世界の医療事情

令和6年10月1日

1 国名・都市名(国際電話番号)

 アルゼンチン共和国(国際電話番号54)

2 公館の住所・電話番号

Embajada del Japón, Bouchard 547, Piso 17, Buenos Aires, Argentina
(毎週土曜日、日曜日休館)
電話:011-4318-8200

4 衛生・医療事情一般

(1)気候、地誌

 アルゼンチンは南緯22度から55度にまたがる南北に長い国で、北部のサバンナ気候から温暖湿潤気候、中部の乾燥したステップ気候、南部パタゴニアの砂漠気候から寒冷気候、また西部アンデス山脈の高山気候とバラエティに富んでいます。

 首都ブエノスアイレスは東京から見ると地球上でほぼ正反対に位置し、四季は日本と逆転していますが、気候は概しておだやかで過ごしやすい都市です。夏期の1月の平均気温は25℃前後、冬期の7月の平均気温は11℃前後です。ただし日内の温度差が激しく、夏期でも日没後に肌寒くなることがしばしばあります。また、季節の変わり目には突然の雷雨がくることもあります。冬期にはごくまれに雪が降りますが積雪はありません。なお、春先や秋口には、こちらでも花粉症に悩まされる方がいます。

(2)医療水準

 ブエノスアイレス首都圏の衛生状態は比較的良く保たれています。首都圏の一部の私立総合病院は、医療設備も整っており、欧米先進国と遜色のない医療レベルが期待できます。公的医療機関も基幹公立病院の医療レベルは保たれており、外傷診療に優れた施設もありますが、一般的に公立病院は医療費が無料のため混雑しており(サービスが良くなく)、予算の面から医療設備が十分でないことがあるため、邦人の利用には適さない場合が多いです。また、首都圏と地方では医療レベルの地域差もあります。

(3)病院受診時のアドバイス、医療制度

 アルゼンチンで医療を受けるには手間と時間を要します。病院の受診は事前予約が必要で、予約外の急病は日中でも救急外来を受診することになります。同じ病院内でも、診察部門と検査部門は別々になっており、それぞれの部門ごとに事務手続きと支払いが必要です。また、診療所を受診し検査が必要なときは、医師から指示書をもらって、自分で検査ができる別の医療機関を予約して検査を受けて結果を揃えてから、その診療所を再受診しなければなりません。薬は、医師から処方箋を発行してもらい薬局で購入する方式です。言語については、医師には英語を話せるものもおりますが、事務職員や看護師は、ほとんどがスペイン語しか話しませんので、複雑な疾病の受診には、スペイン語がある程度堪能であるか、通訳ができる方の同伴が望ましいです。

 アルゼンチンの医療システムは、公的医療制度、社会医療保険制度(Obra Socialオブラ・ソシアル)、民間医療保険制度(Medicina Prepaga メディシーナ・プレパガ)からなっています。公的医療制度として、アルゼンチン国民だけでなく外国人も、保険未加入者は公立病院を受診すれば原則無料で医療が受けられます。また、アルゼンチンの保険加入者が、保険でカバーされる医療機関の診療を受けた場合は、医療費をそのつど個人で支払う必要がありません。しかし、保険外で私立病院を受診する場合は全額自費となり、邦人が利用することの多い私立総合病院は、一般に医療費が高額で、国のインフレに伴って値上げが行われています。このため、旅行者・出張者は、事前に補償範囲や治療・救援費用が十分な海外旅行傷害保険に加入されておくことをお勧めします。

(4)水質・食品衛生

 首都内の上水道は完備していますが、病原菌は検出されないものの、ラプラタ川の泥水を浄化しているので微細な砂が混入することがあります。飲用できますが、浄水器で濾過する方がよく、飲用には市販のミネラルウォーターをお勧めします。

 農業国のため、野菜・果物・乳製品・肉・卵・ワインなどは豊富で、食品の衛生管理はよく、市内のスーパーマーケットや一般食料品店、肉屋、八百屋で購入する分には問題ありません。レストランは、通常レベルの店であれば、問題なく食事ができます。

5 かかり易い病気・怪我

(1)交通外傷

 アルゼンチンの自動車の運転は一般的な日本人から見ると乱暴で、車間距離をとらず、ウインカーを出さずに曲がったり、車線を守らなかったりする車も多いです。横断歩行者用の信号が青でも、右折・左折の車が歩行者を優先せずに曲がってきます。路線バスの運転も荒く、乗客が乗車しきらないうちに発車したり、停車する前からドアが開いたりすることがあり、急発進、急停車も多いので車内で転倒しないように注意が必要です。

(2)経口感染症

 アルゼンチンの食品衛生は一般に良好ですが、路上や屋台で売っている食品は、衛生管理が十分でないことがあるため、購入を避けた方が無難です。衛生管理されていない農場で飼われていた豚肉から作られたサラミなどが原因で感染する旋毛虫症という寄生虫疾患があり、毎年の発生が報告されています。旋毛虫は加熱により死滅しますが、冷凍では生きていることがあります。地方に行くと農場や路上で「自家製ソーセージ」が売られていますが、そうしたものは生のまま食べないようにして下さい。また、加熱不十分な牛肉が原因と考えられる腸管出血性大腸菌感染症と、それによる溶血性尿毒症症候群も報告されています。

(3)季節性インフルエンザ

 新型コロナウイルス感染症の影響で発生状況が変化していますが、通常、アルゼンチンでは、毎年5月から8月の冬の時期にインフルエンザが流行します。当地での季節性インフルエンザの予防接種(南半球用)は4月からとなります。

(4)デング熱、チクングニア熱、ジカ感染症

 いずれも、夏場の日中(特に明け方と夕方)に、蚊に刺されることによりおこるウイルス感染症です。予防は、防蚊対策(昆虫忌避剤の使用、皮膚の露出を避けるなど)をとることです。
 デング熱は、高熱、頭痛、筋肉痛などを呈し、時に重症型デング熱といわれる死に至りうる合併症をおこします。このため入院や通院での経過観察が必要となります。チクングニア熱は高熱とともに多発関節痛が出現し、関節痛が長期間遷延することもあります。ジカ感染症は発熱、発疹、結膜炎等をおこしますが、何も症状がでないことも少なくなく、重症化することは稀といわれています。しかし、妊娠中に感染すると胎児感染がおこり、小頭症やその他の先天奇形(先天性ジカウイルス感染症)を引き起こします。また、ジカ感染症では、蚊の媒介以外に、性行為によって感染することも問題です。

 アルゼンチンでは、これらの節足動物媒介ウイルス感染症は1月から6月にかけて多く発生します。2024年にはデング熱が大流行し、約55万人が感染し約400人が亡くなりました。ジカ感染症の報告はありませんでしたが、チクングニア熱は約900人が感染したと報告されています。流行状況は年によって異なりますので、事前の情報入手に努めてください。

(5)黄熱

 蚊が媒介するウイルスによる感染症です。潜伏期間は3から6日、軽症から重症まで様々な症状(発熱、頭痛、嘔吐、黄疸など)を起こし、特効薬はなく、致死率の高い疾患です。予防は、予防接種を受けること、蚊に刺されないようにすることです。

 アルゼンチンへの入国に際して、黄熱予防接種証明書(イエローカード)は要求されていません。しかし、アルゼンチンは黄熱に感染する危険のある国に分類されます。WHOの黄熱予防接種の推奨状況(2021年)によると、アルゼンチンに渡航する生後9か月以上のすべてのもので、コリエンテス州、ミシオネス州、に渡航する場合には、黄熱の予防接種が推奨されています。(ミシオネス州には観光名所として有名な「イグアスの滝」があります)。一般的には、フォルモサ州の全域、チャコ州とフフイ州とサルタ州の一部地域への渡航者には黄熱の予防接種は推奨されていません。上記に示されていない地域にのみ行く渡航者には、黄熱の予防接種は推奨されていません。

(6)シャーガス病

 アルゼンチンの北部の州で発生が多い風土病で、トリパノソーマという原虫による感染症です。
 トリパノソーマを持つサシガメが人を吸血しながら糞をして、その排泄物に含まれた病原体が、刺された傷口や、眼や口の粘膜から侵入して感染します。症状には、急性期と慢性期の2段階があり、慢性期では腸管合併症や心臓合併症を起こして死に至ることもあります。予防は、サシガメに刺されないようにすることです。サシガメは家屋の壁の割れ目などに日中潜み、夜間、就寝中の人間を刺して吸血しますので、流行地では粗末な家での寝泊まりは避け、殺虫剤や蚊帳の使用など防虫に気をつけてください。また、サシガメの糞で汚染された飲食物から感染することもあるといわれていますので、飲食物の衛生にも気をつけてください。

(7)ハンタウイルス肺症候群

 野生ネズミの糞尿中に排泄されたハンタウイルスによっておこる感染症で、汚染された土ぼこりを吸い込むことによって感染します。発熱、悪寒、頭痛、嘔気などの後、咳嗽や呼吸困難が出現します。致死率が高いため、罹患したら入院治療が必要です。国内で毎年発生が報告されており、死者も発生しています。ネズミとの接触は避けるよう注意してください。

(8)アルゼンチン出血熱

 病原体であるフニンウイルスに感染した野ネズミとの直接接触や排泄物などによって感染します。重症になると、出血傾向、ショックをきたし、致死率も高いです。ブエノスアイレス州、コルドバ州、サンタフェ州、ラ・パンパ州の農地で感染リスクがあり、ネズミとの接触は避けるよう注意してください。なお、アルゼンチンには、流行地域の15歳以上を対象としたアルゼンチン出血熱に対するワクチンがあります。

(9)HIV/AIDS

 UNAIDSの2023年報告では、アルゼンチンのHIV感染者数は14万人、新規感染者数は年間4,200人、AIDSによる死亡は年間1,400人と推定されています。

(10)狂犬病

 狂犬病ウイルスに感染している哺乳動物(イヌ、ネコ、コウモリなど)に、主に咬まれて感染します。いったん発症すると有効な治療法はなく、100%近い致死率になります。ヒトの狂犬病に関しては、2008年を最後にアルゼンチン国内の報告はありませんでしたが、2021年にブエノスアイレス州でネコに咬まれて発症した死亡例が報告されました。イヌをはじめとする哺乳類に咬まれるなどした場合には、直ちに傷口を石鹸と流水で洗い、最寄りの医療機関を受診してください。事前(曝露前)に狂犬病予防接種をうけていたとしても、事後(曝露後)の予防接種が必要です。

(11)高山病

 高山病とは高地に身体が順応できずに起こる一連の症状で、標高2,500メートル以上で、発症する危険性があります。サルタ州やフフイ州の観光スポットなどには、標高3,000メートルを超えるところがありますので、そうした場所を訪問する際には注意が必要です。主な症状は頭痛、息切れ、吐き気、全身倦怠感、食欲不振および不眠などです。重症化すると肺水腫、脳浮腫をきたし、死亡する場合があります。一般的な予防策は、無理に動き回らず十分な休養をとること、アルコール摂取を控えること、水分を多めに摂取することなどです。症状がよくならないときは低地へ移動してください。また、高山病予防薬としてアセタゾラミドを高地到着の前日から内服する方法が有効とされています。

(12)その他

 アルゼンチン国内では、毎年サソリ被害の報告があり、特に北西部においてサソリ被害が多いようです。また、北東部の森林地帯や、南部パタゴニアの荒野に入るときには、他にムカデなどの節足動物や蛇にも注意してください。

6 健康上心がけること

 一般的事項:手指衛生の励行、飲食物の衛生に注意する、呼吸器感染症流行時のマスク着用、防虫対策をとる、動物にむやみに近づかない、宿泊施設(衛生状態がよい)を選ぶ。

食品:

 先に述べたとおり、牛肉やサラミなどが原因と考えられる消化器感染症が珍しくありません。これらの食品はアルゼンチンではいわば名物とされており、旅行者も口にする機会が多いと思います。信頼できるレストランで、きちんと調理されたものを食べるようにして下さい。

紫外線:

 夏場の旅行では日差しが強いため、紫外線対策をしてください。特に、南部パタゴニアから南極への旅行を計画する場合には必須です。

7 予防接種(ワクチン接種機関含む)

(1)赴任者に必要な予防接種

 日本からアルゼンチンに入国する際、検疫上必要な予防接種はありません。黄熱の予防接種については、5(5)の黄熱の項を参照ください。

 成人は、A型肝炎、B型肝炎、破傷風の予防接種を推奨します。小児は、日本国内での定期予防接種および推奨されている任意接種を可能な限り受けてください。それらに加えてA型肝炎、B型肝炎(定期接種で受けていない場合)の予防接種を推奨します。また、成人、小児ともに衛生状態の良くない地域に滞在予定がある場合は腸チフスの接種を勧めます。

(2)現地の小児定期予防接種一覧

現地の小児定期予防接種一覧
  初回 2回目 3回目 4回目 5回目
BCG 生直後        
B型肝炎 生直後        
肺炎球菌(13価) 2か月 4か月 12か月    
5種混合(DTP+Hib+HB) 2か月 4か月 6か月 15から18か月  
ポリオ(IPV) 2か月 4か月 6か月 5歳(就学前)  
ロタウイルス 2か月 4か月      
髄膜炎菌(4価) 3か月 5か月 15か月 11歳  
A型肝炎 12か月        
MMR 12か月 5歳(就学前)      
水痘 15か月 5歳(就学前)      
3種混合(DTP) 5歳(就学前) 11歳(Tdap)      
HPV(男女とも) 11歳 11歳(初回6か月後)      
インフルエンザ 6から24か月、毎年 (初回のみ4週間以後に2回目接種)      

(注)5種混合(DTP+Hib+HB)(ジフテリア+破傷風+百日咳+インフルエンザ菌b+B型肝炎)
3種混合(DTP)(ジフテリア+破傷風+百日咳)、Tdap(思春期から成人用DTP)
ポリオ(IPV)(不活化ポリオワクチン)、MMR(麻疹+ムンプス+風疹)、HPV(ヒトパピローマウイルス)

(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明

 基本的には、予防接種証明書の提出が求められます。事前に学校と連絡を取って、必要事項をご確認ください。

8 病気になった場合(医療機関等)

(首都)ブエノスアイレス

(1)Hospital Alemán(オスピタル・アレマン=ドイツ病院)
所在地:Av. Pueyrredón 1640(正面入口)、Beruti 2557(救急外来)
電話:(011)-4827-7000(代表)、(011)-5777-5568(救急外来)
概要:全科対応の私立総合病院。邦人の利用実績があります。救急外来は24時間オープン
(2)Centro Medico Mutual Nikkai(セントロ・メディコ・ムトゥアル・ニッカイ=ニッカイ共済会)
所在地:Av. San Juan 2496
電話:(011)-4308-5462(月曜日から金曜日9時から18時)、(011)-5262-9705(休日夜間)
概要:私立診療所。予約制で診療科は曜日により異なります(土日休診)。外来診察のみで、簡単なレントゲンやエコー検査は可能。入院設備はありません。高度な検査や入院が必要な場合は提携病院で行っています。(日本語ができる職員がいます)。
(3)Sanatorio de la Trinidad Palermo(サナトリオ・デ・ラ・トリニダ・パレルモ=トリニダ病院)
所在地:Av. Cerviño 4720
電話:(011)-4127-5500もしくは5555
概要:私立総合病院。集中治療部門が充実。救急外来は24時間対応。
(4)Sanatorio Otamendi(サナトリオ・オタメンディ=オタメンディ病院)
所在地:Azcuénaga 870(救急外来、検査、入院)、Paraguay 2302(予約外来、女性センター)
電話:(011)-4965-2900
概要:(歯科、精神科、小児科を除いて各専門科がある中規模の私立総合病院。
(5)Fundación Favaloro Hospital Universitario(フンダシオン・ファヴァロロ・オスピタル・ウニヴェルシタリオ=ファヴァロロ財団病院)
所在地:Av. Belgrano 1746
電話:(011)-4378-1200、もしくは1300、もしくは1400(代表)、(011)-4378-1313(救急外来)
概要:(創立者は冠動脈バイパス手術のパイオニアのファヴァロロ医師。循環器疾患の治療に優れており、カテーテル治療、移植等の手術が可能。
(6)Clínica y Maternidad Suizo Argentina(クリニカ・イ・マテルニダ・スイソ・アルヘンティーナ=スイス・アルゼンチン病院)
所在地:Av. Pueyrredón 1461
電話:(011)-5239-6000(代表)
概要:スイス・メディカル・グループが運営する私立総合病院。産科、新生児科など母子診療に優れています。
(7)Sanatorio Mater Dei(サナトリオ・マテル・デイ=マテル・デイ病院)
所在地:San Martin de Tours 2952
電話:(011)-4809-5555(代表)、(011)-4809-5533(予約)
概要:私立総合病院。母子診療に優れています。
(8)Hospital Italiano de Buenos Aires (オスピタル・イタリアノ・デ・ブエノスアイレス=イタリア病院)
所在地:Tte. Gral. Juan Domingo Perón 4190
電話:(011)-4959-0200(代表)、(011)-4959-0300(予約)
概要:イタリア病院グループが運営する全科対応の私立総合病院。医学部を併設しています。海外からの患者も受入れており、救急医療体制も充実。
(9)日本語での受診が可能な医師
ア Dra. Kyoko Nakamura(中村恭子医師 専門:小児科、内科)
所在地:Enrique Martínez 2246, Piso 1-C
電話:(011)-4541-0597
概要:必要に応じて往診もしてくれます。
イ Dra. María Celeste Hori(堀 真理亜 セレステ医師 専門:家庭医学、皮膚科)
所在地:Arce 829, Piso 7-A(エスコバル美容外科)
電話:(011)-4771-6149
診察日:月曜日・木曜日午前・午後、火曜日午後
ウ Dra. Sakurako Oda(小田桜子医師 専門:整形外科)
所在地:Cerviño 4679, Piso 3(Unidad de Columna de Buenos Aires)
電話:(011)-4770-9213
診察日:火曜日午後
エ Dra. Tomoko Arakaki(新垣智子医師 専門:神経内科)
所在地:J.D PerÓn 1730, 7° piso, "78" - CABA
電話:(011)-4373-0809
診察日:金曜日午後
オ Dra. Mónica Satonobu(里信モニカ歯科医師)
所在地:Manuel Ugarte 3893, Piso 1-F
電話:(011)-4543-6589
診察日:月曜日から土曜日、ただし要予約

10 現地語一口メモ

 「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(もしもの時のスペイン語)を参照ください。

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