世界の医療事情
ベネズエラ
1 国名・都市名(国際電話番号)
ベネズエラ・ボリバル共和国(国際電話番号58)
2 公館の住所・電話番号
住所:Torre Digitel Piso 9 Av. Don Eugenio Mendoza con Esquina Calle Miranda, Urb. La Castellana, Chacao, Miranda
電話:0212-262-3435
ホームページ:在ベネズエラ日本国大使館
(注)休館日は大使館ホームページにて案内していますので、ご覧ください。
3 医務官駐在公館ではありません
在コロンビア共和国日本国大使館医務官が担当
4 衛生・医療事情一般
- 首都カラカスは、標高900メートルにあり、熱帯地域にありながら、一年中、日本の初夏を思わせる快適な気候です。カラカス市内の衛生状態は、上水道の供給やゴミ収集が長期間行われない地区が出る等、その衛生環境は悪化しています。また、カラカス首都圏は、盆地状の地形にスラム(貧民街)が取り囲むように広がっており、これらのスラムでは、特に衛生状態が劣悪です。感染症に罹患しないよう、水道水は飲まない、手洗いやうがいをする等の対策を励行する必要があります。
- カラカス市内には、海外で研修を受けた医師が勤務する私立総合病院がいくつかあり、従来その医療水準は高く、施設や設備は整備されていると言われてきましたが、近年の経済の悪化により、優秀な医師の海外流出や設備の老朽化、医薬品の不足等により、必ずしも先進国に準じた医療を受けられない可能性があり、緊急性のない外科手術などは避けるのが無難です。
- なお、公立病院の医療水準や衛生状態は壊滅的な状態です。公立病院の受診はお勧めできませんので避けてください。公立病院の多くは必要とされる医療設備のメンテナンス部品、医薬品、石けん・マスク・手袋等の消耗品さえ入手できていません。また、物不足に加え、待遇が改善されないことによる医師や看護師の離職が進んでいることやストライキが頻発していることから、半ば閉鎖状態に陥る医療機関もあり、十分な医療処置を受けることが難しい状況が生じています。
- 当国では多くの日常品を輸入に頼っており、医薬品の種類によっては薬局に十分なストックがないことがあります。そのため、医師が処方箋を処方する際に、代替医薬品も含めて記入することがあります。当国に渡航する場合には、持病があれば、本邦から医薬品を持参することや、必要なワクチン接種を予め渡航前に受けておく等について検討してください。
- 重篤な疾病や大怪我に遭われた場合、医療先進国へ移送され、治療を行う必要が生じる可能性があります。医療先進国への移送は、概して高額な費用が必要になりますので、万一の場合に備え、緊急移送サービス等十分な補償内容の海外旅行保険への加入をお勧めします。なお、現在、公的な救急車サービスが機能していないため、自力で病院まで行くことも検討する必要があります。長期居住者の場合、私的救急車サービス会社との契約加入を検討されることもお勧めします。
- ベネズエラ保健省は、2022年6月12日にベネズエラで最初のMPOXの感染症例が確認されたことを発表しました。当患者はスペインのマドリードからベネズエラのカラカスに入国し、スペインのバルセロナで2人の感染者と接触があったことが判明しています。また2022年8月24日には、ヒメネス科学技術大臣がブラジルならびにペルーからの旅行者2名がMPOXに感染していたと発表しました。昨今、従前のMPOX流行国への渡航歴のないMPOX患者が欧州、米国、中南米等で確認されていますので、石鹸やアルコールベースの消毒剤を用いた感染予防に努めてください。
5 かかり易い病気・怪我
マラリア、デング熱、ジカ熱、黄熱、チクングニア熱等の蚊によって媒介される感染症の発生、また麻疹やジフテリアなどの飛沫感染による感染症の発生が確認されています。(2022年8月現在)
(1)マラリア
2015年以降感染が広まり、特に2017年から2019年にかけては爆発的に感染が拡大し、感染者数は40万人を超えました。現在では、2017年に比べると、感染数は減少していますが、アマゾンに接するアマソナス州やボリバル州等の地域に渡航する場合は、注意が必要です。
マラリアは、ハマダラカという種類の蚊に刺されることでマラリア原虫が体内に侵入して感染する病気です。ハマダラカは夕方から夜間に活発に活動する習性があります。マラリアには熱帯性マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアの四種類があり、ベネズエラで確認されているマラリアのタイプは、三日熱マラリアが約7割、熱帯熱マラリアが約3割です。潜伏期間は種類により違いますが2から4週間程度で、主な症状は発熱です。
第一の予防方法は蚊に刺されないようにすることです。予防内服薬(マラロン、メフロキン)もありますが、完全に予防できるとは限りません。現地におけるマラリア流行状況や服用者本人の性質、持病、渡航先での滞在中の生活スタイルなどを総合的に判断する必要がありますので、事前に必ず専門の医療機関(渡航外来或いはトラベルクリニック)などに相談してください。
流行地に入ってから七日目以降に38度以上の高熱を発した場合には、直ちにマラリア検査(血液検査)を受け、陽性の場合は抗マラリア治療薬を早急に内服することが望まれます。マラリア迅速診断キット(Binax Now等)、抗マラリア治療薬(Riamet、Coartem等)は、国内で入手するのは困難なため、持参することをお勧めします。
(2)麻疹(はしか)
2017年7月からベネズエラ国内における麻疹の再拡大がはじまり、同月から2019年までに7,054件の新規症例と84件の死亡が確認されましたが、政府と汎米保健機構が共同で行ったワクチンキャンペーンをはじめとした対策が功を奏し、2019年には548症例にまで大幅に減少しました。以降、疑わしい症例はありましたが、2019年8月から2022年5月1週まで、麻疹の症例は確認されておらず、2020年1月30日付汎米保健機構の発表において、ベネズエラでの麻疹発生は制御下にあるとされています。
しかし、麻疹は、感染力が非常に強く、空気感染、飛沫感染、接触感染によって簡単に人から人に感染する急性のウイルス性発疹性感染症であり、また国内における定期予防接種カバー率が十分な水準に達していないので、引き続き注意が必要です。潜伏期間は10から12日で、免疫が不十分な人が感染すると高い確率で発症します。主な症状は発熱、咳、鼻汁、結膜充血、発疹などですが、まれに肺炎や脳炎になることがあります。予防のためには、血液検査で麻疹・風疹の抗体値を測定し、必要に応じて麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)の接種を必要回数受け、麻疹・風疹に対する免疫をつけておくことが重要です。
(3)ジフテリア
2016年まで24年間発症例が確認されていなかったジフテリアが、同年10月にボリバル州において確認されて以降、発生が継続しています。2020年9月2日の汎米保健機構の発表によると、2016年下半期から2020年34週目までに3000件以上の疑い症例があった他、少なくとも294人が死亡しています。また、カラカスでもジフテリアと思われる症例が発生しています。
ジフテリアはジフテリア菌により発生する病気です。主にジフテリア患者の気道の分泌物によって移り、喉などに感染して毒素を放出します。この毒素が心臓の筋肉や神経に作用することで、眼球や横隔膜(呼吸に必要な筋肉)などの麻痺、心不全等を来して、重篤になる場合や亡くなってしまう場合があります。
予防にはワクチン接種が有効です。ワクチン接種により、ジフテリアの罹患リスクを95%程度減らすことができると報告されています。ジフテリアワクチンは1968年から始まった3種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)に含まれています。定期の予防接種で2種混合ワクチン(ジフテリア、破傷風)を12歳の時に受けていれば、20代前半くらいまでは免疫がありますので、それまでは接種は不要です。その後は、1回の追加接種で10年間有効な免疫がつきます。幼少期に予防接種を受けた30歳以上の方で、10年以上ジフテリアのワクチン接種を受けていない方は、追加接種を考えてください。
(4)デング熱
汎米保健機構の発表によると、2022年は11,409件の感染が確認されました。デング熱は多くは軽症ですが、重症化して血小板が減少し、出血傾向となり、場合によっては死亡することもあります。発熱、関節痛など同疾患を疑わせる症状を認めた場合は、早めに医療機関を受診してください。また、マラリアと同様に蚊を媒介にして感染しますので、蚊に刺されないことが重要です。
(5)黄熱
2014年に、2例の黄熱患者が報告されました。2019年にはボリバル州で症例が確認され、さらに2021年10月14日、WHOは同年9月末に研究所の検査で7件の症例が確認され、うち6名についてはワクチン未接種であったことに伴い、国民の間でワクチン接種を促進させるよう呼びかけました。ボリバル州、アマソナス州、モナガス州等、アマゾンに近接する地域では黄熱感染の危険があるため、これらの地域を訪れる場合は、ベネズエラ入国の10日前までに黄熱ワクチンを接種することを強くお勧めします。また、当国への入国に際し、黄熱ワクチン接種記録(イエローカード)の提示は求められませんが、ベネズエラから他国に入国する際には、提示を求められる可能性があるため、周辺国も訪れる予定のある方は、接種することをお勧めします。なお、同ワクチン1回の接種で、生涯免疫が持続するとWHOから報告されていますが、国により解釈が異なるため、訪れる国に確認してください。
(6)ジカ熱
2016年に多数の感染者が確認され、近年は大きな発生は確認されていませんでしたが、2022年8月現在、5件の感染が確認されています。ジカ熱は、基本的には軽症ですが、ギランバレー症候群(末梢運動神経麻痺)との関連も示唆されています。また、妊婦が感染すると、胎児の先天性奇形や小頭症の発生が危惧されています。ジカ熱はウイルス感染症で、ワクチンならびに根本的な治療法はなく、予防することが重要です。蚊媒介性疾患であり、防蚊対策が欠かせません。
(7)狂犬病
2002年から2008年にかけて、犬やコウモリから感染した狂犬病患者が、約500症例発生し、多数の死者が出ています。最近では、2015年から2016年にかけて、コロンビアに接するスリア州において、狂犬病による死亡者が、少なくとも2件発生しています。また、2012年までのWHOによる報告において、アマソナス州で狂犬病にかかった犬が存在することが指摘されているとともに、2019年に、ベネズエラ獣医師団体が、スリア州マラカイボ市及びマラ市において、狂犬病にかかった犬が12匹いることも指摘しています。全国で、犬やコウモリ等から狂犬病に感染する可能性があり、動物に噛まれた場合は、直ちに医療機関を受診し、ワクチン接種を受けてください。ただし、現在、国内の狂犬病ワクチンが不足しており、迅速な対応を受けることができるかどうかは不明であるため、事前に予防接種(暴露前接種)を受けておくことが推奨されます。
(8)その他の熱帯疾患
2022年9月現在、26件のチクングニア熱の感染が確認されています。感染症数は安定した数字を維持していますが、注意を怠らないようにしてください。リーシュマニア病、シャーガス病の流行地域は、その多くが、都会から離れた地域です。リーシュマニア病はサシチョウバエ、シャーガス病はサシガメ(カメムシの一種)の刺咬によって感染します。宿泊施設は、虫の入ってこないしっかりしたホテルを選んでください。
出典:汎米保健機構(PAHO)、世界保健機関(WHO)
6 健康上心がけること
- 当地は治安が悪く、行動範囲が限られています。このような状況でストレスが溜まりやすいことから、短期滞在の場合にはジムやプールがあるホテルに宿泊し定期的な運動を心がけることや、長期滞在の場合には、ゴルフやテニス等の趣味を持つことが大切です。
- 不衛生なレストランも多く、食品衛生には十分注意を要します。生水を避ける、肉類中心の食事を改める、非衛生的な食品を摂らない等の注意が必要です。腸管感染症を防ぐために、食事や水は衛生的なレストランでのみ摂取してください。
- 海岸地区や森林地区には、熱帯感染症を媒介する様々な昆虫が存在するため、防虫対策を厳重に行ってください。
7 予防接種(ワクチン接種機関を含む)
(1)赴任者に必要な予防接種
ア 成人
黄熱、A型肝炎、B型肝炎、狂犬病、腸チフスの接種をお勧めします。また、3種混合Tdap(破傷風、ジフテリア、百日咳)は10年毎に追加接種をお勧めします。麻疹は、幼少期に予防接種を受けていても、免疫が低下していることがありますので、追加接種をお勧めします。
イ 小児
ワクチンの種類によっては接種が難しいものもあります。特に、免疫力の低い乳幼児や小児は感染症にかかりやすいため、日本の定期接種ワクチンと任意接種ワクチンについては、年齢的に可能なものは全て接種した上で当国に赴任することをお勧めします。加えて、黄熱、腸チフスのワクチン接種もお勧めします。
(注)日本から当国に入国する際に、黄熱予防接種証明書(イエローカード)の提示は必要ありません。しかし、黄熱汚染国から当国に渡航する場合や、当国から他国へ渡航する場合には、イエローカードの提示を求められることがあり、またボリバル州やアマソナス州、モナガス州等の黄熱発生地域を訪問する場合には予防接種を強く進めます。
(2)当地の小児定期予防接種一覧
当地の小児定期予防接種一覧(2024年WHO) | ||||||
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初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | ||
BCG | 出生時 | |||||
ポリオ | IPV | 2か月 | 4か月 | |||
OPV | 6か月 | 18か月 | 5歳 | |||
5種混合(DPT + Hib + HepB) | 2か月 | 4か月 | 6か月 | 18か月 | 5歳 | |
MMR | 1歳 | 18か月 | ||||
黄熱 | 1歳 | |||||
ロタウイルス(RV1) | 2か月 | 4か月 | ||||
肺炎球菌(PCV13) | 2か月 | 4か月 | 1歳 |
(WHO vaccination schedule for Venezuela)
(注)DPT(D:ジフテリア、P:百日咳、T:破傷風)、Hib(インフルエンザ桿菌b型)、HepB(B型肝炎)ワクチンの種類によっては、当地の医療機関で接種できる保障はありませんので、可能な限り接種可能なワクチンを本邦で接種してから渡航されることを推奨します。
(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明
小児が現地校に入園・入学する際は、原則、予防接種証明書の提出を求められます。提出を要する予防接種の種類は、学校によって異なりますので、赴任前にあらかじめ確認し、準備しておくことをお勧めします。
(注)乳幼児健診について:任意に行われています。出生後1年は毎月健診があり、その後、2歳までは3か月に1回、2歳から5歳までは半年に1回受診することが勧められています。健診の内容は、身長・体重・腕回りと頭囲の測定、心音の確認、耳や鼻、口のチェック等です。
8 病気になった場合(医療機関等)
- (1)Centro Medico Docente La Trinidad
- 住所:Av. Intercomunal La Trinidad-El Hatillo, Caracas
- 電話:0212-949-6411
- 概要:カラカス中心部から南にあり。英語での受診可。消化器系専門のDr. Victor E. Bracho Mosqueraは多少の日本語対応可。
- (2)Clinica El Avila
- 住所:6ta Transversal con Av. San Juan Bosco, Altamira, Chacao, Caracas
- 電話:0212-276-1111
- 概要:総合病院。内科を含め各科の受診が可能。救急外来及び通常外来とも、事前予約は不要。(内科担当医:Dra.Maritza Durán)。
- (3)Policlinica Metropolitana
- 住所:Calle A1, Urb. Caurimare, Baruta, Caracas
- 電話:0212-908-0100、0140
- 概要:カラカス首都圏Baruta地区にあり。医師の一部のみ英語での受診可。
- (4)Hospital de Clinicas Caracas
- 住所:Av. Panteon con Av. Alameda, Urb. San Bernardino, Caracas
- 電話:0212-508-6111
- 概要:カラカス中心部近くにあり。医師の一部のみ英語での受診可。
- (5)Urológico San Román
- 住所:Calle Chivacoa, Sección San Román, Urbanización Las Mercedes, Caracas
- 電話:0212-999-0111、0212-992-2222
- 概要:カラカス中心部から少し離れた閑静な住宅街にあり。Dra. Lila Vega(小児科医/元在ベネズエラ米国大使館勤務)は、英語での受診可。
- (6)Centro Médico de Caracas
- 住所:Av. Eraso, Plaza El Estanque, Urb. San Bernardino, Caracas
- 電話:0212-555-9111
- 概要:カラカス中心部付近。医師の一部のみ英語での受診可。日本語不可。
- (7)Aero Ambulancias Silva(救急車サービス)
- 住所:Av. Lic. Aranda, Qta. Margarita, Urb. San Bernardino, Caracas
- 電話:0424-146-6595(Whatsapp)、0212-953-4822もしくは1195、0212-951-3879
- 概要:24時間対応可。連絡後、20分から30分前後で到着。搬送費用USD150から180ドル(支払い方法:ドル現金、ドル送金または当地現地通貨での送金)。救急車サービス会社と契約されてない方でも利用可。しかし、混雑状況により、契約されている方が優先される場合があります。ベネズエラほぼ全域をカバー。(2024年9月現在)
上記以外の救急車サービス会社は契約者を対象としたサービスのみ行っています。救急車利用に契約が必要な主な救急車サービス会社は以下の通りです。- Rescarven
- Venemergencia
- Fastmed
- Grupo Nueve Once
9 その他の詳細情報入手先
- 在ベネズエラ日本国大使館 メールアドレスconsul@cr.mofa.go.jp
- 厚生労働省検疫所 国・地域別情報(ベネズエラ)
10 一口メモ
「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(もしもの時のスペイン語)を参照ください。