アフリカ開発会議(TICAD)

令和元(2019)年8月28日,パシフィコ横浜

令和元年8月28日

 皆様,ようこそ横浜へ。

 3年前,TICADVIをともにホストくださったケニヤッタ大統領,そして今回の共同議長,エルシーシ大統領に感謝を申し上げ,ここに,「アフリカに躍進を! 人,技術,イノベーションで。」を主題とするTICAD7の開会を宣言します。

 この3年,日本からアフリカへの民間投資が,200億ドルに達しました。

 1世紀を超す歴史をもつ会社から,新興企業まで。投資の主体には豊かなバリエーションがあり,皆アフリカに価値を求めています。

 ご紹介しましょう。ナイロビで産声をあげ,いまが伸び盛りの「New TICAD」です。

 私たちのNew TICADは,「ダブルEダブルIの,偉大な跳躍台」です。

 アントレプレナーシップとエンタープライズのダブルE。そのインベストメントとイノベーションのダブルIを,高みへ押し上げるパートナーシップです。

 お約束します。3年で200億ドルという民間投資の勢いが,この先,日々新たに塗り替えられるよう,日本政府は全力を尽くします。

 例えば現地の金融機関と協力し,貿易保険で10割カバーできる仕組みを作ります。

 日本企業のアフリカ進出を助けるため,あらん限りの策を講じます。

 ダブルEダブルIを,New TICADはどこまでも守り立てます。

 新時代の旗手に,おいで頂きました。

 仲本千津さん。

 ウガンダの工房で,シングルマザーや,子供時代に兵士だった人を雇っておいでです。

 その人たちは働きながら,自らへの自信をつけます。工房は,彼らが「セルフ・エスティーム」を育てる場所なのです。

 だから,でしょうか。日本の女性に向けて仲本さんがウガンダで作るカバンは,色彩の豊かさがひときわ目を引きます。

 一人の日本女性の投資が,ウガンダ女性たちの自信を育て,美しい商品へ結晶する循環ができました。日本とアフリカの協働が生む,新たな物語の誕生です。

 目を,地球の外に上げてみます。

 もうじきそこに,ルワンダが東京大学と一緒に作った小型衛星が現れます。ルワンダの作付けや,水資源の様子を宇宙から見る衛星です。

 今度は,海に潜ります。

 アンゴラと,ブラジルが,巨大な容量の海底ケーブルでつながったのは昨年10月1日でした。

 アフリカ・南米・直結ケーブルは史上初。通信の歴史に輝く達成です。

 6,165kmに及んだケーブルを敷いたのは,日本のNECだと申し上げるとき,私は,喜びを感じずにいられません。

 繰り返しましょう。アフリカの未来に賭ける日本の事業者たちを,わが政府は,New TICADは,全力で支援します。

 科学と,技術,イノベーションが,アフリカの課題を解く時代です。

 エジプト日本科学技術大学,ケニアのジョモケニヤッタ大学をセンターとして,STIの未来を担う若者5,000人を育てます。

 彼らの次世代たちを,切れ目なく育てたい。それには理科や数学を,わかる学科にすることです。日本とアフリカの協働は,この取り組みを含みながら,いま初等教育の場を大きく変えています。

 教室の掃除,ランチの配膳を教育の一環と考える日本流が,エジプトの小学校で普及の緒に就きました。

 地域コミュニティと学校運営を結びつけ,学校を「みんなのもの」にするプロジェクトは,JICAによってニジェールで始まり,ブルキナファソ,セネガルなどで4万校以上に広まりました。

 初等教育の改善によって恩恵を受ける子供たちの数を,300万人にするのが当面の目標です。

 こんなふうに人づくりこそは,日本がアフリカで最も力を込めてきたことです。

 ABEイニシアティブで産業を担う人材として育った若者は,今までの5年,2,700人近くに達しました。

 アフリカ側の応募者が増え,競争率は今や20倍。

 彼らをインターンとして迎える日本企業の数は,当初の5.4倍,358社です。

 うち1社が,兵庫県の「音羽電機工業」でした。

 避雷技術で世界一を目指す音羽に,ABEイニシアティブの若者がやってきました。

 ルワンダの青年,レイモンド・ンダイサバさん。落雷で命を落とす人が彼の国には年間100人いると伝え,音羽にルワンダ進出を促しました。2年前です。

 ABEイニシアティブは,日本企業とアフリカの,確かなブリッジなのです。

 New TICADは,「ABEイニシアティブ3.0」を始めます。日本企業の,一層頼もしい先導者となってくれるのを願って,今後6年,3,000人の養成を目指します。

 ここから,健康と医療のお話に移ります。

 先日の大阪G20で,日本政府はグローバル・ファンドに新たな資金を出す約束をしました。

 TICADの歴史を通じ,「人間の安全保障」を常に重んじたのが日本です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは,ジャパン・ブランドそのものです。

 日本政府は,アフリカで,新たに300万人の人に,UHCを及ぼすことをお約束します。

 UHCに欠かせないワクチン供与を担ってきたGaviと日本は,同志にして,同伴者です。Gaviの増資を議論する準備会合を,私の政府がもうじきホストすることを申し添えておきましょう。

 武居光雄先生,おいででしょうか?

 武居先生は,九州の大分という地で,病院を営んでおいでです。

 かたわらケニアのナクルで貧困地域に入り,5万人を超す人たちを診て来られた。

 そのお見立てでは,アフリカでいま,糖尿病など生活習慣病の患者が急増している。感染症との闘いに加え,高度化した医療の需要に応じる必要があるというのです。

 病気ごとの対処を超え,人の一生を総合的にとらえる仕組みが必要になりました。

 上下水道のような健康のインフラから,発育阻害を防ぐ栄養指導,医療機器を活用する高度診療まで。

 アフリカに必要なのは,医療と健康のエコシステムです。広い裾野と高い頂をもつ,富士山のような仕組みです。

 この際,私の政府は,来年開く「東京栄養サミット」をにらみ,「アフリカ健康構想」をスタートさせます。

 裾野から頂まで,日本が蓄えた知見と技術が,アフリカ諸国へ移転できるようにする試みです。まずはアフリカ数か国と,協力の覚書を交わします。

 近年,エチオピアとエリトリアの国交が正常化しました。中央アフリカで,和平が進みます。

 この間,日本の支援は,2011年以来南スーダンで,2万個を上回る地雷・不発弾を取り去りました。

 和平がなると,道路が必要になります。延べ149名の自衛隊員等が,アフリカで,国連PKOを担う8か国の工兵246人に,ブルドーザーなど重機の操作を伝えました。

 そして本日この瞬間も,ジブチをベースに,日本の自衛隊が海賊対策に当たっています。

 お集まりの皆様,

 アフリカに対する日本の関わりは,医療であれ,地雷除去であれ,港や道路のような,質の高いインフラづくりにしても同様ですが,時間軸が極めて長い。一回限りの事業は,ほとんどありません。

 ご覧頂きたいのは,「アフリカのきれいな街プラットフォーム」です。

 日本とアフリカ36か国,国連機関が力を寄せ合い,アフリカの街からゴミを減らし,再利用・再生する試みです。10年単位で,努力が必要な事業です。

 日本は,それだけの時間を皆様と過ごす,それも,嬉々として働く用意のある専門家に事欠かないことは,皆様ご存知の通りです。

 日本には,アフリカと一緒にやりたいことがあります。

 アフリカと日本を結ぶインド太平洋を,法の支配が貫く国際公共財として,大切に守ること。

 水と,海を慈しむ国民として,皆様の「ブルーエコノミー」構想に,意味のある貢献をすること。

 私たちが共に歩むその先には,国連安保理改革が,アフリカ,日本,共同の課題として,依然その解決を待っています。

 最後に,New TICADが,アフリカの繁栄を願って打ち出すアイデアを聞いてください。本日,初めて申します。

 日本の,New Approach for Peace and Stability in Africa,略してNAPSAというものです。

 NAPSAは,AUや,地域経済共同体と協力し,紛争の予防,仲介,調停の努力を助けます。

 NAPSAはまた,ネイション・ビルディングが紛争によって後戻りしないよう,司法や行政,立法の制度を確かなものとするお手伝いをします。

 日本政府はこれまで,アフリカ39国から,676人にのぼる警察官,検察官,裁判官を受け入れ,刑事司法や犯罪防止の知見を広めてきました。

 「国連アジア極東犯罪防止研修所」という,東京にある組織の達成です。

 2013年度から18年度にかけては,アフリカ各国の警察官140人強が,日本の警察庁に来て研修を受けてもいます。

 こうした実績に誇りを託し,NAPSAに取りかかろうとする日本を突き動かすのは,TICADの精神そのものです。

 アフリカの未来に,ひたすら光明のみを見続けたTICADは,過たなかった。アフリカの力を信じた一点において,あくまでも正しかった。

 オーナーシップと,パートナーシップ,人間一人,ひとりを大切にするTICADの哲学は,寸毫も揺るがず,アフリカと,日本の,行く手を導き続けるでありましょう。

 ありがとうございました。


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