アフリカ開発会議(TICAD)
TICAD VI開会に当たって・安倍晋三日本国総理大臣基調演説
(2016年8月27日(土曜日))
(ケニア・ナイロビ,ケニヤッタ国際会議場)


皆さま,こんにちは。
ついにTICADが,アフリカにやってまいりました!!! お約束を,果たしました!!!
発足23年。TICADは,いまアフリカの土を踏みました。日本と,アフリカ諸国の関係に,新たな幕開けです。
アフリカの随所にいま,「クウォンタム・リープ」が起きている。私は,その思いを新たにいたします。
例えばすべての資金決済を,携帯電話が可能にするサービス。「フィンテック」の先端をいくものです。
アフリカ各国で広まるIDカード。もっていれば,社会保障給付を直接受け取れます。
アフリカはいま,旧来技術を飛び越え,最先端の質を目指している。ですから当然でしょう。面白い,関わりたいと思う日本の若者が,最近増えてきました。
例えば,「アフリカ・スキャン」。
青年海外協力隊員(JOCV)としてセネガルで働いた日本人女性,ハーバード大学でMBAを取った日本人男性,そしてケニアで育った男性。若者たちが出会い,ナイロビで作った会社です。
「ブルー・スプーン・キオスク」という,彼らの小売店に行くと,買い物ついでに,タダで血圧を測ってくれます。サービスのイノベーションです。
澤田霞(さわだ・かすみ)さん,おいででしたらお立ちください。元JOCV,いまアフリカ・スキャンを切り回す,若い日本の起業家をご覧ください!!!
大陸は,多くの協力隊員を鍛えてくれた。同じ大陸はいま,彼女のような,日本の若い起業家が,夢を追う場となりました。
ありがとうございます,澤田さん,どうぞお座りください。
そして皆さまはいま,2063年にはこんな国,大陸になっていたいと念じ,目標めがけて走っています。
構想の遠大さにおいて,アジェンダ2063に匹敵するものを知りません。
ところがこの巨大な大陸に,国連安保理の常任理事国がありません。アジェンダ2063は,2023年までに,これを正すと謳いました。全幅の支持を,私からお受け取りください。
国際社会に,自分たちの主張をより反映するよう求める当然の権利が,皆さまにはあります。2023年までに,アフリカは,常任理事国を送り出しているべきです。
国連安保理の改革こそは,日本とアフリカに共通の目標です。達成に向けともに歩むことを,皆さまに呼びかけます。ご賛同を,いただけますでしょうか。
アフリカはこの間,悲劇と無縁ではありませんでした。
エボラ出血熱が,1万人以上の命を奪いました。資源価格の低迷に悩む国があり,平和が破られた例があります。
でもそれで,アフリカは立ち止まってしまうのですか?
悲観主義くらい,アフリカの陽光と,大地に似合わない「主義」はない。そうじゃありませんか?
アフリカにあるどんな問題も,ひとえに,解決されることだけを目的に存在するのだと,私は思います。
そして日本は,アフリカが直面する問題を共に解きたいと熱望し,努力をやめない国なのです。
ひたすら未来を見て歩む皆さまの活力,自信の一端に触れたいと,そう思ったからでしょう,今回のTICADには,およそ70に及ぶ日本企業が,経営幹部を送ってくれた。榊原定征(さかきばら・さだゆき)経団連会長も来てくれました。まるで,日本の経済界がそっくり移動してきたようです。
アフリカが開く可能性は,日本と日本企業を,きっと力強く成長させる。――直感が,私たちを動かします。
日本企業には「質」への献身があり,人間一人,ひとりを大切にする,製造哲学があります。
経済,社会の建設にひたすら質を求めるアフリカで,日本と,日本企業の,力を活かすときが来た。それが,私たちを動かす直感です。
好機はのがしません。「日アフリカ官民経済フォーラム」をつくり,常設することを,ここで申し上げます。
日本政府の閣僚,それに経済団体や企業のトップが,3年に1度アフリカを訪れます。相手方と会い,日本とアフリカの企業がもっと一緒に仕事をするため何が必要か,ビジネスの目線で課題を特定しては,官民力を合わせて解こうとするフォーラムです。
日本とケニアは,今回投資協定に署名します。租税条約の交渉も始めます。
コートジボワールと始める投資協定の協議が,これに続きます。後には,さらに多くが控えています。
TICADがアフリカの地を踏んだ本年,日本企業や日本の若者が,アフリカの将来に高まる期待を寄せる今,日本とアフリカをつなぐパートナーシップは,真に互恵の段階へ入ったのです。
これからお話する日本の約束も,互いにとって利益となるものです。
3年前横浜で発表した日本の約束は,期限まで2年を残し,67パーセントを実行しました。
本日の新たな約束は,3年前のプランを充実させ,発展させるもので,モチーフは,「クオリティ・アンド・エンパワーメント」です。今年,日本が,伊勢志摩という地を舞台に開いたG7サミットの成果を反映させました。
昨年は,SDGsで合意を見,COP21で,前進を遂げました。大きなアフリカ開発国際会議として,それらを受け初めてとなるのが今回のTICADです。
ちょうどその中間で,日本がG7サミットを催すからには,ぜひ,アフリカを後押しする場にしたい。それが私の願いでした。 「クオリティ・アンド・エンパワーメント」の考えが生まれた背景です。
同じモチーフのもと,G7サミットは,保健分野に,アフリカを強くするカギがあるのだと強調しました。この分野で起きた近年の動きを集大成し,今後の方向を尖鋭にする理念を打ちだしました。この点には,後でまた戻ります。
「質の高い」,「強靭な」,「安定した」という,3つの修飾語をアフリカにつけてみます。それこそ日本が,皆さまとともに目指すアフリカの姿です。
「質の高いアフリカ」を,インフラ,人材,「カイゼン」の三要素がつくります。
インフラには,電力があり,都市交通システムがあります。資源開発のためにも,アフリカ全土のつながりを良くするにも,道路や,港の整備が必要です。
それらはあくまで,「質の高いインフラ」であるべきだ。G7サミットは決意を共有し,中身を「伊勢志摩原則」に書き込みました。
日本は率先し,インフラづくりのため,向こう3年で約100億ドルをアフリカへ振り向けます。一部はアフリカ開発銀行との協力で実行します。
発電容量は,2000メガワット増えるでしょう。有望なのが,日本の技術を使える地熱発電です。地熱が生む発電量は,2022年,300万世帯の需要をまかなっているはずです。
次に,人材。
「ABEイニシアティブ」でアフリカから日本に留学した将来の経営幹部たちは,じき1,000人に達します。
ABEイニシアティブに,今回,新機軸を入れます。
育てたいのは,将来の職長,工場長。現場の指導者たちです。3年間で,約1,500人育成します。
「コウセン(高専)」といって,エンジニア養成専門の高等教育システムが日本にあります。アフリカに,もってきます。
産業の基礎を支える人材を,2018年までに,合計3万人生み出したい。日本とアフリカの力で育てるのが狙いです。
そしてご存じの「カイゼン」です。
カイゼンは,製造ラインで働く人々の創意,工夫で生産性を上げ,不良品を減らします。根底に,働く一人,ひとりへの信頼がある。日本の生んだ思想と方法です。
日本はNEPADと協力し,カイゼンをアフリカ中に広めます。導入した工場の生産性が,3割伸びるのを目指します。
不可能ではありません。エチオピアに,ピーコック・シューという靴メーカーがあります。17回カイゼンの訓練を受けたら,日産500足が800足に,6割も増えました。
「強靭なアフリカ」は,病に負けないアフリカです。
エボラ出血熱のような公衆衛生危機が起きたら,大切なことは2つ。即応態勢が現地にあること。国際社会全体で取り組むことです。
日本は,感染症に立ち向かう専門家と政策人材を,3年で2万人育てます。
日本はG7サミットで,保健分野へ向けた貢献策を示しました。その5億ドル以上が,アフリカの保健システム強化,感染症対策のため,グローバル・ファンドや,世銀の「パンデミック緊急ファシリティ」を通じて向かいます。これによって,30万人以上の命を救えるはずです。
もとより,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ,UHCを進めることがすべての基礎になります。
UHCを推し進めるため,モデルとなる国を選んで支援を重点的につぎ込み,そこを突破口に,各地にUHCが広まるよう努めます。目標は,基礎的保健サービスに浴せる人口を,向こう3年で200万人増やすことです。UHCの推進には,もちろん国際機関と力を合わせて臨みます。
「食と栄養のアフリカ・イニシアティブ(IFNA)」を始めることも申し上げます。栄養こそは,保健の基礎ですから,そこをNEPADと一緒に進める施策です。
「安定したアフリカ」は,平和をもたらし,安全の基礎づくりに懸命なアフリカです。
日本の自衛隊はいま,ケニア政府ご協力のもと,ナイロビ郊外で,工兵に重機の操作を伝えています。
紛争が終わり,国造りが始まっても,重機の操作ができないと仕事が進みません。自衛隊の活動は,国連PKOの地力を強めるものです。隊員諸君はその意味を深く理解し,奮闘しています。
自衛隊がアフリカのPKOに初めて取り組んだのは,モザンビークにおいて,1993年のこと,TICAD発足と同じ年でした。
以来自衛隊の培った信頼が,可能とさせた人づくりの仕事です。「国際協調にもとづく積極的平和主義」を掲げる日本にとって,喜ぶべき発展です。
「安定したアフリカ」とはまた,若者たちが確かな自信をもち,自分を大切にするアフリカです。
若者に自信と夢をもたせるため,日本は向こう3年で,5万人に職業訓練を提供いたしましょう。
質の高い,強靭で,安定したアフリカのため,日本は2016年からの3年で,1,000万人のエンパワーメント,すなわち人づくりを実施します。
民間企業の投資を合わせると,総額は300億ドルにのぼるでしょう。アフリカの未来を信じる投資,日本とアフリカが,互いに伸びていくための投資です。
TICADが始まって23年,日本がアフリカに向け実施したODAの総額は,470億ドルにのぼります。いまや,民間企業が本格的に加わって,日本とアフリカの関係は,さらなる高みを目指そうとしています。
アジアの海とインド洋を越え,ナイロビに来ると,アジアとアフリカをつなぐのは,海の道だとよくわかります。
世界に安定,繁栄を与えるのは,自由で開かれた2つの大洋,2つの大陸の結合が生む,偉大な躍動にほかなりません。
日本は,太平洋とインド洋,アジアとアフリカの交わりを,力や威圧と無縁で,自由と,法の支配,市場経済を重んじる場として育て,豊かにする責任をにないます。
両大陸をつなぐ海を,平和な,ルールの支配する海とするため,アフリカの皆さまと一緒に働きたい。それが日本の願いです。
大洋を渡る風は,わたしたちの目を未来に向けます。
サプライ・チェーンはもう,アジアとアフリカに,あたかも巨大な橋を架け,産業の知恵を伝えつつある。アジアはいまや,他のどこより多く,民主主義人口を抱えています。
アジアで根づいた民主主義,法の支配,市場経済のもとでの成長――,それらの生んだ自信と責任意識が,やさしい風とともにアフリカ全土を包むこと。それがわたしの願いです。
アジアからアフリカに及ぶ一帯を,成長と繁栄の大動脈にしようではありませんか。アフリカと日本と,構想を共有し,共に進めていきましょう。
未来は,明るい色彩に満ちています。激しくも心地よい,太鼓のビートが聞こえてくるようです。アフリカの友人たち,皆さま,これからも,未来の可能性を信じ,一緒に歩いてまいりましょう。
ありがとうございました。