寄稿・インタビュー

(和文仮訳)

令和6年5月5日

 ネパールの皆様、ナマステ(こんにちは)。ネパールの皆様は日本と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。日本人がネパールと聞いてまず思い浮かべるのは、エベレストに代表される神々しいまでに雄大なヒマラヤ山脈です。富士山の麓の静岡県で生まれ育った私にとって、ネパールは深い親しみを覚える国であり、本日、初めてネパールを訪問することができ大変嬉しく思います。

 近年、日本におけるネパールの存在感は日に日に増しています。1902年に初めてのネパール人国費留学生8名が日本に渡って以来約120年が経った今日、両国は所要7時間程度の直行便で結ばれ、在日ネパール人の総数は17万人を越えております。これは日本に在住する外国人の数としては6番目の多さです。在日ネパール人の皆様による日本社会でのご活躍もあって、両国関係が着実に深化していることを大変嬉しく思います。

 日本とネパールには、多くの共通点があります。国土面積の7割から8割が山岳又は丘陵で占められているという点はその一つです。急峻な地形ゆえに常に自然の脅威に直面してきた日本の歴史を踏まえると、ネパールのような山国における国づくりがいかに難しい挑戦であるかは、日本人として良く理解できます。

 両国がいずれも地震被害に苦しんできたことも、残念ながら共通しています。だからこそ、両国は、相手の国が大きな地震の被害を受けた際は、特別な同情と連帯の意識をもって、家族のように互いに手を差し伸べ合ってきました。2011年の東日本大震災においては、ネパールから毛布5,000枚の支援を受け、在日ネパール人の皆様によりネパール料理の炊き出しやネパール産コーヒー等の物資が提供されました。2015年のネパール大地震においては、日本は、約16.8億円の緊急無償資金協力の実施やテント及び毛布といった緊急援助物資の供与とともに、国際緊急援助隊(救助チーム、医療チーム、自衛隊部隊)を派遣しました。また、これら緊急人道支援に加え、我が国は、地震からの「より良い復興(Build Back Better)」のため、学校・住宅・公共施設の再建等の分野で、総額約320億円超規模の支援を行いました。

 本年1月に発生した能登半島地震では、ポーデル大統領やダハル首相をはじめとする多くのネパール政府の皆様から心のこもったお見舞いのメッセージを頂きました。さらに、日本国内では、在日ネパール人の皆様が被災地での支援に何度も駆けつけてくださり、「困った時はお互い様」という言葉とともに、スパイスの効いたカレーの炊き出しを行うなど、大雪で寒さ厳しい中、被災者の心と体を温め勇気づけてくれました。日本の外務大臣として、ネパールの皆様による温かな支援と日本への想いに対し、心より感謝申し上げます。

 また、日本とネパールは資源に乏しいという点においても共通しています。だからこそ、両国とも、連結性が確保され、力や威圧とは無縁で、国の大小を問わず自由と法の支配が重んじられた国際社会を必要としております。そのような国際社会を実現するためには、各国が脆弱性を克服し、強靱な社会を築き上げることが大前提です。このような考えから、日本としては、ネパールが持続可能な成長と安定の軌道に乗ることを重視しています。

 このような考えの下、日本は、1969年以後、ネパールに対し、その地理的及び歴史的な背景を踏まえつつ、電力、道路、空港、水道といったインフラ構築、農業、教育、保健医療等、幅広い分野においてネパールの発展を支援してきました。先日貫通したナグドゥンガトンネルは、ネパール初となる山岳交通道路トンネルであり、同トンネルが完成すれば、運輸交通網が円滑化され、急増する交通需要への対応、移動時間の短縮、そして交通の安全性向上により、地域の社会・経済発展の促進に貢献して、ネパールのさらなる発展を力強く後押しするものとなるでしょう。こうした日本のインフラ支援を通じ、ネパールの皆様が日常生活を送る上でその安全性や利便性を実感いただけるように、日本として引き続き取り組んでまいります。

 日本とネパールは、民主主義国という点においても共通しており、ネパールの民主化の取組に対しこれまでも様々な支援を行ってきました。2008年に王制廃止と連邦民主制への移行が宣言された後、日本は議会選挙において選挙監視団を派遣しており、それに加え、法制度整備支援など、ネパールの民主化の促進に資する様々な支援を実施してきております。私がかつて法務大臣を務めていた時には、法務省として、JICAとの協力により、民法や民法解説書作成に関する研修を実施し、ネパールの新民法の作成を支援していました。

 この機会に、近年日本政府が強く推進し、私のライフワークでもある「女性・平和・安全保障」(WPS)に関するネパールとの協力についても述べたいと思います。WPSは、紛争下における女性など脆弱な立場の人々の「保護」に取組みつつ、女性自身が指導的立場で紛争の「予防」や「人道・復興支援」に「参画」することで、より持続可能な平和に近づくことができるとの考え方です。日本政府はWPSを力強く推進しており、私も外務大臣就任以来、様々な取組を行ってきました。ネパールは、国連平和維持活動(PKO)における世界最大の要員派遣国であり、その女性要員の数も世界一であることから、こうしたWPSの分野においても大いに協力の可能性があると思われるところ、今回のネパール訪問で、ネパールと共に、今後どのような協力が可能か模索していきたいと思います。

 2026年は、日本とネパールの外交関係樹立70周年の年であり、また、ネパールの後発開発途上国(LDC)卒業の年でもあります。私は、この記念すべき年に向けネパールとの関係を一層強化していき、LDC卒業後のネパールのさらなる発展を力強く後押ししていく考えです。


寄稿・インタビューへ戻る