世界の医療事情

令和6年10月1日

1 国名・都市名(国際電話番号)

 ボスニア・ヘルツェゴビナ(国際電話番号387)

2 公館の住所・電話番号

在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本国大使館
住所:Bistrik 9, 71000 Sarajevo, Bosnia and Herzegovina
休館日:毎週土曜日、日曜日
電話:(033)277-500

3 医務官駐在公館ではありません

 在セルビア日本国大使館医務官が担当

4 衛生・医療事情一般

(1)気候・地誌

 ボスニア・ヘルツェゴビナは旧ユーゴスラビア連邦を構成した共和国の一つで、ボシュニャク人とクロアチア人が主体のボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア人中心のスルプスカ共和国の2つの主体(エンティティ)で構成される国家です。海抜2,000メートル級の山々が連なる山岳国であり、人口約320万人、面積は四国と九州地方とを足したのと同程度で、国土の大部分は大陸性気候に属します(南部の一部は地中海性気候)。

 首都はサラエボで、1984年に冬季オリンピックを開催した都市として知られており、標高約500メートル(松本市と同じ)に位置する盆地のため寒暖差が非常に大きく、夏期は最高気温が40℃以上となる日も見られる一方、冬期は最低気温がマイナス20℃を下回ることもあります。時に道路が凍結したり交通が麻痺するような積雪に見舞われたりします。年間を通じて比較的乾燥していますが、秋期から冬期にかけてはしばしば激しい濃霧に見舞われます。

(2)医療水準

 ボスニア・ヘルツェゴビナの医療機関は概して老朽化した施設が多く、特に首都サラエボやスルプスカ共和国の中心都市バニャ・ルカ、その他トゥズラ、モスタルなど医大のある大都市以外では、建物だけでなく医療設備も乏しいところが多いです。

 しかし近年はEUや中東諸国をはじめ世界各国からの支援もあり、サラエボを中心に最新の医療機器、資材、スタッフをもつ病院が増え、最も規模の大きいサラエボ大学附属病院も少しずつ新しいものになっています。また、私立の高級病院も出現しています。専門医の中には欧米で教育を受け、それら先進国と同等の知識・技術を持っている医師も多く、特にドイツやオーストリアから専門医の定期的な応援もあり心臓外科手術など高度な治療も行われています。

 ただしスタッフの質・量や言葉の問題等のため、緊急時以外の精密検査、手術等は勧められません。

(3)医療保険制度

 国民や永住者などは基本的な診療費はほぼ無料ですが、外国人は保険の対象外であり、受診時は全額自己負担となります。重症例や精密検査を要する場合などは、先進国ほどではないですが比較的高額な医療費となり、また医学的必要性から近隣先進諸国(パリ、ウィーンなど)への搬送が必要となることもあるため、その費用は相当な高額となります(入院費用は数千から数万ユーロ以上、日本への緊急移送費用は1,000万円相当を越えることもあります)。当国に渡航、駐在される方には治療・救援費用等(日本への緊急移送費用負担のあるもの)を相当額に引き上げた海外旅行保険に加入することを強くお勧めします。

(4)受診時のアドバイス

 医療機関を受診する際、医師の多くには英語が通じますが、そのレベルは個人差が大きく、詳細なニュアンスが伝わらないことがあります。年配の医師、看護師、受付などのスタッフはしばしば英語が通じませんので、通訳が必要となることがあります。公立病院に比べ私立病院のほうが英語は通じやすいようです。

 支払いは原則として現地通貨(BAM)払いとなり、クレジットカードが使用出来るところはまだ少数です。また、受診の際はパスポートなど身分を証明するもの、旅行保険などの保険証書を持参するようにおすすめいたします。

(5)水質

 首都サラエボの水道水は比較的良質で飲用可能とされています。しかし、他の地域では汚染が指摘されており、サラエボであっても老朽化した水道管の問題がありますので、水道水の飲用は避けた方がよいでしょう。また、硬度が高く、腹痛や下痢を起こすこともあります。通常、在留邦人や旅行者は市販のミネラルウォーターを飲用しています。

5 かかり易い病気・怪我

(1)上気道炎

 冬に多く発生する大気汚染のため、また暖房のため屋内が乾燥していることなどから、呼吸器疾患になる方が少なくありません。冬の室内では24時間暖房のため、非常に乾燥し湿度30%を下回ることもあります。このため、鼻や喉などの上気道を傷めやすく、風邪などの上気道炎に罹患しやすくなります。一度罹患すると慢性化したり、肺炎などの下気道炎を続発しやすくなったりします。加湿器の導入など部屋の湿度を上げる工夫、インフルエンザの予防接種、マスクやマフラーなどの使用に加え、規則正しい生活と十分な睡眠で、疲労やストレスを避けるなどの対策が必要です。

(2)経口感染症・下痢症

 地域によっては水や食品などの衛生環境が不備なこともあり、細菌性の食中毒やA型肝炎など、汚染された食物等を原因とする感染症には注意が必要です。食事や水などから、感染性胃腸炎(サルモネラ、カンピロバクター、大腸菌、ロタウイルス、ノロウイルスなど)が毎年高頻度に見られ、旅行者や在留邦人もレストランや市場などでこれに巻き込まれることがあります。

(3)生活習慣病

 中長期滞在する方は食事内容の偏りなどから、生活習慣病等の発症、悪化に注意する必要があります。特に肉料理中心の食事内容などから、しばしば脂肪、塩分等が過多傾向となるため、肥満、高脂血症(高コレステロール血症)、高血圧、高尿酸結晶(痛風)などには十分な注意が必要です。

 ボスニア・ヘルツェゴビナには特徴的な風土病等は見られませんが、ブルセラ症やQ熱、クリミア・コンゴ出血熱といった家畜やネズミなどの動物を媒介する感染症の報告例もある他、中央ヨーロッパ地域では、森林などでダニに噛まれることによって発症するダニ媒介性脳炎が広く知られており、留意する必要があります。

(4)狂犬病・犬(動物)咬傷

 狂犬病はすべての人を含む哺乳類に感染し、人も動物も死亡率はほぼ100%です。ただし感染後(感染動物に咬まれた後)にワクチンを連続して接種することにより発症を防ぐことが可能です。

 ボスニア・ヘルツェゴビナでは狂犬病が6年以上ありませんでしたが2020年6月にワクチン未接種の犬の症例が報告されました。野生動物との接触が推定されます。ワクチン未接種の犬や野生動物に不用意に近づくことは危険です。犬、リス、キツネ、コウモリなどの野生動物に咬まれた場合、すぐに医療機関を受診して処置を受けてください。

6 健康上心がけること

  1. 夏期は最高気温が40℃を超えることもあるので、野外での活動、スポーツ等は熱中症、脱水に十分な注意が必要です。粉末のスポーツ飲料や経口補水液を持参すると便利です。
     また、紫外線が非常に強いため紫外線対策が必要となります。外出時には、サングラスの着用や日焼け止めの使用を勧めます。
     さらに食品の洗浄、加熱といった基本に注意して、食中毒の予防を心がけて下さい。
  2. ボスニア・ヘルツェゴビナでは日常の買い物や食事などに不便を感じることも多く、娯楽施設も非常に限られ、特に冬期は厳しい寒さや悪天候が続くこともあり、人によってはストレスを強く感じることもあるかもしれません。長期滞在される方にはスポーツや習い事、外国への旅行、ショッピング等でのリフレッシュが勧められます。
  3. 男女とも喫煙率(40から45%)が高く、飲食店も分煙といってもパーティションがない状態で席を分けているだけのケースが大部分であるため、外食すると間接喫煙の被害を受けます。歩きタバコなどマナーが悪い人が多く、子供連れのときなどは、たばこ接触による火傷のケースも報告されています。
  4. 南部には2,000メートル級の山が多く、この高度でも慢性疾患の有病者や子供・老人にはAcute Mountain Sickness症状(いわゆる高山病の山酔い症状)が出ることがあります。

7 予防接種(ワクチン接種機関含む)

  • 現地のワクチン接種医療機関等についてはこちら(PDF)別ウィンドウで開く

(1)赴任者に必要な予防接種

 入国のために必要な予防接種はありません。成人では、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、ダニ媒介性脳炎の予防接種を、小児では、日本の定期接種の他には、A型肝炎、ダニ媒介性脳炎を勧めています。また、水痘、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)も接種されていない小児の方は、接種することを勧めます。接種すべきワクチンは接種歴にもよりますので、渡航前に渡航クリニック等にご相談することをおすすめします。なお、ボスニア・ヘルツェゴビナ国内で、流行性耳下腺炎、麻疹、風疹それぞれの単独ワクチンは手に入りません。

(2)現地の小児定期予防接種一覧

 ボスニア・ヘルツェゴビナとスルプスカでは、予防接種のスケジュールが若干異なります。両国ともHPVワクチンの接種が強く勧められていますが、他の予防接種と違い希望者のみへの接種となります。なお、日本と違い男子も対象となっています。

ボスニア・ヘルツェゴビナの定期接種スケジュール

対象の感染症 結核 B型肝炎 DTP(ジフテリア、破傷風、百日咳) ポリオ ヘモフィルス・インフルエンザb型 麻疹、流行性耳下腺炎、風疹 ヒトパピローマウイルス
出生時 BCG Hep B          
1か月              
2か月   HepB DTaP IPV Hib    
4か月     DTaP IPV Hib    
6か月   HepB DTaP IPV Hib    
1歳           MMR  
12歳     DTaP IPV Hib    
5から7歳     DTaP IPV    
6歳           MMR  
13から18歳     dT       HPV(2回)

スルプスカの定期接種スケジュール

対象の感染症 結核 B型肝炎 DTP(ジフテリア、破傷風、百日咳) ポリオ ヘモフィルス・インフルエンザb型 麻疹、流行性耳下腺炎、風疹 ヒトパピローマウイルス
出生時 BCG HepB          
1か月   HepB          
2か月     DTaP IPV Hib    
3か月以降     DTaP IPV Hib    
5か月     DTaP IPV Hib    
6か月   HepB          
1歳           MMR  
1歳6か月     DTaP IPV Hib    
6歳     DTaP IPV   MMR  
11歳             HPV
14歳     dT        

(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明

 現地校やインターナショナルスクールに入学・入園する際は予防接種証明書が必要になることがあります。母子手帳を持参してください。

(4)乳児健診

 ボスニア・ヘルツェゴビナにおける小児の健診は、生後6歳までは概ね1か月から1年毎に行われています。日本人をはじめとする外国人の場合、所持する保険や受診する施設によりますが、通常有料となります。

8 病気になった場合(医療機関等)

 医療制度・医療保険制度とも他の旧ユーゴスラビア諸国と非常に似ています。

 だれでも最初から大病院に受診することも可能なため、大病院の外来は常に混み合っています。そのため、在留外国人や支払い能力に余裕のある国民は、待ち時間が殆ど無く、予約も可能な私立病院や個人クリニックを受診するようです。個人クリニックの医師のほとんどは、公立病院との掛け持ちです。

 救急時は電話「124」あるいは「033-611-111」で救急車が24時間対応し、当番の公立の救急病院へ搬送されます。自分の症状と自分のいる住所と連絡の取れる電話番号を伝えましょう。ただし英語が通じない可能性もあります。また病院に行くまでに中継場所を経由するため、病院へ直接行くことをおすすめします。

 サラエボの場合はほとんど24時間対応のサラエボ大学救急センターに搬送されます。患者が多くトリアージ順に診ているため、軽症と判断されると長時間待たされることもあります。

(首都)サラエボ

(1)Klinicki Centar Univerziteta u Sarajevu
所在地:Bolnička 25, Sarajevo
電話:(033)-297-000、(033)-297-708、(033)-297-979
ホームページ:Klinicki Centar Univerziteta u Sarajevu(ボスニア語)別ウィンドウで開く
概要:救命救急センターを含む全科を有するボスニア・ヘルツェゴビナで最も大きい国立大学病院、総合病院です。科別の建物がある構造から、新しい中央棟に少しずつ移転していいます。救命救急センターは24時間オープンしています。
(2)Abdulah Nakas Opca Bolnica
所在地:Krancjeviceva 12, Sarajevo
電話:(033)-285-100、(033)-285-113、救急センター:(033)-285-261
ホームページ:Abdulah Nakas Opca Bolnica(ボスニア語)別ウィンドウで開く
概要:救命救急センターを有する公立系総合病院で24時間オープンしています。
(3)ASA Bolnica
所在地:Džemala Bijedica St 127, Sarajevo
電話:0800 222 55、英語対応033 555 201、救急部門033 722 502
ホームページ:ASA Bolnica(ボスニア語)別ウィンドウで開く
概要:2024年に開院したばかりの中規模の私立総合病院ですが、最先端の設備を整えています。救急部門は24時間オープンしていますが、一般外来等は月曜日から金曜日8時から20時となっています。
(4)Poliklinika Eurofarm Centar
所在地:Fra Anđela Zvizdovića 1, Sarajevo
電話:080 022 226、ホームページから予約可
ホームページ:Poliklinika Eurofarm Centar(ボスニア語)別ウィンドウで開く
概要:私立の外来専門クリニックで、ほぼ全科を揃えています。月曜日から金曜日8:00-16:00が診療時間で、救急部門はありません。この施設だけでなく、ボスニア・ヘルツェゴビナに7か所のポリクリニック(複数科クリニック)を持ちます。(3)のASA Bolnicaと同資本ですが、連携はこれからの課題です。
(5)Poliklinika "Dr. Al-Tawil"
所在地:Zmeja od Bosne 7, 71000 Sarajevo (Importane Centar Sarajevo, 3rd floor)
電話:067 1300 195、067 130 1311(携帯)
ホームページ:Poliklinika "Dr. Al-Tawil"(英語)別ウィンドウで開く
概要:内科、外科、婦人科、脳神経外科、泌尿器科、耳鼻咽喉科、放射線科などを擁する私立系クリニックです。救急部門はありません。診療費は高額の傾向がありますがホームページに掲載されています。英語で診療をうけることが可能です。月曜日から金曜日8時から17時が診療時間になります。
(6)Dom Zdravlja Centar Vrazova
所在地:Vrazona 11, Sarajevo
電話:(033) 292 500
概要:一次救急診療。公立保健センター。入院設備なし。夜間、休日の対応なし。
(7)Dental Practice Quick smile
所在地:Zmeja od Bosne 7, 71000 Sarajevo(Important Center Sarajevo, 6 Sprat)
電話:(033)-212-089、FAX:(033)-444-333
ホームページ:Dental Practice Quick smile(ボスニア語)別ウィンドウで開く
概要:歯科専門クリニック。平日8時から19時、土曜8時から16時、夜間、休日の対応可能。外国人が多い。

9 その他の詳細情報入手先

10 一口メモ(もしもの時の現地語)

  1. 医師:doktor / lijecnik(ドクトル/リェチニック)
  2. 飲み薬:lijek(リェク)
  3. 座薬:cepici(チェピチ)
  4. 注射:injekcija(イニェクツイヤ)
  5. 頭痛:glavobolja(グラボボリャ)
  6. 胸痛:bol u grudima(ボル ウ グルーディマ)
  7. 腹痛:bol u trbuhu / bol u stomaku(ボル ウ トルブフ/ボル ウ ストマク)
  8. 下痢:proljev(プロリェブ)
  9. 発熱:groznica(グロズニツァ)
  10. 吐き気:mucnina(ムチュニナ)
  11. 傷:ozljeda / rana(オズリェダ/ラナ)
  12. 気分が悪い:osjecam se lose / bolestan sam(オセチャム セ ロシェ/ボレスタン サム)
  13. 病院へ連れて行ってください:mozete li me odvesti u bolnicu(モジェテ リ メ オドベスティ ウ ボルニツ)
  14. 風邪をひく:prehladen sam / Imam obicnu prehladu(プレフラジェン サン/イマム オビチュヌ プレフラドゥ)
  15. 下痢をする:imam proljev(イマム プロリェブ)
  16. めまいがする:imam vrtoglavicu(イマム ブルトグラビツ)
  17. ここが痛い:boli me ovdje / imam bolove ovdje(ボリ メ オブディエ/イマム ボロベ オブディエ)
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