世界の医療事情

令和2年10月1日

1 国名・都市名(国際電話番号)

 アフガニスタン・イスラム共和国(カブール)(国際電話国番号93)

2 公館の住所・電話番号

在アフガニスタン日本国大使館(毎週金曜日、土曜日休館)
住所:Embassy of Japan, Street 15, Wazir Akbar Khan, Kabul, Afghanistan
電話:(870-772) 254-504
Fax:(870-782) 255-50
ホームページ:在アフガニスタン日本国大使館別ウィンドウで開く

(注)金曜日、土曜日以外の休館日は暦年ごとにホームページにて案内していますので、ご覧ください。

4 衛生・医療事情一般

(1)気候・地誌、環境

 首都カブールは北緯38度と東京とほぼ同じ緯度ですが、かなり気候は異なります。内陸部に位置し、標高が約1,800メートルと高いことより、大陸性気候、低湿度であり、年間および一日内の寒暖の差が激しいです。大別して4から11月の乾期と12から3月の雨期に分かれ、雨季と乾季の間に短い春と秋があります。乾期、特に7から9月は気温が高く、30度台に達する事も稀ではありません。湿度は20から30%台と非常に乾燥しており、あまり暑さを感じなくても知らない間に発汗し(不感蒸泄)、脱水に陥りやすいので、水分(+塩分)の補充を十分に行い熱中症にならないように注意する必要があります。冬季(12月から2月頃)は大陸性気候のため冷え込みが厳しく、最低気温が氷点下20度になることも稀ではありません。また年によっては降雪もあります。舗装された道路が少なく、降雨・降雪後道はぬかるみ、交通事情は悪化します。春季と秋季はそれぞれ雨期と乾期の間に1ヶ月ほどあり、過ごしやすい時期です。また、初夏から秋季は、スモモ・マンゴー・スイカ・メロン・ブドウ・ざくろなどの果実、冬季にはミカンとリンゴが豊富に出回ります。干しぶどう、アーモンド、クルミ、ピスタチオはメロンやざくろと並んでアフガニスタンの名産物です。

 使用するエネルギーは、電気(220から240ボルト)とプロパンガスです。ただし、慢性的な停電のため、多くの家は自家発電機を利用しています。また、冬季にプロパンガス暖房機器を使用する場合は、住居の換気設備が不備による一酸化炭素中毒に注意してください。首都カブールは、世界でも最も環境が汚染された都市の一つに挙げられています。大気汚染の原因として、地形(高い山に囲まれた盆地)上の特徴に加え、低品質なガソリンやディーゼル燃料、排気ガス対策の取られていない10年以上前の中古車、住民が暖を取るため古タイヤや木材を燃やすこと、頻発する停電のために自家発電機が絶え間なく作動することなどが挙げられます。大気中の窒素酸化物や硫黄酸化物の濃度はWHOの発表によると先進国基準を超えています。特に冬期の夕方から朝にかけては大気汚染がひどいため、屋外での長時間の滞在や運動にはマスクやゴーグルが必要で、屋内にも空気清浄機の設置が必要です。生活用水は、水道水あるいは井戸水(カルシウム成分の多い硬水)を使用していますが、一般細菌や大腸菌などが検出されることが稀ではないため、そのまま飲料水として使用することは避けてください。水は必ず沸騰させたものや信頼出来るミネラル・ウォーターを、飲料水、料理用水として使用してください。また最近、外国軍の縮小および現政権とタリバーンの和平交渉の停滞、イスラム国の進出に伴い、厳しい治安情勢が続いており、地方だけでなく首都カブールでの自爆テロ事件やIED (即席爆発装置) を用いたテロ攻撃、さらにはデモも発生しています。

(2)一般医療情報・医療水準

 当国においては、外国人が安心して受診あるいは入院できる設備の整った医療機関は、地方は言うまでもなく、首都のカブールにさえほとんどありません。一般に流通している薬剤、衛生材料はイラン、パキスタン、インド、中国製のものが多く、保存状態その他の点で信頼性に欠けるものや偽薬も多々見受けられます。

 このような事情から、首都カブールおよび近隣県の在留邦人は、基本的にはアフガニスタン国内の病院を受診することはありませんが、緊急時にはカブール市内の外国系プライベート・クリニックを受診します。これらのクリニックで対応できない場合は近隣先進国への緊急医療移送となります。移送に関しての費用は高額であり、また個人負担となりますので、十分な海外旅行傷害保険に加入することをお勧めします。また加入に際し、アフガニスタン国内での疾病・事故を担保しているかどうかの確認を必ず行ってください。また、治安状況が悪化した場合には緊急移送ができない場合もあり得ますので、治安情報にお気をつけください。

5 かかり易い病気・怪我

(1)食中毒(細菌性、アメーバ性)

 外国人が罹患する最も多い病気です。潜伏期は様々ですが、一般に感染後1から2日で嘔吐、下痢、発熱、腹痛などで発症します。細菌性食中毒は年間を通じて見られますが、5月から8月の気温の高い時期に多発します。料理人、使用人の衛生管理に注意し、手洗いの励行が大切です。外食をする際には、加熱されたものを食べる、生水を飲用しない等の注意が必要です。

(2)腸チフス

 腸チフスは感染症法で第3類感染症に分類される重篤な腸管感染症ですが、アフガニスタンでは年間を通じてよくある病気のひとつです。チフス菌で汚染された水、食材を介した糞口感染の様式で伝搬します。潜伏期は通常10から14日で初発症状は発熱が最も多く、時に39から40度に達します。この時期に全身に皮疹が出現することがあります。その後40度台の発熱が持続し、重症の場合、意識障害が認められます。さらに進行すると下血や腸管穿孔が起きることがあります。治療は抗菌剤を用います。重症例に対してはステロイド剤を併用し、腸管穿孔に対しては外科的な治療が行われます。チフス菌は80℃以上、1分以上の加熱で殺菌可能ですので、調理をする際にはよく火を通すことが重要です。

(3)A型肝炎

 A型肝炎ウイルスで汚染された水、食材(生野菜・魚介類など)を介して伝搬する疾患で、伝搬様式は糞口感染です。潜伏期は2から7週間で、発熱、食欲不振、吐き気、全身倦怠感や皮膚や眼球白目の黄染、便の色が薄くなる等の症状が出現します。ごく稀に生命を脅かす劇症化が起こりますが、大部分は自然回復する経過をたどります。予防接種は感染予防に非常に有効ですので、入国前に2回以上のA型肝炎ワクチン接種をお勧めします。

(4)呼吸器疾患、アレルギー疾患

 特に首都カブールは湿度が低く、朝晩と日中の寒暖差が大きく、近年では大気汚染も著しいため、感冒、気管支炎などの呼吸器疾患や、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー性疾患に罹患しやすくなります。また子供の頃に気管支喘息が完治している人でも、風邪を引いた後、数か月も咳が止まらない(咳ぜんそく)になることがよくあります。アレルギー性疾患や呼吸器に持病がある方は、当地来訪の際には、常備薬・マスクの持参、さらには空気清浄機の使用をお勧めします。

(5)ポリオ

 アフガニスタンはパキスタンとともに、ポリオ(野生株)感染者が未だに存在する国で、毎年、パキスタンとの国境地域で新規患者が発生しています。同国境地域では、治安上の理由により一般市民への予防接種が十分行えないため、ポリオ根絶が困難な状況です。これらの地域は在留邦人居住区から離れていることもあり、日本で子どもの頃から定期接種を受けてきた在留邦人がポリオに感染するリスクはほとんどありません。しかし、現在世界保健機関(WHO)の指導により、 4週間以上アフガニスタンに滞在する人が出国する際に、アフガニスタン政府はポリオ接種証明書(国際規格のイエローカード)の提示を空港で求めています。またインド、サウジアラビアなど周辺国は、アフガニスタンから入国する人には同予防接種証明書を査証取得の条件に入れています。出国時のトラブル回避の意味で、アフガニスタン入国前にポリオの国際規格接種証明書を入手されることをおすすめします。

(6)クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)

 2016年に続き、2018年もアフガニスタンではクリミア・コンゴ出血熱が流行しています。これはエボラ熱、マールブルグ熱、ラッサ熱とともに、ウイルス性出血熱4疾患のひとつで、草むらにいるダニが媒介するウイルス性疾患です。ダニに直接刺されることに加え、感染した家畜(牛、羊、山羊など)の生肉や血液に触れることでもヒトへの感染が起こります。症状は発熱、頭痛、筋肉痛、腰痛、関節痛などで、下痢、嘔吐が起こることもあります。悪化すると出血傾向や腎不全などが起こり、アフガニスタンでの死亡率は12%です。予防接種や特別な治療法はないため、感染予防が重要です。ダニに刺されないようにする(草むらには入らず、やむを得ず入る場合には虫除けスプレーやクリームを使用し、長袖長ズボンを着用する)とともに、生肉に触らない等の注意が必要です。

(7)皮膚リーシュマニア症

 10年前とは異なり、現在では都市部ではほとんどありません。

(8)マラリア

 カブールではまず、感染しません。感染リスクのある地域(ナンガルハール県など)は、現在は治安悪化のため立ち入りは困難です。

(9)狂犬病

 狂犬病ウイルスに感染している小動物(犬、猫、キツネ、狸、コウモリ等)に噛まれることにより発症します。発症後の死亡率はほぼ 100 %で有効な治療法は確立していません。潜伏期間は咬傷部位により異なり、長いケースでは数年間におよぶということもあります。むやみに動物と接触することを避けることが大切です。また予防接種があるので、仕事上、野生動物や小動物との接触が想定される際には、事前にワクチン接種を受ける事を勧めます。

(10)熱中症(脱水症)

 首都カブールは、年間を通じて低湿なため、発汗を感じないまま(不感蒸泄)脱水に陥ることがあります。たとえ発汗を感じなくとも定期的に水分摂取を心がけてください。「のどが渇いた」と感じたらすでに危険で、尿量が少なくなり始めたら、その時点で要注意です。

(11)交通事故と車両爆弾による怪我

 アフガニスタンでは交通信号や横断歩道がほとんど無く、現地人、外国人とも交通法規を遵守することはほとんどありません。さらに、車に混じって荷馬車やロバも道路を通行し、交通渋滞の原因となっています。このような混沌とした状況で交通事故が多く発生していますので、巻き込まれないように注意が必要です。また、道路のあちこちに警察の検問所(チェックポイント)があり、車両爆弾のターゲットとなる事があり、注意が必要です。

6 健康上心がけること

  1. 下水道の未整備、ゴミ処理システムの不在などが原因で、生水は大腸菌などの細菌や赤痢アメーバ、さらに重金属により汚染されていると報告されています。生水は絶対に飲まないようにしてください。
  2. 火が通っていない食物(外食ではサラダにも注意)は食べないようにしてください。夏期は、調理してから15分以上経った食べ物は80度以上で1分以上再加熱してから食べるようにしてください。
  3. 運動・安静時にかかわらず、常に水分(水、スポーツドリンクなど)を多く摂取して脱水や熱中症に注意してください。
  4. 手洗い(石鹸・清潔なタオルを使用)、うがいを励行してください。
  5. 年間を通して紫外線が強いため、角膜炎や重症の日焼けの予防が必要です。UVカットレンズ(サングラス)、日焼け止めクリームを使用してください。また皮膚の乾燥防止に保湿クリームの使用を勧めています。特に冬季は、皮膚の乾燥による皮膚の掻痒が多く見られます。
  6. アフガニスタンで勤務・長期滞在を予定する場合には、身体の健康管理は勿論ですが、心のケアも大切です。定期的に国外での休暇をとりストレス発散することが、精神衛生管理上大切です。当地の生活・仕事環境などから、精神的に不安定な状況に陥る場合は、早めの帰国を勧めます。
  7. 大気汚染の悪化する冬~春期にカブールに滞在される場合は、マスク・ゴーグル・のどの保護薬、点眼薬などを持参してください。この時期には部屋の窓は開けず、換気扇の使用はやめて、夕方から朝にかけてはなるべく室内にとどまってください。

7 予防接種(ワクチン接種機関含む)

(1)赴任者に必要な予防接種

A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン

 過去に接種済みでも免疫(抗体)が形成されていない場合は再接種してください。

腸チフスワクチン

 本邦では一部のトラベルクリニックなどで輸入ワクチンの接種が可能です。経口ワクチンと注射があります。

破傷風ワクチン

 過去5年以内にブースター接種(追加接種)を受けていない場合は接種してください。

ポリオワクチン

 過去1年以内にポリオワクチンを接種していない方は、再接種した上で、国際規格の予防接種証明書(イエローカード)を持参してください。感染の危険はほとんどありませんが、証明書がないと出国時に問題になる可能性があります。

(2)アフガニスタンの小児定期予防接種一覧:2020年10月現在

アフガニスタンの小児定期予防接種一覧
ワクチン 初回 2回目 3回目 4回目 5回目
BCG 出生時        
DTP/Hib/HepB(5種混合)(注1) 6週 10週 14週    
OPV(経口ポリオ)(注2) 出生時 6週 10週 14週 注3 9か月
Measles(はしか) 9か月 18か月      
PCV(肺炎球菌) 6週 10週 14週    
ロタ 6週 10週      
B型肝炎 出生時        

(注1) DTP + Hib(インフルエンザ菌b型)+B 型肝炎

(注2) 初回は生後14日以内

(注3) 14週ではOPVとIPV(不活化ポリオワクチン)の両方を接種

8 病気になった場合(医療機関等)

カブール

(1)DK German Medical Diagnostic Center
所在地:Kolula Pushta Road, House 43, Kabul
電話:070 6060 141
電子メール:info@medical-kabul.com
ホームページ:DK German Medical Diagnostic Center(英語)別ウィンドウで開く
概要:(治安上、事前に電話あるいはメールでの受診予約が必要です。医療レベルは良好ですが、自爆テロ犯が容易に侵入可能な建物なので注意ください。)
ドイツ系のクリニックで内科、外科、産婦人科、歯科、画像診断科があります。診療時間は金曜日を除き、9時から17時。入院病床はありません。院内は清潔に保たれています。医師はドイツ人医師(家庭医)とアフガニスタン人医師が駐在し、X線装置、超音波診断装置がありますが、CT、MRI はありません。臨床検査器具はいずれもドイツ製で概ね良好に維持されており、検査結果は信頼できるものです。薬剤は院内在庫がありますが、種類は多くありません。また予防接種も行っており、ポリオの予防接種後に国際規格の証明書(イエローカード)も発行してくれます。
(2)Iqarus American Medical Center
所在地:15th Street, Lane 4, Wazir Akbar Khan, Kabul
電話:079 788 8805
電子メール:amc.info@iqarus.com
ホームページ:Iqarus American Medical Center(英語)別ウィンドウで開く
概要:(救急以外は治安上、事前に電話あるいはメールで24~48時間前に受診予約が必要です。警備が厳しいので、一旦建物内部に入れば対テロ安全性は高いです。)
外来:8:00-16:30
米国系のクリニックが英国遠隔地医療会社の傘下となりましたが、米国ビサに必要な検査を請け負うなど、主に米国仕様の医療を提供しています。外科、一般外来、予防接種、歯科、レントゲンと臨床検査があります。24時間体制で入院病床は4床(点滴をする程度)。院内は清潔に保たれています。医師はアフガニスタン人医師と欧米人医師。また割高ですが予防接種も行っており、ポリオの予防接種後に国際規格の証明書(イエローカード)も発行してくれます。
分院がグリーンビレッジとHKIA基地内にありますが、一般人の出入りが可能なのはここ(American Medical Center)だけです。
(3)Blossom Health Care Center
所在地:Hanzala Mosque Road, Shar-e-Naw, Kabul
電話:0700-091-000、0786-400-733
電子メール:info@blossomhealth.org
ホームページ:http://blossomhealthaf.org/別ウィンドウで開く
概要:(事前に電話あるいはメールで受診予約した方が良いでしょう。武装警備員が24時間院内を巡回しているので、一旦建物内部に入れば対テロ安全性は高いです。)
インド系私立病院で、40床と集中治療室6床があり、専門医が必要な病気に対応しています。診療内容は外科、内科、循環器科、脳神経外科、産婦人科、泌尿器科、小児科、皮膚科、歯科、臨床検査、レントゲン、CT、MRI、内視鏡。24時間診療。緊急移送を要する事態になった場合、海外旅行傷害保険に加入していれば、この病院は複数の欧州系保険会社と契約していて搬送にも慣れているのが利点です。医師は全員外国留学歴のあるアフガニスタン人で、英語も可。ただし清潔度はあまり高くなく、まだ邦人の入院実績はありません。

注意点

 いずれにしても、アフガニスタンでは、入院が必要となる疾患で治療を受けることは困難であり、そのような場合は近隣の国へ緊急移送になります。緊急移送費用は非常に高額であり、しかも個人負担ですので、十分な補償のある保険に加入し、さらに戦争特約をつけることが大切です。なお、加入に際し、アフガニスタン国内での疾病・事故を担保しているかどうかの確認を行ってください。しかし、「世界のどこでも」とうたっている保険会社でもアフガニスタンはカバーされていないため、実際に緊急移送できるかどうかはその時になってみないとわかりません。

10 一口メモ(もしもの時のスペイン語)

  • 医師:ドクター
  • 飲み薬:ダワ
  • 注射:ピーチコリ
  • 頭痛:サルダート
  • 腹痛:シカムダート
  • 下痢:イ(エ)スハール
  • 発熱:タバ(バ)
  • 吐き気:ディルバティ
  • 傷:ザクハム
  • 具合が悪い。:マリーズ
  • 病院へ連れて行ってください。:マロ (バ)シャバハナ ババル

 「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモを参照ください。

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