寄稿・インタビュー
岩屋外務大臣のハンデルス・ブラット紙(ドイツ)への書面インタビュー
令和7年8月21日
「開発援助:日本は資源豊富なアフリカに売り込み–欧州は距離を置く/アフリカには鉱物資源と市場がある。欧州が投資に消極的な一方、日本は協力を強化している。日本の岩屋外務大臣がハンデルスブラット紙に詳細を明かした。」
(ケリング(Martin Kölling)在京特派員)
記事本文
- 日本はアフリカとの経済的協力を大幅に拡大する考えである。岩屋外務大臣はハンデルスブラット紙に対し、「アフリカ大陸は、若い人口、更には豊富な鉱物資源に恵まれ、ダイナミックで、経済的な潜在力にあふれた地域である」と語った。
- 20日から横浜で開催されている「TICAD 9」で、日本はこの新戦略の概要を発表する。22日まで、アフリカ諸国の代表者は、この大陸の課題についての解決策を見出し、新たな投資のバランスを調整するため、ホスト国(日本)と話し合う。
- 欧州と米国が開発援助を削減する中、日本は明らかにその地政学的空白を埋めようとしている。「私たちは重要な岐路に立っている」と、みずほ銀行のアナリストである舘林明日香氏は述べる。
- 舘林氏は、「米国は内向きになり、関税を使って脅しをかける一方で、欧州は防衛費に資金を振り向けている」と指摘し、この間に中国はアフリカでの影響力を拡大している、「このため、この大陸の戦略的役割が高まっている」と述べる。そして、東京のとるべき対応は、日本政府が民間経済を前例のない規模で動員し、投資を促進することだという。
- 岩屋大臣は、ハンデルスブラット紙のインタビューで、1つのやや古典的なアプローチは、アフリカでの教育支援のイニシアティブであると強調し、今後3年間で、3万人のAI分野の専門家、3万5千人の保健医療専門家、15万人の教師を含む、30万人の人材育成を行う考えであるという。
- 岩屋大臣は、「我が国はこれまで、『国づくりは人づくり』という考え方の下、きめ細やかな人づくり、質の高いインフラの整備、法制度構築を推進してきた」と述べる。
- (岩屋大臣は、)そこで、貧困撲滅だけではなく、TICAD 9では、「日本の技術や知見を活かしながら、日本とアフリカ双方の繁栄につながるような」プロジェクト」も重要視されていると述べる。
- 今回新しいのは、自国の経済に焦点を当てていることである。岩屋大臣は、「日本の対アフリカ戦略において、商社を含む日本企業は、大変重要な役割を担っている」と説明する。2019年に開催された前回のTICADでは、企業が初めて公式パートナーとして参加したが、今回はその役割が更に重要になっている。
- 日本の対外貿易を行ってきた日本の商社は、アフリカに長い間投資を行ってきていた。今、その取組みは加速している。外務省によると、TICAD 9では、日本企業による300件を超える新たな協力プロジェクトが締結され、3年前と比べて3倍以上に増加したという。岩屋大臣は、「外務省は、民間セクター主導の持続可能な開発を重視している」と述べた。
- 同時に、日本は民間投資を、開発援助によって支援する考えである。この目的のために政府は今年、開発援助法を改正した。更に、アフリカ開発銀行との融資イニシアティブを55億ドルに拡充し、日本の開発援助機関であるJICAを通じて、公的・民間投資を合わせて15億ドルを動員する考えである。
- 加えて、日本は2つのプロジェクトを計画している。
- 「ナカラ回廊」の共同開発:日本は、融資と補助金を通じて、鉱物資源が豊富な内陸国ザンビアとマラウイをモザンビークのナカラ港と結ぶことを支援する。重要な鉱物資源の独自の供給網を確保することが目的である。
- 「インド洋・アフリカ経済圏」の強化:アフリカから湾岸諸国を超えてインドまで達するこの地域において、インドや湾岸諸国で活動する多くの日本企業への支援を拡大することで、政府は今後、アフリカへの民間投資をさらに拡大する方針である。
- 日本の対アフリカ戦略は、天然資源へのアクセスとサプライチェーンの確保にも焦点を当てている。岩屋大臣は、AUがG20のメンバーとなったことで、アフリカは国際社会の秩序作りを担う重要なプレーヤーになってきており、「そのため、アフリカの未来に投資していくことは重要」であると述べる。
- 同時に、岩屋大臣は、開発援助を革新する必要性も指摘し、「開発途上国の問題を開発援助だけで解決するというアプローチは、もはや限界に来た」と言う。
- 同外相は、伝統的なドナー国からの支援は減少する一方、新興国から新たなドナー国が登場している、民間企業の関与も拡大している、日本は今こそ「時代に即した国際協力の新しい仕組みを構築したい」と述べる。
- 日本は、この取組みにおいて非常に具体的な目標を掲げている。アフリカの54か国に対し、中国の大規模なアフリカへのインフラ投資の代替案を提供することである。日本は中国と異なり、現地の自主的な取組みを基盤としたコンセプトに焦点を当てている。
- この計画が成功するのか、大きな疑問は残る。地政学の専門家である舘林氏は、総投資額が90億ドルに過ぎない日本は、アフリカという大きな舞台ではまだ小さなプレーヤーに過ぎないと指摘する。
- 一方で明らかな成果もある。過去15年間で、アフリカで活動する日本企業はほぼ2倍の約950社に増加した。舘林氏は「興味深いことに、最近の勢いは大企業よりも中小企業やスタートアップ企業から生まれている」と言う。大企業はリスクを恐れて躊躇する傾向が強かったのである。
- しかし、この状況は変わる可能性がある。ナイジェリアのUhuru Investment Partnersの経営責任者であるYemi Osindero氏は、「拡大の動き」と、欧州や米国と比べて明らかに多くの参入が起きていることを既に認識している。
- 同氏は、特に日本の自動車メーカーや家電製品、その他の消費財メーカーは、より積極的に参入していると指摘する。また、中国企業とは異なり、工場を建設する動きも見られ、「日本の人口が減少しているため、新たな市場を探している」、「アフリカはその市場の一つとなる可能性がある」と説明する。
- 一方、ナイジェリアのオンライン・バンキング・サービスプロバイダーMoniepointの創設者であるTosin Eniolorunda氏は、日本とそのブランドは素晴らしい名声を誇っているが、中国が追いついてきている、ナイジェリアの携帯電話市場は既にHuaweiやXiaomiなどのメーカーが主流になっており、「フィンテック分野でも中国は存在感を示している」と指摘する。彼の結論は、日本はもはや時間を無駄にできないということである。