世界の医療事情
ブータン
1 国名・都市名(国際電話番号)
ブータン王国(国際電話番号975)
2 公館の住所・電話番号
在インド日本国大使館が在ブータン日本国大使館を兼轄
- 在インド日本国大使館
- 50-G, Shantipath, Chanakyapuri, New Delhi 110021, India
- 電話:011-4610-4610 / 011-2687-6581
(毎週土曜日、日曜日休館、その他の休館日はホームページで確認してください。) - 在インド日本国大使館
4 衛生・医療事情一般
(1)気候
ブータンの気候は地域により異なり、インドとの国境地域を含む南部は亜熱帯気候に、首都ティンプーを含む国土の大部分はモンスーン気候に、北部の山岳地帯はツンドラ気候にそれぞれ属します。ティンプー、パロ(とも標高は約2,300m)でははっきりとした四季があり、その気温の状況は長野の高地を連想させるものです。冬期(11月から3月)は寒さが厳しく最低気温が氷点下となることも珍しくありません。モンスーン期(6月から8月)には日中の最高気温は25℃を超えますが、朝晩は気温が10℃台半ばまで下がるなど一日の温度差が大きい日が続きます。
(2)地誌
ブータンは九州ほどの面積に、約80万人が暮らす仏教国です。 国土の大部分が標高1,000m以上の山岳地帯であり、北部・西部の中華人民共和国の間には6,000から7,000m級の山々が連なっています。国内都市間の移動は陸路が中心で、国土を東西に延びる縦貫道を軸に南北には支線が広がっています。
(3)水質、食品衛生
水道水を直接飲むことはできません。飲用にはしっかり封のされたミネラルウォーターを利用してください。食事の際は定評のある衛生的なレストランを選択し、安レストランや露店での飲食は避け、よく火の通ったメニューを選んでください。生野菜やカットフルーツは原則避けるのが無難です。
(4)医療制度と医療構造
(医療制度)ブータンでは、医療サービスは旅行者も含めて無料(一部、個室料金やJDWNR病院の特別専門医外来、私立診断センターは有料)で提供されています。ブータンの医療機関では、伝統医学科も内科や外科などの西洋医学による診療科と同様に確立していることが特徴の一つです。ブータンの医師数は国内で200名ほどと大きく不足しており、医師数を充実させることは国内喫緊の課題となっています。ブータンには長らく西洋医学医師養成課程がなく、その資格取得は近隣諸国(インド、バングラデシュ、スリランカなど。日本でも一部大学医学部で留学生受け入れが進んでいます)への医学部留学により行っていましたが、2023年より国内医科大学でも資格取得可能となりました。
(医療機関構造)ブータンでは、首都ティンプーのJDWNR病院が国内医療機関の頂点となって、すべての下位医療機関からの紹介患者を受け入れています。ブータンでは、国土を3地域(西部10県、中部4県、東部6県)に分け、それぞれの地域に各地域の中心となるリフェラル(紹介)病院が指定(西部:JDWNR病院、中部:Gelephu病院、東部:Mongar病院)されています。
これらの地域リフェラル医療機関の下には、20ある各県にそれぞれ医師が数名ずつ配置された県病院(District Hospital)が原則的に少なくとも1つ(国内合計で約30施設)あり、また医師と看護師、Health Assistantが配置されたグレード1基礎保健所(Basic Health Unit 1(BHU1))も加えて、地域医療の最前線を担っています。
これら以外に、各県内それぞれ数か所にHealth Assistantのみが配置されているグレード2基礎保健所(Basic Health Unit(BHU)2)が合計で約200施設設置されており、簡単な診療や出産、小児の定期予防接種、各種保健指導などを含むプライマリケアを提供しています。さらにBHUの下には、それぞれ複数のOutreach Clinic(ORC)と呼ばれる出張診療所も設けられています。
近年ブータンでは医療関係者の海外への人材流出が進み、専門医不足、看護師不足が大きな問題となっています。
(5)病院受診時のアドバイス
ブータン国内でCTスキャンは上記3つのリフェラル病院に配置されていますが、MRIを有する総合病院はJDWNR病院のみで、中部・東部のリフェラル病院や県病院レベルでは専門医の不在のため、診断、検査、手術が満足にできないことなどが想定されますので注意してください。また、国内最高の医療を提供するJDWNR病院であっても脳・心臓疾患や交通事故による多発外傷といった重症疾患に対応することは困難で、ブータン国内での治療が困難な場合は医療先進地域への緊急移送を検討することとなります。
5 かかり易い病気・怪我
南部の一部地域を除けば熱帯感染症の蔓延はありません。日本人渡航者がかかるリスクの高い病気の筆頭は経口感染症であり、頻度的には呼吸器感染症(風邪症候群など)がこれに続きます。ほかに、犬咬傷、急性高山病にも注意が必要です。
(1)経口感染症
食べ物や飲み物、不衛生な水を介して感染する経口感染症(渡航者下痢症、赤痢、アメーバ赤痢、腸チフス・パラチフス、A型肝炎、ジアルジア症など)は、旅行者や在留外国人にとって当地で最もかかりやすい感染症です。 生水や生ものの摂取はひかえましょう。
(2)犬咬傷
ブータンでは市街地で野犬が放置されており、犬咬傷が頻繁に報告されています。野犬(及びほ乳動物すべて)には不用意に近づかないようにしてください。ブータンでは国を挙げて野犬への予防接種を行った結果、2023年に国家が狂犬病清浄国となった旨を宣言していますが、世界保健機構(WHO)のホームページでは一部地域における狂犬病のリスクが指摘されています。また、狂犬病だけでなく、犬などに咬まれた場合は傷口から細菌感染や破傷風などの重大な病気にかかるリスクがありますので、傷口を石けんと大量の水でよく洗い、その日の内に必ず医療機関を受診してください。
(3)急性高山病
ブータンの国土の多くは標高の高い山岳地帯となっています。首都ティンプー、空港のあるパロ、中部のトンサなどの都市の標高は約2,000から2,400m程度です。これらの都市に滞在する場合、運動したときの息切れや、人によっては高地による若干の影響(山酔い)が出る場合もあります。 高山病は、高所における低い大気圧の酸素濃度に身体が順応できないことによって発症します。高度に対する感受性は人によって個人差がありますが、海抜2,400m位から注意が必要と言われています。症状は、頭痛、不眠、食欲不振、吐き気、手足や顔のむくみ、めまい、空咳、息切れ、脱力等で酷くすると、運動失調(バランス障害など)、急性肺水腫、脳浮腫による意識障害から死に至ります。日本人旅行者でも、まれですが高山病による死亡事例があります。
街と街の間の移動は、3,000mを超える標高の高い峠を越えることが多く、また高峰が連なる北西部のトレッキングツアーでは、4,000mに迫るコースが含まれることがあり、厳しい高低差を進むものもあります。高山病対策としては、トレッキングや登山に関しては、(1)ゆっくり登る、(2)数日前に現地入りして高度順応日を設ける、(3)十分な水分補給(1日2L以上)、(4)急性高山病の症状が生じたら、それ以上は高度を上げない、そしてその場で安静にして経過を見ても症状が軽快しない場合は一晩待つことなく高度を下げる、などの対策を取る必要があります。過労、睡眠不足、飲酒、睡眠薬の使用はリスク因子です。ガイドの忠告に従うことも重要です。予防薬としてアセタゾラミドがありますので、旅行前にその必要性も含めてトラベルクリニック(渡航外来)で医師に相談してください。
(4)蚊やダニが媒介する感染症
ブータンの南部インドとの国境地域(サルパン県、チラン県、シェムガン県、サムドゥプ・ジョンカル県など)では、標高が低く高温多湿のため、マラリア(熱帯熱マラリア43%、三日熱マラリア57%:WHOデータ)が発生しています。また、日本脳炎、デング熱、チクングニア熱、ツツガムシ病の発生も報告されています。皮膚の露出を裂ける服装や露出部へのDEETやイカリジンを含む蚊除け塗布、機密性の高い部屋での生活、蚊除けベープや蚊取り線香の使用、蚊帳・網戸の使用など蚊に刺されない工夫を徹底してください。
6 健康上心がけること
医療水準や地理的条件および国内の交通事情から、ブータン国内では高度な医療へのアクセスは容易でないと考え、日ごろから健康管理と衛生的な食生活を心掛けてください。
特に基礎疾患をお持ちの方は、ブータン滞在中の基礎疾患の管理方法について、渡航の是非を含めて事前に主治医とよく相談してください。現地での医薬品入手は困難であると考え、可能であれば必要な医薬品は持参することをおすすめします。旅行者も生活習慣病の常用薬、使い慣れた整腸剤や風邪薬は適量を持参するとよいでしょう。また万一に備えて、渡航前に緊急移送オプションを含む十分な補償内容(治療・救援費用3,000万円以上が望ましい)の海外旅行保険に加入されることをおすすめします。現地での医療費は高額でなくとも、緊急移送と移送先の診療費用が高額となる場合があるためです。
7 予防接種(ワクチン接種機関含む)
現地のワクチン接種医療機関等についてはこちら(PDF)をご参照ください。
(1)赴任者に必要な予防接種
ブータン入国にあたり日本人に義務づけられている予防接種はありません。
成人では、A型肝炎、B型肝炎、日本脳炎、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)三種混合、腸チフス、狂犬病に対して予防接種を受けることをおすすめします。このほか、定期接種ワクチン(特に麻疹・風疹混合、水ぼうそう)やおたふく風邪(ムンプス)は、母子手帳等を確認の上、不足している場合は接種後の渡航をご検討ください。
小児については、日本で行われている定期予防接種に加え、A型肝炎(1歳以上)、腸チフス(2歳以上)、狂犬病の予防接種(曝露前免疫)を受けることをおすすめします。
旅行者については、小児期の予防接種を完了しているとしても、A型肝炎、B型肝炎、ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)三種混合、腸チフス(2歳以上)に免疫をつけておくことをおすすめします。旅行が長期になる・動物と接触する可能性が高い場合、野外での活動が多く想定される等の場合は、狂犬病の暴露前免疫も考慮して下さい。またインド国境に近い地域では日本脳炎の予防接種を受けることをおすすめします。
(2)現地の小児定期予防接種一覧
初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | |
---|---|---|---|---|---|
BCG | 出生直後 | ||||
経口ポリオ(OPV) | 出生直後 | 6週 | 10週 | 14週 | |
不活化ポリオ(IPV) | 14週 | 8か月 | |||
ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib) | 6週(注1) | 10週(注1) | 14週(注1) | ||
ジフテリア・百日咳・破傷風(DPT) | 6週(注1) | 10週(注1) | 14週(注1) | 2歳 | 破傷風・ジフテリア(Td) | 6歳 | 12歳 |
肺炎球菌 | 6週 | 10週 | 9か月 | ||
麻疹・風疹・ムンプス(MMR) | 9か月 | 2歳 | |||
B型肝炎 | 出生直後 | 6週(注1) | 10週(注1) | 14週(注1) | |
Td | 6歳 | 12歳 | (注2) | ||
ヒトパピローマウイルス(HPV) 15歳未満の男女 |
12歳 | 初回から6か月後 | ヒトパピローマウイルス(HPV) 15歳以上の男女 |
初回接種 | 初回から2か月後 | 初回から4か月後 |
(注1):5種混合ワクチン(B型肝炎-DPT-Hib)を使用しています。
(注2):妊婦用のプログラムが別に存在します。
(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明書
現地校については特に必要ありません。
8 病気になった場合(医療機関等)
ブータンでは医療施設は原則的に国立で無料ですが、予防接種は一部有料です。国内医療機関の最後の砦たるJDWNR病院であっても、日本や先進国のような高度医療を受けることは困難です。旅行者はブータン国内で基本的にガイドと行動を共にしますので、体調不良のときはガイドに対応を相談するとともに、ご自身が加入する海外旅行保険の緊急医療相談サービスなどをご利用ください。
各県の拠点病院以外のBasic Health Unit(医師や看護師が常駐しているとは限りません)やOutreach Clinicで応急処置を受けた後は、拠点病院の受診を考慮してください。
(首都)ティンプー
- Jigme Dorji Wangchuck National Referral(JDWNR)Hospital
- 所在地:Thimphu(Memorial Chorten からGongphel Lam の道沿い。)
- 電話番号:02-325244から5、02-321811、02-322420、02-324234、02-322620、02-322496から7、02-322769
- 救急番号:02-325384
- Email:info@jdwnrh.gov.bt
- ホームページ:Jigme Dorji Wangchuck National Referral(JDWNR)Hospital(英語)
- 概要:第3代国王の名を冠するブータン最大の国立病院。350床を有するブータン全土の搬送先病院。シニア医師受診や健康診断(共に有料)を希望する場合は特別専門医外来に事前予約が必要です。
パロ
- Paro Hospital
- 所在地:パロ市街地の西、パロ国際空港から車で15分ほど。
- 電話番号:08-271228、救急番号:08-272958
- 概要:病床数40床の地域基幹病院。産婦人科医、総合診療医、伝統医療医等が常駐しています。入院加療を要する場合、外科手術を要する場合はJDWNR病院への搬送(救急車で約1時間)となります。
9 その他の詳細情報入手先
(1)ブータンに関するホームページ:世界保健機構(WHO)(英語)
(2)ブータンに関するホームページ:米国疾病管理予防センター(CDC)(英語)
(3)JICA海外協力隊赴任前留意事項 ブータン王国(PDF)
(4)ホームページ:ブータン保健省(英語)
10 一口メモ
医療機関、ホテル、レストランそしてガイドには英語が通じます。「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(もしもの時の医療英語)を参照ください。