡大防止のためJETRO、商工会等関係者と連携して各社からの相談にのるとともに、州政府に対して当館ハイレベルで必要な申し入れを迅速に行うことにより、問題の解決を後押ししています。

 インド全体でみると、2012年10月現在、法人登録をしている日系企業は926社です。直近の3年ほどは、年間約100社のペースで増加してきました。デリー近辺の日系企業が構成する「インド日本商工会(JCCII)」も会員が約350社になりました。JCCIIは、年に一回、インド各地の日系商工会の意見を取りまとめ、対インド政府に対して「建議書」を提出していますが、この建議書を巡るインド政府との協議には当館がしっかり関与して、インド政府の対応を促してきています。これまで実現された、「最長3年間有効の数次就労査証の発給」、「追徴関税の実質上の撤廃」、「新規事業同意書(NOC)取得制度の撤廃」、「日インド社会保障協定の締結」などは、いずれも建議書に掲げられた主要要望でした。またJCCIIと当館は、実に1990年代前半から,200回以上に亘り毎月第三木曜日に「三木会」と称する情報交換会を大使公邸レセプション・ホールで開催しています。三木会には,商工会から毎回200名程の当地企業トップの方々が、また当館からは大使、公使ほかが参加し、直近のトピックについて情報交換を行っています。その他、大使公邸レセプション・ホール等の公邸施設を活用して、天皇誕生日レセプションの機会に日本企業産品の展示会を開催したり、日本食の試食会や日本酒・日本製ウイスキーの試飲会を行い、日系企業のインド進出支援を行ってきています。

 「窓口」に相談がある案件として最も多いのは、インドでの様々な手続がうまくいかず困っているケースです。私自身が受け持つ案件としては、日印CEPAに基づく原産地証明書をインドの地方税関が受け付けないといった問題や、インドの査証延長や外国人登録がうまくいかない問題が最も多く寄せられます。それ以外には、インド政府関係者との面会を実現するための支援、会計コンサルタントや法律事務所の紹介、あるいは日本語-英語の通訳の紹介という相談もあります。また,取引相手やパートナーとしてのインド企業を紹介して欲しい、あるいは複数のインド企業との商談会を開催したい、という相談もしばしばです。そのような場合、インドの各商工会議所やJCCIIの協力を仰ぎながら親身の対応を心がけています。業種別・地域別の日本企業によるビジネス・ミッション事務局からの依頼で、当地ビジネス関係者との会合を準備することもあります。

 中でも思い出深いのは、インド初の日本人パティシエによる洋菓子店の設立を支援したことです。ある起業家の方(Aさんとさせていただきます)から、「日本風の甘すぎないケーキ店の事業アイデアを持っているが、どこから手をつけてよいかも分からない、大使館は何をしてくれるだろうか」という相談を受けたのは2010年の秋でした。先方が手探りなら、私も手探りです。まずは、Aさんと当地駐在経験の長い日本人との面会の機会や、ケーキに一家言ありそうな当館館員夫人や女性館員を一同に集めての意見交換会を開催しました。いよいよ需要は大きそうだ、事業実現に向けて準備を始めるという段階になってからは、インド側パートナー選定や政府許可取得に際しての留意点、邦人居住地域情報、各種バザーや情報誌などの宣伝機会に関する情報などを提供しました。そして、Aさんの熱意により、私が相談を受けてから僅か1年後、首都デリーの副都心であるグルガオンに小さな洋菓子店がオープンしました。当初の商品はシュークリームの他、数点に種類が限られていましたが、開店1年以上が経ち、徐々に品ぞろえが広がってきました。

 インドは規制も多くインフラ整備も不十分。インド人ビジネスマンは交渉巧者でコストにからい、労賃も実は意外と安くない等々、ビジネスをする上で苦労が多い土地柄です。そうしたインドに対する評価は当たっている面もありますが、問題点ばかりに注目するのではなく、他国がまねできないインドの圧倒的な強み、例えば、人口12億の民主主義国家が10年、20年先にどのような巨大市場に育っているかを想像すれば、ビジネス・チャンスは限りなく大きいといえましょう。情報が限られ、やりづらい相手であるインドにおいてこそ、私どものお手伝いする役割、存在意義があろうと考える次第です。どうぞお気軽に「日本企業支援窓口」(下記)にご相談いただければ幸いです。
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