世界の医療事情

東ティモール

令和2年10月

1 東ティモール民主共和国 (国際電話国番号670)

2 公館の住所・電話番号

Avenida de Portugal, Dili, Timor-Leste
(毎週土日休館)電話 332-3131/2
https://www.timor-leste.emb-japan.go.jp/別ウィンドウで開く

4 衛生・医療事情一般

 東ティモール民主共和国は、東経123~127度、南緯8~10度に位置し、小スンダ列島のティモール島東半分とインドネシア領西ティモールの飛び地オエクシ県からなる、およそ1万5千平方キロメートル(岩手県程度)の国土を有します。日本との時差はありません。気候は、熱帯モンスーン気候に属し、雨季と乾季の区別があります。日中の最高気温は、山岳地域を除き、一年を通じて30℃台と比較的高温です。雨季は12~4月、乾季は6~10月で、5月と11月は遷移シーズンにあたります。乾季にはほとんどの川で水の流れがなくなりますが、雨季には逆に各地で洪水の被害が報告されます。ディリ市内も排水が悪く、雨が降るとあちこちで道路が冠水します。

 ディリ市内でも上水道の整備は十分に進んでおらず、上水道も完全な浄水ではありません。どちらにしても飲用には適していません。

 ディリ市内は水洗トイレもありますが、医療機関であっても清潔なトイレを見つけることは非常に困難です。また生活排水は直接海に流れ込んでおり、市街地沿岸は海水浴には適していません。

 現地の医療機関は十分な設備が整っておらず、施設の衛生状態もよくありません。また医薬品が不足している上に医療レベルも低く、邦人が安心して受診できるレベルにはありません。憲法の規定により、東ティモール人の医療費は民間医療機関におけるものを除いて無料ですが、外国人の医療費は原則すべて自費負担です。

 医療水準が低いため、検査や治療のために日本またはシンガポール、インドネシア(バリ島デンパサール)、オーストラリア(ダーウィン)等、国外へ行く必要が生じることもまれではありません。国外への移送費や医療費は高額となるため、渡航にあたっては高額の移送費用や医療費をカバーしている海外旅行保険に加入することを強くお勧めします。

 東ティモールはデング熱等の蚊が媒介する感染症の流行地であり、年間を通じて罹患の危険性が伴うため、防蚊対策が必要です。また、様々な経口感染症があり、飲み物や食事には十分注意が必要です。

5 かかり易い病気・怪我

(ア)交通事故

 ディリ市内では自動車、オートバイの交通量の増加に伴い交通事故が多発しています。高度な外傷に対応できる病院はありませんので、事故に遭わないように十分注意して下さい。事故に遭って怪我をした場合には、軽傷であればディリ国立病院等で応急処置が可能な場合がありますが、重症の際には医療設備が整った国外に緊急移送する必要があります。

(イ)消化器感染症(感染性腸炎・旅行者下痢症など)

 細菌やウイルス等が原因となって下痢を起こす感染性腸炎は、旅行者の多くが経験します。感染症ではなくても、硬度など普段飲んでいる水との水質の違いによって下痢を起こす場合もあります。生水を飲まない、生野菜などの生ものや氷を避ける、肉や魚は十分加熱調理されたものを食べるなどの注意が必要です。カットされたフルーツやフレッシュフルーツジュースにも注意して下さい。

 発熱や下痢・腹痛などの消化器症状を主症状とする腸チフス・パラチフスは、当地ではよく見られる疾患です。長期滞在を予定されている場合は、腸チフスワクチンを接種されることをお勧めします(パラチフスに対するワクチンはありません)。

 また、当地には多くの寄生虫疾患があります。赤痢アメーバによるアメーバ腸炎、ランブル鞭毛虫によるジアルジア症の他、回虫、鉤虫、条虫(サナダムシ)などは広く蔓延しています。

(ウ)デング熱

 デング熱は蚊が媒介するウイルス感染症です。日中活動するネッタイシマカやヒトスジシマカによって伝搬します。数日から1週間程度の潜伏期の後、頭痛・関節痛・筋肉痛などの痛みを伴う突然の38℃以上の高熱で発病しますが、典型的な症状を伴わない場合もあります。重症の場合は出血熱やショックを引き起こすことがあります。蚊が大量に発生する雨期(1~3月頃)に患者数のピークがありますが、一年中感染する危険性があります。デング熱にはワクチンや治療薬がないため、蚊に刺されないように十分な防蚊対策を行うことが重要です。罹患した場合は、水分補給や安静などの一般的な対症療法を行いますが、鼻出血など出血傾向が出現して重症化することが予想される場合は、国外の医療機関に移送する必要があります。

(エ)マラリア

 マラリアも蚊が媒介する感染症です。夕刻から明け方に活動するハマダラカがマラリア原虫を媒介します。発症すると38℃以上の高熱が続き、全身倦怠感、激しい頭痛、関節痛、悪寒などの症状が現れます。東ティモールのマラリアは熱帯熱マラリアと三日熱マラリアの2種類で、その割合はおおむね1:1です。熱帯熱マラリアの場合は治療が遅れると命に関わります。

 この十年間で東ティモールのマラリアの罹患件数はかなり減少し、2018年には0を記録しました。しかし、地方やインドネシアとの国境と接した地域ではまだ見られる可能性がある感染症の一つです。予防薬内服に関しましては滞在地や滞在期間、行動様式により必要性が異なりますので、事前に専門医にご相談下さい。

 なお、地方都市では高熱が出るとすぐにマラリアに感染したと決めつけ、民間療法や出所が不明あるいは有効期限が過ぎたマラリア薬を飲ませる場合があります。マラリアが疑われる場合は、必ず信頼できる民間医療機関や国立病院、地域の保健センターを受診し診断と治療を受けるようにして下さい。

 マラリアの潜伏期間は通常1週間~1ヶ月ほどです。日本へ帰国してから症状が出ることもありますので、帰国後に発熱等の症状が出現し医療機関を受診する際には、マラリア流行地域に渡航、滞在していたことを医師に伝えて下さい。

(オ)結核

 東ティモールは世界でも有数の結核患者発生地域です。日本からの渡航者が普段の生活で感染することは希ですが、結核に感染している人との濃厚な接触(寝食を共にする、同じ部屋に長期間滞在する等)は避ける必要があります。毎年の定期健康診断(X線検査)を実施することをお勧めします。また、咳が3週間以上続く場合は医師の診察を受けて下さい。

(カ)破傷風

 土壌の常在菌である破傷風菌が傷口から進入し、神経毒素を産生することによって発症する中毒性感染症です。かすり傷程度の小さな傷からも感染することがあるため、裸足で歩かないこと、また、渡航前にあらかじめワクチンを接種しておくことをお勧めします。

6 健康上心がける事

(ア)食べ物・飲み物

 井戸水や川の水・湧き水など(いわゆる生水)は、細菌性腸炎、A型肝炎、赤痢、腸チフス、コレラ等の原因となるので、必ず煮沸させた上で使用して下さい。また、生野菜は避け温野菜を摂ることを心掛けて下さい。外食の場合にも調理方法がわからないときは注意が必要です。レストランでの飲み物のグラスや氷も、信用のおける店を除いては使用を避けた方がよいでしょう。飲料水はミネラルウォーターを利用して下さい。肉・魚は十分加熱調理されたものを食べるようにして下さい。

(イ)蚊対策

 マラリアやデング熱は蚊が媒介しますので、防蚊対策は重要です。露出した肌への昆虫忌避剤(虫除けスプレー等)、蚊取り線香や殺虫剤の使用の他、就寝時には網戸や扉をしっかり閉め、蚊帳を用いるなど、蚊に刺されないよう注意をすることです。外出時には極力肌をさらさないよう心掛けたほうが安心です。また、水場には蚊が卵を産み付けるため、こまめに水を流し、ボウフラや卵を駆除するよう心掛けましょう。

(ウ)直射日光・脱水対策

 日中の日差しは強く、外出時の日差し対策に帽子やサングラスが有用です。短時間の直射日光でも日焼けし、重症化することもあるため、日焼け止めを塗ることもお勧めします。また、野外でスポーツ等をする場合には、汗等で体から大量の水分が失われ脱水症や熱中症になり易いので、喉が渇く前に水分(スポーツドリンク等)および塩分を充分に補給して下さい。

(エ)暑さと疲れ

 炎天下の野外とエアコンの効いた屋内との移動は予想以上に疲労が蓄積します。また、通年暑いため夜間の睡眠が浅くなりがちですので、体力の消耗に注意して下さい。短期で旅行される場合でも余裕を持った日程を組み、また、長期で滞在される場合は定期的に休暇を取り、精神的にもリフレッシュするようにして下さい。

(オ)レクリエーション(水泳、スキューバダイビング等)

 河川や沿岸での水泳は、衛生状態が悪く寄生虫感染の危険性があることや、クラゲなどの有毒生物に刺されることも多いことから、お勧めできません。スキューバダイビングでの事故にも注意が必要です。当地には減圧症の治療を行う施設(高気圧酸素治療施設)はありません。減圧症の場合、気圧が低くなる航空機での国外搬送もできません。スキューバダイビングはこれらのことを十分考慮した上で行って下さい。

7 予防接種

 現地のワクチン接種医療機関等についてはこちら(PDF)別ウィンドウで開く

(ア)赴任者に必要な予防接種(成人、小児)

 東ティモールではワクチンを含む医薬品の入手が困難なため、渡航前にできるだけ予防接種を受けることをお勧めします。渡航にあたっては、成人は、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、日本脳炎、狂犬病、腸チフス等、小児は、BCG、三種混合、ポリオ、日本脳炎等の予防接種を受けることをお勧めします。

(イ)東ティモール民主共和国の小児定期予防接種

東ティモール民主共和国の小児定期予防接種
ワクチン名 初回 2回目 3回目 4回目
BCG 出生時      
B型肝炎 出生時      
ポリオ(OPV) 出生時 6週 10週 14週
ポリオ(IPV) 14週      
5種混合※ 6週 10週 14週  
ロタ 6週 10週 14週  
MR 9ヶ月 18ヶ月    
DPT 18ヶ月      
DT 6歳      

 ※ DPT+Hib+B型肝炎

 注意:これらの予防接種は、UNICEF、GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)、及びWHOの支援で現地の子どもたちのために行われているものです。原則、外国人への接種は行っていません。

(ウ)小児が現地校に入学・通園する際に必要な予防接種・接種証明

 東ティモール人が多く通う現地校については特に必要としていませんが、インターナショナルスクールへの入学・入園に際しては、スクールにより必要とする場合がありますので確認が必要です。

 入学・入園する際に予防接種・接種証明が必要なインターナショナルスクール例(ディリ市内)

  • St. Anthony International School (SAIS)
  • Mahardika International School (MIS):幼稚園のみ必要
  • Quality School International (QSI)

(エ)乳児健診

 定期健診のシステムはありません。健診希望者は、病院やクリニック、各都市にある保健センターあるいは保健ポストと呼ばれる場所に出向いて健診を受けます。

8 病気になった場合(医療機関)

 東ティモールには、在留邦人や邦人旅行者が安心して利用できる水準にある医療機関はありません。ここに掲載されている医療機関は、あくまでも参考資料と考えて下さい。国外での治療の可能性を考え、緊急移送をカバーする海外旅行保険への加入を強くお勧めいたします。

 歯科に関しても、齲歯(うし:虫歯のこと)の治療や歯の詰め物等の処置で、安心して利用できる歯科医療機関はありません。

◎ディリ市

(1)Hospital Nacional Guido Valadares(ディリ国立病院)
所在地:Bidau Toko-baru, Dili
電話:7798-2015
概要:東ティモール国立の総合病院です。現在は各国からの医療チームの協力により運営されています。24時間対応可能となっていますが、夜間の検査は出来ません。
 医療検査設備は血液検査、レントゲン、心電図、超音波検査、CTスキャンがありますが、機器の故障や検査試薬の在庫切れで利用できないこともしばしばです。手術室、分娩室もありますが衛生的ではありません。病棟内の冷房設備も限られています。キューバ、中国、オーストラリアからの医療チームが支援していますが、英語を話せるスタッフは限られています。
 東ティモール人の場合診察料は無料ですが、外国人は25ドルほどの受診料がかかります。さらに検査や治療に応じて料金を徴収されます。受診に際しては、緊急の場合以外では市内クリニック等からの紹介状が必要です。
(2)Stamford Medical LDA
所在地:Rua Martires da Patria, Mandarin, Dili
電話:331-0141/1209, 時間外専用 7772-1111
概要:2012年に開業したクリニックです。欧州出身医師を中心に、4~5名の医師が診療しています(2020年10月現在)。簡単な血液検査や超音波検査を行うことができますが、レントゲンはありません。シンガポール、デンパサール、ダーウィンに提携病院があり、検査や治療のためにそれらの都市に行く場合は提携病院を紹介してもらうことができます。受診料は診療時間内であれば、初診料は$60で再診料は$40です。また、時間外の場合は時間帯等により追加料金が加算されます(2020年10月現在)。検査や投薬等には別途料金がかかります。診療時間は平日が9時-18時、土曜は9時-13時で、予約は必要ありません。時間外はオンコールで対応しており、時間外専用電話に連絡してから受診します。救急車もありますが、会員制です。英語での診療で、日本語は通じません。

9 その他の詳細情報入手先

 大使館ウェブサイト:https://www.timor-leste.emb-japan.go.jp/別ウィンドウで開く

 大使館代表メールアドレス:japan.embassy.in.timor-leste@di.mofa.go.jp

10 現地語・一口メモ

 東ティモールの公用語はテトゥン語とポルトガル語で、実用語としてインドネシア語と英語を使用するとされています。英語は外国人を対象とした商店等では比較的通じますが、殆どの国民はインドネシア語、テトゥン語のみを理解します。ポルトガル語を話すことができるのはポルトガル植民地時代およびポルトガルにおいて教育を受けた一部の国民に限られているようです。またその他ケマク語、ファタルク語、マカサエ語など30以上の地方語が使用されており、地方の村落ではテトゥン語が通じないことも多いようです。

(1)語彙(テトゥン語のみ)

  • 医師: doutor(ドゥトール)
  • 飲み薬: aimoruk(アイモルク)
  • 注射: sona(ソナ)
  • 胸痛: hirus matan moras(ヒールス マタン モーラス)
  • だるい: kole(コレ)
  • 腹痛: kabun moras(カブン モーラス、下痢の意味もある)
  • 下痢: tee been(テー ベーン)
  • 発熱: isin manas(イシン マーナス)
  • 吐き気: laran sae(ララン サエ)
  • 傷: kanek(カネク)
  • 性病: gonoreia(ゴノレイア)
  • 発疹: musan-musan iha klit(ムサンムサン イハ クリート:皮膚のつぶつぶ、の意)
  • 入院: tama hospital(タマ オスピタウ)
  • 抗生物質: aimoruk antibiotik(アイモルク アンティビオティク)
  • 下痢止め: aimoruk ba tee been(アイモルク バ テーベーン)
  • 食欲不振: haan ladiak(ハアン ラディアク)
  • 血液: raan(ラアン)
  • 尿: mii(ミイ)
  • 便: tee(テー)
  • 痛い: moras(モーラス)
  • 咳が出る: mear(メアー)
  • 痰が出る: mear tasak(メアー タサク)
  • 検便: tes tee(テス テー)
  • 検尿: tes mii(テス ミイ)
  • かゆい: isin katar(イシン カタール)
  • おなかが張る: kabun bubu(カブン ブブ、腹が腫れる、の意)
  • 火傷: moras ahihan(モーラス アヒハン)
  • 食中毒: intoksikasaun alimentar(イントクシカサウン アリメンタール、ポルトガル語由来。あまり使わない)
  • 胃痛: moras estumagu(モーラス エストゥマグ)
  • 鎮痛剤: aimoruk ba moras(アイモルク バ モーラス)
  • 消化剤: aimoruk dijestivu(アイモルク ディジェスティブ、あまり使わない)
  • 歯痛: nehan moras(ネハン モーラス)
  • 不眠: la toba diak(ラトバ ディアク)

(2)単文

  • 具合が悪い
    Hau senti moras.(ハウ センティ モーラス)
  • 病院に連れて行って下さい
    Favor ida lori hau ba hospital.(ファボール イダ ロリ ハウ バ オスピタウ)
  • 診察の予約をお願いします。
    Hau hakarak hasoru doutor, por favor.(ハウ ハカラク ハソル ドゥトール ポルファボール、医者に会わせてくれ、の意)
    Hau hakarak husu doutor konsulta hau, por favor.(ハウ ハカラク フス ドゥトール コンスルタ ハウ ポルファボール)
  • 病院はどこですか?
    Hospital iha nebee?(オスピタウ イハ ネベ?)
  • 診察室はどこですか?
    Konsulta fatin iha nebee?(コンスルタ ファティン イハ ネベ?)
  • 下痢がひどいです。
    Hau iha tee been maka’as.(ハウ イハ テーベーン マカアス)
  • 寒気がします。
    Hau senti malirin.(ハウ センティ マリリン)
  • 息切れがします。
    Hau iha iis boot.(ハウ イハ イス ボオト)
  • 食欲がありません。
    Hau la haan diak.(ハウ ラ ハアン ディアク)
  • 疲れています。
    Hau senti kole.(ハウ センティ コレ)
  • めまいがします。
    Hau senti oin halai.(ハウ センティ オインハライ)
  • 下腹部が痛いです。
    Hau senti moras iha okos kabun nian.(ハウ センティ モラス イハ オコス カブンニアン)
  • 頭がずきずきします。
    Hau ulun fatuk moras maka’as.(ハウ ウルン ファトゥク モーラス マカアス)
  • ここに書いて下さい。
    Favor ida hakerek iha nee.(ファボール イダ ハケレク イハ ネエ)
  • 子どもが二日ほど下痢をしています。
    Ami nia oan iha tee been hori loron rua.(アミ ニア オアン イハ テーベーン ホリ ロロン ルア)
  • 痛み止めを下さい。
    Hau husu aimoruk ba moras por favor.(ハウ フス アイモルク バ モーラス ポルファボール)
  • のどが痛いです。
    Hau kakolok moras.(ハウ カコロク モーラス)
  • 風邪をひいてのどが痛いです。
    Hau iha ispa no kakolok moras.(ハウ イハ イスパ ノ カコロク モーラス)
  • はなが出ます。
    Hau iha inus been.(ハウ イハ イヌス ベーン)
  • 咳には痰がからんでいます。
    Hau mear tasak.(ハウ メアー タサク)

11 新型コロナウイルス関連情報

(ア)東ティモールの新型コロナウイルス感染状況

 令和2年3月21日、東ティモールにおける初めての新型コロナウイルス感染例が発表されて以降、東ティモールの新型コロナウイルス感染状況は、感染経路が不明である国内流行早期に移行するのではなく、国内流入期に留まっています。こうした状況を受けて、東ティモール政府は、第三国との空路や陸路の封鎖などといった水際対策を強化するとともに、検疫・隔離施設の拡充をこれまで実施してきました。その後、東ティモール政府は、危機管理統合センターを立ち上げ、新型コロナウイルス感染症の包括的な対策、及び対応に取り組むことになりました。

 こうした中、新型コロナウイルス感染者数は、4月24日に確認された新規1名の後は計24名で推移していましたが、8月以降、散発的に新規感染者が確認されるようになり、令和2年10月1日現在、計28名の感染者が確認されています。そうはいうものの、東ティモールの新型コロナウイルス感染状況はなお国内流入期にあり、水際対策、特に、インドネシア領西ティモールからの陸路を使った入国者(不法入国者を含む)への対策が重要となっています。

(イ)東ティモールにおける新型コロナウイルス感染者探索、及び診療枠組み

 東ティモールにおける新型コロナウイルス感染者の探索は、ア いわゆる濃厚接触者、イ 東ティモールへの入国者、ウ 医療機関受診者、及びエ 市中感染が疑われる者といった四類型の人々に対して実施されます。国立衛生研究所において実施されたRT-PCRの結果、新型コロナウイルス感染が陽性であることが判明した場合、東ティモール唯一の入院治療施設であるベラ・クルズ隔離施設に入院することになり、治療を受けるなどして24時間以上の間隔を開けて実施された2回のRT-PCRの結果がともに陰性である場合に限って退院が許されることになります。ベラ・クルズ隔離施設には、約30床のベッドがありますが、酸素の配管などといったパイピングが施されていない上、人工呼吸器が5台前後しかなく、新型コロナウイルス感染症の中等症以上の対応は困難だと考えられます。東ティモール政府は、今後の新型コロナウイルス感染症拡大に備え、ベラ・クルズ隔離施設以外にも、数カ所の隔離施設(入院治療施設)の新設を進めています。

 なお、東ティモールに入国しようとする者は、たとえば、国際連合世界食糧計画が運用するチャーター便を利用する場合、旅行開始日から遡って5日以内に発行されたRT-PCRによる新型コロナウイルス感染症陰性証明書が必要となります。

(ウ)東ティモールにおける新型コロナウイルス感染症対策

 東ティモールにおける新型コロナウイルス感染者の殆どが、無症候性感染者、或いは軽症例に留まることに加え、新規感染者の発生が散発的であるため、東ティモールの診療枠組みは未だ破綻せずに済んでいるとも考えられます。

 これまでのところ(令和2年10月1日現在)、東ティモールの新型コロナウイルス感染状況は国内流入期にあり、水際対策が重要であることに変わりはありません。しかし今後、感染状況が国内流行早期に転じた場合、東ティモールの25歳以下の人口割合が62%である(Timor-Leste Population and Housing Census 2010)ことなどを踏まえますと、新型コロナウイルス感染症の無症候性感染者が増加することが予想されます。そうした場合、いわゆる三密を回避することや、適切な手洗いや手指消毒、さらには、適時のマスク使用などがより重要な新型コロナウイルス感染症対策になってくると考えられます。本年3月のWHOによるパンデミック宣言時には、入手することが困難であった不織布マスクやアルコール消毒液も、限定的ですが店頭に並ぶようになりました。

 東ティモールの脆弱な診療枠組みを意識しつつ、新型コロナウイルス感染症に罹患しないための予防を徹底することが自己の生命を守るための第一選択になると考えられます。


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