世界の医療事情
レバノン
1 国名・都市名(国際電話番号)
レバノン共和国(国際電話番号961)
2 公館の住所・電話番号
- 在レバノン日本国大使館(毎週土曜日、日曜日休館)
- 住所:Serail Hill Area, Army Street, Zokak El-Blat, Beirut, Lebanon.
- 電話:(0)1-989751
- ホームページ:在レバノン日本国大使館
(注)土曜日、日曜日以外の休館日は暦年ごとにホームページにて案内していますので、ご覧ください。
4 衛生・医療事情一般
レバノンは東地中海沿岸にある小さな国で、国土の中心を南北に走るレバノン山脈を中心に西側の海を臨むエリアと、東側のベカー高原に分けられます。全土が地中海性気候に分類されますが、山間部には2000m級の山々を有し、夏は避暑地、冬は雪景色へと変化する地域もあります。
レバノンで提供される医療水準には「公低私高」の格差があり、公立病院では時に全面ストライキもおこります。現地人も皆保険とは別に民間保険に加入し、より安全で高度な医療の確保に努めます。2019年10月の大規模抗議デモの発生を発端として政治混乱が生じ、2020年3月には事実上のデフォルト(債務不履行)が宣言されて、経済危機に陥り、同年8月のベイルート港爆発事故なども相まって、現在(2024年10月)に至るまで、高いインフレ率など経済面での回復の遅れが長引いています。首都ベイルートには欧米の大学との提携を謳う私立病院が複数あり、高度医療を提供していましたが、外貨を稼ぐために、医師・医療技術者等の人材流出が続き、運営・品質維持が不安定な状況となっています。また流通も混乱しており、薬局では国産および欧州を含む近隣諸国からの輸入医薬品の品不足、在庫切れがしばしば生じています。このような情勢不安の中、23年10月以降、隣国との戦闘状態が悪化し、治安、経済、医療などさまざまな面で影響が出始めています。当地来訪の際は最新の安全情報を必ずご確認下さい。当地では日本語で受診できる医療機関はありませんが、一般に英語・フランス語が通じます。
国のインフラ整備に対する取り組みは遅れており、ゴミ問題による土壌や水質の汚染、電力不足を補う自家発電機の多用による大気汚染は深刻になっています。水道水は飲用に適さず、ミネラルウオーターを用いるのが一般的です。首都でも水道の供給・管理能力不足にインフラの老朽化などの問題も重なって、水質は不安定です。市中の各家庭は買い水による給水が通常のため、水質は住居(物件)ごとで異なっていますので、安全な水を独自に確保する必要があります。
5 かかり易い病気・怪我、健康上心がけること
マラリアやデング熱などの熱帯感染症はありません。2022年5月には、下水の上水道への混入によるA型肝炎の中規模な流行が報告され、10月には30年ぶりにコレラの症例が報告されており、十分な注意が必要です。2024年のA型肝炎発症例は9月初め時点で既に1678件報告されていますが感染爆発は起こっていません。当地では急性水様性下痢症が年中生じていますが、2024年のコレラ発症は認められていません。引き続き小規模な流行性感染症に関しましては、最新の情報をご確認ください。その他、日常生活において特に注意すべき風土病はありません。
(1)食中毒
夜間の長時間の計画停電の中、突発的な日中の停電も頻発しているため、食品管理が行き届かない飲食店が多くなり、外食後によく発生しています。原因の90%近くが大腸菌によるものとの報告があります。気温が高くなる時期には、自宅での食材の保存・調理にも注意を要します。また、前述の水質汚染に関連する問題で「近海魚は食べない方がよい」などの注意を耳にします。これらは主に水銀など重金属汚染に警鐘を鳴らすものです。
(2)熱中症
特に夏期は日差しが強いので、日焼け止め・帽子・サングラスなどの対策も必要です。長時間の外出では水分・塩分補給を心がけてください。
(3)大気汚染
交通渋滞や電力供給不足を補う自家発電機の普及・多用により、大気汚染が深刻になっています。呼吸器疾患、アレルギー疾患を助長するので注意が必要です。2020年の港湾地区爆発事故後に半壊していた食物貯蔵庫が、2022年7月の一部倒壊事故を起こした際、サイロに長期間死蔵されていた大量の小麦の中で増殖していたカビの一種(アスペルギルス)が、市中数キロの範囲で拡散・散布され、アレルギーや肺炎を起こす事態を招きました。2024年現在も電力供給は安定しておらず病院、空港などでも自家発電が続いている状態で、大気汚染が改善する見通しは立っていません。
(4)運動不足
車移動が多く、公園や運動場がほとんどありませんので、工夫して体を動かすことを心がける必要があります。会員制のスポーツジムがあります。
(5)交通事故
交通事故は遭遇する危険性の高い問題です。整備不十分な歩道、路肩を埋め尽くす縦列駐車などは歩行者に優しい環境でないうえ、頻繁な逆走など車が道路標識に従わないのは当たりまえです。特に交通ルール関係なしに縦横無尽に走りぬけるバイクは、歩行者にとっても運転者にとっても脅威です。債務不履行後の計画停電により、夜間にほとんどの街灯は消えたままでしたが一部復帰の兆しが認められます。未だ多くの信号機は消えているため、車の運転には過酷な状況となっています。クラクションを鳴らされても、無理な横入りをされても、乱されず常に安全第一の意識が大切です。
(6)メンタルヘルスの不調
一般に在外生活ではそれまで感じなかった様々なストレスを抱えることがあります。現地に早く適応しようと焦ることがかえって、精神的な不調を招くこともあります。悩みすぎる前に誰かに相談してください。積極的に体を動かしてリフレッシュする、日本の家族や友人と日本語で気兼ねなく話をすることなどでも、気持ちを切り替えられることがあります。当地では長期化している経済の悪化、戦争の危惧などに伴って市民のいらいらが募っており、日常的なデモや犯罪の件数が増えている状況下にあるため、精神的な面でもこれらの環境に巻き込まれないよう十分な注意が必要です。
6 予防接種(ワクチン接種機関含む)
(1)赴任者に必要な予防接種
入国に際して接種が求められるワクチンはありませんが、成人までに推奨される一連の予防接種に加えA型、B型肝炎と破傷風と狂犬病ワクチン等を検討されるとよいでしょう。
(2)現地の小児定期予防接種一覧
本邦で通常無償で受けることが出来る乳幼児予防接種は、当地ではすべて有料です。
初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 | 7回目 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ポリオ | 2か月 IPV |
4か月 OPV |
6か月 OPV |
18か月 OPV/ B1 |
4から5歳 OPV/ B2 |
10から12歳 OPV/ B3 |
16から18歳 OPV/ B4 |
5種混合 | 2か月 | 4か月 | 6か月 | 18か月 B1 |
4から5歳 DPT/ B2 |
10から12歳 DT/ B3 |
16から18歳 DT/ B4 |
MMR | 12か月 | 18か月 | |||||
B型肝炎 | 出生時 | ||||||
肺炎球菌 (PCV13) |
4か月 | 6か月 | 12か月 B |
- IPV:不活化ポリオワクチン(注射)、OPV:生ワクチン(経口)
- 5種混合:DPT+B型肝炎+Hib(ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型)、5回目以降はDPT/DTとして接種
- DPT:D(ジフテリア)+P(百日咳)+T(破傷風)
- MMR:M(麻疹)+M(流行性耳下腺炎)+R(風疹)、9か月時に麻疹単独の1回接種があります。
- B型肝炎:追加接種
- 任意接種ワクチン:A型肝炎、子宮頸がんワクチン、水痘、髄膜炎菌、季節性インフルエンザ、ロタウイルス
(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明
小児が現地校に入学・入園する際には予防接種証明書が要求されます。
(注)当地のワクチン接種事業では十分量の供給が行われておりますが、家庭の経済的問題で小児の予防接種率が低下していることが大きな問題となっています。決められた予防接種を行うことによりお子様の身を守るように心がけてください。
(4)乳児健診
出生した子供には母子手帳が交付され、その中に予防接種スケジュールが記載されていますが、乳児健診は保護者の任意で行われます。小児科医を訪ねて小児予防接種とセットで乳児健診を依頼してください。
7 病気になった場合(医療機関等)
特定の医師や専門外来を受診するには、前もって予約する必要があります。しかし下記のいずれの医療機関も24時間オープンの救急部門があり、急患としていつでも診察が受けられます。入院の場合は相当額の預託金を請求されます。かつては病院での精算はカード払いできることも多かったのですが、開業医を含め当地の医療機関を受診する際は、相当額の米ドルによる現金払いの準備が必要です。
緊急時にはダイヤル「140」番で救急車を要請できます。この公営救急車は、レバノン赤十字社に業務委託されており、無料で原則最寄りの医療機関に搬送します。特定の病院を希望する場合はその病院に電話して病院が保有する救急車を要請します。時間によっては渋滞などで救急車の到着が遅れますので、自家用車またはタクシーを呼んでできるだけはやく病院を受診してください。地方での緊急時には、可及的速やかにベイルートの病院へ移動することも検討してください。
(首都)ベイルート
- (1)CMC(Clemenceau Medical Center)
- 所在地:Maamari Steet, Clemenceau
- 電話:(0)1-372888、Hotline 1240
- ホームページ:Clemenceau Medical Center(英語)
- 概要:米国のJohns Hopkins Internationalと提携している私立総合病院です。最新の医療設備が完備され高度な医療を提供しています。
- (2)AUBMC(American University of Beirut Medical Center)
- 所在地:Bliss Street, Hamra
- 電話:(0)1-350000、Hotline 1242
- ホームページ:American University of Beirut Medical Center(英語)
- 概要:最新の医療設備が完備した大学付属総合病院。国際クレジットカードの使用が可能(2022年10月現在)。
- (3)Trad Hospital Medical Center
- 所在地:53, Mexique Street, Clemenceau
- 電話:(0)1-369494
- ホームページ:http://www.hopitaltrad.com/
- 概要:1939年設立の産婦人科に定評がある歴史の長い私立総合病院で、二次医療まで対応。
8 その他の詳細情報入手先
9 一口メモ(現地語)
医師 | ハキム |
内服薬 | ダワ |
注射 | イブレッ |
頭痛 | ワジャァ ラス |
胸痛 | アラム ビル スドゥル |
咳 | サーラ |
腹痛 | アラム ビル マーイダ |
下痢 | アスハル |
発熱 | ハラーラ |
吐き気 | ムラージャア/タカユゥ |
傷 | ジャラハ |
具合が悪い。 | アナ マリード(男性) アナ マリーダ(女性) |
病院へ連れて行ってください。 | イザ ビトリッ フドニ アァル イヤデェ |
「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモを参照ください。